【認知症と自動車 第2回】病気の知識も大切です。認知症の原因疾患によって運転行動や事故の傾向が異なります
運転行動・運転能力と認知症との関係
認知症になると、運転にどのような問題が生じやすくなるのでしょうか?
私たちの研究の結果、認知症の原因疾患によって運転行動や事故の傾向が異なることがわかりました1。
アルツハイマー型認知症
- 記憶障害が目立つため、行き先を忘れてしまう迷子運転などがみられます。たとえば近所のスーパーに行くつもりが、運転中にどこに向かっているのかわからなくなり、見当違いの方向に行ってしまうこともあります。
- 視空間認知能力(距離感)も低下するため、車庫入れや幅寄せがうまくできず、接触事故が起こりやすくなります。
脳血管性認知症
- 脳のどの部分が障害されるかによって、症状も運転行動も異なります。
- 認知力や判断力、記憶力が変動する特徴があり、ボーっとしているときは速度維持が困難になりがちです。のろのろ運転をして、後続車に衝突される事故も起きています。
- 動作が緩慢になるのも特徴で、ブレーキペダルやギアなどの操作の遅れが事故の原因になることもあります。
前頭側頭型認知症
- 本能や行動欲求を抑えている前頭葉がダメージを受けるため、「脱抑制」という症状がみられます。交通ルールはわかっていても、「こっちに行きたい」という欲求を抑え切れず、信号無視や逆走をしてしまうこともありえます。
- 注意散漫による脇見運転が多いのも特徴です。
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前頭側頭型認知症はアルツハイマー型認知症に比べて10.4倍も交通事故が起こりやすいという報告があります2。
レビー小体型認知症
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レビー小体型認知症と運転能力との関係については医学的な検討がほとんど行われていません。ただ、運転シミュレータを用いた研究ではありますが、速度超過、センターライン超え、赤信号の見落とし、衝突事故が多く、注意障害や視空間認知障害などの症状が原因と推測されています3。
- レビー小体型認知症は他の認知症原因疾患に比べて病気の自覚がある人が多いので、運転事故のリスクを説明すると免許を返納していただける率が高い印象があります。それだけに早期発見が大切です。
認知症と交通事故のリスクとの関係は、高齢ドライバーやその家族も知っておきたい情報ですね。
一つ注意してほしいのは、認知症ではこうした運転行動、事故が多い傾向があるという話であって、そのような運転行動、事故があればイコール認知症ということではありません。たとえば、認知症による注意障害は交通事故の原因の一つですが、注意機能は認知症だけでなく、ADHD(注意欠如多動性障害)などの疾患でも損なわれます。ですから交通事故を防ぐためには、どういう病気かは別として、本人や周囲の人が運転能力の低下、危険運転の兆候に早く気づくということが大切です。
(参考文献)
1,上村直人 他〔認知症患者の人権と自動車運転〕認知症患者の自動車運転の実態と医師の役割. 精神科. 2007; 11: 43-49
2,Fujito R, et al: Comparing the driving behaviours of individuals with frontotemporal lobar degeneration and those with Alzheimer's disease. Psychogeriatrics. 2016; 16(1):27-33
3,Yamin S, et al: Int J Alzheimers Dis. 2015; 2015: 806024.