脳ドックとは何か?|現役の脳神経外科専門医が解説|検査内容・受診費用・選び方から豆知識まで

東京都赤坂の脳ドックで日々MRIやCTの検査をしている伊藤たえ先生(菅原クリニック東京脳ドック院長)が「脳ドックとは何か?」をわかりやすく解説します。
たくさんの患者さんやご家族と向き合っている脳神経外科専門医の先生による解説ですのでぜひご参考にしてください。
脳ドック院長が考える「脳ドック」が必要な理由
脳の疾患は、自覚症状のないまま静かに進行することが少なくありません。疾患によっては、外科手術・血管内治療・放射線治療などさまざまな先端治療を行ったとしても、元の生活に戻ることができない人もいらっしゃるのが現状です。
厚生労働省の「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」によれば、2024年の脳梗塞やくも膜下出血などの「脳血管疾患」による死亡数は102,821人で、がん・心疾患・老衰に次ぐ死因の第4位です。全死亡数の約6.4%、死亡率は人口10万人あたり85.5人を占めています。脳血管疾患による死亡は減少傾向にあるものの、依然として日本人の主要な死因の1つです。
また、厚生労働省の2022(令和4)年の国民生活基礎調査では、介護が必要となった主な原因として、第1位に「認知症」(16.6%)、第2位に「脳血管疾患」(16.1%)が並び、全体の約3割を脳に起因する疾患が占めています。特に要介護(要介護1〜5)に限ると脳血管疾患は19.0%とその割合がさらに高まり、重度の要介護4・5では原因の第1位を占めています。
つまり、脳血管疾患や認知症、あるいは脳腫瘍などをはじめとする「脳の疾患」は、死亡だけでなく、自立した生活を奪い、寝たきりや要介護の主な要因でもあるため注意が必要です。これら脳の病気の多くは、発症前から血管の劣化や脳の萎縮といったダメージが始まっており、自覚症状がないまま進行しています。
脳ドックは、こうした「自覚症状が出る前の脳全体の状態」を画像で確認し、将来のリスクを把握・予防するための検査として位置づけられています。
では脳ドックについて、私の体験を交えながら解説していきます。脳ドックの基本的な仕組みから、検査内容、対象者、費用、所要時間、受診時の注意点、医療機関選びのポイントまで見ていきましょう。
脳ドックとは?|脳ドックの定義と目的

頭部MRIで見た正常な脳(画像提供:伊藤たえ先生)
脳ドックとは何かを説明すると、頭部のMRI(磁気共鳴画像)・MRA(磁気共鳴血管撮影)、頸部(頸動脈)超音波検査などを用いて、脳そのものと脳に血液を送る血管の状態を観察し、疾患の有無や将来の発症リスクを評価する検診の総称です。
一般社団法人日本脳ドック学会は、脳ドックについて「自覚症状の出にくい“脳の病気”に対して、早期発見と予防を目的とした日本独特の予防医学」と位置づけています。
すなわち、脳ドックの目的は「治療」そのものではなく、受診時点における脳の状態の「観察」と「診断」にあります。具体的には、脳ドックは以下のような価値を提供します。
脳の疾患の早期発見
無症候性脳梗塞(症状を伴わない小さな脳梗塞)や未破裂脳動脈瘤、頸動脈狭窄、脳腫瘍など、症状が出る前の脳の異常を画像で把握できる可能性があります。
たとえば未破裂脳動脈瘤は人口の約3%で保有し、脳ドックの頭部MRIで偶然見つかることがよくあります。多くは破裂しないものの、破裂してくも膜下出血を起こすと、約半数が死亡または重篤な後遺症を残すため、無症状のうちに把握し経過観察や治療につなげる意義があります。
リスク評価と生活改善のきっかけ
脳ドックで行う頸動脈エコー(後述)では、脳に血液を送る頸動脈の内中膜複合体(IMT)の厚さやプラーク、血管の狭窄・閉塞の程度を画像で評価し、定量的に把握します。
特に高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの危険因子を持つ方は、こうした評価が将来、自分が脳卒中や心筋梗塞を「起こしやすいタイプかどうか」を判定するのに役立ちます。危険因子が見つかった場合、食事・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣を見直す契機となります。
動脈硬化性疾患は生活習慣の改善や早期の治療により一定の予防効果(あるいはメリット)が期待できるとされており、脳ドックはこうした生活改善を通じて将来の脳血管障害リスクを低減するきっかけにもなります。
一度、脳ドックを受けて異常がなかったとしても長期にわたって安心というわけではなく、健康診断や人間ドックと同様に、一定の間隔での定期的な受診が推奨されます。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
脳卒中はある日突然、患者さんとご家族の人生を一瞬にして変えてしまいます。だからこそ、無症状のうちに病気の芽を発見できる脳ドックには、価値があります。「発症してから治療する」のではなく、「発症する前に先手を打って守る」。これが脳ドックの最大の目的です。
脳ドックと人間ドックや健康診断との違い
脳ドックと似た言葉に人間ドックがありますが似て非なるものです。一般的な人間ドックでは、脳の検査は通常網羅されていないため、脳の病気を見つけるためには、脳に特化した脳ドックの検査が必要となります。
会社や自治体などで実施される一般的な人間ドックや健康診断は、血液検査・尿検査・胸部X線・心電図などを通じて全身の健康状態を把握することを目的としています。しかし、これらの検査項目には、脳の画像検査は原則として含まれていません。
人間ドックや健康診断は身体全体の概観をチェックするもので、脳ドックは「脳に特化した精密検査」という役割分担になります。両者は対立するものではなく、組み合わせることで全身と脳の両面から健康状態を把握できます。
脳ドックで発見できる主な病気
脳ドックでは、主に頭部MRI・MRAおよび頸動脈エコーによって、以下のような病気や異常所見を発見します。
いずれも自覚症状が出る前の段階で見つかることが多く、早期発見により生活改善や予防的治療、適切な経過観察につなげられる点に意義があります。
無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)

