アルツハイマー型認知症は、少しずつ記憶力や判断力が低下していく認知症の1つです。
家族がアルツハイマー型認知症と診断されたとき、「どう接すればいいのか」「どんなケアが必要なのか」と戸惑う方も多いでしょう。本記事では、介護に向き合う心構えやケアのポイントについて解説します。
アルツハイマー型認知症の介護の心構え
アルツハイマー型認知症は、認知症の中でも最も多くみられるタイプで、全体の50〜60%を占めるといわれています1。進行性の経過をとり、徐々に記憶力や判断力が低下していきます1。 症状として、もの忘れだけでなく、BPSDとよばれる妄想や暴言・暴力、ひとり歩きなどの行動・心理症状がみられることもあります2。
ご本人の性格や努力の問題ではないとわかっていても、介護者は日々の対応のなかでイライラして心身ともに疲れてしまうこともあるでしょう。症状が進行するにつれ介護者の負担は大きくなり、抑うつ状態になるケースもあります1 。介護者の心身の健康を守るためにも外部サービスを積極的に活用し、「一人で抱え込まない」という心構えを持つことが必要です1。
在宅介護でのケアのポイント
認知症の種類に関わらず共通した、在宅介護での接し方やケアのポイントについて解説します。
在宅介護での接し方の基本
アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症のご本人と接するときは、否定しない・叱らない・受け入れることが基本です3。
ご本人を放っておかず見守りましょう
周囲に危険がないかを確認し、使ってほしくない物はご本人の見えないところに置きましょう3。なるべく孤独にさせないよう買い物に行くなど一緒に行動したり、積極的に声をかけたりしましょう3。
急がせることでご本人を興奮させてしまうことにつながることがあるので、ゆっくり待つことを心がけましょう3。
ご本人と話す時は簡潔に話すよう意識しましょう
一度に多くを伝えようとせず、分かりやすい言葉で丁寧に話すことを心がけましょう3。お話するときに手を握るなどスキンシップをして、ご本人の感情面に働きかけることで安心感を与えることができます4。
ご本人のプライドを傷つけないよう意識しましょう
ご本人の言動を叱ったり無理に訂正したりしないこと、イライラしないこと、早口で話さないことが大切です3。強い口調や否定的な言葉で接すると、入浴や着替えへの抵抗、夕方に不安やひとり歩きが強まる、夕暮れ症候群5などの行動・心理症状につながる可能性があります6。
環境の変化がある場合は少しずつ慣らすようにしましょう
できる限り、環境や習慣を変化させないようにしましょう。特に入院などの環境の変化はせん妄等を引き起こしやすいとされています1。どうしても環境を変えなければならないときは、馴染みのあるものを用意するなどして、少しずつ慣らしていきましょう3。
ご本人の身だしなみを整えるように促す
症状が進み、見た目や身の回りへの関心が薄れると、認知症のさらなる進行につながるおそれがあります7。そのため、身だしなみを毎日整えることや、たまにお化粧をすることは、自己肯定感が保たれ、気分が向上すると考えられます8。
アルツハイマー型認知症のご本人の代表的な行動・心理症状への対応
アルツハイマー型認知症のご本人のそれぞれ行動・心理症状に対して、介護者がどのような対応ができるのか、以下に記載します。
ひとり歩きをしたり帰宅願望がある|代表的な行動・心理症状への対応
散歩や買い物のつもりで外出し、帰れなくなってしまうことがひとり歩きの原因の1つです。
対策としては見守りサービスを利用すると安全の確保につながります6。
しかし、外出のきっかけが「家や施設での居心地の悪さ」である場合は、生活環境の見直しも検討しましょう6。
また、自宅にいるにもかかわらず、夕方に荷物をまとめて、どこかへ出て行こうとすることがあります。このような場合、一緒に家を出て、そのまま帰宅することで落ち着いて自宅に戻ってくれることが多いとされています6。
同じことを何度も聞いたり言ったりする|代表的な行動・心理症状
