アルツハイマー病を知る

アルツハイマー病を知る

こんな症状はありませんか?

記憶障害

約束を忘れたり、何度も同じことを話す

遂行機能障害

段取り、要領が悪くなる

抑うつ

趣味にや物事に興味がなくなる

視空間機能障害・失行

図形の描写がうまくいかない、近所や家でも迷う

言語障害

言葉がなかなか出てこない

見当識障害

時間、場所、人物の認識ができなくなる

物盗られ妄想

財布を盗まれたと言ってさわぐ

アルツハイマー病の
サインかもしれません

アルツハイマー病とは

アルツハイマー病は、アミロイドベータと呼ばれる異常なたんぱく質の蓄積と神経原線維変化という脳内での2つの変化を特徴としており、進行性の認知機能低下を引き起こします。

アルツハイマー病の病態1

アミロイドベータの沈着
神経細胞の外にアミロイドベータがくっつきあって沈着する
神経原線維変化
タウ蛋白が過剰にリン酸化されて神経細胞内に蓄積し、線維のような構造をとる

1中島健二 他 編集:認知症ハンドブック第2版(医学書院), 2020, 502-503.

アルツハイマー病の
疫学的特徴2

米国では、65歳以上の10%がアルツハイマー病を有すると推定されている
アルツハイマー病の有病率は加齢とともに上昇する
女性では男性の2倍の頻度でみられる
アルツハイマー病による認知症当事者数は、世界的に今後も増加すると予想されている

2Alzheimer's Association: Alzheimers Dement. 2020; 16(3): 391-460.

アルツハイマー病と認知症3

アルツハイマー病を起因とする認知症がアルツハイマー型認知症であり、認知症の67.6%をアルツハイマー型認知症が占める

3朝田隆:都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応. 認知症対策総合研究事業(平成23年度~平成24年度)総合研究報告書.2013

長い時間をかけて少しずつ進行

アミロイドベータの沈着は、アルツハイマー型認知症の発症の20年以上前から始まっていることが知られています。アミロイドベータがたまり始める頃は、認知機能は正常で症状もありませんが、アミロイドベータが多くたまってくると神経細胞が障害されて認知機能が低下していきます。

アルツハイマー病が、長い時間をかけて少しづつ進行し、それぞれの症状を時系列で表した図。正常な認知機能(無症状) から、アルツハイマー病によるMCIを経て、アルツハイマー型認知症になっていく。それぞれ、アルツハイマー病の始まり:アミロイドベータの蓄積 → タウ蛋白質のリン酸化、蓄積の始まり:神経細胞の障害 → 脳の構造変化の始まり:脳の萎縮 → 症状の始まり:認知機能の低下 → 日常生活の支障
Jack CR Jr, et al. Neuron. 2013; 80(6): 1347-1358. を元に作成

アルツハイマー病は生活習慣病と同様に連続性のある疾患です。軽いもの忘れなどの症状があらわれるMCI(軽度認知障害)の状態を経て、日常生活に支障をきたすアルツハイマー型認知症へだんだんと進行していきます。

AD Continuum(アルツハイマー病連続体)と呼ばれます

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生

アルツハイマー病の症状

進行状況と認知症の症状

アルツハイマー病によって認知機能がどのぐらい低下し、どのような認知症の症状があらわれるかは、病気の進行状況(脳の変化の程度など)に応じて異なります。

「脳の変化と認知機能・症状」をまとめた表。詳細は後述で説明。
服部光男 監修:全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる!(成美堂出版), 2018, p.38 / 中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.566-568 / 医療情報科学研究所 編集:病気がみえる vol.7 脳・神経(メディックメディア), 2017, p.435 / 池田学 編集:認知症 臨床の最前線(医歯薬出版), 2012, p.148-149 を元に作成

中核症状と精神症状・行動障害(BPSD)

アルツハイマー病の症状は大きく2つに分けられます。

中核症状

すべてのアルツハイマー病にあらわれる症状です。初期には「最近の出来事が思い出せない(近時記憶障害)」「日付や曜日を正しく答えられない(時間的失見当識)」といった症状がみられます。

精神症状・行動障害(BPSD)

