生活習慣病のひとつである脂質異常症は、進行するとさまざまなリスクがあるため、早めに気付いて改善に取り組む必要があります。
本記事では、脂質異常症の改善方法や改善までの期間について解説します。
脂質異常症とは
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が基準値から外れた状態を指す疾患(病気)です1。
脂質異常症の診断基準は、おおよそ以下のとおりです。
・LDL(悪玉)コレステロール:140mg/dL以上
・HDL(善玉)コレステロール:40mg/dL未満
・中性脂肪(トリグリセリド):150mg/dL以上
脂質異常症は大きく2つに分類されます。遺伝的要因による家族性高コレステロール血症と、生活習慣や他の疾患が原因となる二次性脂質異常症です。
家族性高コレステロール血症は、LDLコレステロールを体内から取り除く働きを持つ仕組みに異常が発生し、血液中のLDLコレステロールが高くなる遺伝性疾患です2。
二次性脂質異常症の主な原因は、不適切な食生活、運動不足、喫煙、飲酒などの生活習慣に加え、糖尿病や甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群なども含まれます3。
脂質異常症を改善するにはどうしたら良いのか
脂質異常症を改善するには3つのアプローチ方法があります4。
・栄養バランスの良い食事をする
・運動習慣をつける
・薬物による治療を行う
脂質異常症の進行を防ぐには、食事や運動などの生活習慣の見直しが必要です。
それでも進行してしまった場合は、薬物による治療を同時に進めていきます。
栄養バランスの良い食事をする
脂質異常症では食事管理が重要で、以下の食品を意識的に取り入れることが推奨されています。
栄養素 |
食品 |
食物繊維 |
野菜きのこ海藻類魚類大豆製品 |
不飽和脂肪酸 |
青魚 |
(文献5を参考に作成)
一方で、脂身の多い肉やバター、チーズなどの飽和脂肪酸や、マーガリンやショートニング、揚げ物などのトランス脂肪酸を多く含む食品は、控えめにしましょう5。
運動習慣をつける
定期的な運動は、HDLコレステロールを増加させ、中性脂肪を減少させる効果があります。
有酸素運動を中心に、1日30分以上、週3回以上の運動が推奨されており、具体的にはウォーキング、ジョギング、水泳などがおすすめです6。
運動強度は軽く汗をかく程度で会話ができる状態を維持することが望ましく、急激な運動は避ける必要があります。
脂質異常症を発症しているご本人の負担とならないよう、運動を始める前には医師に相談し、ご本人に適した運動量や運動方法を確認しましょう。
薬物による治療を行う
脂質異常症の治療では、食事療法や運動療法を2~3カ月実施しても十分な効果が得られない場合に医師の判断のもと薬物治療が開始され、患者さんの状態や検査値に応じて、適切な薬剤が選択されます7。治療薬を服用し、LDLコレステロールやHDLコレステロール、中性脂肪の値を改善することが主な目的です。
薬剤の種類によってLDLコレステロールを下げる、中性脂肪を下げる、HDLコレステロールを上げるなどの作用が異なり、検査値によって複数の薬剤を組み合わせて使用します8。
脂質異常症のリスク
脂質異常症の主なリスクは、以下の通りです。
・動脈硬化の進行
・心疾患や脳血管疾患の発症
・認知症の発症
血液中のLDLコレステロールが増加すると、血管壁に蓄まり、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化が進行すると、血管内が狭くなり、血液の流れが悪くなります。
自覚症状がないまま進行してしまうため、定期的に検診などで血液中の資質値をチェックすることが大切です。
動脈硬化の進行
血液中のLDLコレステロールが増加すると、血管壁に蓄まり、動脈硬化が進行します。
血管壁に蓄まったコレステロールは炎症反応を引き起こし、血管壁を傷つけながらプラークと呼ばれる硬い沈着物を形成します9。
プラークが沈着することで血管の内腔が狭くなると血流の悪化が起こり、プラークが破裂すると血栓が形成され、血管を完全に塞いでしまう可能性も否定できません。
また、血管壁の弾力性が失われ、血管が硬くなることが原因で血圧上昇のリスクも高まります。
心疾患や脳血管疾患の発症
心疾患や脳血管疾患は、動脈硬化が進行することで発症の可能性が高まります。
心臓の冠動脈が狭くなることで、心臓の筋肉への血液供給が不足し、狭心症や心筋梗塞などの心疾患が発症します1。
・狭心症10:一時的な血液供給の低下により、胸の痛みや圧迫感などの症状が現れる疾患(病気)
・心筋梗塞11:血管が完全に詰まることで心臓の筋肉が機能しなくなる疾患(病気)
脳血管では、血管が狭くなることで脳梗塞を引き起こす可能性があります。脳梗塞は脳の血管が詰まり、その先の脳組織が機能しなくなる疾患(病気)です。
脳梗塞の症状として、突然の半身まひ、言語障害、視野障害などが現れ、適切な治療が遅れると重度の後遺症が残る可能性があります。
家族性高コレステロール血症の場合、未治療の若年に心疾患や脳血管疾患を発症するケースがあることも知っておきましょう2。
認知症の発症
脂質異常症のリスクとして、近年の研究で認知症との関係性が明らかになってきています。
動脈硬化により脳の血管が傷つき、血液の流れが悪くなることで血管性認知症が引き起こされます。
脳への血液供給が不足して現れる症状は、認知機能の低下や記憶力の衰えです12。
コレステロール値が高い状態が続くと、アルツハイマー型認知症の発症リスクも高まることが報告されています。
コレステロール代謝の異常は、脳内にAβ(アミロイドベータ)というタンパク質が蓄まることを促進し、脳神経細胞の働きを低下させる可能性があります13。
脂質異常症の改善にサプリは有効か?
オメガ3脂肪酸を含む魚油(EPAやDPA)、植物ステロールの成分を含んだサプリメントは、脂質異常症の改善効果が期待できる可能性がありますが、サプリメントのみでの改善は難しいです14。
中性脂肪を低下させる効果が報告14されていますが、サプリメントのみで脂質異常症を改善することは難しく、あくまでも食事・運動療法や必要に応じた薬物治療を補完するものとして考える必要があります。
脂質異常症が改善するには何カ月かかるのか
脂質異常症の改善にかかる期間は、個人の状態や取り組む治療法によって大きく異なります。
一般的な治療の流れとして、まず2~3カ月間は食事療法と運動療法を実施し、その効果を確認します7。生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合は、医師の判断のもと薬物療法が開始されます。
薬物療法を開始した場合、LDLコレステロールや中性脂肪の数値は食事や運動療法を行う期間より早く効果が現れることが多いですが、維持のためには継続的な服薬が必要です15。
重要なのは、短期的な改善だけでなく、長期的な管理を心がけることです。定期的な検査で数値をチェックし、医師の指導のもと、適切な治療を継続することが推奨されます。
まとめ
脂質異常症を改善するには、食事や運動などの生活習慣の改善を2~3カ月行い、それでもコレステロール値や中性脂肪の数値が改善しない際は医師に相談してみましょう。
自覚症状がほとんどない疾患(病気)であるため、少しでも早く治療をスタートさせないと動脈硬化が進み、心疾患や脳血管疾患、認知症を発症する可能性が高まります。
脂質異常症の改善は個々のケースによってどれくらいの期間を要するか異なります。継続的に食事や運動習慣の改善を行いましょう。