診断告知の現場から見た認知症との付き合い方
診断直後の不安に寄り添う
内海 久美子 先生
砂川市立病院認知症疾患医療センター長
柳渡 彩香 先生
砂川市立病院公認心理師 臨床心理士(取材当時)
内海先生は、2004年に砂川市立病院で「もの忘れ専門外来」を開設しました。その後、行政、介護スタッフ、家族の会、市民とともに、地域で認知症の人を支えるための様々な活動に取り組まれています。内海先生の声かけで、認知症の人の受診付き添いなどをするボランティアの会“ぽっけ”も誕生しました。
取材:2019年7月12日 砂川市立病院(北海道)
今後の見通しを具体的に伝える
砂川市立病院の認知症疾患医療センター(以下、同センター)では、医師が初回の診察に1時間、診断後の説明に30分~1時間をかけています。説明の内容は、①認知機能検査と、脳の形や血液の流れをみる画像検査の結果、②認知症であれば診断名(病気)とその特徴、③治療法、④日常生活での注意点、⑤介護保険の利用の勧め、などです。
同センター長で認知症専門医の内海久美子先生は、「ご本人とご家族にとって、診断・告知は認知症とともに生きるスタートラインです。特に早期で来られた方ほど動揺が大きいので、今後の生活に対してご本人とご家族が抱える不安や、たくさんの疑問により時間をかけて耳を傾け、しっかりお答えするようにしています」と話します。
説明の内容や仕方は、病気の種類や進行度、そして本人や家族がどのような不安を持っているかによって異なります。たとえば、内海先生は認知症と診断した本人・家族からよく、「いつからオムツになるんですか?」「徘徊はいつごろから始まるんですか?」といった質問を受けるそうです。進行が緩やかなアルツハイマー型認知症で、かつ軽度の場合、内海先生はこのように答えることが多いといいます。
「経過には個人差がありますが、今の軽度の段階から、これまでできていた家事や一人での外出が難しくなってしまう中等度に進むまで約5年というスパンです。数年でアッという間に進むわけではありません。私の患者さんにも、軽度で受診されてから5年ほど過ぎ、中等度に進んでいる方々がいますが、その段階でも一人でトイレに行かれますし、お洋服も着られます。同じことを聞く回数が増え、料理や買い物をできなくなることはあるかもしれませんが、おそらく自分のことは、ほんのわずかな声掛けや手伝いがあれば自分でできると思いますよ」
つながりを切らさない
今後の見通しに対する誤解や過度な不安を取り除いたうえで、内海先生は早期の認知症の人に、「せっかく早く受診してくださったのですから、できるだけ状態が悪くならないような活動をしましょう」と提案します。具体的には、適度な運動を続けること、社交的であること、飲酒を控えること、新聞の見出しだけでも読む習慣をつけること、3行でもいいから日記を書き、翌日読んで昨日の出来事を振り返ること、などを勧めています。
「無理な運動は骨折のリスクがあるので、散歩レベルで十分です。また、北海道は雪かきがあるので、『雪かき、がんばってください』とお話しています」
最後に、「何か心配でしたら、いつでもお電話をくださいね」という声かけで内海先生の説明は終了します。
医師の説明に続き、看護師・心理士が、地域での支援体制を紹介しつつ介護相談に応じます。心理士の柳渡彩香さんは、「ご本人とご家族は、医師から『今までどおり自信をもって暮らしていいのよ』といったお話を聞いているので、私がお会いするときにはもう気持ちが切り替わっている印象を受けます」と言います。
柳渡さんも内海先生と同様に、診断・告知を機に、医療職とのつながりが生まれ、続いていくことを強調します。
「『何か困ったことがあったら、誰に聞けばいいのかわからないようなことでもかまわないので、とりあえず電話してください。遠慮しないで。待っていますからね』とお伝えしています」
診断・告知後の不安に寄り添うこうした姿勢があるからなのでしょう。同センターが、早期の認知症の人と家族を対象にアンケートを行ったところ、「受診前に抱えていた不安が、受診後は軽減した」という声が多くみられたそうです。