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認知症の当事者の電話トラブルについて|ご家族が知っておきたい対策とは?
更新日:2025-05-12

認知症の当事者の電話トラブルについて|ご家族が知っておきたい対策とは?

認知症の当事者の電話トラブルについて|ご家族が知っておきたい対策とは?

【執筆者】朝水 裕一

介護現場に13年間従事し、現在はケアマネジャーとして居宅介護支援事業所にて勤務 (本記事最後に全文掲載)

「また、親から電話…」「今度は何だろう?」 高齢のご家族からの頻繁な電話に戸惑ったり、疲れたりする方もいらっしゃるでしょう。着信のたびに同じ話を繰り返され、ついイライラしてしまうこともあるかもしれません。

頻繁な電話の発信だけでなく、電話を通じて詐欺などのトラブルに関してもご家族は心配でしょう。

この記事では、認知症のご本人によくある電話に関するトラブルに対して今日から実践できることをわかりやすく解説します。

認知症のご本人によくある電話に関するトラブル

認知症のご本人が電話を使用する際に直面する主なトラブルを説明します。

ご家族に頻繁に電話をかける

頻繁に電話連絡があると、「またか…」という思いが積み重なり、電話に出られなかったり優しく対応できなかったりすることで罪悪感を感じる方もいるでしょう。その結果、精神的に疲弊してしまう可能性があります。

詐欺などのトラブルに巻き込まれる

認知症の高齢者は、業者からの勧誘や契約締結で必要な判断能力が不十分のために一般の高齢者よりもトラブルや被害にあいやすい傾向があります1。例えば、電話で言葉巧みに誘導され、お金を騙し取られたり、個人情報を教えてしまったりするケースがあります。

ご家族や周囲の人が日頃から注意を払い、詐欺の手口について情報共有することが大切です2

テレビショッピングで不要なものを注文してしまう

認知症のご本人は、テレビショッピングで不要なものを注文してしまうリスクが高いため、注意が必要です。

テレビで紹介される商品の必要性を適切に判断できず、衝動的に購入してしまうことがあります。また、以前に同じような商品を購入したことを忘れ、繰り返し注文してしまうことも少なくありません。

携帯電話を紛失してしまう

認知症の症状の1つである「もの忘れ」により、携帯電話をどこかに置き忘れ、失くしてしまうこともあります。ご家族が探すケースも珍しくありません。

認知症のご本人が電話を頻繁にかける理由は?

認知症のご本人が何度も電話をかけてしまうのは、決して困らせようとしているわけではありません。そこには、認知症の症状が影響している可能性があります。

記憶障害:電話したことや内容を忘れてしまう

記憶障害は、新しいことを記憶できずに、直前に聞いたことを思い出せない認知症の代表的な症状です3。ほんの数分前に電話で話したことや、用件を伝えた「行動そのもの」を忘れてしまい、何度も同じ内容の電話をかけてしまうことがあります。

「今、電話したばかりでしょう?」と言っても、ご本人には電話をした記憶がないため、「初めてかけた」と思ってしまうのです。

見当識障害:時間の感覚がわからなくなる

見当識障害とは、時間や場所、人間関係などがわからなくなる症状です。昼夜が逆転したり、今がいつなのか分からなくなることがあります3

そのため、電話をかけてもいい時間帯かどうかを判断することが困難になり、「緊急でもないのに、早朝や夜中に何度も電話をかける」などの行動が見られることがあります。

判断力の低下:電話の必要性を判断できない

認知機能の低下が進行すると、いつもと違う出来事で混乱しやすくなります3

「今、電話をかけるべきか」「この内容を、すぐに伝える必要があるか」など判断する力が低下し、些細なことでも電話をかけてしまうことがあるのです。

不安や孤独感をやわらげたい

今までできていたことができなくなったり、周囲の状況が理解できなくなったりして、強い不安や孤独感を感じやすくなります。

そんな時、電話は身近な人とのつながりを確認し、安心感を得るための大切な手段です。「誰かと話したい」「自分の不安を分かってほしい」という気持ちが、頻繁な電話につながっている場合もあります。