頭部MRIで見た無症候性脳梗塞(画像提供:伊藤たえ先生)
無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)とは、画像上は脳梗塞の所見があるにもかかわらず、対応する麻痺やしびれなどの症状が出ていない状態を指します。その多くは脳深部の細い動脈に生じる直径15mm未満の小さな梗塞(ラクナ梗塞)で、中高年・高齢者のMRI検査でしばしば発見されます。
発見された場合は、まず高血圧・糖尿病・脂質異常症といった危険因子の管理と生活習慣の改善が基本となります。
未破裂脳動脈瘤

頭部MRAで見た脳動脈瘤(画像提供:伊藤たえ先生)
未破裂脳動脈瘤とは、脳の血管の枝分かれ部分にできるコブ状の膨らみで、破裂すると、くも膜下出血を引き起こします。
前述の通り、脳ドックの頭部MRA等で偶然見つかることが多く、成人の約3%に存在するとされ、特に高血圧・喫煙・くも膜下出血の家族歴がある方は注意が必要です。
脳微小出血(微小脳出血)

頭部MRIで見た脳微小出血(画像提供:伊藤たえ先生)
脳微小出血は、加齢や高血圧などと関連して脳内に生じる、症状を伴わない微小な出血痕です。高齢者の5〜20%、脳梗塞既往例の30〜40%、脳出血既往例の60〜70%に認められると報告されています。
脳腫瘍

頭部MRIで見た脳腫瘍(画像提供:伊藤たえ先生)
脳ドックで偶発的に見つかる脳腫瘍は、髄膜腫・下垂体腺腫・神経鞘腫など良性のものが大半を占めますが、一部には神経膠腫(グリオーマ)など治療を要する腫瘍も含まれます。発見後は、画像での経過観察、手術、放射線治療など、腫瘍の種類・サイズ・部位に応じて方針が決定されます。
頸動脈狭窄

頭部MRAで見た頸動脈狭窄(画像提供:伊藤たえ先生)
首にある頸動脈は、脳に血液を送る重要な血管です。動脈硬化が進むとプラーク(脂質などの塊)が蓄積して血管が狭くなり、狭窄が高度になるとプラークの一部が剥がれることもありますし、狭くなり血流が不十分になることで、脳梗塞になることもあります。
脳萎縮・大脳白質病変

