初期からのケア支援の空白期間”をなくす - 藤本直規さん(医師)
2019年2月13日取材 藤本クリニック(滋賀県守山市)
若年性認知症のために退職を余儀なくされた人が、ただちに介護保険サービスを利用するのは心理的な抵抗があります。「少しでも対価をもらいながら社会に役立つことがしたい」。若年性認知症の人のこうした声を聞き、藤本クリニックでは2011年、内職を請け負う『仕事の場』を始めました。
取材に訪れた日は、若年性認知症の人を中心に、70代の軽度認知症の人、高次脳機能障害のある人、発達障害の人、社会に出づらい若者など約30名が、企業から受注した内職に取り組みました(写真)。参加者からは、「頭と手を使うのがいいし、みんなでワイワイしゃべって楽しい」「こういうところが何もなかったら家にこもるだけですやん。それはつらいわ」といった声が聞かれます。
『仕事の場』を担当する藤本クリニックのスタッフは、参加者の症状に応じて道具を工夫したり、作業分担を変えたりしています。藤本クリニック院長の藤本直規先生は、「仕事の場は仲間と出会い、仕事を通じて社会とのつながりを実感する場であると同時に、診断後に初めて、工夫された適切なケアを受ける場でもあります」と話します。
就労継続支援を経て『仕事の場』へ
藤本クリニックでは以前から、在職中の若年性認知症の人の就労継続支援に力を入れてきました。上司や人事担当者、産業医などときめ細かくやりとりをしながら、その時々の状態に応じた仕事内容への変更や配置転換などを依頼します。2~3年の就労継続期間を経て退職となるケースが多いそうです。その後につながる受け皿として『仕事の場』があります。
藤本クリニック「仕事の場」
毎週水曜日に開催。取材当日の仕事の内容は、お菓子を入れるクリスマスブーツの制作や、玩具(猫じゃらし)の部品加工などでした。
“支援の空白期間”への対処
藤本先生は、「軽度認知症の人の多くは、病名を告知すると『忘れたり上手くできないのは自分がサボっているからではないんですね』とホッとする」と言います。もちろん今後への不安は残るので、薬物治療に加え、病気の理解・受容と仲間づくりを目的とした『外来心理教育(個人・集団)』や、仲間と自主活動しながら社会参加をめざす若年性・軽度認知症デイサービス『もの忘れカフェ』などの支援があることを伝えています(後述の図を参照)。以前は、診断後、クローズドの心理教育にはなじまない人や直前まで仕事をしており、何らかの仕事をすることを望んでいる人は心理教育につながらず、“支援の空白期間”がありましたが、今はこの空白期間を『仕事の場』が埋めています。
認知機能が低下している可能性のある人への対応
認知症の早期受診が進むのに伴い、認知症ではないが、認知機能の低下がある境界線の段階での受診も増えてきました。そうした人たちは、認知症の病名告知を受けた人とは異なり、“認知症になるかもしれないし、ならないかもしれない”という宙ぶらりんな状態で、次の受診まで不安で過ごすことになります。そこで「心理教育で集まりませんか?」「仕事の場に出てみませんか?」と呼びかけると不安がやわらぐといいます。
次の支援への円滑な移行と仲間への影響
これまでに多くの人が『仕事の場』から『もの忘れカフェ』や地元の介護保険サービスに移行してきました。『仕事の場』で仲間と交流する喜びを知り、また仲間とふつうに病気や症状について話し合うことで病気の受け入れも進むため、「介護保険サービスへの移行で困ったことはない」と藤本先生は明言します。
藤本クリニックでは、『仕事の場』の仲間が卒業すると、次の場所で変わらずに過ごしていることをその都度、参加者に伝えています。すると、自分のこれから先の姿を重ね、「でも元気なんだ」「進行しても終わりじゃない」と安心感を強めているように感じるそうです。