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認知症による見当識障害とは?症状や対応方法を解説
更新日:2025-01-07

認知症による見当識障害とは?症状や対応方法を解説

認知症による見当識障害とは?症状や対応方法を解説

認知症における見当識障害は、多くのご本人が直面する症状です。

時間や場所、人物関係が分からなくなることで、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

ここでは見当識障害の基本的な知識から、具体的な対応方法までを医学的な観点から解説していきます。

認知症による見当識障害とは何かを解説

見当識障害は、認知症に伴う中核症状の1つとして知られています。

脳の認知機能が低下することで「今がいつなのか」「今はどこにいるのか」「周りにいる人は誰なのか」といった基本的な認識が困難になる状態です。

「見当識」は時間、場所、人物の3つに分類され、一般的に「時間の見当識」から低下することが多いと報告されています1

医療機関では見当識障害の程度を確認するために、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSEなどの検査を実施します。

見当識障害の確認方法と初期症状

見当識障害の初期症状は些細な変化から始まることが多く、ご本人も周囲も気付きにくいことがあります3

初期には「約束の日時を間違える」「予定の時間感覚が曖昧になる」といった時間の見当識から障害が現れます。

そして次第に「よく知っている場所で道に迷う」「自宅からの帰り道が分からなくなる」といった場所の見当識障害が加わるのです。

医療機関では、日時や場所、人物に関する質問を通じて見当識の状態を評価します。その際、日常生活での様子や家族からの情報も重要な判断材料となります。

見当識障害の具体的な症状と注意点

見当識障害の症状は個人差が大きく、進行度も一様ではありません。

下記のような症状が現れることがあります2

・年月日が分からなくなるだけでなく、朝・昼・夜の区別が曖昧になる
・自宅にいることが認識できず「家に帰りたい」と訴える
・家族や親しい人の顔はわかっていても、名前や関係性が曖昧になる
・行き先(目的地)のはっきりしない、長時間の歩行がみられる
・家族が認識できずに攻撃的な言動がみられる

見当識障害があると、ご本人は不安や混乱を感じやすく、またひとり歩きのリスクも高まります。そのため、安全な環境づくりと適切な支援が必要です。

ひとり歩き

見当識障害に伴うひとり歩きは、場所や時間の認識が曖昧になることで発生します。

以前は「徘徊」という言葉が使われることが多かったのですが、本人は目的なく歩き回っているわけではなく見当識障害などによって行きたい場所に行けずに歩き回っていることから、最近は「ひとり歩き」など別の言葉を用いることが増えました。

見慣れた場所でも道に迷ってしまい、自宅に戻れなくなるリスクがあり、特に夕方から夜にかけてひとり歩きなどの症状が増悪する状態を「夕暮れ症候群」と呼びます3

安全対策として玄関にセンサーを設置したり、GPS機器の活用や地域での見守りネットワークの構築が有効です。

ご本人の外出したい気持ちに寄り添いながら、付き添いでの散歩を日課にするなどの工夫も効果的です。

夜間不眠と昼夜逆転

見当識障害により時間の感覚が乱れると、睡眠サイクルにも影響が出ます。夜間に目が覚めて活動的になり、日中は眠気が強くなるという昼夜逆転が起こりやすくなります3

この状態が続くと、ご本人の体調悪化やご家族の負担増加につながるため注意しましょう。対策として、起きる時間を固定すること、日中の日光浴や適度な運動、規則正しい食事時間の設定が重要です。

寝室の環境を整え、夜間は静かで暗い環境を維持することも睡眠の質の改善に効果があります。また、夕方以降のカフェインの摂取を控えめにすることも推奨されます。

攻撃・興奮

見当識障害により状況が理解できないことで、不安や焦りを感じ、攻撃的な言動や興奮状態になることがあります4

特に慣れない環境や急な予定変更、周囲からの否定的な対応がきっかけとなりやすいため、穏やかな口調で接し、ご本人の気持ちに寄り添うことが大切です。

また、興奮の原因となる環境要因を見直し、できるだけ日常的な生活リズムを維持することで、精神的な安定を図りましょう。

娘を姉と誤認することについて

認知症の進行に伴い、娘のことを「姉です」と誤認するなど、名前や関係性が曖昧になることがしばしばみられます。この背景には、見当識障害を含めたいくつかの認知機能障害が関係しています。

一つは、中等度以降の認知症の当事者様は自身の年齢を実際よりもずいぶん若く考えていることが関係しています。

これは、多くの認知症では新しい記憶から失われることが多いため、たとえば80代の当事者様が80代から60代の記憶を失っていて50代以前の記憶しか保たれていないことで、自分が50代だと思っていると考えられます。

また、見当識障害によって目の前にいる娘のことが娘とわからなくなる一方、扁桃体などの機能によって、娘を見た時に親しみの感情が沸きます。

これらの背景から、自分のことを50代だと思っている80代の認知症の当事者様が、目の前にいる娘のことが娘とわからない一方で、家族に感じる親しみの感情が湧き起こり、いつもお世話になっている家族という認識で、娘を姉だと誤認するということが生じていると考えます。

認知症の見当識障害は治るのか?

認知症による見当識障害は進行性の症状であり、完全に治癒することは難しいとされていますが、適切な環境調整や支援により症状の進行を緩やかにし、生活の質を維持することは可能です。

生活環境では、カレンダーや時計を見やすい場所に設置する、案内表示を工夫するなどの対策が有効になります。

また、規則正しい生活リズムの維持や社会活動への参加も重要です。

必要に応じて医療機関に相談し、状態に応じた適切な対応を行いましょう。

(参考文献)
1,日本神経学会, 監修:認知症診療ガイドライン 2017. 医学書院, 2017. p.206.
2, 厚生労働省:政策レポート. 認知症を理解する.
[https://www.mhlw.go.jp/seisaku/19.html](最終閲覧日:2024年12月27日)
3, 水上勝義:認知症患者の夜間にみられる精神症状および行動症状. 認知神科学. 2015;17:12-17.
4, 山口晴保:BPSDの定義、その症状と発症要因. 認知症ケア研究誌. 2018;2:1-16.

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