頭部MRIで見た脳萎縮 黒いスキマ=萎縮(画像提供:伊藤たえ先生)
脳萎縮は加齢とともに進む生理的変化ですが、進行が早い場合はアルツハイマー型認知症などの早期サインとなることがあります。大脳白質病変は脳深部の慢性的な血流不足などによって生じる変化で、加齢によって多くの方に生じるものです。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
MRIは、自覚症状のない小さな変化まで緻密に描き出します。そのため、何らかの「所見」が見つかる確率は決して低くありません。だからこそ大切になるのが、見つかった異常に対して「今すぐ治療すべきか、経過観察してよいか」を正確に見極められる専門医の存在です。脳ドックの価値は、病気を見つけること以上に、その後の正しい治療方針や安心を提供してもらうことにあると言えます。
脳ドックの検査内容|MRI・MRA・エコーで何を見る?
脳ドックの検査メニューは医療機関やコースによって異なりますが、中心となるのはMRI・MRA・頸動脈エコーの組み合わせです。
脳ドックの基本であるこの3つの検査は、それぞれ全く異なる役割を持っています。MRIは「脳の形や組織(梗塞や出血、腫瘍)」、MRAは「頭のなかの血管(コブや狭窄)」、そして頸動脈エコーは「脳へ血液を送る首の血管(動脈硬化の進み具合)」を映し出します。受診される際は、この3つが揃ったコースを選ぶことをお勧めします。
以下、脳ドックの検査内容についてそれぞれ解説します。
MRI(磁気共鳴画像法)

MRI(磁気共鳴画像)/MRA(磁気共鳴血管撮影法)の装置(画像提供:伊藤たえ先生)
MRIとは「Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像)」の略称で、強い磁場と電波を用いて、脳の断面画像を多方向から撮影する検査です。X線を使わないため放射線被ばくの心配がありません。脳梗塞・脳腫瘍・脳萎縮・白質病変・微小出血など、脳実質(脳そのもの)の異常を高い分解能で評価できます。
検査時間は20〜30分程度で、ドーム型の装置の中で安静を保つ必要があります。
MRA(磁気共鳴血管撮影法)
MRAとは「MR Angiography(磁気共鳴血管撮影法)」の略称で、MRIの技術を応用し、造影剤を使わずに脳の血管を立体的に描出する検査です。脳動脈瘤・血管狭窄・血管閉塞・動脈解離・血管奇形などを評価できます。
MRIが「脳そのもの」を見るのに対し、MRAは「血管の通り道」を専門的に見る検査と理解すると整理しやすくなります。多くの脳ドックではMRIとMRAをセットで実施しています。
頸動脈エコー検査
頸動脈エコー検査は、頸動脈に超音波を当て、血管壁の厚さ(内中膜複合体厚=IMT)・プラークの有無・血流速度を測定する検査です。
動脈硬化の程度を定量的に評価でき、脳梗塞だけでなく心血管疾患全体のリスク指標としても活用されます。検査時間は約15〜20分で、痛みや被ばくはありません。
心電図検査

左から「脈波検査( 血圧脈波検査装置 )」「心電図検査(心電計)」「エコー検査( 超音波診断装置 )」(画像提供:伊藤たえ先生)
心電図検査は、心房細動などの不整脈を検出するための検査です。心房細動は、心臓内(特に左心房)に血液がよどんで血栓ができやすくなり、その血栓が脳に飛んで脳の血管を詰まらせる「心原性脳塞栓症」(脳梗塞の一種)の主要な原因となります。
心房細動のある方は、ない方に比べて脳梗塞になる確率が2〜7倍ほど高くなると報告されています。心電図の検査は短時間で実施でき、自覚症状が出にくい不整脈という脳梗塞の危険因子を把握できます。
ABI(血圧脈波)検査
ABIは「Ankle-Brachial Index(足関節上腕血圧比)」の略語で、足首(足関節)と上腕の収縮期血圧の比(足関節血圧 ÷ 上腕血圧)を測定する検査です。
正常では足首の血圧が上腕と同等かやや高くなりますが、下肢の動脈に狭窄や閉塞があると足首側の血圧が低下するため、この比から動脈硬化による狭窄・閉塞の程度を評価できます。
ABIは非侵襲的で短時間に行えるため、閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患/PAD)のスクリーニングに広く用いられ、一般にABI 0.90以下で下肢の閉塞性病変が疑われます。
血液検査
血液検査では、LDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪(トリグリセライド)・HbA1c・血糖値などを測定し、脂質異常症や糖尿病といった脳卒中(特に脳梗塞)の主要な危険因子を評価します。LDLコレステロールが高い状態(高LDLコレステロール血症)は、血管壁にプラークを形成して動脈硬化を進め、脳梗塞・心筋梗塞など血管が詰まる病気の大きな原因となります。
脳ドックのオプション検査
脳ドックのオプション検査としては、受診目的やリスクに応じて以下のような項目を組み合わせられる施設もあります。
認知機能検査(HDS-RやMMSEなどのスクリーニング検査)
- 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R):
記憶を中心とした認知機能障害を5〜10分程度で調べる、全9問・30点満点のスクリーニング検査です。20点以下で「認知症の疑いあり」と判定されますが、これはあくまで目安であるため、確定診断には日常生活の状況や画像検査などの精密検査による総合的な判断が必要になります。 - MMSE(Mini-Mental State Examination):
見当識・記銘力・注意・計算・言語・図形模写など複数の認知機能を30点満点で簡便に評価する代表的な検査で、一般に23点以下が認知症の疑いとされます。ただしスコアだけで診断するものではなく、症状や経過を踏まえた総合的な判断が必要です。
眼底検査

