要介護認定とは?認知症との関係や認定基準、要支援との違い
寝たきりや認知症などで介護を必要とする要介護状態、あるいは日常生活動作(ADL)が低下し家事などの生活支援を必要とする要支援状態になると、介護保険を利用してさまざまなサービスを受けることができます。介護保険による給付額は要介護度に応じて決まり、この要介護度を判定するために行うのが要介護認定です。要介護認定のあらましや認知症との関係、介護保険の申請方法などについて解説します。
要介護認定とは
要介護状態もしくは要支援状態であるかどうか、そのどちらかであったとしてどの程度の介護サービスが必要かを判定するのが要介護認定です。介護の必要度を「要支援1~2」「要介護1~5」の7段階で表します(自立を含めると8段階)。
要介護認定を受けるには、介護保険の利用を市区町村に申請する必要があります。その後、自治体ごとに設置された介護認定審査会で判定が行われ、介護サービスの利用が必要と判断されれば7段階のいずれかに認定されます。
認定後は、要支援の場合は予防給付、要介護であれば介護給付を受けることができます。限度額の範囲内であれば、1~3割の自己負担でサービスを利用することが可能です。給付は現金で支給されるわけではなく、サービスの利用料から差し引かれる仕組みになっています。
要支援と要介護の違い
要支援、要介護とは以下のような状態をいいます。
- 要支援
体や精神上の障害があり、入浴や排泄、食事など日常生活における基本的な動作の一部において支援が必要で、将来介護が必要になるおそれのある状態 - 要介護
体や精神上の障害があり、入浴や排泄、食事など日常生活における基本的な動作の一部もしくはすべてにおいて常時介護を要すると見込まれる状態
厚生労働省 要介護認定に係る法令
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/gaiyo4.html
(最終閲覧日:2023年2月24日)
要支援は日常生活における基本的なことの多くは自分でできますが、部分的に手助けが必要な状態です。支援があれば一人で生活することもできます。一方の要介護は、介護や介助なしでは日常生活を送ることは難しい状態です。自立した生活を送れるかどうかが、要支援と要介護の分かれ目といえるでしょう。
要介護認定の流れ
要介護認定は、コンピュータによる一次判定と介護認定審査会(保健医療福祉の学識経験者で構成)による二次判定の二段階で行います。
一次判定では以下の5つの分野について、介護の手間を数値化した介護認定等基準時間を算出し、その合計値をもとに要介護度を判定します。
直接生活介助 | 入浴、排泄、食事等の介護 |
---|---|
間接生活介助 | 洗濯、掃除等の家事援助等 |
BPSD 関連行為 | 徘徊に対する探索、不潔な行為に対する後始末等 |
機能訓練関連行為 | 歩行訓練、日常生活訓練等の機能訓練 |
医療関連行為 | 輸液の管理、じょくそうの処置等の診療の補助等 |
区分 | 要介護認定等基準時間 |
---|---|
非該当 | 25分未満 |
要支援1 | 25分以上32分未満 |
要支援2・要介護1 | 32分以上50分未満 |
要介護2 | 50分以上70分未満 |
要介護3 | 70分以上90分未満 |
要介護4 | 90分以上110分未満 |
要介護5 | 110分以上 |
要介護認定 介護認定審査会委員テキスト 2009 改訂版 P35
https://www.mhlw.go.jp/content/000819417.pdf
(最終閲覧日:2022年11月1日)
要介護認定等基準時間は、介護の必要性を図るいわば「ものさし」で、介護サービスの合計時間と連動するわけではありません。1分間タイムスタディと呼ばれる特別な方法で算出される時間であって、家庭で実際に行われる介護の時間とは異なります。
一次判定の後は、一次判定の結果、主治医意見書や認定調査員による特記事項の内容に基づいて二次判定を行います。一次判定が妥当かどうかの審査を経て、要介護度を決定します。
なお、上の表において、要支援2と要介護1の要介護認定等基準時間は同じになっています。どちらに振り分けるかは、おおむね6カ月以内に介護の負担が増加して要介護度を再検討する必要があるならば要介護1、なければ要支援2となります。
認知症と要介護認定
認知症の人は、そうでない人に比べて多くの場合、要介護度が高くなります。
