- 記事監修:
- 東京都健康長寿医療センター 副院長 岩田 淳 先生
「ちょっとしたもの忘れが増えてきた」、「料理や洗濯などの家事に以前よりも時間がかかる」・・・そんなことありませんか?
ご自身やご家族が「またやってしまった /
またやっている」と感じていながらも、生活はできているからと受け入れてしまっているささいなミスや失敗。それは、年齢によるものでも、認知症でもなく、「MCI(Mild
Cognitive
Impairment:軽度認知障害)」という状態のサインの可能性があるのです。
認知症への一歩手前とも言われることもあるMCI。放置すると、1年で約5〜15%の人が認知症に進行すると考えられています1)。その一方、適切な予防をすることで現状が維持でき、さらには適切な対策により健康な状態に戻る可能性も十分にあることも特徴です。このサイトでMCIを正しく理解して、適切な予防や対策について知ってください。
MCIを知る
MCI(軽度認知障害)の概念
MCIは、年齢相応の老化に伴って認知機能が低くなっている状態と、認知症の間に位置する、グレーゾーンの状態を指します。
一般的に加齢に伴って認知機能は低下しますが、MCIが存在する場合は「自然な老化」以上に認知機能が低下します。認知機能は低下している一方、日常生活に支障が生じるほどの大幅な低下でない、認知症の一歩手前の状態です。
年齢に応じた認知機能の変化
Forlenza OV, et al.BMC Med.2010;8:89.を元に作成
3つの違いについて、詳しくはこちら「認知症について知ろう(種類・違い)」
MCIの臨床的な定義1)
- 記憶障害の訴えがご本人またはご家族から認められている
- 客観的に1つ以上の認知機能(記憶、遂行、注意、言語、視空間認知)の障害が認められる
- 日常生活動作は正常
- 認知症ではない
MCIの原因
MCIの原因として最も多いのはアルツハイマー病だと言われています2)が、血管性疾患、レビー小体病など原因はさまざまです。
背景にある原因によっては、適切な治療や対策を行うことで認知症への進行を遅らせることができるだけでなく、認知機能を戻せる可能性もあります。
MCIの原因
日本神経学会監修:
認知症疾患診療ガイドライン2017、
医学書院、p6、2017
Alzheimer’s Society.Factsheet 470LP August 2015 https://www.alzheimers.org.uk/sites/default/files/pdf/factsheet_what_is_mild_cognitive_impairment_mci.pdf(accessed 2022 Jun)より作成
MCIの疫学的特徴
- 2022年時点、日本国内の患者数は約559万人と推計3)
- 65歳以上の有病率は15~25%4)
- 1年間に新たにMCIと診断される人数は、1000人あたり20~50人4)
- 男性よりも女性の方がMCIから認知症に進行する割合が多い5)
- 1)
- Albert MS, et al: Alzheimers Dement.2011;7:270-279
- 2)
-
厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究
「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度総合研究報告書 - 3)
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」令和6年12月
- 4)
- 日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017, 医学書院, p145, 2017
- 5)
- Iwata A, et al: Alzheimers Dement (N Y).2018;4:765-774
- 記事監修:
- 東京都健康長寿医療センター 副院長 岩田 淳 先生
MCIの症状
MCI(軽度認知障害)の症状
MCIになると、日常生活には問題ないものの、もの忘れをしたり複雑な動作をこなしにくくなったりします。
MCIは、一般的に記憶力が低下することが多いですが、それ以外にも複雑な動作を伴う仕事や家事などを行う場合は、完了までに時間がかかったり、以前と同じようにはできなくなったりすることがあります。食事や入浴なども問題なく、自立して生活を送れていたとしても、上記のような出来事が身近に感じるようになったら注意が必要です。
もしかして・・・?実生活でのMCIの症状とは
MCIの症状について、詳しくはこちら「MCIから認知症への進行・症状経過」
- 記事監修:
- 東京都健康長寿医療センター 副院長 岩田 淳 先生
MCIへの対処
早期に適切な対策を行うことで、認知症の発症を遅らせられる可能性があります。「MCIは早期発見が重要」と言われているのはこのためです。早い段階で発見し、対策をすることで、認知症の症状が現れないまま最期を迎えるケースもあります。