c眼底検査の装置(画像提供:伊藤たえ先生)
眼底は体の外側から直接見ることができます。眼底に高血圧・動脈硬化の変化がある人は、ない人に比べて脳卒中を含む循環器病になる危険が2倍以上高くなると報告されています。
心臓ドックとの組み合わせ
心房細動などの不整脈は脳塞栓の原因となります。心臓ドックでは、心電図や心エコー、冠動脈CTAなどを組み合わせ、心臓の状態、心臓に栄養を送る血管(冠動脈)の危険度をチェックします。
検査項目は施設によって異なります。年齢・家族歴・生活習慣病の有無など、ご自身のリスクや受診目的に応じて項目を選択しましょう。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
人間ドックの中にオプション検査が含まれていることもありますので、ご自身が他で受けていない検査を取り入れるようにしましょう。
脳ドックの検査の流れ
一般的な脳ドックの流れは以下の通りです。
- 受診予約:電話またはWebで予約。コースを選択します。
- 問診票記入:既往歴・家族歴・服用中の薬・体内金属の有無などを記入します。
- 着替え・検査準備:金属類・アクセサリー・ヘアピン・腕時計などを外します。
- 検査の実施:MRI/MRA → 頸動脈エコー → 心電図 → 採血など、その施設の順番に従って受診します。
- 結果説明:当日の場合は検査終了後、医師から画像を見ながら説明します。当日の説明はなく、結果報告のレポートを郵送する脳ドックもあります。
- 報告書受領:後日、検査結果の報告レポートが送付されます。
検査当日の注意点として、アイメイクやファンデーションなどの化粧には金属成分を含む場合もあるため、脳ドックの施設によっては事前にメイクオフを求められます。コンタクトレンズ(特にカラコン)やマグネットネイルも外す必要もあります。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
MRIは非常に強力な磁石を使う装置です。そのため、カラーコンタクトやマグネットネイル、金属成分を含むアイメイクなどは、画像が歪んで精密な診断の妨げになるだけでなく、検査中に熱を持って火傷(やけど)の原因になる危険性もあります。施設から指定された注意事項は、ご自身の安全のためにも必ず守ってください。また、検査の流れの最後に「結果説明」がありますが、前述の通り、やはり「当日にその場で、専門医から直接画像を見せてもらいながら説明を受けられる施設」を選ぶことが、受診後の余計な不安をなくすためにも一番のお勧めです。
脳ドックを受けた方がいい人・おすすめの年代(40代は必見)
年代の目安
日本脳ドック学会は、中高齢者を主な対象として脳ドックの受診を推奨しています。脳血管疾患の発症は40代から徐々に増え、50代以降で大きく増加することから、以下のような頻度が一つの目安となります。
- 40代:3〜5年に1度
- 50代以降:2〜3年に1度
- 異常所見があった場合:医師の指示に従って短期間で再検査
脳血管疾患の「危険因子」を持つ人
ただし将来的に脳血管障害などを起こす可能性が高い「危険因子」を持つ方は、年代にかかわらず、脳ドックの受診を検討する価値があります。
なかでも高血圧は脳卒中の最大の危険因子で、高血圧が完全に予防できれば日本人の脳卒中は今より約半分に減ると考えられています。
- 高血圧(脳卒中の最大の危険因子)
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 喫煙習慣
- 肥満傾向(BMI25以上)/メタボリックシンドローム
- 多量飲酒の習慣
- 脳卒中・認知症の家族歴(特に3親等以内)
これらの危険因子は単独でも血管へのダメージを蓄積させ、複数が重なると動脈硬化がいっそう進行してリスクが相乗的に高まります。糖尿病・脂質異常症・肥満などはいずれも動脈硬化を介して脳梗塞のリスクを高めることが知られています。
脳卒中の症状がある人の場合
突然の手足のしびれ・麻痺、ろれつが回らない、片側の脱力、激しい頭痛などの急性の脳卒中症状がある場合は、脳ドックではなく救急受診が必要です。脳卒中は発症後、可能な限り早く治療を開始することが予後を大きく左右します。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
高血圧や糖尿病、喫煙などの危険因子は、1つ増えるごとにリスクが足し算ではなく「掛け算」で跳ね上がっていきます。「まだ40代だから」「薬を飲んでいるから大丈夫」と過信せず、自分の血管が今どれくらいダメージを受けているのかを画像で客観的に知ることが大切です。ただし急な麻痺やしびれなどの症状がある場合は、脳ドックではなく一分一秒を争う救急医療の領域になります。
脳ドックの費用の相場は?
