「会話中、聞き取りにくいことが増えた」「無意識にテレビの音量を上げている」など、「聞こえ」に関して気になることはありませんか?
聴覚機能の衰えが進むと、コミュニケーションに自信が持てなくなり、社会的な孤立や認知機能の低下を引き起こし、ひいては認知症を発症するリスクの上昇に繋がる可能性があります。
健康的な生活を長く送るため、ヒアリングフレイルに早めに気付き、対策することが重要です。
ヒアリングフレイルとは
ヒアリングフレイルは、聴覚機能の低下に伴う身体的・社会的機能の低下を指す概念です。
心身の機能の衰えを表す「フレイル(虚弱)」のひとつとして位置づけられており、単なる聴力低下だけでなく、社会的交流の減少や認知機能への影響も含む包括的な状態を表します1。
米国の研究では、聴覚機能の低下が認知機能障害の発症リスクを高めることが報告されています2。聞こえの低下により取り残された感じを受けやすく、人とのつながりや社会的ネットワークが小さくなり、耳だけでなく社会的動物である人間のコミュニケーション能力や「やる気」のような精神的な機能も落ちてしまうことが問題です3。
聞こえにくさを生じさせている原因によっては進行を予防したり、治療したりできるため、早期発見のための啓発活動が行われています。
ヒアリングフレイルの代表的な症状
ヒアリングフレイルの症状は、分かりやすい「聞こえ」の問題だけでなく、聞こえにくさにより引き起こされるコミュニケーションの変化もあります。代表的な症状を紹介しますので、ご自身やご家族に当てはまるものがないか確認してみましょう。
◎ヒアリングフレイルの症状4
- ・ 会話で聞き取れないことが増えた
・ 家族からテレビやラジオの音量が大きいと注意される
・ 話しかけても以前より反応しなくなった
・ 外出することがおっくうになった
・ 部屋に引きこもることが多くなった
難聴とヒアリングフレイルの関係
難聴は「聴力の低下」という医学的な状態を指すのに対し、ヒアリングフレイルは「難聴とそれによる社会的活動性の低下によって引き起こされる身体的・精神的な影響」まで含む広い概念です。
難聴の主な原因には、加齢により内耳機能が弱まり音の情報をうまく脳に送れなくなることや、脳が音の信号を言語として処理する機能が低下することなどがあります5。一方、ヒアリングフレイルの原因は、難聴による「聞こえにくさ」から付随的に生じる身体的・社会的機能の低下にあります。
難聴の原因が耳垢や中耳炎である場合もあり、治療により聴力の回復が見込める点で早期の受診が重要です6。また、加齢による難聴は改善が難しいとされていますが、早期に補聴器による補聴を行うことでヒアリングフレイルを防ぐことができる可能性があります。
40代から聴覚は低下する?放置するとどうなる?
聴覚機能の低下は、実は40代から徐々に始まっています。あまり自覚はないかもしれませんが、高音域の聴力レベルは確実に下がっているのです5。
難聴がある人は、聞こえが正常な人に比べ、認知症発症のリスクが1.9倍に増加するとの報告があります7。それだけでなく、転倒リスクの上昇や、コミュニケーションの減少による社会的孤立、うつ病発症リスクも高まり、心身の衰えであるフレイルを進めることにつながります。
聞こえのチェック
ヒアリングフレイルの進行による認知症やうつ病のリスク増大、社会的孤立などを未然に防ぐため、まずはセルフチェックでご自身の聴覚状態を確認してみましょう。
◎聞こえのチェック8
項目 |
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会話をしているときに聞き返す。 |
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後ろから呼びかけられると、気づかないことがある。 |
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聞き間違えが多い。 |
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話し声が大きいと言われる。 |
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見えないところからの車の接近に気づかない。 |
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電子レンジなどの電子音が聞こえない。 |
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耳鳴りがある。 |
(日本補聴器販売店協会ホームページより許可を得て掲載)(最終閲覧日:2025年3月25日)
チェックの数が
1〜2個:実生活でお困りのことがあれば、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
3〜4個:耳鼻咽喉科で相談してみましょう。
