アルツハイマー型認知症の検査と治療|受診科・検査方法・診断基準
「もしかして認知症?」と感じつつも、病院に行くタイミングが分からなかったり、診断されたくない気持ちから受診を先延ばしにしてしまう方は少なくありません。
アルツハイマー型認知症は、ゆっくりと進行する脳の疾患が原因の認知症です。
そのままにしておくと進行し生活に様々な影響が生じる一方、早期に気付いて適切に対処することで、自分らしい生活を長く維持できる可能性もあります。
アルツハイマー型認知症はいつ・どこに相談すればよいのか、どのような検査があり、治療やケアにはどのような方法があるのか、専門医の岩田淳先生(東京都健康長寿医療センター)が解説します。
対処法や治療・ケア方法を知り、アルツハイマー型認知症と向き合うヒントを見つけていきましょう。
アルツハイマー型認知症はいつ受診すれば良い?何科を受診するべき?
アルツハイマー病は、症状が現れる約20年も前から静かに進行している脳の疾患です。
ものの置き場所や約束を忘れるといったもの忘れや、仕事や家事におけるミスが増えることで異変に気付きます。
しかし、認知症の初期段階では加齢によるもの忘れと区別しにくく、本人の無自覚や「ちょっと疲れているだけ」といった取り繕いなどにより見過ごしやすいものです。
ご自身や家族が必要なタイミングでサポートを受けられるように、受診タイミングの目安と相談先を知っておきましょう。
- 岩田先生

最近は抗アミロイドβ(アミロイドベータ)抗体薬が登場したおかげで私の勤務する医療機関ではとても症状が軽い患者さんが増えた印象があります。これはとても喜ばしいことで、このような患者さんがアルツハイマー病と診断された場合は抗アミロイドβ抗体薬の効果が期待できますし、アルツハイマー病ではないという場合は認知機能の低下は極めて緩徐な可能性があるため、患者さんにとっても朗報となる可能性があります。
アルツハイマー型認知症の受診タイミング
アルツハイマー型認知症は、前段階のMCI(軽度認知障害)のうちに適切な対策をすることで、発症や進行を遅らせることができる可能性があります。
また、認知症のようにみえる症状でも、治療可能な別の病気の可能性もあるため、まずは原因を突き止めることが望ましいでしょう。
以前と比べ、もの忘れが増えたり周りの人から指摘されることが増えたりしたら、できるだけ早く専門機関に相談しましょう。
認知症やMCI(軽度認知障害)の兆候
「最近、忘れっぽい」という自覚症状がある
「それ、さっきも言ってたよ」と家族に心配される
同じ事を何度も尋ねてしまう
ものを探し回ることが増える
大事な約束を忘れてしまう
仕事上のミスが増える
複雑な作業に時間がかかったり、軽い支障をきたす
少し前のことでも忘れてしまうことがよくある
認知症の疑いがあっても、ご本人が受診を強く拒むこともあります。医療機関の受診が難しい場合は、まずは地域の相談窓口に相談することも選択肢の1つです。
- 岩田先生

極端な話、老化による認知機能低下はないかも、と思って頂いても良いかもしれません。以前に比べて能力が落ちてきた、それも明らかに日常生活で問題事を生み出しているという事を自分で、もしくはご家族が感じ取ったならばそれは受診に結びつけるべきだと考えます。特に進行した認知症の方はご自身の症状を否定することがありますので、この段階での受診はとても困難を極めます。変化を感じたら受診を心がけましょう。
アルツハイマー型認知症の受診科・診療科目
アルツハイマー型認知症は、以下の診療科目を扱う医療機関で相談できます。
- 精神科
- 心療内科
- 脳神経内科・脳神経外科
- 老年科(老年内科、老年病科、高齢診療科など)
- もの忘れ外来・メモリークリニック
本格的な検査には、専用の機器や環境が必要になるため、より設備が整った医療機関を紹介されることもあるでしょう。
ご本人が受診を渋るような場合には、まずは身近なかかりつけ医を受診することも選択肢の1つです。認知症の専門医でない場合でも、アドバイスがもらえたり専門医を紹介してもらえるでしょう。
アルツハイマー型認知症の検査から診断までの流れ
認知症診療に対応した専門の医療機関では、様々な検査を通してもの忘れの原因・認知症の可能性を調べることができます。
認知症にみえる症状でも異なる病気の可能性があったり、認知症の場合でもアルツハイマー型認知症ではなく、ほかの疾患に起因する認知症の場合もあるため、複数の検査を行いアルツハイマー型認知症の診断をします。
除外診断 | 加齢によるもの忘れ(加齢性健忘)、脳神経外科的な疾患(正常圧水頭症、脳腫瘍など)、精神疾患・症状(せん妄、うつ病など)、内科的疾患など、認知症と混同しやすい症状の可能性を除外する |
|---|---|
鑑別・総合診断 | ほかの認知症(レビー小体型、前頭側頭型など)との違いを見極め、検査結果や症状からアルツハイマー型であるかを総合的に判定する。 |
アルツハイマー型認知症の診断プロセス(文献1を参考に編集部作成)
- 岩田先生