アルツハイマー病の一部にあらわれる症状ですが、病気の進行度合いによって目立つ症状は異なります。初期からみられる頻度が高いのは「意欲の低下」「物盗られ妄想」などです。

中核症状の種類と特徴

記憶障害

アルツハイマー病の初期にみられる「近時記憶障害」では、昔の記憶は保たれるものの、最近の出来事が思い出せない、新しいことが学習できないなどの症状があらわれることがあります。

時期 症状
初期
  • 物をおいた場所を忘れる
  • 出来事自体を忘れる
  • 約束を忘れたり、何度も同じことを話す
中期
  • 日本の首都が「東京」であることなど一般的知識を忘れる
  • 番号を聞いてすぐ電話したり、復唱するのが困難になる
  • 学生時代の出来事を忘れてしまう
進行期
  • 家事など、体得した技術や習慣も忘れる
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

見当識障害

「見当識」とは、「今がいつか(時間)」「ここがどこか(場所)」「目の前の人が誰か(人物)」など、自分が置かれている状況を把握する能力のことです。「見当識障害」では、時間→場所→人物の順番に認識ができなくなることが多いです。

時期 症状
初期
  • 日付や曜日を正答できなくなる(時間的失見当識)
中期
  • 自宅を含め自分のいる場所を認識できなくなる(場所の見当識障害)
進行期
  • 家族のこともわからなくなる(人物の見当識障害)
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

視空間機能障害・失行

私たちは目で見た情報を脳の中で分析して方向、距離、位置などを把握します。このようなことができなくなった状態を「視空間機能障害」と呼びます。
また、それまで当たり前にできていたことを1人で行うのが難しくなることを「失行」といいます。
アルツハイマー病の初期には、図形を書き写すのが難しくなるなどの障害がみられ、進行すると家の中でも迷ったり、着替えや入浴ができなくなったりします。

視空間機能障害
時期 症状
初期
  • 位置関係が把握困難になり、図形の描写などがうまくいかない
中期
  • 外出先でも帰宅困難になる
進行期
  • 近所や家でも迷う
失行
時期 症状
初期
  • 図形の模写が困難になる(構成障害)
中期
  • 着衣失行、観念失行※1、観念運動失行※2などがみられる

※1歯ブラシなど日常的に使うものが何かは理解できるが、実際に歯ブラシを渡しても正しく使えない状態。

※2「さようならの時のバイバイ」や「じゃんけんのチョキ」などの習慣的動作や 「歯磨き」などの日常生活の動作を自発的にはできるが、言葉で指示されるとできず、またまねることもできない状態。

進行期
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

遂行機能障害

「遂行機能」とは、目標を設定して計画を立案し、実際に行動して効果的に成し遂げる一連の機能です。アルツハイマー病の初期には作業が遅くなる程度ですが、進行期にはセルフケア(日常生活の自己管理)が困難になります。

時期 症状
初期
  • 周囲からみて作業が遅くなったと感じる程度に、段取り、要領が悪くなる
中期
  • 手段的ADLが困難になり、料理などの家事、仕事、ATMの操作を含めたお金の扱いなどがうまくいかなくなる
進行期
  • セルフケアが困難になる
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

※手段的ADL(手段的日常生活動作)
「基本的ADL」が食事、更衣、トイレ、入浴などをさすのに対し、「手段的ADL」は買い物、薬の管理、財産管理、乗り物など、日常生活上の複雑な動作をいいます。

言語障害

言語障害が進むと言葉によるコミュニケーションがうまくいかず、社会生活や介護に支障をきたすようになります。

時期 症状
初期
  • 適切な言葉がなかなか出てこなくなり(喚語困難)、「あれ」「これ」などの指示語が増える
中期
  • 自分から言葉を発することが減少し、言い間違い(錯誤)もみられる
進行期
  • 相⼿の⾔葉をオウム返しに言う「メガネ、ネネネネ」のように言葉の終わりを反復する、などの症状がみられる
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

精神症状・行動障害(BPSD)の種類と特徴

意欲の低下

アルツハイマー病の初期からみられ、頻度が高い精神症状です。他の精神症状や行動障害に比べ介護者が深刻に感じることは少ないのですが、本人がなにもしていない状態を放置すると、寝たきりや急激な認知症の進行にもつながります。

