リアリティ・オリエンテーションとは|効果・やり方・声かけ例を解説

リアリティ・オリエンテーション(RO)は認知症ケアで用いられる非薬物療法のひとつです。時間や日付など身のまわりの基本的な情報理解をサポートし、見当識障害やそれによる不安を緩和する目的で取り入れられています。
この記事では、24時間リアリティ・オリエンテーションとクラスルームリアリティ・オリエンテーションの2種類のやり方、声かけのOK例とNG例、効果のエビデンス、家族・看護現場での実践方法を認知症サポート医の越後谷直子先生が解説します。
リアリティ・オリエンテーション(RO)とは|認知症ケアの非薬物療法
リアリティ・オリエンテーション(Reality Orientation:RO)とは、今日の日付や季節、今いる場所などの身のまわりの基本的な情報についての質問を繰り返し、見当識障害を解消するための訓練です。1960年代にアメリカのFolsomらによって提唱された非薬物療法で、現実見当識訓練とも呼ばれています。
見当識障害は認知症でみられる症状の1つで、今いる場所や時間、人間関係などが分からなくなる状態のことです。見当識障害が進行すると、自宅や施設にいても今いる場所がどこか分からない、よく知っている場所で迷子になるなどの状態に陥り、不安や混乱を招きやすくなります。
リアリティ・オリエンテーションは、質問を通して「今日は何日か」「今どこにいるのか」といった現実への認識を深め、対人関係や協調性の改善、脳の残存機能に働きかけることで認知症の進行を遅らせることを目的として行われます。
リアリティ・オリエンテーションの効果とエビデンス
リアリティ・オリエンテーションは認知症のご本人の見当識に働きかける効果が期待できます。期待できる効果やエビデンスを具体的に解説します。
見当識の改善・不安や混乱の軽減
リアリティ・オリエンテーションで繰り返し現実の情報に触れることで、見当識の改善や、見当識障害による不安を軽減する効果が期待できます。
見当識障害が起こると、今いる場所や側にいる人など自分が置かれている状況を正しく認識できず、不安や焦燥感を感じ、混乱しやすくなります。リアリティ・オリエンテーションでは、今は何月何日で、自分がどこにいて、何をしているのかなどを繰り返し確認するため、ご本人が状況を把握して安心しやすくなるのです。
不安や焦燥感は、暴言・暴力やひとり歩きなどの認知症の行動・心理症状(BPSD)を誘発する要因のひとつです。リアリティ・オリエンテーションで不安や焦燥感を軽減することで、BPSDの軽減にもつながります。
認知機能改善のサポート
複数研究を統合したメタ解析でも、リアリティ・オリエンテーションには認知症の人の認知機能改善が期待できると報告されています。
認知症の高齢者を対象とした研究では、リアリティ・オリエンテーション実施後にMMSE(ミニメンタルステート検査)のスコア(※)の改善がみられました。こうした研究により、リアリティ・オリエンテーションは認知機能の維持・向上が期待できるとされています。
ADL・運動機能改善のエビデンスは限定的
リアリティ・オリエンテーションによる日常生活機能(ADL)や運動機能の改善についてはエビデンスは限定的であり、十分ではありません。ADLとは、移動や食事、排泄、入浴など、日常生活を送るために最低限必要な日常動作のことです。
リアリティ・オリエンテーションでは見当識に働きかける効果は期待できますが、歩行能力や身体活動量などについては研究報告が少ないのが現状です。
これだけで認知症が改善できるものではないため、認知症ケアの1つの方法として他の支援と組み合わせながら活用することが望ましいとされています。
- 越後谷直子先生

