theotol-logo
開発担当のエーザイ社員が語る!脳を活性化する運動プログラム「ブレパサイズ®」誕生秘話
更新日:2024/11/01

開発担当のエーザイ社員が語る!脳を活性化する運動プログラム「ブレパサイズ®」誕生秘話

開発担当のエーザイ社員が語る!脳を活性化する運動プログラム「ブレパサイズ®」誕生秘話

エーザイ株式会社は、2022年3月24日に脳を活性化する運動プログラム・ブレパサイズを公開しました。“ブレパ”とは、記憶力・思考力・判断力など、日常生活における脳のパフォーマンス(脳の健康度)を指す「ブレインパフォーマンス」の略称です。日頃から自身のブレパに留意することで、生活習慣の改善や脳の健康度低下の気づきに役立つと考えられています。

そんなブレパサイズはなぜ、どのような目的のもと開発されたのでしょうか。ブレパサイズの開発責任者であるエーザイ株式会社の南田泰子さんと、動画制作のディレクションを担当した前田奈津美さんに、ブレパサイズの開発経緯や制作におけるこだわりなどを伺いました。

(2022年4月25日取材)

ブレパサイズ®とは?

ブレパサイズは、エーザイが国立研究開発法人国立長寿医療研究センターの島田裕之先生を監修に迎え、スポーツトレーナーの齊藤邦秀さんと鈴木悠さんとともに開発した、脳の運動プログラムです。音楽に合わせて体を動かし、「じゃんけん」や「計算」などの知的課題を同時にこなすことで脳へ刺激を与えます。

ブレパサイズの動画切り抜き

ブレパサイズの動画は各15分、「ファイター」「ダンス」「リズム」の全3種類で、それぞれ難易度別に5本ずつ用意されています。ブレパサイズの特設ページで視聴することができます。

薬の恩恵を受けられない方々の憂慮解消のため、ブレパサイズ®を開発

左から前田奈津美さん、南田泰子さん

まず、ブレパサイズ開発の経緯を教えてください。

南田:私が所属する部署(※取材日時点)ではアルツハイマー病に関する環境整備を行っているのですが、薬に関するイノベーションが進んできても、現状薬の恩恵を受けられない方々がいることを課題に感じていました。そういった方々に向けて、憂慮解消のお手伝いができないかと考えたのが、ブレパサイズ開発のきっかけです。

プログラム開発の参考にしたのが、世界保健機関(WHO)が2019年に公表した「認知機能低下および認知症のリスク低減〔Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia〕」のためのガイドラインです1。このガイドラインや、医療関係者の方々への調査結果を総合し、憂慮に寄り添う非薬物的アプローチとして、まず運動プログラムを開発するのが良さそうだと判断しました。

エーザイでは1999年に日本でアルツハイマー型認知症の薬を発売して以来、認知症分野のパイオニアでありたいと、認知症薬の開発だけではなく、認知症にまつわるさまざまな取り組みを自治体やパートナー企業の皆様と行っています。そのため、製薬会社ながら脳の運動プログラムを開発することについても社内合意が得られ、2020年より検討をスタートすることができました。

プログラムのコンセプトはどのように決めたのでしょうか?

南田:個人的な話になってしまうのですが、定期的な運動習慣がない私でも続けられるものを作りたいと考えていました。検討が始まった当時の私は仕事が忙しく、短い距離でもすぐタクシーに乗り、歩道橋を登るだけで息が切れる状態で。そんな人でも楽しく、一人でもみんなでも続けられるプログラムを作ろうというのをコンセプトにしました。

運動プログラムとはいえエーザイの看板を背負って作る以上、確かなものを作ることも意識しましたね。余談ですが、ブレパサイズのデモ版を続けたことをきっかけに、健康への意識が高まり行動変容した結果、体重も10kg以上減少し、すっかり健康体になりました。

それは素晴らしいですね。想定していたブレパサイズの利用者はどのような方々ですか?

南田:当初は病院を訪れる認知症の前段階の方々を想定していました。とはいえ、ブレパサイズは一定の身体機能があれば取り組める運動プログラムなので、脳の健康が気になる方々に広くご活用いただければと考えています。

一人ひとりに寄り添う、脳の健康をサポートするプログラムを

制作期間や、プロジェクトメンバー、関係各所との連携について教えてください。

南田:検討がスタートしたのは2020年秋ごろで、動画制作は2021年6月から行いました。メンバーとしてはエーザイから私と前田のほか、調査やサイエンティフィックのサポートで3名ほど、社外では脳の活性化を促進する運動プログラム開発・研究の第一人者である島田裕之先生に監修いただき、動画制作会社にもご協力いただきました。動画内の動きや振り付け、ダンスの考案については、スポーツトレーナーの齊藤邦秀さんと鈴木悠さんにお願いしています。

南田:斎藤トレーナーは『フィットネスIQ - 知識でカラダを変える本。』という本を出版されているのですが、個人的にその本の内容に感銘を受けまして。

書籍には「ひとりひとりの顔が違うように、幸せな体も人それぞれ違います」「私たちパーソナルトレーナーがやらなければならないのは、クライアントひとりひとりが、自分自身で健康的なライフスタイルを組み立てられるよう仕向けることなのです」とあり、まさにこれはブレパサイズで、脳の健康に対して私たちがやりたいことと一致していたんです。

こういう考えの方とだったら、脳の運動プログラムの開発という前人未到のチャレンジを一緒にやり遂げられると感じ、ご協力をお願いしました。

動画ではファイター、ダンス、リズムという3つのテーマが設けられていますが、どのように構成を決められたのでしょうか?