特徴
  • 積極的に参加していた老人会の役職を退いてしまう
  • 趣味が一年ごとに少しずつ減っていく
  • 社交的であったのに外出しなくなる
  • 身の回りの整内に無頓着になる

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.88-89

物盗られ妄想

アルツハイマー病の初期からみられ、頻度が高い精神症状です。介護者が攻撃の対象になりやすく、関係性が悪くなって自宅介護が破綻することもあります。

特徴
  • 誰かに財布を盗まれたという
  • 親戚や近所の人に「うちの嫁がお金を盗った」と訴える
    財布など大切なものの保管場所を忘れてしまい、自分で見つけられないことによって生じる

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.89-90

抑うつ

抗うつ薬による本格的な治療が必要なほどの抑うつ状態がみられることがあります。老年期の発症では、うつ病との鑑別が難しくなります。

特徴
  • 若年発病の場合は、就労中の方も多く、仕事上のミスが目立ってくるのを自覚したり、職場の人間関係がうまくいかなくなったりすることで、抑うつ状態を起こすことがある

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.90-91

徘徊、興奮・不眠、誤認症状

病初期ではなく病気が進行してから増加します。

特徴
徘徊
  • 一見目的無く歩き回っているようだが、「家に帰る」「仕事にいく」などの目的があって行動している
興奮・不眠
  • 興奮や不眠が起こることがある
  • 昼夜のリズムの逆転が背景にあることも多い
誤認症状
  • 鏡に映った自分に話しかける(鏡現象)
  • テレビの映像を現実の出来事と思い込む

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.91

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生

アルツハイマー病の検査

もの忘れ外来での診療の流れ

認知症診療などに対応した「もの忘れ外来」を設置している医療機関では、さまざまな専門的な検査を通してもの忘れの原因を調べることができます。
一般的な診療の流れとしては、問診で病状、生活歴、職業歴、教育歴、家族歴、治療歴、生活環境を聞き、診察、検査所見などを積み重ねて診断を確定していきます。

  1. STEP 1

    相談表記入本人家族

  2. STEP 2

    医師による問診・診察本人家族

    問診

    既往歴、家族歴、家族状況、生活史、症状や思いを尋ねる

    診察

    一般内科的診察

    • 神経学的診察
    • 神経心理学的診察
  3. STEP 3-A

    患者本人
    (神経心理検査)

    心理士による認知機能検査

  4. STEP 3-B

    家族

    医師による病歴の聴取と指導

  5. STEP 4

    画像検査

  6. STEP 5

    本人・家族への説明

監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.101-109を元に作成

アルツハイマー病を疑う場合に実施する検査

アルツハイマー病と診断するためには、まずさまざまな検査を行い、症状の原因となりうる他の疾患と鑑別(区別)していきます。ここで他の病気の可能性が除外された場合には、PET検査や脳脊髄液(CSF)検査によって脳内へのアミロイドベータの蓄積などを評価し、その結果を踏まえてアルツハイマー病と診断します。

問診からアルツハイマー病と診断されるまでの流れをまとめた図:問診 → 臨床診断(除外診断のための検査)神経心理学的検査、身体所見、血液検査、MRI/CT、SPECT → 必要に応じて PET検査、CFS検査 → アルツハイマー病と診断
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.521-522
岩田 淳:老年精神医学雑誌;33(7):643-648を元に作成

神経心理学的検査

認知機能を客観的に評価する検査です。多岐にわたる認知機能を短時間で簡便に評価できる「複合的認知機能検査」の代表的なものにMMSEやHDS-Rがあります。

神経心理学的検査の例
種類 内容
MMSE
Mini-Mental State Examination
  • 精神疾患における認知機能障害の測定指標として考案されたもので、認知症のスクリーニング検査として国際的に広く用いられている。
HDS-R
改訂 長谷川式簡易知能評価スケール
  • 認知症の診断補助を目的としたスクリーニングテストで、高齢者の負担軽減と日常生活動作の障害を配慮して動作性検査を排除している。
MoCA-J
Montreal Cognitive Assessment
  • 従来の認知症の簡易検査では健常範囲内と評価される被験者を対象に、主にMCIをスクリーニングする目的で開発され、臨床試験などで用いられることが多くなっている。
ADAS-Jcog.
Alzheimer's Disease Assessment Scale-cngnitive sub-scale
  • アルツハイマー型認知症の経時的な悪化を検出する指標として有用であると考えられている。
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.126-127を元に作成