5個以上:早めに耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。
ヒアリングフレイルを予防する生活をしよう!耳にやさしい5つの対策
ヒアリングフレイルを予防するためには、耳にやさしい生活をすることと、早期に適切な検査を受けることが重要です。
日常の音の大きさに注意して過ごし、必要に応じて専門医を受診したり、補聴器を取り入れたりしましょう。具体的な方法を5つご紹介します。
1. テレビや音楽の音量は控えめにする
ヘッドホンやイヤホンで大きな音を聞き続けることは、難聴の原因の1つとなります(ヘッドホン難聴)。じわじわと進行するため気付きにくく、重症化すると回復しにくいのが特徴です。
WHOによると、80dB(デシベル)で1週間あたり40時間以上、90dBで1週間あたり4時間以上聞き続けると、難聴の危険性が高まるとされています9。
- ・ 騒音下でも音量を上げずに済むよう、ノイズキャンセリング機能のついたヘッドホンやイヤホンを使用する
・ 音量を確認できるアプリなどを使用する
このような対策をとり、大音量で長時間聞き続けないよう注意しましょう。
2. 大きな音や騒音がある場所への外出は控える、耳栓を利用する
工事現場や大音量の音楽が流れる場所では、耳栓やイヤーマフの活用も検討してみてください。
工事用重機の音量は105dB、コンサート会場は110dBとされているため、耳への負担はとても大きいです10。仕事などで騒音に曝露される時間が長い人は、耳栓や耳覆いを使用するなど、耳への影響を意識するとよいでしょう。
3. 生活習慣を整える
ヒアリングフレイルの原因となる難聴の進行を遅らせるには、老化を遅らせるために全身の健康管理が重要です。糖尿病などの生活習慣病や喫煙は聴覚低下の原因となるため11、基本的な生活習慣を整えることが大切です。
- ・ 禁煙、禁酒し、バランスの良い食事接種を心がける
・ 質の良い、十分な睡眠時間を確保する
・ 週3日程度の運動習慣を身につける
上記のような対策をとり、難聴の進行を予防しましょう。
4. 定期的に聴力検査を受ける
耳鼻咽喉科専門医を受診し、耳の診察をうけ、聴力検査を行いましょう。特に以下のような症状がある場合は、早めの受診が望ましいとされています。疾患によっては治療で改善する可能性もあります。補聴器の必要性についても考えるため、「補聴器相談医」をもつ耳鼻咽喉科医のもとを受診しましょう12。
- ・ 体温計の音が聞き取れない
・ 会話が聞き取りにくい
・ 周囲から「声が大きい」と指摘される
5. 早めに補聴器を使用する
聞こえにくさを感じたら、早めに補聴器を使用することも効果的です。補聴器の使用は、認知機能低下の予防にも効果があることが研究で示されています13。
コミュニケーションがしづらくなると、外出や人と会うことがおっくうになってしまうため、早めに使用できるといいですね。補聴器を希望される場合は、「補聴器相談医」をもつ耳鼻咽喉科を受診しましょう12。
◎補聴器使用時のポイント
- ・ 補聴器相談医をもつ耳鼻咽喉科医に相談し、適切な補聴器を選択する
・ 定期的な調整を行い、最適な状態を保つ
・ 使用開始後も継続的なフォローアップを受ける
ヒアリングフレイルを遅らせるための生活の見直し
ヒアリングフレイルは単に難聴対策だけでなく、他の人とのつながりを意識した社会生活を過ごすことが重要です。認知機能の低下には社会的活動の低下が深く関わっており、家にこもりっきりで外に出ないというような「社会的孤立」に陥らないように注意しましょう14。
- ・ 週3回は30分〜1時間の散歩など外出し、有酸素運動をする15
・ テレビだけを見ず、積極的に家族と会話する時間をとる
・ 公民館や市民講座に参加し、他の人とコミュニケーションをとる
などを意識した生活をしましょう。
ヒアリングフレイルは早期発見が大切!耳にやさしい生活で予防・対策をしよう
ヒアリングフレイルは、聴覚機能の低下により、社会的交流の減少や認知機能の低下を引き起こす一連の状態を指します。
40代から徐々に聴覚は低下する16ため、聞こえの違和感を放置しないことが重要です。原因によっては適切な対策により、進行を遅らせることが可能です。日常生活で「もしかして聞こえていないかも?」という「聞こえにくさのサイン」を見逃さないようにしましょう。
ヒアリングフレイルを予防するためには、正確な聴力検査や耳の診察による診断が必須です。まずは聞こえの状態を自分で把握するため、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
もし難聴があると診断された場合や、今後難聴の進行を遅らせたいと思う場合、大音量の場所を避ける、禁煙・禁酒する・運動習慣をもつといった耳にやさしい生活にくわえて、基本的な生活習慣を整えることも重要です。
聞こえにくさを「年齢のせいだから」と諦めず、早期発見・対策をしていきましょう。