認知機能の低下を訴える方が受診した場合、まずはその訴えが客観的かどうかをご家族からも情報を収集して検討します。ご家族が「全く問題なくて本人が心配しているだけ」と仰る場合もあり、この場合は「主観的認知機能障害」としてしばらく様子を見ることがあります。しかし、ご家族も最近おかしいです、という場合は軽度認知障害の可能性が出てきます。この場合は認知機能検査、血液検査、簡単な脳の画像検査を施行して何か異常が検出されるかを検討する事になります。診察上、歩行障害や運動機能障害といったアルツハイマー病ではみられない症状がある場合はそれ以外の疾患を考えて検査を予定していきます。
以下では、アルツハイマー型認知症を診断するための主な検査や診断基準について解説します。

アルツハイマー型認知症の検査の流れ(文献1,2を参考に編集部作成)
問診・診察
一般的な診療では、まずは問診を行います。
病状、生活歴、職業歴、教育歴、家族歴、治療歴、生活環境など、認知症以外の疾患の可能性も考慮しながらご本人の状況をヒアリングします。
受診前に、次のことをまとめておくとスムーズです。
- 本人・家族の病歴
- 症状が現れ始めた時期
- 違和感を覚える具体的な症状
ご本人のみの場合、問診での回答を曖昧にしたり取り繕ったりするケースもあるため、受診の際は家族の同席が望まれます。
アルツハイマー型認知症の検査
アルツハイマー病の検査では問診に加え、血液検査、神経心理学的検査(認知機能テスト)、画像検査(CT・MRI)などを行います。
そして、一般的なアルツハイマー病と異なる症状の場合や、抗アミロイドβ抗体薬を用いた治療を希望する場合には、PET検査や腰椎穿刺(脳脊髄液検査)によって脳内のアミロイドβの蓄積状況を確認しアルツハイマー病を断定します。
神経心理学的検査
神経心理学的検査は、記憶や思考、言語といった認知機能の障害を客観的に評価する検査で、代表的なものにMMSEやHDS-Rがあります。
検査は口頭で質問に回答するほか、文字や図形、絵を描くものもあり、短時間で認知機能の障害の有無を検査できます。
一方、検査対象者の協力姿勢や精神状態、学歴、年齢などで検査結果(スコア)が変動することがあるため、確定診断ではなく主にスクリーニングのために用いられます。
種類 | 内容 |
|---|---|
MMSE | Mini-Mental State Examination 精神疾患における認知機能障害の測定指標として考案されたもので、5〜10分程度の時間で検査ができる。認知症のスクリーニング検査として国際的に広く用いられている。 |
HDS-R | 改訂長谷川式簡易知能評価スケール 認知症の診断補助を目的としたスクリーニングテストで、高齢者の負担軽減と日常生活動作の障害を配慮して全て質問形式で構成される。 |
MoCA-J | Montreal Cognitive Assessment-Japanese version MCI(軽度認知障害)が疑われる場合に推奨される検査。MMSEなどでは精度が低下する認知症の軽度の段階でも認知機能の低下をスクリーニングできる。 |
ADAS | Alzheimer's Disease Assessment Scale |
認知症の検査で行われる主な神経心理学的検査(文献1,2を参考に編集部作成)
脳画像検査(MRI、CT)
脳の萎縮が生じるアルツハイマー型認知症の診断において、MRI(磁石・電波)やCT(X線)で脳の断面を撮影する画像検査は非常に重要です。
この検査は、主に以下の2つの目的で行われます。
脳画像検査の主な目的
- ほかの病気の除外
脳腫瘍や硬膜下血腫など、似た症状を招く別の疾患がないか確認する
- 脳の萎縮チェック
アルツハイマー病の特徴である「脳の萎縮(特に初期の海馬)」を確認する
なかでもMRIは、初期に見られる海馬のわずかな萎縮まで確認できるため、実際の診断では主にMRIが用いられます。