MRI、CT検査

脳MRI、CTは脳の断面を撮影して脳の萎縮を評価する検査であり、アルツハイマー病では「海馬(かいば)」という領域の萎縮が特徴的です。

検査概要
  • MRIは強力な磁石と電波、CTはX線を使って、いずれも脳の断面を投影する
  • アルツハイマー病初期は海馬を中心とした側頭葉の内側部の萎縮が、進行とともに側頭頭頂葉から脳全体に萎縮が目立つようになる
  • MRIでは初期に見られる海馬の軽微な萎縮も確認できる
脳断面図
健康な人の脳とアルツハイマー病の人の脳の脳断面図。(それぞれの水平断と冠状断で、脳に違いが見られる)
画像提供:東京医科大学 高齢診療科 兼任教授 羽生 春夫 先生
監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生

SPECT検査

脳血流の状況を可視化することができる検査で、早期診断や鑑別診断に有効です。

検査概要
  • 微量の放射線を含む薬剤を体内に注射した後、その体内分布状況を画像化する
  • 認知症の疾患特異的な血流低下パターンがみられるため、早期診断や識別診断に有効である
  • 初期は海馬、頭頂葉、後部帯状回と呼ばれる領域の血流が低下し、進行とともに脳全体の血流低下が目立つようになる
  • 若年性アルツハイマー病の補助診断として重要である
アルツハイマー型認知症のSPECT画像
画像統計解析で、さまざまな角度からの血流が低下している部分に色をつけてわかるようにしたSPECT画像。
日医雑誌, 2018 147(特2):S200-203
池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.94-95

PET検査

脳病理※1から機能的変化※2を評価する検査で、アミロイド、タウ蛋白の分布状態を可視化することができます。

※1脳の組織や細胞の病的変化

※2脳の形態は保たれているが、働きが障害されていること

検査概要
  • 神経細胞などが取り込む性質を持つ薬剤を体内に注射した後、薬剤に含まれている微量の放射線の分布状況を画像化する
  • ただし、アミロイドPET、タウPETの撮影は保険未適用である
核医学検査(PET検査)と他の画像検査の違い
核医学検査とX線検査の違いを比較した図。X線検査では、体内を通過するX線の強さを画像化しますが、核医学検査では、体内の放射線同位元素の分布を画像化します。
監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生
一般社団法人 日本核医学会, 公益社団法人日本アイソトープ協会:PET検査Q&A(改訂4版)を元に作成

腰椎穿刺(脳脊髄液検査)

脳脊髄液を採取してタウ蛋白やアミロイドベータの量を測定する検査ですが、頭痛の合併症が生じる可能性があります。

検査概要
  • 背部から穿刺針を刺して、脳や脊髄の周りにある脳脊髄液を採取する
  • 神経細胞にアミロイドベータが蓄積すると脳脊髄液中のアミロイドベータが減少し、神経細胞機能に障害が発生すると脳脊髄液中にリン酸化タウ蛋白が放出される
  • 脊髄を刺さないので痛みはなく、基本的に安全な検査だが、頭痛(腰椎穿刺後頭痛)が生じることがある
脳脊髄液(CSF)検査の採取イメージ
腰椎穿刺:腰椎内のくも膜下腔に背部から穿刺針を刺し脳脊髄液を採取。被検者の体位:前かがみの姿勢で穿刺しやすい体位をとる。体位は、座位や側臥位などがある。
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.176 / 松下亮一編集:月刊ナーシング 2009年4月増刊号.(学習研究社), 2009, p.200-201

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生

アルツハイマー病の治療

治療の種類(薬物治療と非薬物療法)

アルツハイマー病による認知機能低下や精神症状などに対して、薬物治療または非薬物療法を用いて治療します。実際の臨床現場では、両者をうまく組み合わせながら治療にあたっています。

認知機能への薬物治療

  • 病気の進行を完全に止めることはできないものの、症状の改善や進行を遅らせる効果が期待されています。
  • 生活の困難さを軽減し、家族や介護する方の負担を軽くすることにもつながります。

