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認知症の人との接し方。「言ってはいけない言葉」とは?
更新日:2022/12/23

認知症の人との接し方。「言ってはいけない言葉」とは?

認知症の人との接し方。「言ってはいけない言葉」とは?

認知症の人は、今までできていたことができなくなるなどの自分自身の変化に対して、不安や焦りを感じていることが少なくありません。このため家族や介護者の何気ない一言が、本人をひどく動揺、混乱させてしまったり、怒りや悲しみを招いてしまうことがあります。認知症の人を苦しめてしまう言葉とはどのようなものなのでしょうか?認知症の人に「言ってはいけない言葉」やコミュニケーションにおいて注意すべきポイントについて解説します。​

認知症の人とのコミュニケーション​

認知症のケアにおいて重要なのがコミュニケーションです。不用意な一言で本人を不安にさせたり怒らせたりすることは、認知症の症状を悪化させるきっかけになってしまうことがあります。落ち着いて生活できる環境を整えたり、症状の緩和が期待できる治療やリハビリテーションなどを行っていても、コミュニケーションがうまくいかなければ、結果的にこれらの効果を打ち消してしまうことにもなりかねません。​
認知症の人とのコミュニケーションに万人に共通する正解というものはありません。性格や経歴、好き嫌い、そのときの気分などは人それぞれで、個別性に配慮した声掛けが求められます。​
ただし、多くの認知症の人に共通する「言ってはいけない言葉」というものはあります。動揺させたり、不安をかき立てたり、不愉快な気持ちにさせるような言葉のことです。認知症のケアでは個々の事情に合わせた声掛けも大切ですが、このような「言ってはいけない言葉」を言わないこともまた重要といえます。​

認知症の人に「言ってはいけない言葉」​

認知症の人とのコミュニケーションにおいて、まず押さえておくべきは「ダメ!」「それは違う」など、否定語を使わないということです。このことを念頭に置きつつ、「言ってはいけない言葉」について説明します。

本人の言動に現実を突きつけない​

「仕事?もう辞めたでしょう」​
「さっき食べたばかりじゃない」​
「虫なんてどこにもいないよ」​

辞めたはずの仕事に行こうとしたり、食べたはずの朝食を食べたいと言ったり、いないはずの虫が見えると訴えたり、認知症の人は周囲の人を困惑させるような言動をすることがあります。しかし当の本人は混乱しているわけでもなく、間違っているという認識もありません。にもかかわらず周囲が現実を突きつけると、本人からすれば極めて当たり前の、正しい言動を否定されることになり、戸惑いや怒りが生じてしまいます。​
このようなときは、こちらの現実を突きつけるのは避けましょう。「今日はどんな仕事をするの?」「ごはん、すぐ準備するから待っていてくれる」「気味が悪いね。あっちの部屋に避難しようか」など、本人の現実に合わせた肯定的な受け応えを心がけてください。​

間違いを無理に正さない​

「それは●●●じゃないよ」​
「そんなことしないで」​​

多くの場合、認知症の人の言動の背景に間違っているという認識はありませんが、どうしてそれをするのかという理由はあります。たとえば、ビニールなど食べ物ではない物を口に入れていたとします。「それは食べ物じゃないよ」「そんなことしないで」と正面から間違いを正してしまうと、本人は恥ずかしさを感じたり、怒りを覚えたりするかもしれません。
「お腹すいたよね」「昨日買ったお菓子があるから一緒に食べよう」など、本人の間違いを否定することなく、その行動の背景に寄り添うような対応が大切です。​​

強制しない、おどかさない、突き放さない​

「いいから●●●して」​
「あとで困っても知らないから」​​​

お風呂の準備をして、これから入浴という段階で「入りたくない」と嫌がったとします。「いいからさっさと入ろう」「体がかゆくなっても知らないよ」というように、無理強いをしたり、脅して誘導するような対応は避けてください。ますます態度を硬化させてしまうこともあれば、仮に従ってくれたとしてもわだかまりが残り、積もり積もってお互いの関係性を悪化させることになりかねません。​
このような場合は、なぜ嫌なのか聞いてみるとよいでしょう。拒否するのには本人なりの理由があります。「熱いのが嫌」「傷がしみる」など理由がわかれば、お湯をぬるくしたり、傷口を保護したり、本人に納得して入浴してもらうための働きかけがしやすくなります。​​​

急かさない​

「早くしてよ」​
「いつまで●●●しているの?」​​​​

認知症になると、今まで問題なくできていたようなことでも、時間がかかったり、うまくできなくなることが増えます。それでも自分でできることはなるべく自分ですることが、残された能力を少しでも長く保つうえでとても重要です。​
なんとか自分でやり遂げようとしているときに、「早くして!」「まだ?」などと声をかけられると、焦りが生じてしまうばかりか、場合によっては自信を失ってしまいます。物事に前向きに取り組む意欲が削がれてしまうこともあるかもしれません。認知症になれば時間がかかってしまうのは当たり前のことです。あらかじめそのことを見込んで、心に余裕を持って見守る姿勢が大切です。​​​​