リアリティ・オリエンテーションは、当事者とのコミュニケーションにも役立ちます。日時や場所を日常会話でさりげなく伝えることで、当事者の「ここがどこか分からない」という不安や混乱を和らげることが期待できます。今の状況を理解することを助け、意思疎通がスムーズになることで、ご家族のイライラが軽くなるといったメリットも期待できるでしょう。「〇〇病院に行こうね」「〇月になると暑いね」、など会話の中に具体的に日時や場所を組み込むようにしましょう。
リアリティ・オリエンテーションの目的と対象となる人
リアリティ・オリエンテーションは誰にでも効果が期待できるものではなく、なかには向かないケースもあります。
リアリティ・オリエンテーションの対象となる人を詳しく紹介します。
短期記憶障害がある軽度〜中等度認知症の人
リアリティ・オリエンテーションで特に効果が期待できるのは、軽度〜中等度認知症の人とされています。
軽度〜中等度認知症の場合「さっき話したことを忘れる」などの短期記憶障害が起きやすくなりますが、一方で「最近もの忘れが増えた」など自分の状況を把握する能力はある程度保たれています。
ご本人が「自分が混乱している、忘れっぽい」と自覚できる段階であれば、リアリティ・オリエンテーションで自分の置かれた状況を把握することで安心感を得やすくなり、見当識の改善にもつながります。
一方で、認知機能障害が進んでいる場合や抑うつ症状が強い場合では逆効果になるケースもあるため、ご本人の状態を見極めることが大切です。
せん妄の症状がある・脳損傷後のリハビリ中の人
認知症だけではなく、入院中のせん妄患者や脳卒中・脳外傷後のリハビリとしてリアリティ・オリエンテーションが用いられることがあります。
せん妄や脳卒中、脳外傷では認知機能に障害が起こり、認知症のBPSDのような症状があらわれます。
このような場合において、リアリティ・オリエンテーションで認知機能を刺激すると、全般的な認知機能の改善が期待できるとされています。
リアリティ・オリエンテーションが不向きとされるケース
重度の認知症で言語理解が困難な場合や強い不安・抑うつ状態にある場合には、リアリティ・オリエンテーションは向きません。
リアリティ・オリエンテーションは基本的に口頭での質問を繰り返します。言語を理解する機能が低下していると質問を理解できず、受け答えもうまくできないため、かえって不安や混乱を招く恐れがあるのです。
また、不安や抑うつ状態がある場合も不安感を刺激する可能性があります。
リアリティ・オリエンテーションが向かない場合は、ご本人の感情に寄り添うバリデーション療法など本人が安心して取り組める他のアプローチを検討することが望ましいでしょう。
- 越後谷直子先生

症状の緩和を目的に取り入れる際は、専門家のアドバイスを受けましょう。実践するにあたっては本人の様子を観察し、穏やかにコミュニケーションがとれる状態で行うのが理想です。考え込んだり、焦ったりする様子が見えたときは、無理をせず別の話題に切り替えてあげましょう。
24時間リアリティ・オリエンテーションとクラスルームリアリティ・オリエンテーション
リアリティ・オリエンテーションは以下の2つのやり方があります。
種類 | 24時間リアリティ・オリエンテーション | クラスルームリアリティ・オリエンテーション |
|---|---|---|
実施方法 | 日常生活の中で、日付・時間・場所などを自然に伝える | 少人数で決まった時間に行う |
主な場面 | 家庭、病棟、介護施設など | 介護施設、デイサービス、病棟など |
特徴 | 特別な時間を設けず、生活の流れの中で取り入れやすい | カレンダーやホワイトボードを使い、会話や交流を促しやすい |
注意点 | 本人を試すような質問にならないようにする | 参加者の理解力や疲労感に配慮する |
リアリティ・オリエンテーションの2つのアプローチ(文献1を参考に編集部作成)
以下では、それぞれの特徴ややり方を紹介します。
24時間リアリティ・オリエンテーション|特徴・やり方・場面別の声かけ例