要介護認定においては認知症加算という仕組みがあります。運動能力が低下していない認知症高齢者の場合、要介護認定等基準時間に認知症加算として時間が積み足され、要介護度が1もしくは2、繰り上がるようになっています。
要介護度別の状態像と支給限度基準額
介護保険の居宅サービスや地域密着型サービスは、要介護度ごとに定められた支給限度基準額の範囲内であれば、所得に応じて1~3割の負担でサービスを利用することができます。限度額を超えたぶんのサービス利用に関しては全額自己負担となります。
要介護度ごとの状態像と支給限度基準額は下表のとおりです。
要介護度 | 状態像 | 支給限度基準額(円) |
---|---|---|
要支援1 | 日常生活動作(食事、排泄、掃除など)は自分でできる。手段的日常生活動作 (買い物、金銭管理など) の一部に見守りや介助が必要な状態。 | 50,320 1割負担:5,032 2割負担:10,064 3割負担:15,096 |
要支援2 | 要支援1の状態に加え、下肢の筋力低下などがみられる。今後介護が必要になる可能性がある人。 | 105,310 1割負担:10,531 2割負担:21,062 3割負担:31,593 |
要介護1 | 要支援2の状態に加え、手段的日常動作が低下し、一部で毎日介助が必要となる。 | 167,650 1割負担;16,765 2割負担:33,530 3割負担:50,295 |
要介護2 | 要介護1の状態に加え、調理や入浴などの日常生活動作に対しても介助が必要な状態。 | 197,050 1割負担:19,705 2割負担:39,410 3割負担:59,115 |
要介護3 | 寝返りや排泄、着替えなども難しくなり、日常生活動作において全面的な介護が必要な状態。 | 270,480 1割負担:27,048 2割負担:54,096 3割負担:81,144 |
要介護4 | 車椅子が必要となり、移乗や移動にも介護を要するなど、介護なしでの日常生活は困難な状態。 | 309,380 1割負担:30,938 2割負担:61,876 3割負担:92,814 |
要介護5 | 要介護4より動作能力が低下。寝たきりで自力で食事もできないなど、 介護なしでは日常生活がほぼ不可能な状態。 | 362,170 1割負担:36,218 2割負担:72,434 3割負担:108,651 |
第168回(H31.2.13)社保審-介護給付費分科会 2019年度介護報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000478355.pdf
(最終閲覧日:2023年2月24日)
厚生労働省 参考(3)介護保険制度における要介護認定の仕組み
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/sankou3.html
(最終閲覧日:2023年2月24日)
厚生労働省 要介護認定の仕組みと手順
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf
(最終閲覧日:2023年2月24日)より監修医作図
ただし、居宅サービスや地域密着型サービスのすべてが支給限度基準額の対象となるわけではありません。適用対象外のサービスは以下のとおりです。
- 居宅療養管理指導
- 特定施設入居者生活介護(外部サービス利用型を除く)(短期利用を除く)
- 認知症対応型共同生活介護(短期利用を除く)
- 地域密着型特定施設入居者生活介護(短期利用を除く)
- 地域密着型介護老人福祉施設入居者生活介護
厚生労働省 社保審-介護給付費分科会(第145回 H29.8.23)参考資料
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000175118.pdf
(最終閲覧日:2022年11月1日)
特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設サービスも上記の対象外ですが、施設サービス費は市町村から費用の一部が支給され、1~3割の自己負担で利用することができます。金額は施設によって異なります。なお、施設サービス費に居住費や食費などは含まれません。
介護保険の申請方法
要介護認定を受けるには、まず介護保険を申請しなければなりません。ここからは介護保険の申請からサービス利用までの流れについて解説します。
申請できる人
介護や支援が必要となった65歳以上の高齢者(第1号被保険者)、末期がんや初老期の認知症など厚生労働省が指定する16の特定疾病が原因で介護や支援が必要となった40~64歳の人(第2号被保険者)。