ここからはMCIの改善に有効と考えられている具体的な対策を紹介します。紹介する対策は、アルツハイマー病によるMCIだけでなくMCI全般を対象とするものです。
MCIの改善
検査の結果MCIと診断されたら、認知症の発症を遅らせるために、運動や食事の改善などを検討します。
食事の見直しや、運動を取り入れること、糖尿病やメタボリックシンドロームなど認知症の発症に関連するリスク因子の治療を行うことで、認知症の発症を遅らせるほか、認知機能の維持、改善が期待できます。
MCIの改善について、詳しくはこちら「軽度認知障害(MCI)改善のための対策とは?」
食事によるMCIの対策
食事や栄養は認知機能の低下と関連しています。WHOガイドラインでは、食事が認知症や認知症のリスクを高める病気(脳血管疾患や糖尿病など)に影響しているとし、健康的な食事は認知症を予防する可能性が高いとしています。
日本では厚生労働省のスマート・ライフ・プロジェクト(https://kennet.mhlw.go.jp/slp)において、健康な心身の維持・増進に必要とされる栄養バランスを基本とする食生活が、無理なく維持している状態を「健康な食事」とし、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を推奨しています。
運動によるMCIの対策
適切な運動は生活習慣病や脳卒中の予防にとても有効ですが、認知症への治療としてもその有効性が多く報告されています1) 。
運動の種類には有酸素運動、筋力強化訓練、平衡感覚訓練などがあります。これらの複数種類を組み合わせたプログラムを週2回〜毎日、20〜75分程度行う内容が報告されています。運動機能を高めることで寝たきりや転倒のリスク低減も期待できます。
頭を使うこと(知的活動)によるMCIの対策
「考える」「記憶する」「判断する」などの知的機能をよく使うことで脳の働きを活性化し、認知機能を維持します。特別な道具や知識がなくても、普段の生活で実践できます。
知的活動の例
- 本や新聞を読む
- 語学などを勉強する、習得する
-
将棋・囲碁などのボードゲーム、
カードゲーム、パズルなどを楽しむ - 絵を描く、編み物をする、工作するなど
-
買い物の清算前にお金を計算する、
食事の献立を考えるなど、
生活の中で積極的に頭を使う
MCIの診断
まずは認知症かどうかの診断をするために問診と神経心理学的検査を実施し、ご本人やそのご家族が訴える症状が、年齢に伴う正常な変化なのか、MCIに該当するのかなどの診断を行います。
病歴や服薬歴の聴取を通じて、薬剤やアルコール起因の症状、うつ病、意識障害などとも鑑別することも重要です。これらの可能性を除外した後に、脳血管性認知症やアルツハイマー病などの神経変性疾患に起因する認知症の詳細な鑑別診断を行います。
日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017, 医学書院, p37, 2017より作成
- 1)
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』(第1版)p.28
診断の流れについて、詳しくはこちら「病院に行く前に知っておきたいこと(検査・診断)」
MCIは早期に発見し、
原因に応じた治療や生活習慣の見直しが重要です。
まずは専門医に相談してみましょう。
- 記事監修:
- 東京都健康長寿医療センター 副院長 岩田 淳 先生
予防・日々の心がけ
MCI(軽度認知障害)にならないために
今の生活を少しずつ変える
MCIは認知症へ進行する一歩手前の状態で、
1年で5〜15%の人が認知症へと進行することが知られています1,2)。糖尿病や高血圧、脂質異常症などが併存している場合、認知症への進行リスクはさらに高まります。
しかし、必ずしも全員が認知症へ進行するわけではありません。生活習慣の見直しや認知機能向上のための活動を行うことで、MCIのまま維持する、または認知機能が正常な状態に回復する可能性もあります。
- 1)
- Bruscoli M, et al: Int Psychogeriatr. 2004; 16(2): 129-140
- 2)
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』(第1版)p.11
普段の食事を見直す
食事は健康の維持や病気の発症・抑制にも重要であり、食事の内容や栄養が認知症のリスクと関わっていることが多くの研究で報告されています。
例えば、炭水化物を多く含む高カロリー食や低タンパク食、低脂肪食は、MCIや認知症のリスクを高める可能性があります3)。一方で、大豆や野菜、藻類、牛乳・乳製品の摂取は、認知症のリスクを軽減する効果が期待されます4, 5)。
どの食品や栄養素が最も効果的であるかについては、まだ明確な答えは出ていません。しかし、毎日の食事に気を使い、バランスの良い食生活を心がけることが大切です。
認知症やその他の健康リスクに対する予防として、食生活の見直しを検討することをおすすめします。特に中高年の方々は、これからの健康や認知機能のために、今からでも適切な食生活を取り入れることが大切です。