24時間リアリティ・オリエンテーションは日常生活のなかのさまざまな場面で日付や時間などの見当識情報を伝える方法です。訓練のための時間を設けるのではなく、生活のなかで自然に声かけを行うのが特徴です。
例えば、朝起きたときには「おはようございます。今日は10月5日、月曜日ですよ」、お昼には「今12時ですよ、昼食を食べましょう」といったように日付や曜日、時間などを伝えましょう。
場面 | 望ましい声かけ | 避けたい声かけ |
|---|---|---|
朝起きたとき | おはようございます。今日は10月5日、月曜日です。 | 今日は何日かわかる? |
食事の前 | 今は12時です。これから昼食にしましょう。 | もうお昼ってわからないの? |
場所がわからず不安そうなとき | ここはご自宅のリビングです。今は一緒に過ごしていますよ。 | ここは家ですよ。何回も言っています。 |
予定を伝えるとき | 今日は午後に散歩の予定があります。ゆっくり準備しましょう。 | さっきも言いましたよ。 |
24時間リアリティ・オリエンテーションの声掛けのOK例・NG例(文献1を参考に編集部作成)
家庭で行う場合は、カレンダーや時計を見えやすい場所に置き、朝・昼・夕方など生活の節目に合わせて自然に情報を伝えると取り入れやすくなります。本人を試す質問ではなく、「今日は〇日です」「今は昼食の時間です」と具体的な情報を添える声かけを意識しましょう。
医療・介護現場では、スタッフ間で声かけの方針を共有し、日付・曜日・予定をホワイトボードなどに書いておくと、本人が確認しやすくなります。
ただし、表情が曇る、黙り込む、苛立つなどの反応がある場合は、無理に続けないことが大切です。
クラスルームリアリティ・オリエンテーション|特徴・やり方・必要なもの

クラスルームリアリティ・オリエンテーションは少人数のグループで、決まった時間に行う方法です。参加者は決まった時間に集まり、スタッフの進行のもとプログラムに沿って行われます。
クラスルームリアリティ・オリエンテーションでは、カレンダーやホワイトボード、写真などの道具を準備します。
「今日は何月ですか」「今の季節に咲く花は何でしょう」といったテーマをもとに会話を進め、参加者同士のコミュニケーションを促しましょう。
参加者が話した内容をホワイトボードに書くと、記憶力が低下していても把握しやすくなります。
リアリティ・オリエンテーションの注意点・やってはいけないこと
リアリティ・オリエンテーションを自己流で行っていると、気づかないうちに逆効果になっていることがあります。
適切な認知症ケアを行うために押さえたい、リアリティ・オリエンテーションの注意点ややってはいけないことを紹介します。
試すような質問・間違いの指摘がもたらすリスク
ご本人を試すような質問や、間違った答えを訂正するといった指摘は避けましょう。
認知症になると不安や怒りを感じやすくなり、指摘によって不安感を与えたり、自尊心を傷つけたりして逆効果になる可能性があるためです。
リアリティ・オリエンテーションは認知機能を確認するためのものではなく、繰り返し現実の情報を提供することで見当識を改善するものです。「今日が何日かわかる?」といった試すような質問ではなく「今日は〇日です」と情報を提供する形式を意識しましょう。
中等度以上の認知症で逆効果になるケース
認知症が中等度以上に進行している場合もリアリティ・オリエンテーションは逆効果になる可能性があるため注意が必要です。
認知機能障害が進んでいると提供される情報を処理しきれず、プライドを傷つけられたように感じて苛立ちを増幅させる可能性があります。
認知症ケアでは、ご本人の認知機能だけでなく感情面にも目を向けることが重要です。ご本人の感情に寄り添い、傾聴するバリデーション療法など、別の方法でのアプローチを検討しましょう。
本人の表情・反応を見て中止する判断
リアリティ・オリエンテーションを行う際は、ご本人の反応をよく観察し、ご本人が嫌がるサインを見せたときには中止しましょう。例えば、以下のようなサインがないかよく確認することが大切です。
- 表情を曇らせる
- 苛立ちを見せる
- 黙り込む
これらの反応がある場合、ご本人が不安や苛立ち、屈辱感を覚えている可能性があります。
認知症ケアでは「正しい方法を続ける」ことより「本人を傷つけない」ことが優先されます。ご本人の些細な変化も見逃さないように注意しましょう。
- 越後谷直子先生

