「最近、家族からテレビの音がうるさいと言われるようになった」
「なんとなく言葉が少し聞き取りにくい気がする」
このようなことがあれば、難聴の可能性があるかもしれません。特に初期の段階では、自身の感覚のみで難聴の重症度を判定することは困難です。
この記事では難聴の症状や種類、初期症状、検査・治療などについて解説します。
難聴の症状
難聴とは、音や言葉が聞き取りにくくなったり、まったく聞こえなくなったりすることを言います。難聴の程度によって症状は大きく異なります。
難聴の程度は聴力検査で区別し、dB(デシベル)という音の大きさを表す単位で表されます。一般的に25〜40dBは軽度難聴、40〜70dBは中等度難聴、70〜90dBは高度難聴、90dB以上は重度難聴と区別します1。
軽度難聴の大半の方は自覚症状はなく不自由を感じませんが、会話が聞き取りにくい、雑音がある環境では聞き取りにくい、体温計の音が聞こえない、などの症状がみられる場合があります。
中等度難聴の方は、他人に気づかれるような難聴を示します。多くの場合、少し大きな声で話しかけないと聞こえない、テレビの音量が大きいと指摘されるといった症状で気付くことがあります。中等度難聴以上では補聴器の使用を検討することもあります。
高度難聴・重度難聴の方は、耳元でかなり大きな声で話さないと聞こえないため、補聴器を使用しないと、会話を成立させるのは難しいでしょう。
難聴の種類
難聴は、障害が生じた部位、発症する時間経過によって種類があります。
外耳(外耳道、鼓膜)や中耳(耳小骨)が原因で生じる難聴を伝音難聴、内耳や神経が原因で生じる難聴を感音難聴と言い、この両者が混在している場合、混合性難聴となります2。
さらに、難聴の症状は急性難聴か慢性難聴かで診断や治療方針が大きく異なります。
上記の障害が生じた部位と経過をあわせ、急性伝音難聴・急性感音難聴・慢性伝音難聴・慢性感音難聴の4つに大きく分類できます。
急性伝音難聴
急性伝音難聴は耳垢、急性中耳炎、外傷性鼓膜穿孔などが原因になります。診察によって原因がすぐにわかることが多く、ほとんどが投薬や処置による治療で回復が望めます。意外かもしれませんが、耳垢で聞こえなくなってしまって受診されるという方も少なくありません。
急性感音難聴
急性感音難聴の代表例に突発性難聴があります。聞こえにくさは人によって異なり、低い音だけが聞こえなくなる方もいれば、まったく聞こえなくなる方もいます3。
突発性難聴の多くの方が朝目覚めたときに、前日の夜との聞こえ方の違いによって気づきます4。発症から72時間以内に症状が進行します。発症から遅くとも1週間以内の治療が重要と考えられています。
慢性伝音難聴
慢性伝音難聴には、滲出性中耳炎、慢性中耳炎や耳硬化症などがあります。
滲出性中耳炎は耳と鼻をつなぐ耳管という管の通りが悪くなることで、中耳に体液が溜まってしまう病気です。小児や高齢者で発症しやすいものの、健康な成人でも発症することがあります。
慢性中耳炎は長引く中耳炎の結果、鼓膜に穴が空いてしまった状態を指します。
耳硬化症は耳小骨のうちアブミ骨という部分が異常に固くなってしまい、音の振動が奥に伝わりにくくなる病気です。中年の女性で発症することが多く、徐々に進行していきます。いずれも投薬治療や処置・手術により難聴の改善が期待できます。
慢性感音難聴
慢性感音難聴の大半は老化による加齢性難聴です。一般的には、40歳代に高音域の聴力レベルが低下することから始まります。この時点で難聴は自覚しにくい傾向にあります。
60歳代になると軽度難聴レベルとなる音域が増え、3人に1人の方が難聴を自覚し始めます。70歳を過ぎるとほとんどの音域が軽度〜中等度難聴レベルとなり、75歳以上では2人に1人の方が難聴を自覚するといわれています2。
