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【認知症と自動車 第4回】気持ちを通わせましょう。心配な思いを率直に本人に伝えましょう
更新日:2021/12/08

【認知症と自動車 第4回】気持ちを通わせましょう。心配な思いを率直に本人に伝えましょう

【認知症と自動車 第4回】気持ちを通わせましょう。心配な思いを率直に本人に伝えましょう

高齢ドライバーとのコミュニケーション

家族が医療機関への受診を勧めても、本人が拒否する場合もあると思います。そういうとき、家族はどのように話を持っていけばよいのでしょうか?

本人の性格や家族との関係性によるので、「こう言えば納得してもらえる」という決まり文句はありません。一ついえるのは、あまり策を弄さないことですね。たとえば、「最近、高齢者による運転事故が多いね」「この前も新聞に出ていたでしょう」と話題を振っておいて、「お父さんも歳だからお医者さんに診てもらわないと」と持ちかけても、「俺は大丈夫だ」で終わってしまう。これはよくあるケースです。策を練っただけに家族は余計にがっかりしたり、頭にきたりしてしまいます。

もっと普通の感覚でいいと思いますよ。親のこと、夫のこと妻のことが大事だからこそ心配している──。そういう気持ちをストレートに言葉にしたほうがいい。高齢ドライバーによる事故のニュースを話題にするにしても、「だから何々しなければいけない」ではなく、「この人と年齢が近いから、お父さんのことが心配」といったメッセージを伝えることが大切です。それでも拒絶されることはあるかもしれませんが、むきにならずに冷静に、次の機会を待ってまた気持ちを伝えてください。

家族から、あるいは受診した医師から運転免許証の返納を勧められても、簡単には受け入れられない人も多いと思います。事情はいろいろあるでしょう。たとえば公共交通機関が少ない地域では、運転をやめると生活そのものが成り立たないという問題が指摘されています。

免許を自主返納したあと、あるいは認知症と診断されて免許停止になったあとの生活をどうするか。これは家族だけの問題ではないし、医療だけで解決できる課題でもありません。近年は、地方自治体がそれぞれ運転中止後の支援策を実施しており、生活支援に参加する企業も増えています。その成果もあるのでしょう。長年頭打ちだった高齢者の運転免許返納は急増し、2020年には約30万人(75歳以上)となりました(グラフ参照)。

今後さらに、地域ごとの特徴を踏まえ、自治体の長の強いリーダーシップのもとでボランティアの協力なども得ながら、車に乗らなくなったあと、病気になったあとの生活環境を整えていく。今回の道路交通法改正も、そうした地域社会づくりのきっかけとして捉えてほしいと思います。

高知大学保健管理センター医学部分室 准教授 上村 直人先生

生活環境、社会環境の問題に加え、どうしても運転をやめたくないという個人的な思いもあるでしょうね。

私の経験上、二つのパターンがあります。一つは、運転というよりもドライブが好き、たとえば風景を見たくて車に乗るといったパターン。この場合は、家族や友だちが運転手を引き受け、こまめに本人をドライブに誘い出すことで運転をやめてもらえることがあります。

高齢者が助手席に座って美しい景色を眺めているシーン

もう一つが、運転することに役割や生きがいを感じているパターン。たとえば、お孫さんの幼稚園・保育園の送り迎えすることで、「自分は役に立っている」と満足感を得ている人もいます。そうした場合は何か別の役割に置き換える──たとえば犬の散歩などをお願いすることで、運転への執着を解いてもらえるように勉めます。

高齢者が幼稚園児を助手席に乗せて得意げに運転しているシーン

一番難しいのは、運転が生きがい、運転そのものが好きというパターンです。好きなものを嫌いになれといっても無理です。私だって明日から医者をやめろといわれたら途方に暮れてしまうでしょう。運転が生きがいという人の場合は、本人にとって何か運転と同じぐらい大切なものを見つけないとなかなか納得してもらえないでしょうね。私はご家族に「ご本人が運転と同じぐらいこだわりを持っているものが何かありませんか?」とお尋ねし、生きがいを別のものに置き換えることを提案しています。

やはり家族をはじめ周囲の人たちの支えが大切ということですね。どうもありがとうございました。

(高齢者が幼稚園児を助手席に乗せて得意げに運転しているシーン)