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認知症の中核症状を簡単に解説!周辺症状との違いや実行機能障害について
更新日:2024-12-19

認知症の中核症状を簡単に解説!周辺症状との違いや実行機能障害について

認知症の中核症状を簡単に解説!周辺症状との違いや実行機能障害について

認知症の症状は大きく分けて「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」の2つに分類されます。

中核症状は認知症の基本的な症状で、さまざまな種類の認知症で現れる症状です1

この記事では、認知症の中核症状について、症状の種類や特徴、ケアのポイントを詳しく解説します。

認知症の中核症状を簡単に解説

認知症の中核症状は、脳の神経細胞が減少することによって起こる認知機能の低下を指します1

具体的には以下のような症状があり、認知症のご本人の日常生活に大きな影響を与える症状群です。
・記憶障害
・見当識障害
・判断力の低下
など

中核症状は認知症の原因となる疾患によって出現する順序や程度が異なるため、早期発見と適切な対応が、症状の進行を遅らせるカギとなります。

特に医療関係者や介護者は、中核症状の正しい理解と対応方法を身につけることが必要です。

中核症状と周辺症状・行動心理症状(BPSD)の違い

中核症状は脳の器質的な変化によって直接引き起こされる症状で、記憶障害や見当識障害などが含まれます。

一方、周辺症状(BPSD)は中核症状と環境の影響によって引き起こされる二次的な症状です。不安やうつ、徘徊、暴言などの行動・心理症状です2

周辺症状(BPSD)は環境調整や適切なケアによって改善が期待できる3一方で、中核症状は根本的な治療が難しく、進行を遅らせることに主眼を置いた治療やケアが行われます。

医療現場では、中核症状の程度を正確に把握し、症状に応じた周辺症状への対応を行うことが求められます。

 

認知症の中核症状の種類と覚え方は排水口で密室は危険!

認知症の中核症状は5つの種類に分かれており、覚え方は「排水口で密室は危険」です。

覚え方

症状

判断力の低下

水口

遂行機能障害

密室

3失(失語・失行・失認)

記憶障害

見当識障害

各症状は単独で発生するのではなく、複合的に出現することが多く、症状の組み合わせによって認知症のご本人の生活に与える影響も異なってきます。

早期から適切なケアと支援を行うことで、生活の質を維持することが期待できます。

判断力の低下

判断力が低下した結果、金銭管理が困難になったり、危険な状況を認識できなくなったりするため、日常生活における様々な場面で問題が生じやすくなります。

例えば、高額な商品を必要以上に購入してしまったり、悪質な訪問販売で不要な契約を結んでしまったりすることがあるかもしれません。

また、火の始末や戸締りなどの安全確認も適切に行えなくなる可能性があり、事故予防の観点からも注意が必要です。

遂行機能障害(実行機能障害)

遂行機能障害は、物事の計画や順序立てて実行する能力が低下する症状です。

料理の手順が分からなくなる、複数の作業を同時にこなせなくなる、新しい環境への適応が困難になるなどの症状が現れます。

例えば、長年作っていた料理であっても、材料の準備から調理、片付けまでの一連の流れを組み立てられなくなるのが特徴です。

また、通帳記入などの事務作業も困難になっていきます。

生活リズムが乱れやすくなるため、日課表の活用や環境の整備など、具体的な支援策が必要になります。

失語・失行・失認

失語・失行・失認は、それぞれ言語機能、運動機能、認知機能に関する障害です。

失語症

言葉の理解や表現が困難になり、コミュニケーションに支障をきたす

失行症

道具の使い方が分からなくなったり、服の着方が分からなくなったりする

失認症

見えているものが何なのか理解できない、顔が分からないなどの症状

これらの症状は認知症のご本人の社会生活を大きく制限する可能性があるため、残存機能を活かしたコミュニケーション方法の工夫や、安全な生活環境の整備が重要になります。

記憶障害

記憶障害は認知症の中核症状の代表的な症状で、新しい情報を覚えることが困難になる「新規記憶障害」と、過去の記憶が失われていく「既往記憶障害」があります。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

見当識障害

見当識障害は、時間や場所、人物に関する認識が困難になる症状です。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

