以前よりも会話が聞き取りにくくなって困っている、そのような経験はありませんか。または、会話のなかで祖父母やご両親にそのようなご様子はありませんか。
2010年の時点で、65歳以上の日本人のうち難聴の方は1,500万人以上と推計されており1、年齢を重ねると、どの方も難聴になる可能性があります。
一方で、若い方でも難聴をきたすことがあります。そして難聴を放置してしまうと、身体的・社会的機能の低下や認知症のリスクへと繋がることがあります。
この記事では難聴の概要、原因、難聴がもたらす影響、そして治療法について解説します。
難聴とは?
難聴とは、音や言葉が聞き取りにくくなったり、まったく聞こえなくなったりする状態を指します。
耳には、外耳と中耳という音を伝える役割をしている部位や、内耳という音を感じて脳に伝える役割をする部位があります。難聴はこれらのどこかが障害されることで起こります2。
難聴の重症度は、聴力検査により音の大きさを表すdB(デシベル)で評価されます。難聴の重症度分類は以下の通りです。
程度 |
平均聴力レベル
|
聞こえの状態 |
---|---|---|
軽度 |
25dB以上~40dB未満 |
・小さな声や騒音下で会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する ・聞き取り改善の目的で、補聴器の適応となることもある |
中等度難聴 |
40dB以上~70dB未満 |
・通常の会話で聞き間違いがある、聞き取りが困難ということを自覚する ・補聴器の適応となる |
高度 |
70dB以上~90dB未満 |
・大きい声か補聴器を用いないと会話が聞こえない。しかし、聞こえても聞き取りに限界がある ・補聴器を使用しても言葉の聞き取りが難しい場合、人工内耳の装用が考慮される |
重度 |
90dB以上 |
・補聴器でも、聞き取れないことが多い ・人工内耳の装用が考慮される |
難聴のおもな原因
難聴は、その原因となる部位によって伝音難聴、感音難聴、両者が合併した混合性難聴に分類されます。難聴が生じた部位によって治療方針が異なるため、原因となる部位を知ることが大切です。
伝音難聴
伝音難聴は、外耳や中耳などの音の振動を伝える部分の障害が原因の難聴です。多くの場合は、鼓膜の診察、聴力検査、CT検査などにより原因疾患を特定することができます。
具体的には外耳道炎、耳内異物・耳あか、鼓膜損傷、中耳炎、耳硬化症などが伝音難聴の原因になります4, 5。
感音難聴
感音難聴は、内耳、神経と大脳までの音を感知する部分の障害が原因の難聴です。内耳の障害が原因になる場合が最も多いですが、以下のような原因もあげられます。
老化による難聴(加齢性難聴)
老化による難聴は加齢性難聴といいます。一般的には40歳代から始まる慢性の感音難聴です4。
40歳代では難聴を自覚する方は多くありませんが、60歳代になると軽度難聴レベルとなる音域が増え、3人に1人が難聴を自覚し始めます。
70歳を過ぎるとほとんどの音域が軽度〜中等度難聴レベルとなり、75歳以上では2人に1人の方が難聴を自覚するといわれています4。
加齢性難聴は、内耳の有毛細胞が徐々に細胞死を起こすことが原因と考えられています。
ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)
ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)は、ヘッドホンやイヤホンを使い、大きな音量で音楽などを聞き続けることで、音の振動を脳へ伝える役割をしている内耳の有毛細胞が破壊されて起こる難聴です。
少しずつ進行していくために初期段階では自覚しにくい難聴です。失った聴覚は戻らないので、大きすぎる音量で聞かない、長時間連続して聞かない、定期的に耳を休ませるなど、日頃から気をつけましょう6。
突発性難聴
突発性難聴は40~60歳代に多くみられ、重症度は人によって異なります。低い音だけが聞こえなくなる方もいれば、まったく音が聞こえなくなる方もいます。内耳の有毛細胞が傷んでしまうことが原因ですが、そのメカニズムは明らかになっていません7。
感染症や脳血管障害による感音難聴
細菌やウイルスなどの感染症によって難聴をきたすことがあります。妊娠中の梅毒や風疹が原因となり、子どもに生まれつきの感音難聴がみられることがあります。また、細菌やウイルスによる髄膜炎、麻疹(はしか)やムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)、風疹、サイトメガロウイルス、脳梗塞や脳出血なども感音難聴の原因になることがあります7〜10。
難聴と認知症の関係
近年、認知症の修正可能なリスク因子が明らかになっており、難聴は18歳〜65歳の時期のリスク因子に挙げられています11。
また、難聴により、周囲とのコミュニケーションが億劫になったり、自信が持てなくなり、社会的な孤立や認知機能の低下を引き起こし、ひいては認知症のリスクの上昇に繋がる可能性があります。
このような難聴(聴覚機能の低下)による身体的・社会的機能の低下をきたした状態を「ヒアリングフレイル」といいます。詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください。
難聴を改善するためにできることは?
難聴の対処法は原因疾患によって異なります。
耳の安静と生活習慣の改善
ヘッドホン難聴が原因の場合、内耳の有毛細胞の状態次第で、耳の安静を図ることで回復する場合があります。具体的には耳栓を使う、定期的に耳を休ませるといった対策を行うと良いでしょう6。
また、喫煙習慣は難聴のリスクになるので、禁煙することを検討しましょう12。ほかにも、飲酒の習慣に関して、飲酒者は非飲酒者よりも難聴のリスクが上がるため、難聴の予防のために飲酒量を控えることも良いかもしれません13。
薬物療法・手術
耳垢が詰まって聞こえにくい方もいるので、まず診察を受けることが重要です。
外耳道炎、急性中耳炎などは薬物療法、鼓膜穿孔や耳硬化症などでは手術が行われ、難聴自体の改善が期待できます。
突発性難聴では副腎皮質ステロイド薬による治療が行われ7、血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)やビタミンB12製剤、代謝促進薬(ATP製剤)などを使うこともあります。また、ストレスの影響が考えられるときは安静にして過ごすようにします7。
補聴器の装用
伝音難聴で、何らかの理由で薬物療法・手術が困難な場合には補聴器を装用します。小さい音は聞こえなくても、音を大きくすることにより脳に適切な信号が伝わり、コミュニケーション能力や認知能力の改善が期待できます5。
感音難聴のなかでも加齢性難聴は老化現象であるため、根本的な治療法はありません。
しかし、補聴器を使用して聞こえを補うことで、高次脳機能である実行機能の改善や生活の質の向上につながり、社会的孤立・不安の改善が得られたという報告があります14。
ヒアリングフレイルの進行を防ぐためにも補聴器の使用は重要です。
まとめ
難聴は、耳のみならず身体的・社会的機能の低下や認知症など、全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。聞こえにくいかも?と感じた際には放置せずに、まずは耳鼻咽喉科を受診し、しっかりとご自身の状況に目を向けていきましょう。