精神症状への薬物治療

  • 精神症状に対しては、まずは個々の症状の特徴を見極め、家族・介護者などによるはたらきかけ(ケア)の工夫によって症状改善を目指します。ただし、ご本人の苦痛や家族の介護負担の程度によっては薬物治療を行うこともあります。

非薬物療法

  • 感情や運動機能など保たれている機能を介して患者さんにはたらきかけることにより、認知機能や身体機能の低下を防いだり、精神的な安定が期待できます。
  • 昼夜のリズムを整えるなど、環境を調整します。

薬物治療

認知機能に対してはコリンエステラーゼ(ChE)阻害薬またはNMDA(エヌエムディーエー)受容体拮抗薬、精神症状に対しては抗不安薬、抗うつ薬などの向精神薬を使用することがあります。

認知機能に対する薬物治療

コリンエステラーゼ(ChE)阻害薬

脳内の神経伝達物質の一つである「アセチルコリン」の減少を防ぎ、神経細胞内の情報伝達を活発にします。

NMDA受容体拮抗薬

脳の興奮に関わる神経伝達物質「グルタミン酸」の受容体にフタをして、神経細胞の過剰な興奮⇒死滅を防ぎます。

精神症状に対する薬物治療

  • 抗不安薬
  • 抗うつ薬
  • 抗精神病薬など

精神症状に対する薬物治療

アルツハイマー型認知症でみられる精神症状は、症状によってあらわれる時期(発現時期)、症状の程度、薬の効果も異なります。ですから、ケアの工夫だけでは十分でないと判断して薬物治療を行う場合には、個々の症状の特徴や薬の効果・安全性をよく検討したうえで、その方に適した薬を選択します。

アルツハイマー型認知症でみられる精神症状はさまざま

発現時期
  • 一時的なものから比較的長く続くものまである
症状の程度
  • 軽いものから介護の破綻をきたすほどのものまである
薬の効果
  • 効きやすいものから効果がまったくないものまである
アルツハイマー型認知症の
精神症状に対する薬の効果
薬が効く

妄想・興奮・不眠

やや薬が効く

抑うつ・不安

薬が効かない

意欲の低下・徘徊

池田学:認知症ー専門医が語る診断・治療・ケア (中公新書), 2010, p.98-99

非薬物療法

ご本人の状態や性格、職業、趣味などに合わせて、作業療法、音楽療法、回想法、アロマセラピー、園芸療法、レクリエーションなどを行います。たとえば、農業に長く従事していた方であれば、ある程度認知症が進行していても園芸療法で効果がみられることはよくあります。一方で、都会育ちで土いじりに興味のない方にとっては苦痛になるだけかもしれません。その方その方に合った方法を選択することが重要です。

対応
  • 感情や運動機能など、保たれている機能を介して患者さんに働きかける
効果
  • 認知機能・身体症状の低下予防
  • 精神的な安定
重要なポイント
  • その方の保たれている機能と低下している機能とを明らかにしたうえで、治療の目的をはっきりさせて実施すること