健常な人とアルツハイマー病の人の脳の比較画像(画像提供:東京医科大学 高齢診療科 客員教授 羽生 春夫 先生)
SPECT検査(Single Photon Emission Computed Tomography)
SPECT検査は、微量の放射線を含む薬剤を注射し、脳の中の分布状況を画像化する検査です。
MRIやCTが「脳の形」を画像化するのに対し、SPECT検査は「脳の働き(血流)」を画像化できるため、認知症特有の血流の低下パターンの有無を確認することができます。
アルツハイマー病では海馬の萎縮が特徴的ですが、ほかの疾患でも類似した変化が見られることがあります。各認知症に特有の血流低下パターンを捉えることで、MRIやCTだけでは判断が難しい初期段階での診断やほかの認知症と識別する際に有効です。
また、脳の萎縮が目立ちにくい若年性アルツハイマー病やMCI(軽度認知障害)の補助診断としても重要な検査です。

SPECT画像検査による脳内部の血流の画像化(文献3,4を参考に編集部作成)
PET検査(Positron Emission Tomography)
PET検査(核医学検査)は、調べたい物質に集まる性質を持つ特殊な薬剤を注射し、薬剤から出る微量の放射線の分布を画像化する検査です。
アルツハイマー病の検査においては、脳の細胞の働き(糖代謝)を評価するFDG-PETのほか、病気の原因であるアミロイドβやタウ蛋白が、脳内にどれくらい蓄積しているかを確認するアミロイドPET、タウPETが用いられます。

PET検査(核医学検査)とX線検査の違い(文献5を参考に編集部作成、監修:岩田淳先生)
腰椎穿刺(脳脊髄液検査、CSF検査)
腰椎穿刺とは、脳脊髄液を採取し、そこに含まれるタウ蛋白やアミロイドβの量を測定する検査です。
腰椎穿刺では、アルツハイマー病の確定診断において最も精度の高い「アミロイドβ42」の量を測ることができ、早期のアルツハイマー病やMCIの診断に有効と考えられています。
背部から穿刺針を刺して、脳や脊髄の周りにある脳脊髄液を採取する検査で、基本的に安全な検査ですが、頭痛(腰椎穿刺後頭痛)が生じることがあります。

腰椎穿刺検査の検査方法(文献2,7を参考に編集部作成、監修:岩田淳先生)
血液バイオマーカー
これまで、アミロイドβの蓄積量を調べるためには、費用が高額な「PET検査」か、身体への負担が大きい「腰椎穿刺(脳脊髄液検査)」を行うしかありませんでした。
この状況を変える可能性があるのが「血液バイオマーカー」による検査です。
採血だけで脳内のアミロイドβの量を測定できるため、普及すれば検査の負担を劇的に減らし、早期に、そして手軽にアルツハイマー病を診断できるようになると期待されています。
アルツハイマー型認知症の検査費用や検査時間の目安
アルツハイマー型認知症は、診断まで複数回の検査が必要です。
検査費用は保険の負担割合や希望する治療法によって必要な検査が異なります。
主な認知症検査の検査時間と費用
各検査の検査時間と保険適用の有無は以下のとおりです。
具体的な金額は医療機関に確認しましょう。
検査項目 | 検査時間の目安 | 費用について |
|---|---|---|
神経心理学的検査 | 10分〜30分 | 保険適用 |
脳画像検査(CT) | 20分〜30分 | 保険適用 |
SPECT検査 | 30分〜1時間 | 保険適用 |
腰椎穿刺(CSF検査) | 30分〜1時間 | 保険適用 ※安静のため別途入院費が必要になるケースがあります。 |
PET検査 | 1.5時間〜2時間 | 原則自費(自由診療):約230,000円〜300,000円 ※アルツハイマー病治療薬の適用判定など、一定の条件を満たす場合のみ保険適用となります。 |
主な検査項目の保険適用の有無・検査時間の目安(監修:岩田淳先生)
検査費用に関する注意点
検査内容によっては、保険が適用されず自費(自由診療)となる場合があります。
また、一部検査では、検査入院が必要になることもあります。
- アミロイドPET検査はアルツハイマー病治療薬の適用対象かを調べる場合のみ、保険が適用されます。タウPET、FDG-PETは保険適用外。(2026年7月現在)
- 腰椎穿刺は安静のため入院が必要となるケースがあるため、検査費用+入院費が必要になることが多いです。
アルツハイマー型認知症の診断基準
アルツハイマー型認知症は、問診、神経心理学的検査、脳画像検査などの結果を総合的に判断し、一定の診断基準を満たした場合に診断されます。
日本の『認知症疾患診療ガイドライン2026』では、2つの国際的な診断基準を元に診断を行うことが推奨されています。
- 米国精神医学会の『DSM-5−TR 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』
- 米国国立老化研究所(NIA)とアルツハイマー協会(AA)による「NIA-AA診断基準」
これらの診断基準をまとめると、以下の条件を満たす場合に「アルツハイマー型認知症」、または「アルツハイマー型認知症の疑いがある」と診断されます。
アルツハイマー型認知症の診断基準
認知機能(記憶、言語、遂行機能、視空間機能など)に複数の機能低下が認められる
機能低下の症状が急性、一時的なものではなく、ゆっくりと進行している
画像検査や脳脊髄液検査などで、アルツハイマー病に特徴的な脳の萎縮や原因物質の蓄積が確認できる(必要に応じて実施)
ほかの疾患ではない(脳血管障害、ほかの神経変性疾患、精神疾患、薬物等の影響など)
- 岩田先生