- 3)
- Roberts RO, et al: J Alzheimers Dis. 2012; 32(2): 329-339
- 4)
- Ozawa M, et al: J Am Geriatr Soc. 2014; 62(2): 1224-1230
- 5)
- Ozawa M, et al: Am J Clin Nutr. 2013; 97(5): 1076-1082
食生活の見直しについて、詳しくはこちら「『健康的な食事』認知機能を維持させるポイント」
運動を取り入れる
身体を動かすことが認知機能にさまざまな影響をもたらすことが、近年明らかになっています。
高齢者にとって、運動は筋肉や骨などの機能を保持し、脂質代謝を改善するだけでなく6)、有酸素運動や筋トレを行うことで認知機能の向上や記憶の維持が期待できるとされています7)。
定期的な運動によって、アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の発症率が低下する可能性があると報告されています8, 9)。
特別なトレーニングは必要なく、ウォーキングや軽いジョギング、筋トレなどを日常に取り入れるだけで十分な効果が期待できます。さらに、運動中に計算やしりとりなどのデュアルタスクを取り入れることで、運動をしながら脳の活動をさらに活性化させることが期待できます。
- 6)
- 島田 裕之ら: 日本基礎理学療法学雑誌. 2015; 18(2): 13-18
- 7)
- 土井 剛彦ら: 運動疫学研究. 2017; 19(2): 102-109
- 8)
- Morgan GS, et al: J Alzheimers Dis. 2012; 31(3): 569-580
- 9)
- Sofi F, et al: J Intern Med. 2011; 269(1): 107-117
運動の取り入れ方について、詳しくはこちら「『身体活動』認知機能を維持させるポイント」
血糖の適切なコントロールを意識する
脳や認知機能に関連するMCIと血液の中の糖が多くなる糖尿病に関係がないよう感じられるかもしれません。しかし、MCIと糖尿病が併存していることは、両方の症状に対してさまざまな悪影響を及ぼします。
- 糖尿病患者は、認知症に至らない程度の認知機能の低下が起こりやすい10)
- 糖尿病の予備軍を含めてMCIが併存している場合は、認知症への移行率が高くなる11)
- 認知機能の低下は糖尿病の低血糖症状のリスクを約2倍にし、血糖コントロールが難しくなることで、患者本人のQOLの低下を引き起こすリスクが高まる悪循環に陥る12)
血糖値に異常がある場合は、できるだけ早く糖尿病の治療を開始しましょう。また、すでに糖尿病を患っている場合は、MCIであることをかかりつけ医に伝えた上で、適切な血糖コントロールを行いましょう。
- 10)
- Palta P, et al: J Int Neuropsychol Soc. 2014; 20(3): 278-291
- 11)
- Xu W, et al: Diabetes. 2010; 59(11): 2928-2935
- 12)
- 永渕 美樹ら: 日本糖尿病教育・看護学会誌. 2019; 23(2): 175-181
糖尿病の管理について、詳しくはこちら「『糖尿病の管理』認知機能を維持させるポイント」
メタボリックシンドローム※ を改善する
MCIでメタボリックシンドロームの診断を受けている方は、生活習慣や食事の見直しが必要です。
中年期におけるメタボリックシンドロームは、認知機能の低下とも関連があることが研究により報告されています13)。
- MCIとメタボリックシンドロームが併存している患者では、認知症に進行するリスクが高い14)
-
MCIの時期に高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療を行った場合、治療していない場合と比較
してアルツハイマー型認知症への移行率が低い15)
メタボリックシンドロームの原因となる疾患やリスク因子の治療・管理を積極的に行うことで、認知症への進行を予防・抑制する可能性があります。運動や食生活を整え、日常生活の中での自己管理の徹底を心がけましょう。
- ※
- メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪蓄積に加え、血圧・血糖・血清脂質のうち2つ以上が基準値から外れている状態を指します16) 。
- 13)
- Yates KF, et al: Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2012; 32(9): 2060-2067
- 14)
- Panza F, et al: J Alzheimers Dis. 2010; 21(3): 691-724
- 15)
- Li J, et al: Neurology. 2011; 76(17): 1485-1491
- 16)
-
山岸良匡「メタボリックシンドロームの診断基準」(厚生労働省健康づくりサポートネット)
