認知症高齢者の日常生活自立度とは?
要介護認定にあたっては、調査員が自宅を訪問し認定調査を行います。認定調査では、身体機能や生活機能、社会生活への適応状況などに加え、認知症が日常生活にどの程度の影響を及ぼしているかも確認します。そのときに調査員が用いているのが「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」です。本記事では、日常生活自立度の意味や内容、要介護度との関係などについて解説します。
日常生活自立度とは
日常生活自立度とは、要介護度を決める際に考慮にする指標の1つです。「障害高齢者の日常生活自立度」と「認知症高齢者の日常生活自立度」の2種類があります1、2。
障害高齢者の日常生活自立度は、歩行が可能か、車いすが必要か、寝たきりかどうかなど、主に「移動」に関する状態像の指標です。「寝たきり度」とも呼ばれ、ランク「J」「A」「B」「C」の4段階で評価します。それぞれの移動能力は自立度が最も高い「J」は一人で外出することも可能なレベル、最も低い「C」は重度の寝たきり状態で全面的な介護を要する状態です1。
認知症高齢者の日常生活自立度は、意思疎通の程度、生じている症状や行動などに基づく、生活の自立度に関する指標です。ランク「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」「Ⅳ」「M」の5段階で評価します。自立度が最も高い「Ⅰ」はほぼ自立した生活が可能、最も低い「Ⅳ」は常に介護が必要で、「M」は重度の精神症状や行動障害がみられ専門的な医療を要する状態です2。
要介護認定と日常生活自立度
介護保険の利用を申請すると、要介護認定が行われます。まず市区町村の認定調査員が申請者の自宅を訪問し、本人や家族に聞き取りを行い、心身の状態や日常生活の状況などを細かく確認します。
このときに日常生活自立度も判定します。短時間で客観的な評価ができるよう後述の判定基準が作成されており、これに基づいて判定を行います。
なお、認知症高齢者の日常生活自立度に関しては、認知症が進行性の疾患であることから、要介護認定後も一定期間後に再度判定を行い、必要に応じて要介護度を見直します。
認知症高齢者の日常生活自立度判定基準
認知症高齢者の日常生活自立度は下表の判定基準に基づいて評価します。
なお、下表に示す症状や行動がすべての認知症の人に生じるわけではありません。例示している以外の症状が出ることもあります。また、ランクMに記載されているせん妄や興奮などは、ランクⅠ~Ⅳの認知症の人にも起こりえることに留意してください。
認知症高齢者の日常生活自立度判定基準
ランク | 判定基準 | 見られる症状・行動の例 | ||
---|---|---|---|---|
Ⅰ | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。 | |||
Ⅱ | 日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。 | |||
Ⅱa | 家庭外で上記Ⅱの状態が見られる。 | たびたび道に迷うとか、買い物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等 | ||
Ⅱb | 家庭内でも上記Ⅱの状態が見られる。 | 服薬管理ができない、電話の対応や訪問者との対応などひとりで留守番ができない等 | ||
Ⅲ | 日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さがときどき見られ、介護を必要とする。 | |||
Ⅲa | 日中を中心として上記Ⅲの状態が見られる。 | 着替え、食事、排便・排尿が上手にできない・時間がかかる、やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声を上げる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為等 | ||
Ⅲb | 夜間を中心として上記Ⅲの状態が見られる。 | ランクⅢaに同じ | ||
Ⅳ | 日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。 | ランクⅢに同じ | ||
M | 著しい精神症状や周辺症状あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。 | せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等 |
平成18年4月3日 老発第 0403003号「「痴呆性老人の生活自立度判定基準」の活用についてより改変
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001hi4o-att/2r9852000001hi8n.pdf
(最終閲覧日:2022年11月10日)
ランクⅠ
認知症ではあるものの、家庭内でも社会的にも、ほぼ自立した生活が送れています。症状があってもごく軽度で、日々の生活で困る場面はほとんどない状態です。
一人暮らしが可能で、在宅生活が基本となります。身体介護や生活の支援よりも、症状の改善や認知症の進行を防ぐような関わりが重視される段階です。
ランクⅡ
日常生活に支障をきたすような症状や行動、意思疎通の問題などが出始めていますが、周囲の見守りや手助けがあれば自立した生活を送ることが可能な状態です。ただし、一人暮らしは難しいこともあります。
道に迷う、買い物でミスをするなど生活に支障をきたす症状や行動が外出時に限られる場合は「Ⅱa」、電話の応対や留守番などができないなど家庭内でも支障をきたしている場合は「Ⅱb」と判定します。
ランクⅢ
日常生活に支障をきたすような症状や行動、意思疎通の困難さがあり、介護を必要とします。一人暮らしは難しい状態で、在宅生活を続けるには夜間も含めた居宅サービスの利用が必要です。
