しっかり寝たのに疲れが取れない、最近イライラしやすい、原因不明の体調不良が続いている。
このような身体の不調には、ホルモンが関係しているかもしれません。
ホルモンは私たちの心身の調子を左右する重要な物質で、年齢や生活習慣によってその分泌バランスは変化します。
そして、そのホルモンのコントロールには、実は脳が重要な役割を果たしています。
この記事では、脳とホルモンの関係や主な働き、ホルモンバランスが乱れる原因と整え方などを解説します。
ご自身の身体と向き合うヒントを、一緒に見つけていきましょう。
ホルモンとは
ホルモンとは、体内の特定の組織、主に内分泌腺と呼ばれる臓器で作られ、血液中に分泌されて全身を巡り、離れた標的細胞に情報を伝える物質の総称です1。
私たちの身体には、気温や気圧など外部環境が変化しても、体内の環境を一定に保とうとする働き(ホメオスタシス)があります2。
体温・血糖値・血圧・代謝・睡眠・生殖機能など、日々の体調に直結するさまざまな機能が、ホルモンによって調節されています。
ホルモンが分泌される器官
ホルモンを分泌する器官を内分泌器官(ないぶんぴつきかん)といいます1。
主な内分泌器官には、次のようなものがあります3。
- ・視床下部(ししょうかぶ、脳内の領域)
・甲状腺
・副腎(ふくじん)
・膵臓(すいぞう)
・生殖器(卵巣・精巣)
(文献2,3を参考に編集部作成)
これらの臓器でつくられたホルモンは血流に放出され、全身の標的器官(作用する場所)へと運ばれて作用します。
ホルモンの働き
それぞれのホルモンは、決まった臓器や細胞にだけ届いて作用する仕組みになっており、細胞の働きを変えることで身体の状態を調整します2。
身体の成長や発達、代謝の調節、体液、電解質バランスの維持、ストレスへの対応、生殖や妊娠の維持など、生命活動に広く関与しています。
例えばインスリンは筋肉や脂肪の細胞に糖を取り込ませて血糖値を下げ、甲状腺ホルモンは全身の細胞の代謝を活発にしてエネルギー産生を促します2。
それぞれのホルモンが異なる役割を担いながら、互いに連携して体内環境を安定に保っています。
また、ホルモンは非常に少ない量で、私たちの身体に作用します。
例えば、50mプールいっぱいの水に、スプーン一杯程度のホルモンが混ざるだけで変化をもたらすといわれています3。
ホルモンバランスが少し変化するだけでも、心身の調子が変化するのはこのためです。
ホルモンと脳の関係
脳はホルモン分泌の司令塔として中心的な役割を担います。
脳がホルモンの分泌を調整する仕組み
脳の視床下部という部位は、自律神経系の中枢であると同時にホルモンを産生する内分泌臓器でもあります。
体内環境やストレスなどの情報を受け取って下垂体(かすいたい)と呼ばれる領域へホルモン分泌を指令します2。
指令を受けた下垂体は、甲状腺や副腎などの内分泌器官へ、ホルモンを分泌するように働きかけ、それぞれの内分泌器官から必要なホルモンが分泌されるのです2。
内分泌器官から分泌されたホルモンが一定の量に達すると、その情報が視床下部や下垂体へ伝わり、分泌を促す指令が抑えられます2。
(文献2を参考に編集部作成)
このように脳はホルモンのバランスを精密に保つように機能しています。しかし、慢性的なストレスや疲労が加わると、その調節が乱れることがあります。
ホルモンと神経伝達物質の違い
ホルモンと神経伝達物質は、どちらも脳や体内で情報を伝える働きをしますが、伝達の仕方やスピードに違いがあります。その違いを見てみましょう。
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物質 |
特徴 |
|---|---|
|
ホルモン |
・内分泌器官(甲状腺・膵臓・副腎など)でつくられる4 ・主に血液を介して、全身の臓器や細胞へ情報を伝える4 ・神経伝達と比べると、情報は緩やかに伝わる4 |
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神経伝達物質 |
・神経細胞から出される4 ・すぐ近くの神経細胞同士で情報を伝える4 ・電気信号によって伝達されるため、情報が瞬時に伝わる4 |
(文献4を参考に編集部作成)
神経伝達物質(神経系)が電気信号ですばやく情報を伝えるのに対し、ホルモンは血液を通じてゆっくりと広い範囲に長く働きかけます2。
- ・神経伝達物質:痛みを和らげたり、危険から身を守る際など瞬間的な反応に影響
・ホルモン:身体の成長や、血糖値や月経周期のコントロールなどの身体機能に影響
一部の物質はホルモンと神経伝達物質の両方の側面をもつことがあります。
例えばドーパミンは脳内では快感や意欲に関わる神経伝達物質として働きますが、下垂体においては乳汁分泌を抑制するホルモンとしても機能します2,5。
また一般的にホルモンと認識されているセロトニンやエンドルフィンは、正確には神経伝達物質や神経ペプチドに分類されます6,7。
脳から分泌されるホルモンの種類と働き
脳からも複数のホルモンが分泌されており、睡眠・成長・授乳・水分バランスなど、私たちの日常に深く関わる働きを担っています。主なものを以下にまとめます。