[https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-01-001]
その他の認知機能を維持するポイントについて、詳しくはこちら「認知機能を維持向上させる12のポイント」
- 記事監修:
- 東京都健康長寿医療センター 副院長 岩田 淳 先生
ケア
家族にMCI(軽度認知障害)の
方がいる場合の配慮
MCIは年齢相応の認知機能より低下している状態であるものの、日常の基本的な生活動作はご自身でこなすことができます1)。そのため、MCIの方がご家族にいるとしても、必ずしも日常的な介護やサポートが必要なわけではありません。しかし、MCIが進行して認知症になってしまうと、サポートがないと日常生活が送れなくなる可能性が高くなります。
MCI以外の病気でセルフケアが
必要な場合
MCI以外の病気で、注射をご自身で打つなどセルフケアが必要な治療を受けている場合は、周囲の方からのサポートが必要な場合もあります。認知機能が低下したことによって、セルフケアが適切に行われず、予後の悪化や症状の重症化が起こる可能性があるためです。さりげなく注射の打ち方を確認したり、受診時に医師や看護師からの指示内容を改めて確認し合ったりするなど、ご本人のできることを見極めながら、状態に合わせたサポートを行ってください2)。
MCIにとって必要な習慣
他の病気がある場合だけでなく、日ごろの習慣としてカレンダーやノートに予定や出来事についてメモをとるようにしてみましょう。ご本人の自己効力感の向上や日常生活の基本的な動作を改善し、介護をする周囲の人々の負担も軽減することが示されています3)。もしMCIが進行して認知症になってしまった場合も、メモをとるという習慣が助けになることが期待できます1)。
将来のための心構え
MCIは、認知症へと進行するか、元の健康な状態に戻るか、将来どうなるか分からない状態です。その不確実ななかで、ご本人やご家族が日常の生活や食事の習慣を見直し、健康を取り戻すための一歩を踏み出すことも非常に重要です。
しかし、どうしても認知症へと進行してしまう場合もあります。そういった場合も想定し、定期的な通院で医師としっかりとコミュニケーションをとりながら、介護や支援のアドバイスを受けて認知症に備えることも重要です1)。
- 1)
- 日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017, 医学書院, p159, 2017
- 2)
- 永渕 美樹ら: 日本糖尿病教育・看護学会誌. 2019; 23(2): 175-181
- 3)
- Greenaway MC, et al: Int J Geriatr Psychiatry. 2013; 28(4): 402-409
認知症の方の介護について、詳しくはこちら「介護に当たっての基本的な考え方」
- 記事監修:
- 東京都健康長寿医療センター 副院長 岩田 淳 先生
早期診断・早期治療の
重要性
認知症へ進行した場合の
症状と
生活への影響
認知症は、さまざまな原因により脳の高次機能が複数障害され、自分の置かれた状況に対しての判断や行動ができなくなる状態のことを指します。このとき、妄想や幻覚などをはじめとした行動・心理症状が起こり、ご本人だけでなく、ご家族や介護者にも大きな負担をもたらし、生活の質(QOL)を大きく損なうことがあります1)。特に、認知症は一度進行してしまうと、症状の回復や改善が難しく、後戻りができないとされています。
アルツハイマー病による認知症
MCIの段階での早期診断・
早期治療の重要性
MCIは放置すると、1年で5~15%の人が認知症に移行することがある一方で、1年で16〜41%の人が健康な状態に戻ったとの報告もあります2)。
MCIの段階でその諸症状に気づき、対策や治療を行うことで、認知症への進行を遅らせるだけではなく、健康な状態へ回復する可能性もあります。また近年、アルツハイマー病によるMCI又は軽度認知症に対しては、進行抑制が期待される治療薬も承認されています。
加齢と認知機能
日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017,医学書院,p147,2017より作成
ご自身やご家族のちょっとした変化に気づいたら、そのサインを軽視せず、早めに病院を受診しましょう。MCIの段階での早期診断と治療は、ご本人だけでなく、ご家族の将来にも大きな影響を与えます。
一人一人の健やかな日常を守るために、早期の行動が鍵となります。
- 1)
- 日本認知症学会:認知症テキストブック, 中外医学社, p9, 11, 2014
- 2)
- 日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017, 医学書院, p147, 2017
認知症の気づきチェックリストを試してみる「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」
- 記事監修:
- 東京都健康長寿医療センター 副院長 岩田 淳 先生