認知症や軽度認知障害(MCI)における症状の進行を遅らせるためには、早期に適切な治療や予防を行うことが大切です。そのためには、原因や初期症状、よくみられる異変や経過など、認知症についてあらかじめ知識を得ておく必要があります。特に認知症になる前段階のMCIは、症状や状態の変化がわかりづらく、その特徴についての理解が欠かせません。
MCIかも、と思ったら専門医に相談
認知症の主な原因
認知症の原因となる疾患で最も多いのが、アルツハイマー型認知症です。次いで血管性認知症、レビー小体型認知症と続きます、認知症の原因の約9割がこの3つの疾患のどれかとされています1。前頭側頭型認知症や内分泌・代謝系の異常、遺伝の影響などによって認知症の症状が出てくることもあります。
なぜ認知症になるの?認知症の原因を種類ごとに解説
認知症の初期症状
認知症の初期症状は原因によってさまざまです。たとえばアルツハイマー型認知症であれば日常生活には支障がない程度の軽いもの忘れ、レビー小体型認知症では便秘や嗅覚の異常、睡眠の障害などが初期症状としてみられることがあります。
アルツハイマー型認知症
血管性認知症
レビー小体型認知症
認知症の進行のしかた
認知症の進行のしかたも原因ごとに特徴があります。アルツハイマー型認知症は年単位で緩やかに、血管性認知症は脳出血や脳梗塞などにともなって階段状に、レビー小体型認知症は調子のよいときと悪いときを繰り返しながら徐々に進行していきます。
アルツハイマー型認知症
血管性認知症
レビー小体型認知症
軽度認知障害(MCI)の初期症状や前兆とは
アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)は、予兆に早く気づき、適切な対策をとることで改善を図ることも可能です。しかし、アルツハイマー病によるMCIは認知症ほど状態の変化が顕著ではないため、見過ごされるケースも少なくありません。アルツハイマー病によるMCIを早期発見するためにも、アルツハイマー病によるMCIや認知症の初期段階で見られる異変やサインを知っておきましょう。
MCIかも、と思ったら専門医に相談
MCIは気づきにくい
MCI(軽度認知障害)とは、認知機能の一部に障害が見られるものの日常生活には支障が出ていない状態を言います。認知症では、経験した出来事自体を忘れてしまうため人とのやりとりでトラブルが起きたり、買い物などで金銭のやりとりがうまくできなくなったりして、日常生活に支障をきたします。そのため、周囲が認知症に気づきやすいですが、MCIでは日常の基本動作は問題なく行えるため、周囲に異変を気づかれないまま過ごしてしまうことも少なくありません。しかし、アルツハイマー病によるMCIを放置すると、個人差はあるにせよいずれはアルツハイマー型認知症を発症すると考えられています。できるだけ早く異変に気づくためにも、アルツハイマー病によるMCIのサインを知っておくことが大切です。
日常の中で見られるMCIのサイン
MCIのサインを見逃さないためには、アルツハイマー病によるMCIの特徴を知ることが大切です。
アルツハイマー病によるMCIの臨床的定義
- 記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
- 客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる
- 日常生活動作は正常
- 認知症ではない
記憶障害に限らず、生活の中での認知機能低下の一例を紹介します。
外出時に見られるサイン
MCIや認知症では、脳の機能が衰えることにより、周りの物事への興味や意欲が低下します。その結果、外出時でも服装に気を遣わなくなったり、外出そのものに消極的になったりといった変化が見られます。
会話で見られるサイン
アルツハイマー病によるMCIでは時間経過に伴う記憶の低下が認められます。例えば、最近起こったニュースの内容や、数週間前に行った旅行での出来事など、その物事自体は憶えているが、「どこ」や「いつ」など、一歩踏み込んだ内容について思い出すことができなくなります。このようなことが多く認められるとMCIのサインと考えるとよいでしょう。
炊事で見られるサイン
認知機能のひとつに遂行力があります。この機能が衰えると、物事を順序立てて行うことが難しくなり、同時にふたつの動作ができなくなったり自発的に動けなくなったりします。そのため、炊事ひとつにおいても鍋を焦がすことが多くなる、水道の水を出しっぱなしにしてしまう、凝った料理が作れなくなるなどのサインが現れます。
仕事で見られるサイン
記憶力や遂行力が低下することで、仕事でのミスも多くなります。何度も同じことを質問し、周囲をいらだたせてしまうこともあるでしょう。また、意欲低下により新しい機器や仕事を覚えようとしない傾向もあります。
認知症やMCIを疑ったら専門家に相談を
日常生活の中で認知症を思わせる症状やMCIのサインに気づいたときは、すみやかに専門家に相談してください。早いうちに治療や予防を行うほど、認知機能の維持や改善、症状の進行を遅らせることが期待できます。
(参考文献)
1,厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度総合研究報告書