認知機能検査はあくまでも「目安」です。特に長谷川式認知症スケールやMMSEといったスケールは認知症をスクリーニングするために開発されています。このために、認知機能正常者を正しく正常と判断出来る確率は高いですが、認知症や軽度認知障害を正しく認知症・軽度認知障害と判定できる可能性は低いのです。特に私のようにこの検査を何千回と患者さんに行ってきた場合、認知機能がある程度低下しても満点がとれるでしょう。大事なのは、患者さんを日頃からみている方がその患者さんの認知機能をどう評価しているかです。身近な方の日頃の観察結果が最も重要だと考えてください。
アルツハイマー型認知症の治療法
アルツハイマー型認知症の治療では、薬による治療(薬物療法)と非薬物療法があります。
治療においては、本人や家族の意向を踏まえ、薬物療法と非薬物療法の両者を組み合わせた治療が基本となります。
薬物療法
アルツハイマー型認知症の治療薬には、認知症の症状を抑える「抗認知症薬」と、アルツハイマー病の原因物質を取り除き進行を抑制する「抗アミロイドβ抗体薬」があります。
進行段階 | 目的 | 種類 | 効果 |
|---|---|---|---|
MCI〜認知症(軽度) | アルツハイマー病の進行を抑える | 抗アミロイドβ抗体薬 | アミロイドβを取り除き、病気の進行を遅らせる効果が期待されます。 |
認知症(軽度〜重度) | 認知機能に関する症状を抑える | コリンエステラーゼ阻害薬 | 脳内の神経伝達物質の一つである「アセチルコリン」の減少を防ぎ、神経細胞内の情報伝達を活発にします。 |
NMDA受容体拮抗薬 | 脳の興奮に関わる神経伝達物質「グルタミン酸」の受容体にフタをして、神経細胞の過剰な興奮、死滅を防ぎます。 |
アルツハイマー型認知症の進行段階と治療薬の選択肢(文献1を参考に編集部作成)
アルツハイマー病の進行を抑える薬(抗アミロイドβ抗体薬)
抗アミロイドβ抗体薬は、脳内に蓄積したアミロイドβを除去することで、アルツハイマー型認知症の進行を抑えることを目的とした薬です。
アルツハイマー病が進行した人には使用できないため、初期段階(アルツハイマー病によるMCI、および軽度アルツハイマー型認知症)で用いられます。
使用には厳格な基準が設けられており、検査によりアミロイドβの蓄積が確認でき、適用条件を満たした場合に使用が検討されます。
アルツハイマー型認知症の症状を抑える薬(抗認知症薬)
抗認知症薬は、アルツハイマー型認知症の中核症状である認知機能障害の症状を和らげる薬です。
コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の2つの種類があり、進行段階や使用後の効果・副作用の有無により選択される薬や投薬量が変わります。
投薬によって認知機能の低下や日常生活動作(ADL)の低下といった、症状の進行速度が緩やかになるといった報告もあるため、早期の発見と治療が望まれます。
精神症状に対する薬物治療
認知症に起因するBPSD(行動・心理症状)がある場合、抗うつ薬や抗精神病薬といった精神症状を抑える薬が用いられることもあります。