脳ドックは、自覚症状のない段階で病気のリスクを早期に発見することを目的とした検査のため、健康保険の適用外(自由診療)であり、費用は全額自己負担となります。
検査の結果、脳梗塞や脳動脈瘤の疑いなど、医師が治療上必要と判断した追加の精密検査については保険が利用できる場合があります。
費用はコース内容・検査項目・医療機関・地域によって幅がありますが、日本の脳ドックの相場は、おおむね3〜10万円程度とされています。
なお、日本は人口あたりのMRI保有台数が世界でもトップクラスに多く、MRI検査費用が諸外国に比べて安価に設定されているため、脳ドックを比較的低価格で受診できる環境にあります。
主な検査内容 | 費用目安 |
|---|---|
頭部MRI・MRA、頸動脈エコー | 3〜5万円 |
上記+心電図・ABI・血液検査 | 5〜8万円 |
上記+認知機能検査、眼底検査など | 8〜10万円 |
(作成:伊藤たえ先生)
検査項目ごとの費用の目安としては、中心となるMRI・MRAが3万〜7万円、頸動脈エコーが3,000〜6,000円程度、オプションの心電図が2,000〜3,000円、ABI検査が1,000〜2,000円、認知機能検査が5,000〜8,000円程度です。
コース名や金額は施設ごとに異なるため、受診前に必ず病院の公式サイトや電話で、検査項目・使用機器・総額を確認しましょう。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
脳ドックは全額自己負担となりますが、万が一そこで重大な異常が見つかり、治療やさらに踏み込んだ精密検査が必要になった段階からは、通常の「保険診療」へと切り替わります。数万円という費用は決して安いものではありませんが、将来の脳卒中による莫大な医療費や人生の損失を未然に防ぐための「未来への投資」と考えれば、その価値は十分にあります。
自費で受けるからこそ、ただ検査をするだけでなく、結果を真摯に説明し、異常時に保険診療へスムーズに繋いでくれる信頼できる施設を選んでいただきたいです。
助成金・補助金の活用
脳ドックは原則自己負担ですが、勤めている企業が費用を負担する制度を設けている場合があったり、自治体が費用の一部を補助する制度を設けている場合があったりします。
ご自身が加入している保険者は、保険証(資格確認書)の「保険者名称」で確認できます。
- 国民健康保険加入者:
お住まいの市区町村役所・保健センターで確認します。多くの自治体が脳ドックを補助対象としております。自治体によっては、検査料から5,000円を控除した額・上限25,000円を補助。ただし対象年齢(40歳以上など)・補助回数(年度内1回など)・保険料の納付状況といった条件が設けられています。 - 共済組合加入者:
公務員などが加入する各共済組合の補助・助成制度を確認します。
脳ドックの受診の所要時間
脳ドックの検査全体の所要時間は、コース内容によって1時間半〜3時間程度が一般的です。検査それぞれの所要時間に加え、着替えや移動などの時間もかかります。
検査項目 | 所要時間 |
|---|---|
頭部MRI・MRA | 約20分 |
頸動脈エコー | 約20分 |
心電図 | 約2〜3分 |
ABI(血圧脈波) | 約2〜3分 |
血液検査 | 約2〜3分 |
結果説明(当日の場合) | 10〜20分 |
(作成:伊藤たえ先生)
短時間コース(MRI・MRAのみ)に特化した施設では、30分〜1時間程度で受診できるサービスも登場しています。この場合、対面での結果説明はありません。
受診にかかる時間は脳ドックの内容によって異なるので、実際に受診する施設に確認してください。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
最近は「30分で終わる」といった手軽さを売りにした脳ドックも増えています。しかし、そうした短時間コースの多くは対面での医師の説明がなく、後日レポートが届くだけです。もしそこに「異常の疑い」という文字だけが書かれていたら、結局不安になって別の病院を探し、再相談することになります。多少時間はかかっても、専門医から直接説明がある施設をお薦めします。
脳ドックの医療機関を選ぶポイント
脳ドックは自由診療のため、施設によって検査機器・検査項目・診断体制・料金が大きく異なります。後悔のない受診のために、以下のポイントを確認しましょう。
施設選びの客観的な目安として、日本脳ドック学会の認定施設であるかどうかを確認すると、機器・体制・フォローの質が一定の基準を満たしていることが期待できます。
検査項目・コースの網羅性
- 受けたい検査(頸動脈エコー、血液検査、心電図、認知機能検査など)がコースに含まれているか?
日本脳ドック学会の認定施設では、問診・診察・血圧・血液検査・尿検査・心電図・頭部MRI(T1、T2、FLAIR、T2*)・頭部MRA・頸動脈超音波検査・認知機能検査を一連のルーチンとして行うコースを持つことが認定の条件とされており、網羅性の1つの目安になります。 - 認知機能検査や眼底検査など、オプション検査の選択肢が豊富か?