臓器から分泌されるホルモンの種類と働き
脳以外の内分泌器官から分泌される主なホルモンと、その働きについて順に見ていきます。
甲状腺でつくられるホルモン
甲状腺は、のどぼとけの下にある、蝶のような形をした臓器です。
甲状腺ホルモンといわれる、成長や代謝に関わるホルモンをつくっています。
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ホルモン |
主な働き |
|---|---|
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甲状腺ホルモン |
・全身の細胞の代謝を活発にする2 ・体温、心拍数、基礎代謝量を調節する2 ・子どもの脳の発達や身体の成長を促す2 |
(文献2を参考に編集部作成)
副腎でつくられるホルモン
副腎は左右の腎臓の上に位置する小さな臓器で、外側の皮質と内側の髄質に分かれています。
皮質でコルチゾールとアルドステロン、髄質でノルアドレナリンとアドレナリンがつくられます22。
膵臓でつくられるホルモン
膵臓は、胃の裏側にある細長い臓器です。
食べ物を消化する膵液(すいえき)を分泌する組織であると同時に、血糖値を調節するホルモンを産生する内分泌腺でもあります。
膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる細胞でホルモンをつくり、血液中のブドウ糖の濃度に応じて血糖値を一定の値に保ちます。
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ホルモン |
主な働き |
|---|---|
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インスリン |
・血糖値を下げる2 ・糖を細胞内に取り込み、エネルギーとして蓄える2 |
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グルカゴン |
・血糖値を上げる2 ・肝臓に蓄えられたエネルギーを血液中に放出する2 |
(※文献2を参考に編集部作成)
卵巣でつくられるホルモン(女性)
卵巣は子宮の左右にある女性特有の器官で、月経・妊娠・出産など女性のライフステージ全般に関わるホルモンを分泌します。
精巣でつくられるホルモン(男性)
精巣は男性の生殖腺で、精子をつくるとともに男性ホルモンを分泌します。
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ホルモン |
主な働き |
|---|---|
|
・男性の第二次性徴をもたらす(筋肉量を増やす、骨を太くする)2 ・筋肉量・骨量を維持する2 ・精子の産生と性機能を維持する2 |
(文献2を参考に編集部作成)
ホルモンバランスが乱れる原因と整えるポイント
ホルモンの分泌は、睡眠や食事、ストレス、年齢などの影響を受けることがあります12,13,14,15。
ホルモンバランスが乱れると、身体にどのような影響があるか、ホルモンバランスを整えるポイントと一緒に見ていきましょう。
質の良い睡眠をとる
睡眠不足や昼夜逆転の生活が続くと、体内時計が乱れ、ホルモンの分泌リズムに異常が生じ、心身の不調を招くことがあります。
睡眠時間は、脳の働きやホルモンバランスを整えるために大切な時間です16。
慢性的な睡眠不足は、食欲を抑えるレプチンというホルモンを低下させる一方、食欲を増進させるグレリンというホルモンを増加させ、空腹感が強まって体重が増えやすくなることが分かっています12。
また、睡眠中の深い眠り(徐波睡眠)のときに成長ホルモンが分泌されており、睡眠不足が続くとその分泌量が大幅に減少することが報告されています12。
さらに睡眠不足は夜間のコルチゾール濃度の上昇をもたらすことがあり12、ホルモンバランスの乱れにつながるおそれがあります。
睡眠の質を高めるために大切なホルモンが、メラトニンです。メラトニンは、夜になると眠くなり、朝になると自然に目が覚めるといった体内時計の調整に関わっています17。
メラトニンの分泌には、光が関わっているといわれています17。寝る前のスマホを控えたり部屋を暗くしたりして、メラトニンが分泌されやすい環境を整えることが、睡眠の質を保つうえで大切です。
ストレスを和らげる
精神的、身体的ストレスはホルモンバランスの乱れに直結します。身体が強いストレスを感じると、交感神経が刺激されてアドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、身体は緊張状態になります2。
ストレスにさらされる状態が慢性的に続くと、心身の不調を引き起こすこともあります13。
ストレスを完全になくすことは難しいですが、ストレスの原因から離れる、ストレスをため込まないようにするなどが大切です。