一方で、認知症のBPSDに対しての特効薬はなく効果も限定的なため、症状を抑えるための治療は非薬物療法を中心に検討されます。
症状 | 選択される薬 | 有効性 |
|---|---|---|
妄想・幻覚 | 非定型抗精神病薬、漢方薬 | 有効性が明確には示されていません。 |
焦燥性興奮(アジテーション) | 非定型抗精神病薬、セロトニン系抗うつ薬、漢方薬 | 全体的に効果量は小さいものの、有効な可能性があるとされています。 アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮による過活動や攻撃的言動に対して有効性が認められ、保険適用が承認されています。 |
うつ・不安 | 抗うつ薬 | 有効性が示される可能性がありますが、安全性やエビデンスが不十分とされています。 |
アパシー(無気力・無関心) | コリンエステラーゼ阻害薬 | 使用を検討してもよいものの、明確なエビデンスは見出されていません。 |
睡眠障害 | 不眠症治療薬 | 夜間睡眠時間の延長や睡眠効率の改善など、一部で有効性が示されていますが、十分なエビデンスがありません。 |
認知症のBPSD(行動・心理症状)と治療薬の選択肢(文献1を参考に編集部作成)
非薬物療法
認知症の治療において、薬を用いない治療法を総じて非薬物療法といいます。
リハビリテーションや心理療法、運動、音楽、コミュニケーションなどの様々な活動を通じ、認知機能障害の改善やBPSDの緩和、生活の質(QOL)の向上を目指します。
BPSDの治療では、薬物療法以上に非薬物療法を優先して実施することが推奨されています。また、これらの治療法は、どれか1つだけを行うのではなく、「本人の状態や好みに合わせて、複数を組み合わせて行うことが重要とされています。
アプローチ | 種類 | 特徴・効果 |
|---|---|---|
身体面からのアプローチ | 運動療法、栄養療法 | 筋トレや有酸素運動、適切な栄養摂取を行います。認知機能全般や身体機能の維持、日常生活の能力(ADL)の低下を防ぐのに有効です。 |
脳・認知機能へのアプローチ | 認知トレーニング、リアリティ・オリエンテーション、認知刺激、認知リハビリなど | 個別の脳トレ、グループでの会話や交流、生活目標に向けた実践的な練習を行います。記憶力や注意力を刺激し、日常生活の自立をサポートします。 |
心理・感情面へのアプローチ | 音楽療法、芸術療法、回想法、ロボット療法など | 歌や楽器、創作活動、昔の思い出話、ロボットとの触れ合いなどを通じて心身をリラックスさせます。不安やうつ症状、BPSDを和らげ、生活の質を高めます。 |
生活環境・介護者へのアプローチ | 作業療法、認知行動療法など | 本人が生活しやすいように環境を整えたり、介護する家族のストレスや負担を軽減するための心理的サポートや学習を行います。 |
非薬物療法のアプローチ(文献1,2を参考に編集部作成)
このほか、急に生活環境を変えず、いままでの暮らしを継続することも重要とされています。
- 岩田先生

