認知症と診断されたご家族が怒りやすくなったことに悩む方は少なくありません。適切な対応方法が気になる方もいるのではないでしょうか。
本記事では、認知症のご本人が怒りやすくなる原因、怒った際の適切な対応について解説します。ぜひ最後までお読みください。
認知症のご本人が怒りやすくなる原因とは?
認知症の症状は大きく中核症状と周辺症状に分かれています。認知症のご本人が怒りやすくなる原因として、これらの症状の悪化が考えられます。
認知症の中核症状
認知症の中核症状には、記憶障害、判断力の低下、見当識障害(時間や場所の認識が難しくなること)などがあります1。進行すると、周囲の状況を正しく理解できず、不安や混乱が増すことで怒りやすくなることがあります。
例えば、同じ質問を繰り返してしまうことに対して指摘されると、「そんなことはない!」と怒る場合があります。また、慣れ親しんだ場所でも時間や場所の認識があいまいになり、拒否的な反応がみられることもあります。
認知症の周辺症状
認知症の周辺症状は、中核症状に伴って現れる精神・行動面の症状です。周辺症状としてみられる心理症状・行動症状は以下の通りです1。
心理症状・・・抑うつ・不安・幻覚・妄想・睡眠障害
行動症状・・・暴力・暴言・徘徊・拒絶・不潔行為
周辺症状はBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)とも呼ばれ、症状が強くなると怒りやすさが増します。例えば、被害妄想によって「財布を盗まれた」と思い込んだり、幻覚によって「知らない人が家にいる」と感じたりすることで、家族や介護者に対して強い怒りを示すことがあります。
認知症のご本人が怒っているときの適切な対応方法
認知症のご本人が怒っているとき、周囲の方はどのような対応をとるべきなのでしょうか。
まずは共感する
怒りの感情をあらわにしているときは、まず共感することが大切です。例えば、「そう思うのは当然だね」「心配だね」などと優しく声をかけましょう。気遣う言葉をかけることで、安心につながり、怒りが和らぐことがあります。ご本人の言動を頭ごなしに否定せず、穏やかに話しかけることを意識しましょう。
暴言や暴力がある場合は物理的な距離をとる
ご本人の怒りが激しくなり、暴言や暴力に発展した場合は、まずはご自身の安全を確保しましょう。刺激しないように落ち着いて、一定の距離を取ることが大切です。
無理に制止しようとすると、かえってご本人を興奮させてしまう可能性があります。いったんその場を離れて、落ち着くのを待つようにしましょう。
関心を別のものに向かわせる
好きな音楽を聞いたり、お茶を飲んだり、気分を切り替えられるような提案を行うのもよいでしょう。
認知症の種類のうち、約68%を占めるアルツハイマー型認知症では、昔のことはよく覚えていますが、最近のことは忘れてしまう特徴があります2。昔の写真を見ると安心するケースもあり、ご本人の良い思い出を振り返るのもいいかもしれません。
ユマニチュードを実践する
ユマニチュードとは、認知症のご本人とのコミュニケーションを円滑にするためのケア技法です。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの要素を意識しながら、双方向に交わし合うコミュニケーションによって、ケアをする人とケアを受ける人とが良い関係を築くことをケアの目的としています3。
例えば、視線を合わせて優しく話しかけたり、穏やかな声のトーンでゆっくり話したりすることで、相手は安心します。また、手を優しく握るなどの適度なスキンシップを取り入れると、安心感が高まります。
医師への相談を検討する
認知症のご本人が怒りやすくなった場合、身体の状態や環境が原因の可能性があります。コミュニケーションをとることが難しい場合、かかりつけ医に相談してみましょう4。
認知症のご本人が怒っているときに取るべきでない行動
認知症のご本人が怒っている場合、取るべきではない行動はあるのでしょうか?
怒鳴る
感情的に怒鳴ると、混乱して不安や恐怖心が増し、怒りを鎮めるどころか、かえって状況を悪化させる可能性があります。ご自身が感情的になっていると感じたら、深呼吸をして冷静な対応を心がけましょう。
身体を拘束する
無理やり押さえつけることは、相手の尊厳を傷つけるだけでなく、余計に興奮させてしまうことにもつながります。認知症のご本人が暴力的になっているときは、安全確保のために身体拘束をするのではなく、距離を取ることが適切です。
言い返す
理屈で説明しようとしたり、反論したりすると、さらに怒りを助長することがあります。「それは間違っている」「違うよ」などと言い返すのではなく、「そう思うんだね」と肯定的に受け止める姿勢が大切です。
まとめ
認知症のご本人が怒りやすくなる原因として、中核症状や周辺症状の悪化が考えられます。認知症の悪化だけでなく、認知症以外の身体症状や生活環境の乱れが影響している場合もあります。
まずは本記事で紹介したような接し方を検討したり、生活環境の調整を行うようにしましょう。周囲の方々はユマニチュードを意識した接し方をとるなど、認知症のご本人に寄り添い、冷静かつ思いやりをもって接することが大切です。