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.101-103を元に作成

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生

介護・ケア

介護にあたっての基本的な考え方

介護にあたって重要なのは、尊厳を守ること、できることは本人に任せること、根本原因を考えること、そして介護者も休息を取ることです。

尊厳を守る

認知症の方を子供扱いせず、介護する方々が、もし自分が認知症になった時にしてほしいと思えるようなケアを。

根本原因を考える

根本原因が解消されない限りまた似たような症状が出るため、介護スタッフやケアマネージャー、医師と話し合って根本的な解決を図る。

できることはご本人に

それぞれの認知症の特徴をよく理解して、苦手なことは手助けし、得意なことは本人に任せることで本人の自尊心が保たれる。

介護する方も休息を

介護者が元気で穏やかな気持ちでいてこそ良い介護につながるため、困った時は担当のケアマネージャーや地域包括センターに連絡を。

監修:高知大学 医学部 神経精神科講座 教授 藪井 裕光先生

主な症状に対する適切な対応

主な症状を理解した上で、適切な対応を取ることが重要です。

記憶障害への対応

本人にとって「記憶にないことは事実ではない」ため、たとえば、同じことを聞かれても感情的にならず、できるだけ初めて聞いたように丁寧に接する。

時間や場所がわからなくなった場合

日めくりカレンダーや時計を目立つところに置く、部屋やトイレの場所がわかるように入口を目立たせる表示をするなどの工夫を。

計画通りに物事を行えない場合

本人が言い出しづらいこともあるので、見守って適切なタイミングで助言したり、一緒に作業したりすると効果的。

理解、判断力が低下した場合

プライドを傷つけない、本人を否定しないことが大切。「本人に悪気はない」ことを十分に理解して、さりげなくフォローする。

精神状態への対応

症状によって対応は異なり、デイサービスなどを利用して活動性を維持する。本人が言うことを否定しない、同時にたくさんのことを言わないなどをして、本人と良いコミュニケーションを取る。

監修:大阪大学大学院 医学系研究科 精神医学分野 教授 池田 学 先生

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生

予防・日々の心がけ

脳の機能と加齢による認知機能の変化

脳は、私たちの体の活動をコントロールしている司令塔ですが、とくに記憶力、思考力、判断力などをつかさどる脳の機能は、日常生活の中で重要な役割を果たしています。

多彩な脳の動き:ものを作る、新しいことを考え出す、運動する、知覚する、話す、考える、判断する、聞く、見る
脳の機能とは:理解、判断、論理などの知的活動をつかさどり、充実した日常生活・社会生活を送るうえで、どの年代にも大切な機能。 外からの情報 → 判断・計算・理解・学習・思考・言語など知的機能を働かせる → 充実した日常・社会生活
年齢と認知機能の関係(年齢と認知機能の関係グラフ):青年期 より効率的に正確に仕事をこなし、多様な社会生活の中でスムーズに生活を営む能力、壮年期 仕事において中心的な立場から、さまざまな指示や決断を下す能力、老年期 加齢による物忘れや集中力不足によるうっかりを防ぐ能力
監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生
SchaieK.W, et al. NeuropsycholDev CognB Aging NeuropsycholCogn. 2004 June ;11(2-3): 304-324.を元に作成

脳の機能は全てのライフステージにおいて欠かせませんが、
働き盛りの世代から少しずつ衰えが始まっています

年齢とともに心身の機能は低下していきます。気づきにくいですが、脳も働き盛りの世代から衰えが進んでいきます。もの覚えがわるくなったり、人の名前が思い出せなくなったり。こうした「もの忘れ」は脳の自然な老化によるもので、突然起こるものではありません。
一方、何らかの原因で脳の神経細胞が減少すると、認知症と呼ばれる状態にいたることもあります。
できるだけ早いうちから、体と同じように脳の変化を意識することが重要です。
また、加齢だけでなく、運動不足・喫煙などの生活習慣が脳の変化につながるとも言われています。

認知症リスクの低減

認知症リスクを低減させるための12のポイントが、WHO(世界保険機構)から提示※1されています。

※1https://www.who.int/publications/i/item/9789241550543 (最終閲覧日: 2023年8月30日)

身体活動

65歳以上では、身体活動を10メッツ・時/週※1毎日40分(横になったまま、座った以外)が目安とされている

※1安静時を1メッツとした活動の強度で、「メッツ・時/週」は1週間あたりのメッツと時間をかけた値。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf(最終閲覧日: 2023年8月30日)