南田:チームで「動画にはいくつかのバリエーションが必要だ」と話していまして、まずは齊藤トレーナーにいくつかの動きを作っていただきました。ファイターはすぐに決まり、リズムに関しては齊藤さんの専門分野でもあり、総合的に運動能力を向上させると言われるドイツの「コオーディネーショントレーニング」の知見を散りばめていただいています。

ダンスを含む振付に関しては、フィットネスインストラクターで、都内スポーツクラブを中心に、ダンス・エアロビクス・サイクル・トレーニング等のグループレッスン指導を行っている鈴木トレーナーにお願いし、楽しくて飽きない、しなやかな動きのものを作っていただきました。

前田:知的課題は、慣れてきて動作を覚えてしまうと脳への刺激が弱まってしまうため「体と脳が刺激されている」と感じてもらえる程度に、少しずつ難易度を上げています。さらに、自分たちでも「楽しい動作か、続けられる内容かどうか」を見極めるべく、一つひとつ動作確認を行い、検証と話し合いを繰り返しました。

見やすい画面割りやデザインを意識し、ロゴや音楽もゼロから制作

他のエクササイズ動画との違い、動画制作をする上でこだわった点があれば教えてください。

前田:他のエクササイズ動画と大きく違うのは、例えば運動しながら「じゃんけん」をする、といった知的課題を盛り込んだことです。考えながら体を動かすことでデュアルタスク(ながら動作)になり、一般的なエクササイズよりも多くの刺激を脳に与えることができます。

前田:開発中はターゲット層でもある60〜70代の方々に動きを実践していただき、「怪我につながる動きがないか」「自宅でも実践できる内容か」「音楽に合わせて楽しく続けられそうか」などの観点で、参加者の声も参考にしながらあらゆる面を開発チームで検証しました。

これにより60〜70代の方々が動きづらそう、転びそうといった動きはわかりやすいものに変えたり、動画の動きについていけない人がいることも分かったので、練習動画を追加したり、プログラムの内容を精査できました。

また、動画をスマホで見てもらうことも想定し、ターゲット層の方たちが見やすい文字の大きさや色、デザインを意識して動画制作を行いました。例えば、黄色い文字はぼやけて見えてしまうので使用を避けたり、トレーナーの動きがはっきりわかるような画面割りや撮影、トリミング、絵作りを行ったり、知的課題についても体の動きと口で発する言葉のリズムが合う回答にしたりと意識しました。

南田:音楽にもひとつ工夫があります。制作側として「毎日動画を見てほしい」という意図があったので、達成感を通じて毎日視聴していただけるように、最初は音楽のテンポをスローにし、中盤や終盤でスピードアップさせるなど、一つの動画の中に複数の到達点を設けました。

動画制作で大変だったこと、それをどう乗り越えたかについて教えてください。

南田:動画内の動きや音楽については、制作会社とのコミュニケーションが難しい部分でもありました。文章なら言葉で修正できるのですが、「こういうトーンの音楽にしてほしい」「こういうリズミカルな動きにしてほしい」というニュアンスは言葉ではどうしても伝えづらくて……。

Zoom上で動きを示してみたり、実際にお会いしてコミュニケーションを取ったり、トレーナーのお二人と制作会社の方皆さんで意識のすり合わせをして一つひとつクリアにしていきました。

前田:練習動画も含め32本の動画を9カ月の間に作り上げるのは、スケジュール管理、タスク管理面で大変でした。

9カ月というと、動画制作の期間にしては余裕があると思われるかもしれませんが、制作会社の方は動画制作の知見はあるものの、脳の運動プログラムに関しては経験がなかったので、脳の健康に関する情報などの共有、動きの検証、改善などを繰り返す必要がありました。さらには、ロゴや音楽などゼロから作る必要があるものがたくさんあったので、完成までは想像以上に時間がかかりました。

認識合わせと、スケジュールとタスク管理が重要となるため、ここに関してはこちらが率先してコミュニケーションを働きかけることを大切にしました。お陰さまでみなさんの理解と協力を得て、プロジェクトを進めることができました。完成した時は感極まりましたね。

最後に、ローンチ後の反響と、開発を終えた感想を教えてください。

南田:現在は医療関係者から順にご体験いただいているのですが「さすがエーザイさん。こういうものを待っていました」という励みになる言葉をもらいました。検証に参加した方々からも「いいものができたね」と言っていただけました。

今後は医療関係者、自治体、パートナー企業をタッチポイントとして、エンドユーザーに広めていこうと思っています。脳の健康に不安がある方に、少しでも多くお届けできれば幸いです。

※新型コロナウイルス感染症のリスクを考慮し、一定の距離を保ちながら、撮影時のみマスクを外しています。

取材・文:中森りほ 編集:ノオト

ブレパサイズはエーザイ株式会社の登録商標です。

ブレパサイズは疾患の治療や予防を目的としたものではありません。

ブレインパフォーマンス(脳の健康度:通称ブレパ):「記憶する」「考える」「判断する」など、脳のパフォーマンスを指す言葉。

新型コロナウイルス感染拡大防止に留意してご活用ください。

(参考文献)
1,WHOガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』
日本語版 https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf(最終閲覧日:2022年4月25日)
英語版 https://apps.who.int/iris/rest/bitstreams/1257946/retrieve(最終閲覧日:2022年4月25日)