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子どもや孫に大切にされて幸せよ、お父さん。ほんと幸せ。 - 山田利助さん・節子さん(ご本人・ご家族)
更新日:2024/10/01

子どもや孫に大切にされて幸せよ、お父さん。ほんと幸せ。 - 山田利助さん・節子さん(ご本人・ご家族)

子どもや孫に大切にされて幸せよ、お父さん。ほんと幸せ。 - 山田利助さん・節子さん(ご本人・ご家族)

2024年4月 取材(岡山県倉敷市「片山内科クリニック」)

お話を伺った方

山田ご夫妻:利助さん(認知症のご本人)・節子さん

利助さん:79歳(取材時)。岡山県倉敷市下津井在住。元 新聞配達所 所長。75歳時、片山内科クリニック院長の片山禎夫先生より、アルツハイマー病によるMCI(軽度認知障害)の診断を受ける。節子さん(77歳)、息子さんご夫婦、3人のお孫さんとの7人暮らし。大阪で暮らす娘さん・お孫さんとのつながりも強く、家族に大切にされながら趣味のカラオケなどを楽しんでいる。
※下津井:瀬戸内海に突き出た児島半島の南端に位置する港町。瀬戸大橋の本州側の起点。

こちら(片山内科クリニック)には、いつ頃から通院されているのですか?

節子さん
4年前です。片山先生が今日、「早いねえ、山田さん、4年になるよ」と言われてました。
利助さん
もうそんなになるんだなと思ってびっくりしました。最初は娘がここを調べてな。
節子さん
娘が大阪に住んでいて、たまに帰ってきたときに、「最近お父さん、もの忘れが多いんじゃない?」という話になったんです。「お父さん、こんなことあったよね」と聞いても、「ええ? そんなことあったかの」と覚えてないって。一緒に住んでる私や息子らはそこまで気にしてませんでした。お父さん今79歳だから、4年前は75でしょう。そのぐらいの年になったら誰でももの忘れは増えるだろうし、私の友だちと話していても「うちらでもよう忘れるよ」ということでしたから。でも、離れていて年に数回しか帰ってこない娘にはわかるんですね。「忘れがひどい」って心配して、娘と孫(娘の子)がインターネットで病院を調べてくれました。
利助さん
ほんで「ここがええから、ここ行こう」言うてな。
節子さん
娘がこのクリニックを気に入ったんです。それと孫が福祉系の大学に行ってましてね。大学の先生に「うちの祖父がこうなんです」と話したら、「すごくいい先生だから」と片山先生のことを勧めてくれました。だからここに来る気満々だったんだけど、家から遠いので。
利助さん
ここに来る前に児島(下津井を含む地域)のほうの病院にも行きよったんです。
節子さん
娘が脳神経外科医院やいくつかの病院を調べて連れて行ってくれました。お父さんですか? 病院に行きたがらないとかは全然なかったです。この人、娘の言うことは1から10まで「はいぃ」と全部オッケーなので。それで病院の先生方が「こういうところがあるよ」と話してくださったのが片山内科クリニックでした。「そこは私らも調べて知ってるんです」って言うと「片山先生に診てもらうのがいいと思う」と背中を押してくださり、ここに辿り着きました。

片山先生からは診察後にどんなお話がありましたか?

節子さん
少し認知機能が落ちていて、このまま病気が進んだらアルツハイマー型認知症に進むタイプということでした。だからここへ来させていただいてよかったんです。片山先生は優しくて、いろんなお話をしてくださるから楽しいし、看護師さんもみなさんすごくいいんです。認知機能が落ちた人をみるところはどこもそうなのでしょうけれど、ここはまた特別。お父さんも来るのを全然嫌がらないし、おかげで本当に元気です。データにもそれが出てるって、先生がさっき説明してくださいました。最初にここに来たときは、30点満点の検査(認知機能を測るMMSE)が28点で、今日測ったら24点。な、お父ちゃん、4年で4つしか下がってないよ。
利助さん
そやから、病気がようけ進んどらん。
節子さん
先生に言われたこともきちっと守っとるしね。お酒は飲んだらダメ言われて、4年ぐらいやめてるんです。
利助さん
もともとビールしか飲まんのやけど、大好きなもんで、先生にいっぺん言うたことがあるんです。お祝いとか祭りのときは一杯飲みたいけ、ちいちゃいビール(ミニ缶)ならいいかって。ほなら「アルコールには変わらない! 飲んだらいけんいうたらいけん」言うて。
節子さん
それは先生、治してあげようと思いよるからこそ言ったんだから。
利助さん
だけん感謝しております、ほんまに。

抗Aβ抗体薬による治療も受けているそうですね?

節子さん
治験にも参加していましたが、今日から(保険診療で)月に2回、ここに来て点滴してもらうことになりました。
利助さん
ここも最初の2、3べんは長女が車で送り迎えしてくれたんです。ただかわいそうなの。大阪から下津井に帰ってここに来て、また下津井に寄って大阪でしょう。ほなら息子が「タクシー代出すから、タクシーで行け」言うてくれたんです。
節子さん
下津井からタクシーで1往復するとだいたい1万6000円ぐらいになるんです。治験のときは治療費の補助が出たけれど、今日からはそれもないから、1日3万円じゃすみません。しかも月2回でしょう。そうしたら息子が「火曜日だったら仕事が休みだから大丈夫や」言うて、今日も車で連れてきてくれました。今、車の中で待ってます。次からも火曜日に予約を入れてもらうようにするので、行き帰りはタダ。大きいですよ。お金が続かなかったらここに来られんし。まあ親子だからね。お昼に何かご馳走しようと思ってます。

少し認知機能が低下しているということで、利助さんご自身は以前とは違う、何かおかしいと感じることはありますか?