適度な休養や趣味の時間を確保したり、深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を取り入れたりするなど、自分なりのストレス解消法を持ち、意識して身体を休める時間を設けることが、心身を守るうえで重要です。
睡眠、運動、栄養など他の生活習慣の改善がストレス耐性を高めることにもつながります。
栄養バランスを整える
食生活もホルモンの合成と分泌に深く関わっています。
ホルモンの材料はタンパク質やコレステロール由来の脂質など多岐にわたるため2、極端な食事制限や偏った栄養摂取はホルモンバランスの乱れにつながる可能性があります。
良質なタンパク質(肉、魚、豆類など)を十分に摂ってホルモンの原料を確保し、必須脂肪酸や亜鉛、マグネシウム、ビタミンB群などホルモン代謝に必要な栄養素も偏りなく摂ることが大切です。
過度な糖質摂取はインスリン分泌を乱してメタボリックシンドロームにつながるため、野菜や食物繊維もしっかり摂りながら栄養バランスの取れた食生活を維持することがホルモン系の健康を守るうえで重要です。
適度な運動習慣をつける
定期的な運動はホルモンバランスの維持、改善に多くのメリットがあります。
定期的な運動は骨格筋での糖の取り込みを増やし、血糖コントロールの維持に役立つことが示されています18。
加齢によるホルモン機能低下を緩和する可能性についても報告があり、適度な運動習慣をもつ人では内分泌系がより良好に保たれるという研究もあります19。
さらに運動にはストレス解消効果があり、運動中や運動後にはストレスホルモンの過剰が抑えられ、副交感神経の活動が高まります20。
運動習慣がない人は、まずはウォーキングやストレッチなど、軽いものから始めるのがおすすめです。
短い距離を歩く、階段を使うなど、日常のなかに無理なく取り入れていくことが継続に向けての第一歩になります。
年齢によるホルモンバランスの変化を知る
年齢を重ねると、ホルモンの分泌量は少しずつ変化していきます。
女性では閉経前後で卵巣機能が衰え、エストロゲンが大幅に減少します21。ほてりや発汗、不眠、情緒不安定といった更年期症状が起こりやすくなりますが、閉経はほとんどの女性に訪れる自然なライフイベントです21。
ホルモン補充療法や生活習慣の改善で症状を和らげることができます21。
男性も加齢とともにテストステロン値が緩やかに低下し、筋力低下や活力減退などが現れることがあります。これを男性更年期と呼ぶこともあります14。
運動や適切な栄養摂取で筋肉量を維持したり、ストレスを減らして十分な睡眠を取ることで影響を緩和することが可能です。
年齢ごとのホルモン変化を知り、前もって備えることが健康を維持していくうえで大切です。
依存症にはホルモンが関わっていることもある
アルコールなどの依存性のある物質は、脳の報酬回路にあるドーパミンの放出を促し、快感や喜びをもたらします22。
しかし同じ刺激を繰り返すうちに、脳はドーパミンへの反応を徐々に弱めていきます22。その結果、以前と同じ刺激では満足感を得にくくなり、より強い刺激を求めるようになります22。さらに慢性的な暴露が続くと、刺激がないときに不快感や落ち込みが生じやすくなり、それを和らげようとして行為を繰り返すという悪循環に陥ることがあります22。
自分では気づきにくい場合や、ひとりでは回復が難しい場合もあるため、日常生活に支障が出ているときは専門家への相談を検討するようにしましょう。
ホルモンに関するよくある疑問
ここでは、ホルモンに関する興味深い話題について紹介します。
ホルモンバランスが乱れているサインは?
ホルモンバランスが乱れた場合、身体に起こる症状としては次のようなものがあります2, 21。
- ・疲れが取れない
・落ち込みやすい
・イライラしやすい
・寝つけない
など
女性では月経不順やほてり、発汗、男性では筋力の低下や意欲の減退など、加齢に伴う生殖ホルモンの変化が背景にあることもあります 14, 21。
治療が必要なケースもあるため、症状が続く場合は、医療機関への相談を検討しましょう。
幸せホルモンとは?
セロトニン、オキシトシン、ドーパミン、エンドルフィンの4つは幸せホルモンと呼ばれることがあります。
私たちが幸せや心地よさを感じる場面に、これらのホルモンや神経伝達物質が関係しているためです23。
例えば、マラソンなどで気分が高まるランナーズ・ハイの状態にはエンドルフィンをはじめとする脳内物質が関与するといわれています24。
また、マッサージなどで心地よさを感じたとき、オキシトシンが増加したという研究結果もあります25。
まとめ:脳はホルモンバランスの司令塔!十分な栄養と睡眠をとり健康的な生活を送ろう
ホルモンは全身の内分泌器官でつくられ、睡眠、代謝、感情、生殖など私たちの心と身体の機能を調整する物質です。
疲れやすさや気分の波、眠りの浅さといった日々の変化も、ホルモンのバランスと深く関わっていることがあります。睡眠や食事、運動、ストレスへの向き合い方を少し見直すことで、そのような不調が改善するかもしれません。
毎日のお酒を控えてみる、タンパク質を意識して食べる、週に数回歩く時間をつくるなど、今の生活に無理なく加えられることから試してみませんか。