検査項目を省略した簡易コースのみを実施する施設は学会の審査対象外とされています。
専門医の体制
- 脳神経外科・脳卒中・神経内科(脳神経内科)・放射線科の専門医が読影・診断を担当しているか?
日本脳ドック学会の認定基準でも、画像読影医はこれらいずれかの専門医であることが求められています。
読影を複数の医師でダブルチェックする体制があると、より見落としのリスクを減らせます。 - 日本脳ドック学会の認定施設であるか?
認定には、最新の脳ドックガイドラインへの準拠、責任医師の常任、十分な性能のMR機器の使用、年間50例以上の受診者数などの条件があり、質の担保につながります。日本脳ドック学会公式サイトの「脳ドック施設検索」で確認できます。
結果説明の方式
- 当日説明か、後日郵送・面談か?
日本脳ドック学会の認定基準では、所見の有無にかかわらず担当医による面談で結果を通知することが望ましく、少なくとも所見のある方には必ず面談で結果を伝えることとされています。
また、結果報告書には検査結果の羅列だけでなく、脳ドックとしての総合評価が記載されていることも基準の一つです。 - 画像データ(コピー)の提供の有無、異常が見つかった場合の紹介先病院との連携体制
脳ドックは「検査して終わり」ではなく、所見があった際に適切な医療機関へつなぐフォロー体制が整っているかを確認しましょう。
予約のしやすさ
土日・祝日の対応の有無や、Web予約の可否など、ご自身のライフスタイルに合った予約・受診のしやすさも確認しておくとよいでしょう。
以上の内容を総合的に比較し、「検査の網羅性」「専門医の体制」「結果説明とフォロー」のバランスが取れた施設を選ぶことが、納得のいく脳ドック受診につながると考えられます。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
ネット検索で溢れ返る施設の中から、一般の方が「機器の性能」や「診断の質」を見極めるのは困難です。だからこそ、迷った際は「日本脳ドック学会の認定施設」であるかどうかを基準にしてみてください。学会の厳しい基準をクリアしている施設であれば、専門医による読影、丁寧な結果説明、万が一の際の医療連携まで、受診者が後悔しないための体制が最初からすべて揃っています。
脳ドックでよくある質問(FAQ)
以下は、実際の脳ドックの現場でよく質問いただく内容です。
一般的な回答例を記載しておりますが、あくまで医師や施設によってケースバイケースで異なる内容も含みますので、参考程度にご確認いただけますと幸いです。
Q.脳ドックは何歳から受けるべきですか?
A.一般的には40歳以降が目安です。ただし、家族歴や危険因子がある方は20〜30代から検討する価値があります。
Q.どれくらいの頻度で受ければよいですか?
A.異常がなければ40代は3〜5年に1度、50代以降は2〜3年に1度が目安です。異常所見があれば医師の指示に従います。
Q. 健康診断や人間ドックと併用できますか?
A.はい。人間ドックは全身評価、脳ドックは脳の精密評価という役割分担です。同日に両方受けられる施設もあります。
Q.結果はいつ届きますか?
A.施設によって異なります。当日説明+後日レポート郵送が一般的で、レポート到着までは1〜3週間程度です。
Q.結果に「経過観察」と書かれていたら、何をすればよいですか?
A.多くは定期的な再検査と生活習慣の見直しで対応します。指示された間隔で再受診をし、自己判断で中断しないことが重要です。
自分に適した医療機関で脳卒中・認知症リスクを管理
繰り返しになりますが、脳ドックは、自覚症状の出にくい脳の病気(無症候性脳梗塞、未破裂脳動脈瘤、大脳白質病変など)を早期に発見し、将来の脳卒中・認知症リスクを評価するための予防医学です。
脳卒中は発症すると数分で脳細胞が傷み始め、後遺症や介護の必要につながりやすいため、発症前のリスクを把握し、予防を行うことには意義があります。
さらに脳卒中は死亡や要介護に直結するだけでなく、認知症の主要な原因の一つでもあります。脳梗塞や脳出血を原因とする「血管性認知症」は認知症全体の約19%を占め、その最大の危険因子は高血圧をはじめとする生活習慣病です。しかし、こうした危険因子の多くは、脳ドックや健診で早期に把握し、管理することが可能です。
以上のような理由から、脳ドックの検査は、特に40代以降の方や、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病をお持ちの方、くも膜下出血や脳卒中の家族歴がある方にとっては、受診を検討する価値が高いといえます。
ご自身やご家族の年齢・生活習慣・家族歴といった状況を踏まえて検査の必要性を検討しましょう。
- 伊藤たえ先生