利助さん
いや、別におかしいとは思うておりません。
節子さん
いやお父さん、ときどき言いよるじゃない。「やっぱりわし、ちょっとおかしいんかな」って。会話のなかでよう言ってる。
利助さん
そりゃあお前、冗談で言いよるだけよ(笑)。まあ、ここに来るいうことは悪いんじゃろうとは思うとったけどな。だけど4年前とそう変わってないと思うとる。
節子さん
うちの人は4年前に新聞配達所の所長を辞めたんです。いいえ、病気のためじゃありません。配達する人がいないんです。私と2人で300軒ずつぐらい配ってましたが、とてもじゃないけどえらいじゃないですか。それで配達所をほかの人に譲りました。新聞を辞めたら途端に、取り引きも、銀行でのお金の出し入れも、何もせんでよくなりました。もうやることが全くない。そしたら余計にね(もの忘れも増えて)。
利助さん
暇ができてな。
節子さん
やっぱり少し、新聞を配ろうかと娘と息子に話したら、「それはいい考えだから、お母さんそうしよう」となって、今も毎朝配ってます。
利助さん
2人合わせて150軒ぐらいな。3時45分にケータイが鳴るようにしとるけども、それは関係ない。もう3時過ぎには目が覚めて、新聞が来るのを待っとります。なんも辛いと思ったことないです。わしは中学のときからアルバイトで新聞を配りよるから。新聞少年じゃいうてな。
節子さん
その配達所の人に見込まれて「うちへ来てくれ」となったんです。
利助さん
中学校の授業中なのに教頭先生が「山田、新聞配達所の人から『夕刊を配るアルバイトが休んどる』いう電話がかかってるけん、帰れ」言われて喜んで帰ったりな。子どものときからそうやってずっと新聞配っとるから、下津井でわしを知らん人おらんよ。だけん、今も続けてるのが普通と思うとる。

1日の過ごし方は、だいたいどのようになっているんですか?

節子さん
朝は新聞配達がすんで5時半ぐらいに食事をします。新聞配達所として使っていたスペースが広くて、24畳分あるんです。そこにソファーから電子レンジ、冷蔵庫、テレビ、カラオケのセットとか、みんな揃えてありますからね。お父さんと2人ソファーに座って、パン焼いて、牛乳飲んで、りんごとか食べて、朝モーニングしてるんです。
利助さん
それで月水金は9時から近くの病院に体のリハビリに行っとります。そのあとはお昼の12時まで、頭の体操に行きよるな。
節子さん
デイサービスで計算の問題とかをするんです。
利助さん
金曜日はリハビリから帰って昼ご飯食べたら集会所にカラオケに行くんです。15、16人から多いときは20人ぐらい集まるんですが、20人もおるときは2曲ぐらいしか歌えん。
節子さん
みんな舞台で歌っていますが、お父さんは立ってんのがえらいから、座って歌えるようにマイクを持ってきてくれるんです。
利助さん
みんなやさしい。
節子さん
ものすごいみんながしてくれよるね。やさしいから。ほんとやさしい。みんな上手。
利助さん
みんな上手なん。わしがいうたら1番下手みたい。自分ではそう思うとるよ。それでな、去年の12月に娘らがカラオケセットを買うてくれて、それで歌いよるんです。
節子さん
それが楽しみな、お父さん。
利助さん
宴会でみんなが拍手してくれるように練習せな。ただ女房が、ここはもっと(音程を)低くとか高くとか、ああだこうだ文句ばっかり。
節子さん
お父さんを上手にしてあげよう思うて言うてるだけ。そこの話は今せんように。カラオケのインタビューじゃないから。お父ちゃん、このインタビューを片山先生から勧められたときも「歌は歌わんでええんじゃろうか?」と余計なこと言うてたな(笑)。
利助さん
ええがな、わしの自慢話やけん。

ご家族のお話をもう少し聞かせてください。

節子さん
家族7人で住んで幸せって本人が言ってます。
利助さん
わしにしたらええ孫(息子の子)だと思うとります。勉強がようできるらしい。わしはもう野球とかスポーツしかあれじゃったけん。
節子さん
普通、年寄りになったらほっとかれるとかあるでしょう。もう全くない。そんなことしよったら娘に怒られる。私も息子も娘には最敬礼しとかんといかんから。それでお父さんも「娘に言うよ」って言ったらいっぺんで「はい」って聞きます。
利助さん
女房の言うことも聞きます。
節子さん
放り出されたらいけんからな。まあ娘が一番怖いけど、そのかわりお父さんをものすごい大事にするよ。大阪から帰ってきたら「お父さん元気だった?」ってハグしますから。孫(娘の子)が小さいとき、その子の人形をお父さんが「かわいいのう」と触ったら「ダメやんか」と孫が言ったの。そしたら娘が「今なんて言った」ってものすごい怒ったよ。びっくりした孫が「じいちゃんはママの何になるの?」「お父さんです!」って(笑)。
利助さん
目の中に入れても痛うないというのはこのことでしょう。
節子さん
とにかく娘はもうお父さんが大好きだから。お父さんが忘れたりすることで私がちょっとでも腹を立てると「お母さん、そんなこと言うたらいけんでしょう。そういう時にはぐっとこらえて」って怒られます。だから娘がいるときはお父さんの悪口は言わない。孫(娘の子)もね、「おばあちゃん、こうしたほうがいいよ、ああしたほうがいいよ」って全部アドバイスしてくれます。だから幸せよ! この人。ほんと幸せ。息子にも感謝せんと。ここに連れて来てくれるんだから。
利助さん
そうやな。うちのものが連れて来てくれるんなら、もうこの状態で行くようにせんとな。