2024年1月1日に施行された認知症基本法にもとづき、2024年12月に認知症施策推進基本計画(以下、基本計画)が閣議決定されました1。
この基本計画では、認知症の当事者の目線に立った基本的施策が制定されています。そのなかでも「新しい認知症観」を強調しているのが印象的です。
本記事では、この「新しい認知症観」について解説します。
「新しい認知症観」とは
「新しい認知症観」とは、「認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人一人が個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という考え方のことです。
基本計画において、認知症の当事者を含めた国民一人一人がこの「新しい認知症観」に立ち、認知症の当事者が自らの意思によって、多様な主体とともに日常生活および社会生活を営むことができる共生社会を創り上げていく必要があると記されています。
「新しい認知症観」に関する基本的施策
この「新しい認知症観」の普及を促進するために、基本計画には例えば以下のような施策が定められています。
学校教育における認知症に関する知識および当事者に関する理解を深める教育の推進
子どもや学生、その他の学校関係者が地域の認知症の当事者と関わることで「新しい認知症観」の理解を深められるよう、認知症サポーター養成講座や認知症に関する地域密着型の継続的な教育・交流活動が実施されます。
また、これらの活動において認知症の当事者の参画を得ながら、都道府県や大学等の機関への働きかけが行われていきます。
社会教育における認知症に関する知識および当事者に関する理解を深める教育の推進
行政職員や日常生活・社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者の従事者などに対しても、認知症の当事者の参画も得ながら認知症サポーターの養成が推進されます。
また、認知症の当事者の声を聴くことによって「新しい認知症観」や基本法など認知症およびMCI(軽度認知障害)に関する知識ならびに認知症の当事者に関する理解を深める活動も行われていきますし、地域の実情に応じて、実際に認知症サポーターが認知症の当事者やご家族などの手助けとなる活動につながる環境の整備が行われます。
保健医療福祉の専門職に対する養成
保健・医療・福祉の専門職に対しては、認知症に関する新しい知見の提供や、認知症の当事者への理解や認知症基本法の理解の促進など、「新しい認知症観」を踏まえた認知症対応力向上のための研修が行われます。
意思決定支援に関する専門職向けのリーフレットを作成し、それを活用した普及啓発が推進されます。
認知症の当事者に関する理解を深めるための発信
認知症基本法のわかりやすい啓発資材を作成して普及させるとともに、認知症の当事者による発信の支援を推進します。認知症の日(9月21 日)、認知症月間(9月)の機会を捉えて認知症に関する普及啓発イベントが全国で実施されます。
認知症の当事者が自らの言葉で語り、認知症になってからも希望を持って前を向いて暮らすことができている姿などを積極的に発信することができるよう、「認知症希望大使」の活動支援が行われていきます。
国民一人一人が「新しい認知症観」を理解していることを目指す
基本計画では、国民一人一人が「新しい認知症観」を理解していることを、第1期の基本計画(2024年 12 月〜2029年度までのおおむね5年間)における重点目標の1つとして設定しています。
・認知症希望大使等の本人発信等の取組を行っている地方公共団体の数
・認知症や認知症の人に関する国民の基本的な知識の理解度
・国民における「新しい認知症観」の理解とそれに基づく振る舞いの状況
などが、この目標の達成に向けた指標として設定されています。
重点目標に関しては、他の記事で詳しく紹介します。
まとめ|認知症施策推進基本計画における「新しい認知症観」とは?わかりやすく解説します
2024年12月に閣議決定された認知症施策推進基本計画で記された「新しい認知症観」は、認知症の当事者を支援すべき対象としてではなく、個人として尊重し、自分らしく生きられる共生社会を目指す考え方です。
認知症になると何もわからなくなるといった古い認知症観から脱却し、この「新しい認知症観」を普及させるため、学校教育や社会教育における理解促進、認知症の当事者による発信支援など、さまざまな施策が計画されています。