【専門医のここがポイント】
脳ドックは「受ければ安心」というものではなく、「自分のリスクに照らして必要かを判断し、結果を正しく解釈して行動につなげる」姿勢が欠かせません。脳卒中をはじめとする脳血管疾患の早期発見・早期対応、そして危険因子の管理こそが、寝たきりや認知症を回避し、健康寿命を伸ばす最大の鍵となります。
【コラム】脳ドックの歴史|日本独特の予防医学
脳ドックは、1980年代後半に日本で始まった独自に発展してきた検診方法です。具体的には、1988年(昭和63年)3月に新さっぽろ脳神経外科病院で未破裂脳動脈瘤の検出を主目的とする脳ドックが、同年8月には島根難病研究所でMRIによる無症候性脳梗塞・白質病変の検出を主体とする脳ドックが開設されたのが始まりとされています。
その後、1992年に「脳の人間ドック研究会」が発足し、1995年に「日本脳ドック学会」へと改称され、検査方法や精度管理の標準化が学会主導で進められてきました。
日本における脳ドックの普及の背景には、日本がMRI装置の人口あたり保有台数でOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも最高水準にあるという事情があります。日本ではMRI装置の台数規制や設置基準が緩やかで、医療機関が自主的に高額医療機器を導入できることもあり、人口100万人あたりのMRI台数は2020年時点で約57台とOECD加盟国中で最大規模となっています。
このように、MRI検査へのアクセスが他国に比べて容易な医療環境が、脳ドックという検診形態を成立させる土台となりました。一方で、海外ではMRIによる脳のスクリーニング検査は日本ほど一般化していません。脳ドックは「日本独特の予防医学」と位置づけられています。
日本では、MRI装置の普及と、脳卒中予防への社会的関心の高まりが結びつき、自由診療(公的医療保険の対象外)の検診メニューとして脳ドックが定着する文化が形成されました。脳血管疾患は日本人の主要な死因かつ介護原因の一つであり続けており、脳卒中の予防に対する関心の高さが、こうした受診文化を後押ししてきたと考えられています。
この記事の補足情報
参考文献
- 1.
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著者情報
- PROFILE/ プロフィール

伊藤 たえ
赤坂パークビル脳神経外科 菅原クリニック 東京脳ドック 院長 ■Profile 2004年 浜松医科大学医学部 卒業 2004年 浜松医科大学付属病院 初期研修 2006年 浜松医科大学脳神経外科 2013年 河北総合病院脳神経外科 2016年 山田記念病院脳神経外科 2019年 菅原脳神経外科クリニック 2019年 現職 ■所属学会 日本脳神経外科学会専門医 日本脳卒中学会専門医 日本脳ドック学会認定医
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