レビー小体型認知症とは?原因と症状
レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで多い認知症です。アルツハイマー型認知症と同じく脳の病的な変化によって引き起こされます。記憶障害のほか、繰り返す幻視やパーキンソン症状などを特徴とします。
原因:脳の広範囲にレビー小体がたまり、神経細胞が減少
脳の神経細胞にはαシヌクレインというたんぱく質が存在します。これを核とするレビー小体という物質が大脳皮質にたまると、脳の神経細胞が徐々に減っていき、認知症の症状が現れます。厚生労働省研究班の疫学調査によると、全認知症のうち4.3%がレビー小体型認知症とされています1。
年齢
なぜレビー小体が出現するのか詳しいことはわかっておらず、現在のところ脳の年齢的な変化と考えられています。75~80歳の高齢者に多く見られ、ごくまれに30~40歳台の若年で発症することもあります。
遺伝
詳しいことはわかっていませんが、遺伝の可能性は低いと考えられています。
症状:幻視をはじめ“3徴”と呼ばれる特徴的な症状
レビー小体型認知症では、記憶障害のほか、3徴と呼ばれる特徴的な症状(中核的特徴)と支持的特徴と呼ばれる多様な症状が出現します。記憶障害もみられますが初期のうちは目立ちません。
中核的特徴
認知機能の変動
日や時間、場所によって、頭がはっきりとしている状態とボーっとして理解力や判断力が低下している状態が交互に繰り返されます。
繰り返し出現する幻視
幻視は「知らない人がいる」「天井を虫が這っている」など、実際にはない、周りの人には見えていないものが、本人にはありありと見える症状のことです。「人形が女の子に見える」「壁のシミや丸めた洋服が生き物に見える」など別の物と見間違える錯視や、聞こえるはずのない音が聞こえる幻聴などもレビー小体型認知症ではよくみられます。
パーキンソン症状
じっとしているときに手足が震える、筋肉がこわばり手足を動かしづらくなる、動きが遅くなるといった症状のことです。
神経難病のパーキンソン病で起こる特徴的な運動症状で、レビー小体型認知症でもよくみられます。
支持的特徴
レム睡眠行動障害
大きな声で寝言を言う、奇声を上げる、怒る、怖がる、暴れるなど睡眠中に起こる異常行動のことをレム睡眠行動障害といいます。追いかけられたり、暴力を振るわれるような悪夢を見ていて、夢の中での行動がそのまま現実に現れている状態といわれています。
自律神経症状
便秘、尿失禁、異常な発汗、だるさ、起立性低血圧(起き上がったり立ち上がったりしたときに、急な血圧低下によって立ちくらみを起こす)など、自律神経がうまく働かないことで生じるさまざまな不調のことです。
その他の症状
抗精神病薬への過敏性(副作用が出やすくなる)、抑うつ(気分が沈んだり、意欲が低下する)、嗅覚の異常(においを感じづらくなる)、嚥下障害(食べ物が飲み込みにくくなる)などの症状がみられることもあります。
検査:心臓の検査が診断の手がかりになります
認知機能検査
医師の質問に回答する形式で行う認知機能検査や図形を描くテストなどを行います。記憶障害がほとんどない初期の段階でも、注意や実行機能、視空間認知(目から入る情報を整理して全体像を把握する能力)の障害が認められることがあります。
脳血流SPECT検査
脳の血流の状態を画像化する脳血流SPECT検査では、後頭葉や後部帯状回、楔前部に血流の低下が認められます。視覚認知を司る後頭葉が障害されるため、幻視がでやすいとされています。
MIBG心筋シンチグラフィ検査
心臓の交感神経の異常を確かめる検査です。レビー小体型認知症の原因物質であるレビー小体は心臓を支配する交感神経にも出現するため、発病初期でもこの検査で異常が認められることがあります。そのほかの認知症疾患との鑑別に役立ちます。
問診について
検査について
経過:初期のうちは認知機能の低下は目立ちません
初期症状(軽度)
最初は便秘や嗅覚の異常、レム睡眠行動障害が現れることが多いとされています。少し遅れて立ちくらみ(起立性低血圧)や幻視やパーキンソン症状などが出てきます。その後は幻視や錯視の訴えが徐々に増え、幻聴や妄想なども目立ち始めます。嚥下障害も早くからみられ、食事や飲水時にむせることが多くなります。
一方で認知機能は比較的保たれます。もの忘れは軽度で、見当識や理解力の低下もほとんど見られません。
中期症状(中等度)
パーキンソン症状が強くなり、歩行などが困難になってきます。記憶や見当識の障害もみられ始めます。認知機能や意識レベルの変動が大きくなり、しかも悪い時間帯が長くなるため、これまでのようなコミュニケーションが難しくなります。幻視や妄想も悪化し、対応に困る場面が増えてきます。
後期症状(高度)
パーキンソン症状や認知機能の障害がさらに悪化し、介助なしで日常生活を成り立たせることは困難になります。認知機能の変動は目立たなくなりますが、常に悪い状態が続きます。嚥下機能もさらに衰え、唾液や食べ物が気管に入ってしまい誤嚥性肺炎を起こすリスクが高まります。
治療:薬による治療と並行して本人に合わせた働きかけを
余命
全経過はアルツハイマー型認知症よりも短いとされており、個人差はありますが10年未満であるといわれています2。直接的な死因のひとつに挙げられるのが肺炎で3、嚥下機能が衰える後期ほど丁寧な口腔ケアや食事の支援が重要になります。
薬物治療
症状ごとの治療が行われます。認知機能障害に対しては抗認知症薬、パーキンソン症状に対しては抗パーキンソン薬、レム睡眠行動異常には不眠症治療薬などが用いられることもあります。
非薬物治療
本人の気持ちに配慮したケア、症状に合わせた環境調整を行います。たとえば室内環境をシンプルに、明るさを一定に保つことは、幻視の予防になります。また、パーキンソン症状が生じるなど転倒のリスクが高いレビー小体型認知症では、急な声掛けをして驚かせない、室内の段差をなくすなどの転倒・骨折予防も大切です。
認知症の治療(薬物療法・非薬物療法)
(参考文献)
1,厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究
「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度総合研究報告書
2,中島健二 他:認知症ハンドブック,医学書院,p.601,2013
3,日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン 2017,医学書院,p.247,2017