禁煙

禁煙は認知機能低下と認知症のリスク低減する可能性があるため、禁煙が強く勧められている

健康的な食事

食事が認知症や認知症のリスクを高める病気に影響していることから、健康的なバランスのとれた食事が勧められている

多量飲酒の減量・中断

多量のアルコール摂取が認知症の危険因子であることから、危険で有害な飲酒の減量または中断が勧められている

体重の管理

中年期の過体重と肥満、老年期の痩せは認知症の危険因子であるため、適正な体重を目指すことが大切

高血圧の管理

中年期の高血圧は認知症のリスクを高め、高血圧は脳心血管病の危険因子であるため、高血圧管理を行うべきである

糖尿病の管理

高齢期の糖尿病、糖尿病の合併症は認知症リスクを高めるため、糖尿病の管理を行うべきである

脂質異常症の管理

認知機能低下や認知症発症のリスク低減につながるため、中年期の脂質異常症の管理は行ってもよいとされている

うつ病への対応

うつ病は認知機能低下や認知症に関連しているため、うつ病のガイドラインに従った対応が勧められている

難聴の管理

難聴は認知症の危険因子であるため、コミュニケーション能力改善のために補聴器を提供すべきであるとされている

認知トレーニング

認知機能が正常、またはMCIの高齢者に対して、認知症リスク低減のために認知トレーニングを行ってもよいとされている

社会活動

社会活動は科学的証拠が十分ではないものの、一生を通じて社会と関われるように支援することは必要とされている

世界保険機関(WHO):認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドライン, 2019

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生

早期診断・早期治療の重要性

MCIから認知症への移行の予防

アルツハイマー病は、MCIの段階から介入することで、認知症への移行を遅らせることが期待できます。また、ご本人の理解力や判断力がより保たれている状態で将来の備えを行うこともできます。

早期介入の重要性

アルツハイマー病による
認知症への介入
薬物治療(対症療法)
認知症症状の進行抑制、BPSDの軽減
周囲の理解・適切な対応
ご本人の社会・日常生活への対応
今後の生き方や
資産管理などの備え
症状の進行に応じた今後の生活についての準備、適切な介護サービス
より早期からの介入へ
アルツハイマー病による
MCIへの介入
リスク要因の特定と適切な介入による認知機能の維持・回復の可能性
例:認知症発症と関係のある生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の対策⇒適切な運動・食生活・薬物治療など
将来への備え(ご本人の意思をより反映したものに)
例:今後の治療方針、将来の介護プラン、就労の継続、社会交流、余暇の過ごし方など

中島健二他編集: 認知症ハンドブック第2版.(医学書院), 2020, p.495-497を元に作成

早期診断はすべての認知症診療・ケアの出発点

アルツハイマー病に限らず、どのような病気が原因であっても、早期診断が適切な対処方法・ケアの選択の基礎になります。また、早期診断・早期治療によって入院や入所の時期を遅らせることもでき、医療費や介護費用の軽減につながります。

早期鑑別

  • 原因となる病期固有の症状を把握でき、適切な対処方法、ケアプランを選択できる

本人の意思の尊重

  • 本人の意思や判断をくみ取ることが困難になる前に、意思を確認することができる

認知症の進行の遅延

  • 早期に治療を始めれば、長い期間、家族や地域の中で暮らすことができる
  • また、本人の不安や混乱の軽減につながることもある

BPSDの出現の軽減

  • 精神障害や行動障害(BPSD)に対する適切な対応を把握して準備することができ、激しいBPSDの出現を抑えることができる
  • その結果、入院や入所の時期を遅らせることができる

家族・介護者のQOL(生活の質)の維持

  • 正しく疾患を理解することができ、予測できる症状に対するケアに要するエネルギーが減る
  • きちんとした医療が節目節目にかかわることができ、生活の質が豊かになる

池田 学:認知症-専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.32-34を元に作成

MCIからの回復(リバート)の可能性

MCIを引き起こす原因はさまざまです。原因によっては現状が保たれたり、回復したりすることもあるため、MCIの方が必ず認知症になるわけではありません。これまでさまざまな研究が行われ、1年で16~41%の人が健康な状態に戻ったとの報告もあります4
MCIのうちに発見し、早期に対策を行うことで、改善がみられたり、発症を遅らせられる可能性があります。

4日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017(医学書院)2017, p.147

MCIの原因

MCIの原因として最も多いと考えられているのは、「アルツハイマー病によるMCI」です5。一方で、MCIは認知症を引き起こす脳の病気だけでなく、体や心の問題でも起きることがあります。

5厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究
「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度総合研究報告書

MCIの原因として挙げられる主な病気は、アルツハイマー病、血管性疾患、レビー小体病などがあり、その他、体や心の問題(うつ病・不安・ストレス・ビタミン・甲状腺ホルモン不足・薬の副作用など・睡眠時無呼吸症候群・てんかん など)もある。

MCIの認知機能の軸跡とアウトカムの関係

図表:認知症レベル(正常値機能、MCI、認知症)は、時間の経過により、MCIリバーター、stable MCI、MCIコンバーターと変化していくことを表した図。
監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生
日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017, 医学書院, p147, 2017を元に作成

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生