「愛情ホルモン」や「幸せホルモン」でも知られているオキシトシン。実はさまざまな働きをもつホルモンで、心身に影響を与えています。
子宮収縮や母乳分泌、不安軽減、信頼関係の形成、鎮痛作用、記憶に関わる働きなど、多岐にわたって活躍するホルモンです。
本記事では、オキシトシンの役割や分泌のメカニズム、不足・過剰時のリスクを中心に、ホルモンを増やす・バランスを整えるポイントについて解説します。
オキシトシンとは
オキシトシンは、脳の視床下部で作られる9つのアミノ酸からできた物質です。
20世紀の始めに「出産のときの子宮の収縮」や「母乳を押し出す働き(射乳)」を起こすことが発見され、主に女性に関係するホルモンとして長い間研究されてきました。
最近の研究では、視床下部のオキシトシンを出す神経細胞が、脳や脊髄のほかの部分にもつながっており、オキシトシンが「神経伝達物質」としても働くことがわかってきました。
この働きにより、痛みをやわらげたり、不安を軽くしたり、他の人への共感や信頼感を高めたりすることにも関わっていると考えられています1。
オキシトシン分泌のメカニズム
オキシトシンは、脳にある視床下部の中の室傍核(しつぼうかく)と視索上核(しさくじょうかく)と呼ばれる部分で作られます。視床下部は、体温や食欲、ホルモンバランスなどに関わる身体の司令塔とも言える部分です。
オキシトシンを作り出す細胞は脳内のさまざまな場所や脊髄に神経を伸ばし、その先端からオキシトシンが分泌されます。
さらに、オキシトシンを作り出す細胞そのものからも直接分泌され、周囲に作用する働きがあることもわかりました1。
その他、子宮、胎盤、羊膜、黄体、精巣、心臓、骨芽細胞などの組織でも作られています2。
また、次のような感覚刺激がオキシトシンの分泌を促進し、心の安らぎや結びつきを感じるきっかけになると知られています。
- ・出産時の子宮収縮
・授乳時の乳児との触れ合い・視線・泣き声
・マッサージ・抱擁などの軽い皮膚刺激
分泌のきっかけとして女性の身体に関わる刺激がよく知られていますが、オキシトシンによる心身への影響は男女関係なく、年をとっても変わらないと考えられています1。
一方、ストレスや人とのつながりが少ない環境がオキシトシンの分泌量を減らすことも報告されており、心身の健康に大切なホルモンだと言えるでしょう3,4。
オキシトシンの主な役割
オキシトシンは、子宮収縮や母乳の分泌などの女性の身体に関わる仕組みが知られていますが、パートナー間の愛着形成、ストレス軽減、痛みの緩和、認知機能の向上など、さまざまな役割を持っています。
ここではオキシトシンの主な働きについてみていきましょう。
子宮収縮・分娩進行
オキシトシンは、出産時の子宮収縮を促す重要なホルモンです。陣痛が始まると子宮内で産生され、子宮の筋肉がオキシトシンに反応して収縮し、分娩が進みます。
出産中も子宮内で産生されており、赤ちゃんが出てきた後も子宮を元に戻して出血を防ぎ、自然な出産を支える働きを持っています5。
母乳の分泌
オキシトシンは、授乳中に母乳の分泌を促す役割を持ちます。赤ちゃんが乳首を吸う刺激が脳に伝わると、視床下部から脳下垂体後葉へ信号が送られ、オキシトシンが分泌されます。
オキシトシンの作用で乳腺の周りにある収縮筋が収縮し、母乳が乳管へ押し出されて、体外に分泌されます。これは「射乳反射」と呼ばれており、スムーズな授乳のために大切な働きです5。
母性や信頼関係の形成
オキシトシンは、赤ちゃんへの愛情やお世話する気持ち(母性行動)を強めるために働くホルモンでもあります。
お母さんを対象とした研究で、出産・授乳時をはじめ、 赤ちゃんと見つめ合う時の視覚刺激、赤ちゃんの匂いによる嗅覚刺激、泣き声による聴覚刺激によってもオキシトシンの分泌が促進されることがわかりました1。
また、赤ちゃんだけでなく、他者への信頼感や共感を高め、対人関係をスムーズにし、社会的つながりを持つように働きます1。
不安・ストレスの軽減
オキシトシンは、脳内で不安やストレスを和らげる神経伝達物質として働きます1。
脳にある扁桃体や海馬などの不安を感じる部分を抑制し、心を落ち着かせる可能性が示されました6。
マッサージなどでリラックスした経験はないでしょうか。心地よい刺激がオキシトシンの分泌に関わっており、心の反応も引き起こすために安らぎを感じられるのです1。
鎮痛作用
オキシトシンは鎮痛作用を持ち、複数の仕組みによって身体全体で痛みを感じにくくするとされています。
脊髄で痛みの信号を直接抑えたり、痛み信号が脊髄から伝わりにくくするほか、脳から身体のすみずみまでに「痛みを抑える」という指令を送る経路が働くことも示唆されています7。