加齢性難聴は左右が同じように進行するのが特徴で、聴力に左右差がある場合は年齢による難聴ではなく、病的難聴の可能性があります。
難聴の前兆と初期症状
難聴の前兆と初期症状について知っておきましょう。
難聴の前兆
急性の突発性難聴では、その発症と前後して、耳閉感(耳に水などが詰まった感じ)や耳鳴り、めまい、吐き気などを伴うケースも少なくありません3。必ずしも聞き取りにくいことだけが難聴の前兆というわけではありません。
難聴の初期症状
難聴の初期症状は、急性か慢性で異なります。急性の難聴では突然耳づまり感、耳鳴り、聞こえにくくなるという症状が出現するため、自覚することが多いですが、慢性の難聴では徐々に進行するため、難聴の症状を自覚しにくいことが特徴です。
加齢性難聴のような慢性難聴の初期では、高音域の聴力のみが低下します。
「テレビの音が大きく、話しかけても返事がない」などと周りの方から指摘されたことがきっかけで難聴と判明することもあります。
他にも「レストランなど雑音がある状況で会話が聞き取りづらい」「聞こえてきた音がうるさく感じる」「耳鳴りのせいで聞き取りづらい」というような症状を感じる場合があります。
難聴の検査と治療
症状や経過をふまえて、必要な検査を行い、治療を行います。
難聴の検査方法
難聴の疑いで耳鼻咽喉科を受診すると、まずは発症のきっかけや時期、どのように進行したかなどを詳細に確認します。
次に顕微鏡や内視鏡を用いながら耳の診察が行われます。この観察により、耳垢、中耳炎といった見てわかるような難聴の原因が指摘できる場合もあります。
そして、聴力検査(標準純音聴力検査)が行われ、難聴の種類が伝音難聴なのか、感音難聴なのか、混合性難聴なのかを特定します4。
左右差や音域による差がないかなどを確認したり、脳波を利用した検査や内耳機能を評価する検査などが行われます。必要に応じてCT検査・MRI検査などの画像検査も行って、原因疾患を特定します3, 4。
難聴の治療法
外耳道炎、急性中耳炎や鼓膜穿孔、耳硬化症などの伝音難聴では、薬物療法・手術などの治療を選択します。
炎症や感染を伴うものなどでは薬物療法、鼓膜穿孔や耳硬化症などでは手術を選択します。1回の通院のみでは治らず、数カ月といった期間の通院が必要となることもあります。手術が必要な場合、その方法は疾患によって大きく異なり、局所麻酔、日帰りの手術ですぐに聴力の改善が期待できる場合や、入院・全身麻酔による手術が必要な場合があります。
突発性難聴では主に副腎皮質ステロイド薬による薬物療法が行われます。突発性難聴の場合は、少なくとも1週間以内の早めの治療介入が望まれます。1週間以内の治療開始であっても聴力が元通りになるのは約40%です3。発症から4週間以上経過してしまうと、症状の改善はほとんどみられなくなってしまいます。
加齢性難聴の根本的な治療法はありませんが、仕方ないと難聴(聴覚機能の低下)を放置すると身体的・社会的機能の低下をきたすことがあります。この状態をヒアリングフレイルといいます。会話に不自由を感じている場合、補聴器を検討しましょう。
まとめ
難聴は、音や言葉が聞き取りにくくなる状態を指します。軽度難聴では自覚しにくい場合もありますが、中等度難聴以上になると日常生活で不便を感じることが増え、補聴器の検討が必要になることもあります。
障害が生じた部位によって伝音難聴(外耳や中耳が原因)と感音難聴(内耳や神経が原因)に、発症からの時間経過によって急性難聴と慢性難聴に分けられます。
「テレビの音が大きいと家族に言われる」「騒がしい場所で会話が聞き取りにくい」といった症状は、難聴のサインかもしれません。特に、急性の難聴では突然の耳閉感や耳鳴り、めまいなどを伴うこともあります。
難聴を放置することで、身体的・社会的機能の低下を招く「ヒアリングフレイル」に繋がる可能性もありますので、これらの症状に気づいたら、早めに耳鼻咽喉科の受診を検討しましょう。