食事のときに食べこぼしが増えた、固いものが食べづらくなった、むせやすくなったなど、口周りの小さな変化に心当たりはありませんか?
そのような症状は「オーラルフレイル」のサインかもしれません。オーラルフレイルを放置すると全身の健康へも影響するため、早期発見と適切な対策が必要です。
この記事では、オーラルフレイルの定義や放置することのリスク、自宅でできる対策について紹介していきます。
オーラルフレイルとは
老化に伴い、口の状態への意識の低下から歯の数が減ったり、口の中を清潔に保つことが難しくなったり、噛んだり飲み込んだりする力が弱くなっていきます。
食べる機能が低下すると栄養が十分にとれず、筋肉量が落ち、体と心全体の衰え(フレイル)につながります。この一連の流れのことを「オーラルフレイル」といいます1。
健康的な生活を維持するために、オーラルフレイルの具体的な症状やフレイルとの関係について解説します。
オーラルフレイルの代表的な症状
オーラルフレイルでは食事のときの食べにくさや、口の乾燥などの症状が現れます。自覚できる代表的な症状を以下に示します。ご自身に当てはまるものがないか確認しましょう。
オーラルフレイルの自覚症状2
・食べこぼしが増える
・固いものが噛めない
・むせやすい
・滑舌が悪くなる
・口が渇きやすい
・口の臭いが気になる
・自分の歯が減る
オーラルフレイルとフレイルの関係
オーラルフレイルは、体と心全体の衰えである「フレイル」の前段階の状態です。
オーラルフレイルになり食べこぼしが増えたり、話しづらくなったりすると、食事の量が減り、栄養がとれなくなります。筋肉量が落ち、体が衰えていくと人との付き合いも少なくなり、フレイルになる確率が高まるのです。
フレイルを予防するための3本柱として「栄養(食・口腔機能)」「運動」「社会参加」が掲げられています。特に「栄養」の観点から、オーラルフレイルを予防することは、フレイル予防に重要とされています3。
オーラルフレイルは放置・進行するとどうなる?受診が必要な症状は?
オーラルフレイルは、口の機能に影響が出る前から機能障がいが起こるまで、4つのレベルを段階的に進行します。
初期では口の健康への関心が低下し、歯周病や歯を失うリスクが高まります。次の段階では、滑舌の低下や食べこぼし、軽いむせなどの症状が現れ、徐々に食事内容が固いものから軟らかいものへと変化していきます。この時期は症状が軽微なため気付きにくく、知らず知らずのうちに症状が進むことが特徴です。
さらに進行すると、咬合力(こうごうりょく)の低下や舌の動きが悪くなるなど、口腔機能の低下が顕著になります。この段階では、全身の筋肉量が減少するサルコペニアや、運動器の障害であるロコモティブシンドローム、栄養障害などのリスクも高まります。
最終段階では飲み込みや噛むことが難しくなり、要介護状態や運動・栄養障害の状態に陥るため、専門的な治療が必要です4。
オーラルフレイル4つのフェーズ
項目 | 該当 | 非該当 |
---|---|---|
第1レベル |
口の健康リテラシーの低下 |
・口の健康に関する関心の低さ・歯周病、歯の喪失リスク増大 |
第2レベル |
口のささいなトラブル |
・滑舌低下・食べこぼし・むせ・噛めない食品増加 |
第3レベル |
口の機能低下 |
・口の乾燥・噛む力の低下・舌の力の低下 |
第4レベル |
食べる機能の障がい |
・飲み込む機能の障がい・噛む機能の障がい |
(文献4を参考に表を作成)
研究によると、オーラルフレイルの人は身体的フレイルに陥りやすく、要介護認定、死亡のリスクが2倍以上高まることが分かっています4。オーラルフレイルは早期介入によって改善が見込まれることから、特に「第2レベル」の段階を放置しないことが大切です。
次の症状が現れたときは、歯科医などの専門医の受診を検討しましょう。
オーラルフレイル受診の目安
・滑舌が低下している
・食べこぼしがふえた
・食事中にむせる
・固い食べ物が食べにくくなった
オーラルフレイルのセルフチェック
オーラルフレイル早期発見のため、以下の項目で当てはまるものがないか確認してみましょう。点数が高いほど口の健康が損なわれる可能性があるため、歯みがきを丁寧に行う、義歯の手入れをするなど口の健康を守る行動を心がけましょう。
オーラルフレイルのセルフチェック
項目 | 該当 | 非該当 |
---|---|---|
自分の歯は何本ありますか?(さし歯や金属をかぶせた歯は、自分の歯として数えます。インプラントは自分の歯として数えません) |
0~19本 |
20本以上 |
半年前と比べて固いものが食べにくくなりましたか |
はい |
いいえ |
お茶や汁物等でむせることがありますか |
はい |
いいえ |
口の渇きが気になりますか |
はい |
いいえ |
普段の会話で、言葉をはっきりと発音できないことがありますか |
はい |
いいえ |
5 つの項目のうち、2 つ以上に該当する場合が「オーラルフレイル」とされています。