対応としては否定せず、同じ説明を繰り返してあげることが大切です。ただしずっと一人で対応し続けると、心も身体も疲れてしまいます。ご家族の協力や介護サービスを上手に活用して、みんなで支え合うことが無理なく介護を続けられる秘訣です8。
妄想がみられる|代表的な行動・心理症状への対応
「誰かに財布を盗られた」と訴えるもの盗られ妄想や、家族を別人と思い込む替え玉妄想などが見られることがあります。いずれもご本人にとっては現実であるため、ご本人が感じていることを受け止めて、否定せずに対応するようにしましょう。
・もの盗られ妄想
認知症の初期から中期にみられ、家族や介護者が疑われることが多いとされています。第三者がご本人の味方となって一緒に探すと解決する場合があります6。
・替え玉妄想
突然家族に対して「どなたですか? 勝手に私の家に上がり込まないで」などと攻撃的になることがあります。いったんその場を離れて、外から電話で「今から帰るね」と伝えてから再度家に入ると、スムーズに迎え入れてもらえることも少なくありません6。
食事を済ませたことを忘れて繰り返し要求する|代表的な行動・心理症状への対応
「さっき食べましたよ」と言葉で説明するのも1つの方法ですが、食器などをすぐに片付けずに見せると食べたことを思い出してもらえる場合があります。それでも心配そうにされている場合は実際に食べ物を少し用意してあげると安心されるでしょう9。
薬を飲み忘れたり日課や予定などを忘れる|代表的な行動・心理症状への対応
薬ボックス、薬カレンダーを利用すると飲み忘れにくくなります。ご家族などがご本人に薬を手渡しできる体制を作れるとよりよいでしょう9。
ご本人の目に入りやすい所に、予定や決まりを書いた貼り紙をすることで思い出すこともあります9。
暴言を吐くなど暴力的になる|代表的な行動・心理症状への対応
ご本人の発言にストレートに否定するのではなく、ご本人の気持ちに寄り添い、やんわりと伝えましょう。暴言・暴力の原因として妄想がある場合には、薬物による治療が可能なケースもあるので専門医への相談を検討してみましょう6。
必要に応じて外部サービスを利用することも検討しましょう
外部サービスの利用は介護者の負担軽減に役立ちますが、なかには「サービスを使うのは申し訳ない」と罪悪感を抱いてしまう方もいます。しかし、認知症にともなう妄想や暴言・暴力、ひとり歩きなどの行動は、ご本人の置かれた環境や介護者の関わり方によって反応的に現れることがあります。
プロの手を借りることは、ご本人にとってもよりよいケアにつながることがあるため、必要に応じて活用していきましょう10。
なお、訪問介護・訪問入浴・訪問看護・訪問リハビリテーションなど介護保険で利用可能なサービスを受けるには、市町村の窓口に申請する必要があります。
若年性認知症の介護について
若年性認知症とは65歳未満で発症する認知症のことです。若年性認知症で仕事の継続が困難になると、家計や家事・育児などにも影響があり、身近な家族の心身の健康を損なう可能性も出てきます10。さらに、子どもが介護を担うヤングケアラーになることで、介護に追われて学校生活に支障をきたすケースもあります11。
若年性認知症と診断されたら、介護保険で利用可能なサービスや金銭的な支援制度を活用できますので、上記のような家族の負担を少しでも軽減するために、受診先の医療相談室のケースワーカーに相談してみましょう。
また、若年性認知症コールセンターや全国各地の相談窓口では、家族や子どもからの相談にも対応しています。
まとめ|アルツハイマー型認知症の介護の心構えとケアのポイント
認知症の介護では、日々の工夫の積み重ねが負担を軽くする重要なポイントになります。ご本人を否定せず、受け入れる姿勢を意識することで、お互いのストレスを減らすことができます。
また、介護保険で利用可能なサービスや支援制度を積極的に活用し、一人で抱え込まずに周りの力を借りることが何より大切です。症状や対応に不安がある場合は、地域包括支援センターや認知症疾患医療センターなどの相談機関を上手に利用してください。