2024年1月に認知症基本法(正式名称:共生社会の実現を推進するための認知症基本法)が施行され、様々な自治体や企業において認知症に関する取り組みが盛んになり、認知症に関連する新たなサービスも誕生しています。
本記事では、認知症基本法の成立までを振り返るとともに、認知症基本法に基づいて2024年12月に閣議決定された認知症施策推進基本計画の概要を解説します。
認知症基本法の特徴
認知症のご本人が尊厳を保ちながら生活できる社会、いわゆる「共生社会」の実現を目指すことが認知症基本法の目的と言えます。
認知症基本法では「当事者の参画」が謳われているのが特徴的です。当事者が主体となって認知症施策を推進すること、例えば研究開発における当事者の参画などが挙げられています。
認知症の当事者が尊厳を保持しつつ希望をもって暮らすことができるために、認知症の当事者に対する国民の理解の増進、生活におけるバリアフリー化の推進、社会参加の機会の確保などの8つの基本的施策が制定されています。
認知症基本法により、認知症に対する意識や取り組みが変わり、さらなる当事者やご家族への支援の強化が期待されています。
認知症基本法が施行されるまでの流れ
2024年の調査では日本における認知症の当事者は約443万人、MCI(軽度認知障害)の当事者は約558万人と推計されています1。
身近な社会問題である認知症に対して、産学官そして社会全体で向き合うべく、以下のような流れで段階的に議論を経て、認知症基本法の法案が可決されました2。
年月 |
できごと |
2019年6月 |
政府が認知症施策推進大綱を策定 |
2021年6月 |
「共生社会の実現に向けた認知症施策推進議員連盟」発足 |
2023年5月 |
議連総会で法案が了承され国会へ提出 |
2023年6月 |
「共生社会の実現を推進するための認知症基本法案」が可決・成立 |
2024年1月 |
「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行 |
認知症施策推進基本計画とは
認知症施策推進基本計画(以下、基本計画)は、2024年12月に閣議決定され、政府の認知症施策で最も基本的な計画として位置付けられます3。
第1期の計画期間は2024年12月から2029年度までで、おおむね5年ごとに見直されます。
この基本計画は認知症基本法の基本理念にもとづき、「新しい認知症観」※に立った取り組みを推進し、周囲の方などの誤解により当事者の意思が十分に尊重されず、地域で孤立しがちな現状の改善につなげることが狙いです。
※新しい認知症観:認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人一人が個人としてできること・ やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという考え方。
基本計画では共生社会の実現に向け、下記の4つの重点目標が掲げられています。
・国民一人一人が「新しい認知症観」を理解していること
・認知症の当事者の生活において、その意思等が尊重されていること
・認知症の当事者やご家族等が他の人々と支え合いながら、地域で安心して暮らすことができること
・国民が認知症に関する新たな知見や技術を活用できること
当事者の視点に立った基本的な施策
認知症の当事者やご家族等の参画・対話をもとに、地域住民、教育関係者、企業等地域の多様な主体が「新しい認知症観」に立ち、それぞれ自分ごととして、連携・協働して施策に取り組むことが期待されています。
例えば、誰でも科学的知見に基づく認知症の対策が行えることや、認知症やMCI(軽度認知障害)の当時者がどこに暮らしていても、早期に必要な対応につながることのできる環境の整備が推進されます。
今後、基本計画が各都道府県や自治体の実情に応じた施策に反映され、具体的な目標や達成時期を定め、その達成状況を調査して、施策の効果が評価されます。
まとめ|認知症基本法の今日までの歩みと認知症施策推進基本計画について
認知症基本法に紐づく新たな基本計画は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らせる共生社会の実現を目指すものです。
認知症になっても、希望を持って暮らしていけるという「新しい認知症観」に基づいて、認知症の人と家族等の参画を得ながら、医療・介護・予防・共生等の施策を総合的に推進することを定めています。
今後、この基本計画が各都道府県や自治体の実情に応じ、当事者の声を踏まえた認知症施策に反映されていきます。