責めない、さげすまない​

「どうして●●●ことをするの?」​
「そんなこともできないの?」​​​​​

認知症の人と生活をともにしていると、こちらが理解しがたいことをしたり、できて当然のことができなかったりする場面に遭遇することがあります。介護する側も余裕がない状況だと、つい「どうしてそんなことするの」と行動をとがめたり、「そんなこともできないの」と失敗をさげすむような言葉が口をついてしまうかもしれません。しかし、こうした言葉は認知症の人の自尊心を傷つけてしまいます。​
このような場合は、「やってくれてありがとう。次はこうしてみたらどうかな?」「ごめん、先に説明しておけばよかったね」など、本人の気持ちに配慮しつつ、次はどうすればよいか、どうするかをさりげなく伝えるのも一つの手です。​​

できることを奪わない​

「私がやるからいいよ」​
「危ないから触らないで」​​​​​​

認知症が進むと物事に時間がかかったり、失敗することが増えてきます。しかし、周囲の手助けがあれば続けられることはたくさんありますし、役割を担い、責任をはたすことで得られる達成感は心身にプラスの効果が期待できます。​
「私がやるから」「危ないから触らないで」と役割を取り上げてしまうことは、このような達成感を得る機会だけでなく、本人の自信まで奪ってしまいます。「自分は必要ないんだ」と落ち込んでしまうかもしれません。「こっちは私がやるからそっちをお願い」と分担したり、離れたところから見守り、危ないときだけ手助けするなど、できる限り本人が続けられるようにサポートをする姿勢が大切です。​​​

励ますのはほどほどに​

「●●ならできる」​
「もっと頑張ってみよう」​​​​​​​

認知症の人は、特に初期のうちは以前よりも物事がスムーズにいかないことを自覚していることも多く、少なからず不安を抱えています。本人を少しでも元気づけようと、周囲は事あるごとに「●●ならできるよ」「もっと頑張ってみよう」と励ましの言葉をかけるかもしれません。​
ですが、このような励ましは「できることができていない現状を突きつけている」という見方もできます。場合によっては、かえって本人の不安を増幅してしまうことにもなりかねません。できないことができるようにと何度も激励するより、できていることに対して「してくれてありがとう。助かったよ」と認めてあげるほうが、本人の励みになることもあるという意識を持つことが重要です。​​​​

認知症の人とのコミュニケーションで心がけること​

認知症の人とのコミュニケーションでは、本人の言動を否定するような言葉を避けること以外にも心がけるべきポイントがいくつかあります。

本人の話をよく聞く​

認知症の人の気持ちに思いを至らせながら、しっかりと話に耳を傾けましょう。「教えてほしい」「理解したい」という意識で接することが大切です。話を聞きながら「そうなんだね」「苦労したんだ」「私もそう思う」と相槌を打ち、肯定や共感の意を示すと、本人は「自分のことを理解してくれているんだ」と安心感を持つことができます。​
認知症の人はこちらが考える以上に、自分のことを見ているかもしれません。仮に話の内容が要領を得なくても、適当に聞き流すような態度は慎みましょう。​

本人のペースに合わせる​

余計なストレスを与えずにリラックスした状態を保てるように、介護する側が本人のペースに合わせることが重要です。​
たとえば、会話の途中で言い間違いや事実との齟齬があったとしても、わざわざそれを指摘する必要はありません。本人の話が終わるまで遮ることなく、耳を傾けましょう。何かしらの作業をしていて、少し遅いように感じたとします。この場合も本人が望まない限りは見守ってください。余計な口出しや手出しをしてペースを乱すことは、本人の不満やストレスにつながってしまいます。​​

目線を合わせる

話をするときは目線を合わせましょう。目線を同じ高さにすることで対等な関係であること、正面からしっかりと見つめることでこちらの誠実さが伝わります。​
認知症の人は、車いすに乗っていたり、ベッドに横になっていることもありますが、そのような場合も立ったまま話をするのはなるべく避けましょう。見下されているという印象を与えることに加え、不安や不快感につながってしまうことがあります。​​

耳元ではっきり、明るく話しかける

認知症の人の多くは高齢で、音を聞き取る力が低下しています。ぼそぼそと小さな声や早口で話をすると、聞き取れないばかりか、内容がわからず不信感を募らせてしまうことがあります。話をするときは耳元で、ゆっくりと、大きな声、明るい口調を意識しましょう。​​

むやみに怒らない​

認知症の人と接するときは、否定語や「言ってはいけない言葉」を言わないことに加え、「怒る」「叱る」ことを極力、避けなければなりません。
認知症が進行し、認知機能が低下しても、感情や自尊心は比較的長く保たれます。また、認知症の人の言動の背景には、多くの場合、自分が間違っているという認識がありません。したがって、怒られたり叱られたりしたとき、なぜ怒られるのかは理解できませんが、怒られることに対しての不快感や怒り、悲しみなどの負の感情はしっかりと残るのです。このような感情は、BPSDなど認知症の症状を悪化させる原因になります。

まとめ

認知症の人に「言ってはいけない言葉」について紹介しました。認知症の人とのコミュニケーションでは、何気なく発した一言が本人を傷つけてしまったり、不愉快な気持ちにさせてしまうことがあります。「否定語は使わない」「本人なりの現実がある」「怒らない・叱らない」などのポイントを頭に入れつつ、その時々の状態や個別性に配慮したコミュニケーションを心がけましょう。