着替えや食事など日常生活動作が難しくなるほか、たとえば徘徊や大声をあげるなどさまざまな症状、行動がみられます。これらが日中を中心にみられる場合は「Ⅲa」、夜間を中心とする場合は「Ⅲb」となります。日中と夜間で分けるのは、夜間のほうが介護者の負担が大きいからです。
ランクⅣ
ランクⅢの状態からさらに進み、常に目が離せず、常時介護を必要とする状態です。家族の介護力次第では居宅サービスを利用しながら在宅生活を続けることもできますが、難しい場合は、特別養護老人ホームなどの施設サービスを利用することになります。
ランクM
著しい精神症状や重篤な身体疾患のため、専門医療を受けなければならない状態です。せん妄や興奮など自傷・他害のおそれのある精神症状や行動障害がみられたり、重篤な身体疾患で専門医療機関での治療が必要になった場合は、それまでランクⅠやⅡだったとしてもランクMに区分されます。
日常生活自立度と要介護度の関係
認知症高齢者の日常生活自立度は要介護度を決定する際の指標の1つです。そして、認知症高齢者と障害高齢者の日常生活自立度、この2つのランクが高くなる(状態が悪い)ほど、要介護度も高くなります。
下表をご覧ください。認知症高齢者の自立度が「Ⅱ」かつ障害高齢者の自立度が「J」の場合、要支援2および要介護1が75.7%、要介護2が11.2%となっています。一方、障害高齢者の自立度が同じ「J」であっても、認知症高齢者の自立度が「Ⅲ」の場合、要支援2および要介護1が20.9%、要介護2が44.7%です。
要介護度が1段階上下すると、介護保険で利用できるサービスの量が大きく変わることを考えても、認知症高齢者の日常生活自立度は正確に判定されることが重要といえるわけです。
日常生活自立度の組み合わせによる要介護度別分布
認知症高齢者自立度:Ⅱ
自立 | J | A | B | C | |
---|---|---|---|---|---|
非該当 | 0.8% | 0.2% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
要支援1 | 20.9% | 12.0% | 2.0% | 0.0% | 0.0% |
要支援2・要介護1 | 70.7% | 75.7% | 48.0% | 3.5% | 0.0% |
要介護2 | 7.0% | 11.2% | 37.1% | 17.2% | 0.3% |
要介護3 | 0.6% | 0.9% | 11.6% | 45.6% | 6.3% |
要介護4 | 0.1% | 0.0% | 1.2% | 29.3% | 41.7% |
要介護5 | 0.0% | 0.0% | 0.1% | 4.3% | 51.6% |
合計 | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% |
認知症高齢者自立度:Ⅲ
自立 | J | A | B | C | |
---|---|---|---|---|---|
非該当 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
要支援1 | 0.8% | 0.4% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
要支援2・要介護1 | 28.1% | 20.9% | 4.7% | 0.2% | 0.0% |
要介護2 | 41.8% | 44.7% | 27.4% | 2.7% | 0.0% |
要介護3 | 26.1% | 30.2% | 53.9% | 24.3% | 1.8% |
要介護4 | 3.0% | 3.7% | 13.0% | 56.8% | 24.5% |
要介護5 | 0.2% | 0.1% | 1.0% | 16.0% | 73.7% |
合計 | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% |
要介護認定 介護認定審査会委員テキスト 2009 改訂版 p62(図表 36)より改変
https://www.mhlw.go.jp/content/000819417.pdf
(最終閲覧日:2022年11月10日)
日常生活自立度の判定に備えて準備すること
要介護認定では、運動能力が低下していない認知症高齢者の要介護度を繰り上げる「認知症加算」という仕組みがあります。認知症高齢者の日常生活自立度は、認知症加算に該当するかどうかを判定する際の指標にもなります。
冒頭でも触れましたが、日常生活自立度を判定するのは市区町村から派遣される調査員です。そして本人や家族から聞き取った内容が重要な判定材料となります。認定調査の日程が決まりましたら、あらかじめ伝えるべき内容を整理し、メモしておくなど伝え漏れがないように準備をしておきましょう。
まとめ
認知症高齢者の日常生活自立度について解説しました。正しい要介護認定のためには、日常生活自立度の正確な判定が欠かせません。要介護認定を受けるときは、本記事で紹介した日常生活自立度判定基準を参考に、認定調査員に伝えるべきことを整理しておきましょう。
(参考文献)
1,厚生労働省 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077382.pdf(最終閲覧日:2022年11月29日)
2,平成18年4月3日 老発第 0403003号「「痴呆性老人認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」の活用について」の一部改正について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001hi4o-att/2r9852000001hi8n.pdf(最終閲覧日:2022年11月29日)