さらに、前述の不安・ストレスの軽減効果も痛みを抑える可能性があり8、多方面から痛みの軽減に役立つと考えられます。
記憶・学習
オキシトシンは、記憶や学習にも間接的に関わっています。
マウスを使った実験では、オキシトシンが扁桃体に働くことで、神経回路が活発になり、社会的記憶(相手を認識して見分ける力)を形成することが示されました9。
最近は、オキシトシンが記憶力などの脳の働きを高めることも発見されました。将来、認知症の治療法の開発につながることも期待されます10。
オキシトシンが不足・分泌量が減る原因と影響
病気やストレス、加齢などの複数の要因により、オキシトシンの分泌量は低下すると考えられています。オキシトシンの分泌量が低下すると、以下のような影響を与える可能性があります。
不安・気分の落ち込み
脳内でオキシトシンの分泌が低下すると、不安やストレスを和らげる効果が得にくくなり1、不安・うつ症状が強まりやすいとされています。
オキシトシン欠乏が疑われる患者を対象にした研究で、オキシトシン濃度が低いほど抑うつ・不安症状が強く人間関係の感情処理が上手くいかないことが示されました11。
このことから、心の不調にオキシトシンの低下が関わっている可能性が考えられています。
攻撃性の増加
オキシトシンの分泌が不足すると、衝動的な怒りや攻撃行動が出やすくなると考えられています。
いくつかの動物実験やヒトを対象にした研究で、オキシトシンが少ないと攻撃的な行動が増えることがわかっています12。
特に、自分が所属しているグループ内では協力的になる一方で、他のグループには偏見を持ち、結果的に攻撃的な態度が増す効果が強いことが示されました13。
肥満のリスク
人は、高カロリー食品の写真を見ると、脳の「食べたい」と感じる部分(報酬系領域)と食欲を調整する視床下部が活発になります。
オキシトシンには、この働きを抑制してカロリー摂取を減らす作用があることが確認されています11。
オキシトシンのこれらの働きは、肥満や過食症の新しい治療薬になる可能性があると期待されていますが、一方でオキシトシンが不足すると、脳で食欲をコントロールする働きが弱くなり、肥満や脂質異常のリスクが高まると考えられます。
摂食障害
オキシトシン不足だと拒食症などの摂食障害が起きやすくなり、極端な食生活や感情の乱れ、人間関係などの社会的な困難さをもたらすことが示唆されています。
拒食症の女性では脳脊髄液や血中のオキシトシンが低く、過食症では正常ですが、治療でオキシトシンを与えると食べ過ぎを抑えられることが示されました。
また、オキシトシンが低いと不安が増加し、摂食障害の回復を邪魔することも知られています14。
骨密度低下
オキシトシンは骨を強くする働きがあり、不足すると骨密度が低下しやすくなります。
オキシトシンには、骨芽細胞と破骨細胞に作用し、骨形成を促進し、骨吸収(破骨細胞による骨の分解)を抑制する働きがあります。また、エストロゲンが骨でオキシトシンの分泌を促すことでも、骨の形成が活性化します。
そのため、オキシトシンの不足は骨の形成や骨密度の維持に悪影響を及ぼします2。
筋肉の老化
オキシトシンは、筋肉を維持したり、傷ついた筋肉を修復・再生させる働きに必要なホルモンであることが報告されています。
血中のオキシトシン濃度の低下は、加齢とも相関があることも示されており、加齢による筋力の衰えにはオキシトシンが関わっていることもわかっています15。
オキシトシンが過剰に分泌された場合のリスク・悪影響
ポジティブな働きをたくさん持つオキシトシンですが、病気や治療の影響で過剰に分泌されると悪影響を及ぼす可能性があります。
攻撃性・嫉妬心の増加
オキシトシンが過剰になると、その時の状況や気質次第で攻撃性や、負の感情を高めたりする可能性があります16,17。
お金が関わるゲームを使った実験では、オキシトシンを吸入したグループでは、自分よりも他人が得をしたときの妬みの感情や、相手が損をしたときの優越感が高まりました。
この実験からは、オキシトシンの量が増えると、他人の成功に強い嫉妬を感じたり、自分が成功した時に相手の失敗を喜ぶといった、負の感情が強くなることが示されました17。
倫理観の低下・身内びいき
オキシトシンは信頼関係を築く上で大切なホルモンですが、分泌量が高まると、仲間・身内のために不誠実な行動が増える可能性が指摘されています。
オキシトシンと不誠実さに関する実験では、オキシトシンを投与した人は、自分が所属するグループが得をするための嘘の回数が増加しました18。一方で、自分だけが得をする状況では嘘の回数に変化はありませんでした。
このことから、オキシトシンは組織ぐるみの不正やモラルの低下にも影響していると考えられています。