アルツハイマー型認知症の治療のゴールは「元通りに治すこと」ではなく、「進行を穏やかにし、その人らしい良い時間を長く保つこと、生き甲斐の実現」です。抗認知症薬に過度な期待も諦めも禁物で、主役はむしろ運動・交流・睡眠・生活習慣病の管理といった日々の暮らしです。完璧を目指さず、できることを楽しみながら続けましょう。ご家族も1人で抱えず、医療や地域の支援を頼ってください。
アルツハイマー当事者の介護やケア
アルツハイマー型認知症の治療では、薬やリハビリと同じくらい、日々の介護やケアが重要です。
認知症になると、動作が緩慢になったり、気分の落ち込みや無関心、易怒性(怒りっぽくなる)といった心理・行動面での変化(BPSD)が現れたりと、さまざまな症状が生じます。
これらの症状は「歳のせい」「本人の性格の問題」と誤解されやすく、ご本人に対する叱責や、家族関係の悪化につながることも少なくありません。
当事者に生じる様々な変化がアルツハイマー型認知症による症状であることを理解し、ご本人の状態や気持ちに寄り添うこと、そして過ごしやすい環境を整えることで、症状の悪化を防ぎ、状態を安定・改善へと導くことが期待できます。
介護・ケアの基本的な考え方
当事者を「一人の人」として尊重し、本人の視点や立場に立って理解しようとする姿勢をもつ(パーソンセンタードケア)
問題行動とされるものを「異常行動」と片付けず、意味のある行動、当事者からのサインとして受け入れる姿勢を大切に(バリデーション)
「人間らしさ」を尊重し、当事者の状況に応じたケアを心がける(ユマニチュード)
本人の希望や価値観を共有し、可能な限り本人の意思や決定を最大限に尊重し、支援する
介護者(家族)自身の心身のケアも重要視し、困った時は担当のケアマネジャーや地域包括センターなどの支援を求める
アルツハイマー型認知症になると、進行に伴いできなくなることが増えますが、本人の意思を尊重し選択の機会を奪わないケアが大切です。
アルツハイマー型認知症の検査・治療に関するよくある疑問
ここではアルツハイマー型認知症の検査や治療に関するよくある疑問を紹介します。
脳ドックで認知症はわかる?
脳ドックは、認知症を診断するための検査ではありません。日本脳ドック学会では、自覚症状の出にくい脳の病気に対する早期発見と予防が目的の検査と位置づけられており、脳疾患や認知症のリスクチェックが目的の検査です。
そのため、何かしらの症状が出ている場合は、脳ドックではなく認知症や脳疾患に関する専門機関を受診しましょう。
脳ドックは自由診療になるため、全額自己負担となります。
検査 | 費用 |
|---|---|
脳ドック | 20,000円〜80,000円 |
脳ドックの検査費用の目安(編集部調べ ※医療機関により異なります)
自治体によっては費用負担なく、もの忘れ検診(認知症の検査)を受診できる自治体もあるので、そのような機会を利用してみてもよいでしょう。
神経心理学的検査で高得点だったら認知症ではない?
認知症の検査で活用される神経心理学的検査(MMSE、HDS-Rなど)には、認知症かどうか判断するための基準点(カットオフ値)があります。
しかし、検査結果は学歴や年齢、被験者の協力度合いなどによって点数が変わることがあるため、神経心理学的検査の結果のみで認知症か否かを判断することはありません。特にアルツハイマー型認知症では、脳画像検査を中心に複数の検査や問診等の結果を総合的に検討して診断します。
まとめ:「もしかしたら」を感じたら。まずはかかりつけ医に相談してみよう
アルツハイマー型認知症は早期発見と適切な対応により、進行を遅らせ自分らしい生活を長く維持できる可能性があります。
治療においては薬だけでなく、リハビリや日々のケアを組み合わせることも大切です。
受診や治療にあたっては、当事者の意思を尊重することはもちろん、介護をするご家族にとっても負担が少なく、持続可能な方法を選ぶことが欠かせません。
まずは身近な医療機関をはじめ、自治体の窓口や地域包括支援センターなども活用しながら、不安を相談してみることから始めてみましょう。
- 岩田先生

「認知症だと知るのがこわい」と受診をためらうお気持ちは自然なことで、私たちはまずその葛藤に寄り添いたいと思います。その上でお伝えしたいのは、早く動く意義です。早期にわかれば進行を穏やかにする治療や生活の工夫を始められ、ご本人の思いがはっきりするうちに今後を話し合えます。治療は薬だけでなく、リハビリや日々のケアを、ご本人とご家族に無理のない形で検討できます。不安は1人で抱えず、まず身近な窓口にご相談ください。
この記事の補足情報
参考文献
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松下亮一:脳・神経・脊髄イラストレイテッド. 月刊ナーシング 2009年4月増刊号. 学習研究社. 2009年. p200-201.
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一般社団法人日本脳ドック学会:脳ドックとは.[https://jbds.jp/brain-dock/](最終閲覧日:2026年7月20日)
著者情報
- PROFILE/ プロフィール

岩田 淳
東京都健康長寿医療センター 副院長 ■Profile 東京大学医学部附属病院神経内科の専門外来「メモリークリニック」にてアルツハイマー病(AD) やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たる。特に早期段階でのAD、レビー小体病の診断が専門。2023年10月より現職。
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