認知症の種類別の中核症状の特徴と注意点

認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴的な中核症状の現れ方があります。

原因疾患によって症状の進行パターンや重症度が異なるため、適切な治療やケアを行うためには、認知症の種類を正確に把握することが重要です。

医療関係者は、症状の特徴を理解し個々の認知症のご本人に合わせた支援計画を立てる必要があります。

ご家族や介護者も、認知症の種類による違いを理解することで、より適切なケアを提供できます。

アルツハイマー型認知症の中核症状の特徴と行動

アルツハイマー型認知症の中核症状は、記憶障害から始まることが特徴です3

特に新しい記憶を形成する能力が低下し、最近の出来事を覚えられなくなります。病初期には、「約束を忘れる」「物を置いた場所が分からなくなる」などの症状が現れます。

進行すると見当識障害も加わり、時間や場所が分からなくなり、行きたい場所に行けずに歩き回るといった行動につながるため注意しましょう。

症状は緩やかに進行し、実行機能障害や判断力の低下も見られるようになります。

言語機能は比較的後期まで保たれますが、次第に会話が困難になっていきます。早期発見と適切な治療介入により、症状の進行を遅らせる可能性があります。

血管性認知症の中核症状 - 階段状に進行する認知機能の低下

血管性認知症の最大の特徴は、症状が段階的に進行することです4

脳血管障害による脳の損傷部位によって、症状の現れ方は個人差が大きくなります。

記憶障害は比較的軽度である一方、実行機能障害が初期から目立つことが多く、物事の計画を立てて遂行する能力が低下します。

また、注意力の低下や感情コントロールの困難さも特徴的です。

歩行障害や麻痺などの身体症状を伴うことも多く、転倒リスクや嚥下障害にも注意しましょう。

生活習慣の改善や再発予防が重要で、適切な管理により症状の進行を抑えられます。

レビー小体型認知症の中核症状 - 変動する認知機能と幻視

レビー小体型認知症は、認知機能の大きな変動に特徴があります。同じ日でも、時間帯によって認知機能が大きく変化します5

初期のうちは認知機能の低下はほとんどみられません。他の認知症と異なり、具体的で鮮明な幻視(実際には存在していないものが見えてしまう)が出現する中核症状が特徴的です。

中期にはパーキンソン症状(動作が遅くなる、手足が震えるなど)を伴うことも特徴です。症状の変動が大きいため、介護者の負担が大きくなりやすく、きめ細かなサポートが必要です。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

前頭側頭型認知症の中核症状 - 性格・行動の劇的な変化に要注意

前頭側頭型認知症は、他の認知症と異なり、性格や行動の変化が初期から顕著に現れます6

記憶障害は比較的軽度ですが、判断力の低下や実行機能障害が目立ち、特徴的な症状として、反社会的な行動、感情や欲求のコントロール低下、共感性の欠如などがあります。

例えば、購入前の商品を持ち出してしまったり、周囲への配慮に欠ける言動が見られます。

また、同じ行動を繰り返す行動や、食行動の異常(過食や食べ物へのこだわり)も特徴的です。

比較的若い年齢で発症することも多く、就労や社会生活への影響が大きいため、早期からの適切な支援が重要です。65歳以下の発症の場合は指定難病としての支援を受けることもできます。

認知症の中核症状のケアのポイントと工夫できることは?

認知症の中核症状に対するケアでは、認知症のご本人一人一人の症状や生活状況に合わせた個別的なケアが重要です。

安全で快適な環境を整えながら、残存機能を活かした支援を行うことで、認知症のご本人の尊厳を守りながら生活の質を維持できます。

また、ご家族への支援や情報提供もケアの重要な役割です。症状の進行に合わせて必要な介護サービス等を導入し、認知症のご本人とご家族の生活を包括的に支援していく必要があります。

医療関係者や介護者との連携を密にし、一貫したケアを提供することが求められます。

記憶障害へのケアと具体的な支援方法

記憶障害のある認知症のご本人へのケアでは、安心感のある環境づくりと、残存する記憶力を活用した支援が基本となります。

日課表やカレンダーを活用して生活リズムを整え、メモやラベル、目印など視覚的な手がかりを効果的に取り入れます。

声かけは短く簡潔にし、一度に多くの情報を伝えることは避けましょう。

また、昔の記憶は比較的保たれていることが多いため、「回想法」を取り入れることで、自尊心を保ちながら心理的な安定を図れます。

服薬管理では、一包化や服薬カレンダーの活用、服薬確認の徹底など確実な方法を選択します。

※回想法:昔の思い出や経験を語り合う心理療法で、認知症の非薬物治療として活用されている。

見当識障害に対するケアのポイント

見当識障害へのケアでは、認知症のご本人が混乱や不安を感じないような環境調整が重要です。

対応方法について3つのポイントでまとめました。詳細については以下の記事をご参照ください。

実行機能障害に応じた日常生活支援の工夫

実行機能障害のある認知症のご本人への支援では、日常生活動作を細かく分解して、一つ一つ順序立てて説明することが大切です。

例えば、着替えや整容動作を写真や図で示した手順書を作成し、視覚的に分かりやすく伝えます。

調理や入浴など複雑な動作は、必要に応じて見守りや介助を行いながら、できる部分は自分で行えるよう支援しましょう。

新しい環境での混乱を防ぐため、生活環境はできるだけ変更を少なくし、習慣化された動作を活かせるよう工夫します。

認知症の中核症状との向き合い方

認知症の中核症状は進行性の経過をたどる症状です。適切なケアと支援により、自分らしい生活の維持につながります。

認知症のご本人の気持ちに寄り添いできることを活かしながら、無理のない範囲で活動を続けられるよう支援することが大切です。

 ご家族や介護者は、症状の理解を深め、必要に応じて医療・ケアの専門職に相談し、適切な支援を受けることも重要です。

認知症の中核症状との向き合い方を学び、実践することで、認知症のご本人の生活を維持・向上させましょう。

(参考文献)

1, 稲村圭亮, 他:中核症状. 認知症ハンドブック 改訂第2版. 中島健二, 他編. 医学書院. 2020. p.20-25.

2. 高橋 智. 認知症のBPSD. 日老医誌. 2011;48:195-204.

3. 數井裕光, 他:認知症の行動・心理症状の理解と治療・対応. 神経心理学. 2019;35:97-108.

4. 厚生労働省. 認知症を理解する.
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/19.html(最終閲覧日2024年12月4日)

5. 独立行政法人 国立病院機構 宇多野病院. レビー小体型認知症(DLB).
https://utano.hosp.go.jp/outpatient/other_know_neurology_04.html(最終閲覧日2024年12月4日)

6. 難病情報センター. 前頭側頭葉変性症.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4841(最終閲覧日2024年12月4日)

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