(文献2より許可を得て掲載)
オーラルフレイルを予防する3つの対策
オーラルフレイルの予防には専門家による定期的なケアと自己管理、口の健康を意識した食生活が重要です。
かかりつけの歯科医をもつ
口の健康を長く保つには、定期的に通える「かかりつけ歯科医」をもつことが大切です。口の機能低下の早期発見がしやすい、相談がしやすいなどのメリットがあります。
また、通院が難しい方への訪問診療や、地域の健康づくりにも携わっています。口の健康について気になることがあったときに、すぐに相談できるようかかりつけ歯科医を見つけておきましょう4。
口のささいな変化に気付く
口の機能低下はささいな変化から始まります。「年のせい」と諦めるのでなく「もしかしたらオーラルフレイルかも」と気付くことが大切です。
・滑舌が低下している
・食べこぼしがふえた
・食事中にむせる
・固い食べ物が食べにくくなった
このような症状が現れたら、口の機能低下のサインかもしれないことを覚えておきましょう。
また、ささいな変化は自分では気付けないこともあります。そのため、高齢者の「通いの場」に歯科衛生士などの専門職を派遣し、口の健康に関する啓発を行う事業も行われています5。オーラルフレイルについて考えるきっかけづくりとして利用してみてください。
バランスのよい食生活を意識する
適切なエネルギー量と、バランスのよい食生活を意識しましょう。
中高年時代のメタボリックシンドロームに対する意識から、後期高齢者になっても減量が必要だと思っている人も少なくありません。しかし、フレイル予防のためにはしっかりカロリーを摂取することが大切です。
また、バランスのよい食生活の目安として、以下の食材を毎日まんべんなく食べられているか確認してみてください。特に筋肉量の減少を防ぐため、タンパク質の摂取が大切です4。
・肉
・魚介類
・卵
・豆、大豆製品
・牛乳
・緑黄色社会
・海藻類
・いも類
・果物
・油脂類
これらの対策を意識的に実践することで、オーラルフレイルを予防し、健康的な口腔機能を維持できます。
オーラルフレイルを改善するための5つの口腔体操
口の機能維持・向上のために自宅でできる「口の体操」を5つ紹介します。口・舌の動き、嚥下機能、噛む力、発音能力、舌の筋力など、口腔機能の各側面を総合的に鍛えられます。
口・舌の動きをスムーズにする体操
定期的に行うことで口元の機能が向上し、日常生活において明るく健康的な表情を保ち、食べ物が飲み込みやすくなります6。
体操の名前 |
やり方 |
---|---|
口の体操 |
口を「ウー」とすぼめてから、「イー」と横に開く |
ほほの体操 |
ほほを思い切りふくらませ、すぼめる(3回) |
舌の体操 |
舌をほほの内側に強く押しつけ、指でほほの上から舌先を押さえる |
パタカラ体操 |
「パ」「タ」「カ」「ラ」それぞれの言葉を8回ずつ2セット行う |
(文献6を参考に表を作成)
飲み込む力をつける体操
むせなどの改善につながる飲み込む筋力をつけるための体操です6。
体操の名前 |
やり方 |
---|---|
開口訓練 |
大きく10秒口を開け保持、しっかり10秒口を閉じ休憩(朝・夕の2セット行う) |
ベロ出しごっくん体操 |
舌を少し「ベー」と出したまま、口を閉じ、つばを飲み込む |
おでこ体操 |
手のひらとおでこを押しつけあい、おへそをのぞきこむ(5秒間) |
(文献6を参考に表を作成)
噛む力をつける体操
食べこぼしや、食べ物の鼻への流入を防ぎます。
噛む力を鍛えることで唾液がよく出るようになるので安全に美味しく食事ができます6。
ガムを噛む咀嚼(そしゃく)訓練
1. 唇を閉じ、左右両側の歯で均等にガムを噛む
2. 2分間はリズミカルに、3分間は自由に、計5分間、朝夕の1日2回行う
滑舌をよくする体操
口の動きをよくし、はっきりとした発音にするためには、早口言葉が役立ちます。口周りの筋肉を鍛えることは、豊かな表情づくりにも役立ちます。
ご自身の知っている早口言葉を「口を大きく動かしながら、3回続けて」言って訓練しましょう6。
舌の力をつける体操
舌の筋力を鍛えることで「誤嚥」や「むせ」の改善につながります6。
舌トレーニング
1. 舌を思い切り下に「ベー」と伸ばす
2. 舌を思い切り上に伸ばす
3. 舌を左右に伸ばす(各5回)
4. 舌を口の周囲に沿わせてぐるりと動かす
5. スプーンを舌に押し当てて、その力に抵抗するように舌を上げる(右、左、前とスプーンの当てる位置を変えて行う)
オーラルフレイルを早期発見し、予防・改善しよう
オーラルフレイルとは、加齢に伴う口腔機能の軽微な低下や衰えを指す概念です。オーラルフレイルを放置すると心身の機能が低下した状態であるフレイルが進行してしまいます。そのため、早期発見・早期対応が重要です。
日常的な口腔ケアと定期的な歯科検診、自宅でできる「口の体操」を取り入れ、気になる症状があれば歯科医師に相談しましょう。継続的な取り組みが、健康寿命を伸ばすために重要です。