トラウマ・嫌な思い出の強化
オキシトシンは、不安やストレスを和らげる働きに注目がされているホルモンですが、トラウマやネガティブな出来事を記憶に定着させる可能性も指摘されています。
若い女性を対象にした研究では、トラウマ(心理的負担のある映像の視聴)体験中に外からオキシトシンを増やすと、嫌な記憶がよみがえる回数が増えることが確認されました。
この研究からは、オキシトシンは幸福をもたらすだけではなく、ストレス体験やネガティブな出来事を記憶に残す負の側面があることが示されました19。
オキシトシンは状況により、プラスにもマイナスにも働く可能性を持っているのです。
オキシトシン分泌の増やし方・ホルモンバランスを整えるポイント
オキシトシンは、心身が「心地よい」と感じる刺激で分泌が促されるホルモンです。
ここからは、オキシトシンを増やしたり、バランスを整えるためのポイントをご紹介します。
スキンシップ
スキンシップは、オキシトシンを増やすために有効な方法です。
ハグやマッサージのような触れ合いは、皮膚の感覚を刺激して視床下部からオキシトシンを放出し、不安を和らげることが示されています。
また、母親を対象にした研究では、授乳時や赤ちゃんの匂い・泣き声によってオキシトシンの分泌が促進されることが示されました1。
「愛情ホルモン」と言われるとおり、愛情を感じる刺激がオキシトシンの分泌を促します。
心地よい刺激
身体や感覚への心地よい刺激はオキシトシンを増やし、心のバランスを整えます。
マッサージなどの物理的刺激や、アロマなどの嗅覚刺激、ゆっくりした音楽などの聴覚刺激、マインドフルネスによる瞑想などの心理的刺激といった心地よい刺激を受けると、脳内のオキシトシン分泌が促され、リラックス効果があると示されました20。
日々の生活にアロマや音楽を取り入れることで、よりリラックスできる環境をつくれるでしょう。
ジェスチャーを取り入れたコミュニケーション
人との交流、特に動きを合わせる「同期交流」は、オキシトシンを効果的に増やすことがわかっています。
ある実験では、手のジェスチャーを真似し合った後は、真似する側もされる側もオキシトシンが増加したことが示されました21。
日常的な会話などの間にも取り入れやすい方法なので、試してみてくださいね。
心温まる物語・感動体験
他の人の良い行いを見て心が温まる「道徳的高揚」を感じると、オキシトシンの分泌量が増えることが示唆されています。
授乳中の女性において、道徳的高揚を促す動画(思いやりや善行を描いた映像)を見た女性は、同じくらい楽しめるコメディ動画を見た女性と比べて乳児に授乳する傾向が高く、抱きしめる傾向もわずかに高かった、という報告があります22。
心温まる物語や人の思いやりといった、感動的なエピソードに触れることで、幸福感を高めることができるかもしれませんね。
オキシトシンに関するよくある疑問
オキシトシンに関して、よくある疑問と答えをご紹介します。
オキシトシンの別名は?
オキシトシンは、不安やストレスを軽減する働きを持つため、「愛情ホルモン」、「幸せホルモン」、「絆ホルモン」などと呼ばれることがあります。
「幸せホルモン」には、オキシトシンの他にも次のようなホルモンがあります。
- ・エンドルフィン
・ドーパミン
・セロトニン
オキシトシンの分泌を促す食べ物やサプリメントはある?
今のところ、オキシトシンの分泌を促す食べ物や栄養素として科学的な根拠が実証されたものはありません。
オキシトシンの分泌促進には、特定の食べ物や栄養素よりもマッサージやハグなどのスキンシップ、コミュニケーションによる人とのつながりが効果的です。
オキシトシンの分泌や働きに男女差はある?
オキシトシンは男女ともに分泌され、基本的な働きは同じです。
オキシトシン濃度の男女差に関する報告は、どちらか一方が高いというものもあれば、差がないというものもあり一貫していません23。
母乳の分泌にかかわることから、女性特有のホルモンというイメージがあるかもしれませんが、不安やストレスの軽減など、幸福感に関する働きは男女ともに同じと考えられます。
まとめ:オキシトシンは信頼関係の形成や心身の健康維持にも重要!
オキシトシンの多様な働きや分泌のメカニズムについてご紹介しました。
オキシトシンは脳の視床下部で合成され、心身が心地よい刺激を受けると分泌が促進されるホルモンです。
投薬や病気などによって過不足が生じると、うつや攻撃性の増加などの精神的な面、肥満や骨粗しょう症などの身体的な面、どちらにも影響を与える可能性があります。
スキンシップや人との交流などを行い、オキシトシンを分泌させて心身の健康を保ちましょう。