申請にあたり準備するもの
申請の際に準備するものは以下のとおりです。
- 介護保険要介護認定・要支援認定申請書
- 介護保険被保険者証(64歳以下の人は医療保険の被保険者証)
- 主治医の氏名・医療機関名・所在地・電話番号
- 個人番号(マイナンバー)を確認できるものまたは写し
- 身元確認ができるもの(運転免許証やパスポートなど)
地域包括支援センターなどが家族に代わって介護認定の申し込みを代行してくれることもあります。代理人が申請を行う場合は、委任状など代理権が確認できる文書や代理人の身分証も必要になります。
サービス利用までの流れ
要介護認定の結果が通知されるまでの目安は30日以内とされています。通知後は、ケアマネジャーや施設を探したり、ケアプランを作成しなければならず、サービスの利用開始までは1~数カ月を要します。
①申請
市区町村役場や地域包括支援センターの窓口に必要書類を提出します。
②要介護認定
⑴訪問調査
認定調査員が自宅や入居している施設を訪問し、心身の状態や日常生活の状況などについて聞き取り調査を行います。
⑵要介護認定
コンピュータによる一次判定、介護認定審査会による二次判定を行います。
⑶結果の通知
二次判定の結果を踏まえて市区町村が要介護(要支援)認定区分を決定し、申請者に通知します。
③ケアプランの作成
介護保険サービスの利用にあたっては、まず、ケアマネジャー(介護支援専門員)とともに必要なサービスを組み合わせたケアプランを作成します。多くの場合、支給限度基準額の範囲内でプランを検討します。
《要介護1~5と認定された場合》
居宅介護支援事業所のケアマネジャーに作成を依頼します。自分でも作成できます。
《要支援1、2と認定された場合》
地域包括支援センターに作成を依頼します。自分でも作成できます。
④サービスの利用
ケアプランに基づいて、サービス提供事業者や施設と契約を結んだ後、サービス利用開始となります。
介護保険サービスを利用する方法
介護保険サービスの手続きは、利用するサービスの内容によって異なります。
自宅でサービスを受ける(居宅サービス、要介護1以上)
まず、地域包括支援センターに相談するなどして、居宅支援事業者を選び、担当のケアマネジャーを決めましょう。どのようなサービスを利用したいか希望を伝えるなどして、ケアマネジャーと一緒にケアプランを作成します。その後、作成したケアプランに基づいて、サービス提供事業者と直接契約を交わし、サービスの利用開始となります。
事業者との契約は必ず本人が行わなければなりません。本人が認知症などで判断能力が低下している場合は、あらかじめ選任した代理人が契約を交わすことができます。
施設に入居する(施設サービス、要介護1以上)
介護施設への入居を検討している場合は、インターネットなどで資料を集め、希望と合致する施設をいくつか見学してみてください。ケアマネジャーが入所できる施設を探して紹介してくれる場合もあります。家族だけで探すことが難しい場合には地域包括支援センターやケアマネジャーなどに相談をするとよいかもしれません。施設や利用者の様子、サービス内容、費用など気になる点を確認し、入居したい施設が決まれば、施設に申し込みを行います。ケアマネジャーとケアプランを作成した後、施設に入居、サービスの利用開始となります。
ケアプランの作成は、特別養護老人ホームや介護老人保健施設の場合、施設のケアマネジャーが担当します。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの場合は、気に入ったケアマネジャーを選任することができます。
介護予防サービスを受ける(要支援1、2)
近隣の地域包括支援センターに連絡します。センターの職員と介護予防ケアプランを作成し、プランに合わせた介護予防サービスを利用することになります。要介護の人とは異なり、ケアマネジャーを探す必要はありません。
まとめ
要介護認定や介護保険の申請の流れなどについて解説しました。できる限り自立した生活を続ける、家族の介護負担を軽くする、進行の抑制が期待できるような訓練やレクリエーションを行うといった視点から、認知症の人は介護保険サービスの利用が欠かせません。申請から実際にサービスの利用を開始するまでは数カ月を要するため、認知症と診断されたら、すぐにサービスを利用する予定がない場合であってもいざという時のために速やかに介護保険の申請の手続きを行っておくのがよいでしょう。