電話に関するトラブルに対する4つの対策

ここでは、今日から実践できる4つの対策をご紹介します。

1. 時間帯、回数など電話のルールを決める 

まず、ご本人と話し合って、下記のような電話に関するルールを決めましょう。

  • ・電話をかける時間帯を決める
    ・1日に電話をかける回数を決める
    ・緊急時以外の電話は控える

事前に設定したルールを忘れてしまうことも考えられます。その場合、こちらから定期的に電話をかけ、安心感を与えるのもよいでしょう。

大切なことは、一方的にルールを押し付けるのではなく、ご本人の気持ちに寄り添いながら、納得してもらえるように説明することです。


2. 電話でコミュニケーションを上手にとる

電話がかかってきたら、まずは落ち着いて、ゆっくりと話を聞きましょう。ここでは、電話でのコミュニケーションのポイントを紹介します。

  • ゆっくり、はっきり話す:早口や小さな声は聞き取りにくいため、落ち着いたトーンで話しましょう。

    否定せず、共感する:「また同じこと」と思っても否定せず、「そうなんだね」「心配だったね」と、まずは気持ちを受け止めましょう。

    安心させる言葉をかける:「大丈夫だよ」「いつもありがとう」など、安心できる言葉を伝えましょう。

    話題を変える:同じ話を繰り返す場合は、別の話題に切り替えてみましょう。

3. 携帯電話やプランを見直す

携帯電話の機種や契約プランを見直すことも、トラブル防止に有効です。

  • シンプルな機種を選ぶ:操作が簡単な携帯電話がおすすめです。

    発着信制限サービスを利用する:特定の番号以外は発着信できないように設定できるサービスがあります。

    GPS機能付きの機種を選ぶ:携帯電話の紛失が心配な場合は、GPS機能付きの機種を選ぶと、場所を特定できるので安心です。

4. 介護サービスなどのサポートを活用する

ご家族だけで抱え込まず、介護サービスなどの支援を活用しましょう。

  • デイサービス:日中、デイサービスに通うことで、生活リズムが整い、人との交流も増えるため、不安や孤独感の軽減につながります。

    訪問介護:ヘルパーに自宅へ来てもらい、身の回りのサポートをしてもらうことで、安心感につながります。

    ショートステイ:短期間、施設に宿泊することで、ご家族の介護負担の軽減につながります。

    地域包括支援センター:認知症に関する相談や、介護保険サービスの情報提供など、さまざまなサポートを受けられます。

まとめ:ご本人の気持ちに寄り添い、共に安心できる毎日を

認知症のご家族からの電話は、不安や孤独感の表れであり、助けを求めるSOSサインかもしれません。まずは、ご本人の気持ちに寄り添い、なぜ電話をかけるのかを理解することが大切です。

今回ご紹介した対策を参考に、できることから始めてみましょう。対応に困ったり、悩んだりした時は、地域包括支援センターやケアマネジャーなど、相談できる窓口があります。

専門家のアドバイスやサポートを受けながら、ご本人もご家族も共に安心できる毎日を過ごしましょう。

【執筆者】朝水 裕一

介護現場に13年間従事し、現在はケアマネジャーとして居宅介護支援事業所にて勤務。これまでにデイサービス、認知症対応型デイサービス、グループホームで施設管理者としての経験をもつ。豊富な現場経験と専門知識を活かし、介護・福祉に関する情報をわかりやすく発信。
(保有資格:介護福祉士、ケアマネジャー、認知症ケア専門士、第1種衛生管理者)

(参考文献)

1, 独立行政法人国民生活センター:家族や周囲の“見守り”と“気づき”が大切. 2014.
[https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20140911_1.pdf](最終閲覧日:2025年5月8日)

2, 独立行政法人国民生活センター:高齢者の消費者被害.
[https://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/koureisha.html](最終閲覧日:2025年5月8日)

3, 厚生労働省:政策レポート. 認知症を理解する.
[https://www.mhlw.go.jp/seisaku/19.html](最終閲覧日:2025年5月8日)

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