リアリティ・オリエンテーションは、テストや訓練ではありません。大切なのは、日々のケアの中に自然に溶け込ませることです。正解を求めたり否定したりせず、日常の会話として、ケアする側にも気持ちや時間のゆとりがある時に、ゆったりとした気持ちで取り入れてくださいね。
他の非薬物療法との違い|回想法・バリデーション療法・認知刺激療法
認知症ケアにはリアリティ・オリエンテーション以外にもさまざまな非薬物療法があります。リアリティ・オリエンテーションと似た非薬物療法には、主に以下が挙げられます。
回想法 | ・個人またはグループで過去の思い出を語り、共感や肯定を示すことで心理的な安定を目指す。 ・写真や当時のおもちゃなどの道具を用いることがある。 |
|---|---|
バリデーション療法 | ・認知症当事者の言葉を否定せず、感情を共有する ・間違った内容を話していてもその内容を否定しない。 |
認知刺激療法 | ・見当識に限らず認知機能全般に焦点を当て、認知機能や社会機能の全般的な向上を目指す。 ・グループでのディスカッションなどを行う。 |
非薬物療法の例(監修:越後谷直子先生)
非薬物療法によって目的は異なります。どれか1つが優れているというわけではなく、ご本人の状態や目的に応じて組み合わせることが重要です。
リアリティ・オリエンテーションに関するよくある疑問
リアリティ・オリエンテーションに関するよくある疑問について解説します。
MCI(軽度認知障害)の段階から始めても効果はある?
MCI(軽度認知障害)の段階ではまだ認知機能障害が軽いため、早くからリアリティ・オリエンテーションを始めることで認知機能障害の進行を遅らせる効果が期待できます。生活習慣のひとつとして日付や時間などを確認する癖をつけ、見当識をサポートすると認知症対策の一助になり得ます。
効果が出るまでどのくらい続ければいい?
リアリティ・オリエンテーションは短期間で効果が得られるものではなく、数週間〜数ヶ月の継続が必要です。また、効果の現れ方には個人差があります。ご本人の様子を確認しながら継続して行いましょう。
本人が間違ったことを言ったら訂正すべき?
ご本人が明らかに間違ったことを言った場合、ご本人の気持ちや心理状態を優先して対応しましょう。不安や混乱を与える可能性があれば無理な訂正は避けるのが原則です。ご本人が安心できることを最優先に、状況に応じた対応を心がけましょう。
まとめ|リアリティ・オリエンテーションを安心して実践するために
リアリティ・オリエンテーションは日付や時間などを繰り返し確認し、認知症のご本人の見当識に働きかける認知症ケアのひとつです。軽度から中等度の認知症では、不安や混乱の軽減、認知機能の維持に役立つ可能性があります。一方で、重度認知症や抑うつ状態などの場合は悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
また、リアリティ・オリエンテーションは「正しくやらなければならない訓練」ではなく「本人の安心感を支える日常的な関わり」であり、ご本人の反応を確認しながら無理なく続けることが大切です。医療機関などの専門家の力も借りながら自分たちに合った方法を無理なく続けていきましょう。
リアリティ・オリエンテーションを続けても、すぐに変化が見られるとは限りません。効果が感じられない場合でも、家族や介護者が自分を責める必要はありません。本人の安心感を第一に、負担の少ない関わり方を専門職と相談しながら調整していきましょう。
この記事の補足情報
参考文献
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田中 尚文:5|認知症リハビリテーションの現状とエビデンス._Jpn J Rehabil Med._2018;55(8):653-657
著者情報
- PROFILE/ プロフィール

越後谷 直子
緑園ストレスケアクリニック 院長 【専門領域】 精神科一般、心療内科一般、適応障害、うつ病、10代の不登校・引きこもり、認知症、更年期障害、訪問診療 【経歴】 平成14年 金沢医科大学医学部卒業 市立横手病院、沼津中央病院、南晴病院 南晴メンタルクリニック 院長 南横浜さくらクリニック 院長 他 メンタルクリニックや女性外来にて勤務 令和3年11月1日〜 緑園ストレスケアクリニック 院長就任 【所属学会・資格】 日本精神神経学会 日本認知症学会 認知症サポート医 ホームページ:https://www.ryokuen-stresscare-cl.com/doctor
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