糖尿病の診断は、血糖値やHbA1cといった検査値を基準に行われます。この記事では、糖尿病の診断基準となる具体的な数値、診断の流れ、そして診断後の追加検査について詳しく解説します。
健康診断で血糖値を指摘された方や、糖尿病が気になる方はぜひ参考にしてください。
糖尿病の基本的な定義と原因
糖尿病はインスリンが十分に働かないために、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が慢性的に高くなる病気です。
何らかの要因で、インスリンの分泌量が少なくなる(インスリン分泌低下)もしくはインスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)ことで起こります。
糖尿病には主に1型糖尿病と2型糖尿病、そして妊娠糖尿病があり、下記のような特徴があります1。
糖尿病の種類 |
特徴 |
1型糖尿病 |
・膵臓でインスリンがほとんど作られなくなる自己免疫疾患 |
2型糖尿病 |
・インスリン分泌低下、インスリンの抵抗性の両方が要因 |
妊娠糖尿病 |
・胎盤から分泌されるホルモンの影響で、インスリンが効きにくくなる |
(文献1を参考に表を作成)
2型は生活習慣が原因で起こることが多く、糖尿病の症例全体の90%を占めています1。
糖尿病になると高血糖の状態が続き、全身の血管を攻撃する因子が出てしまいます。全身の血管への攻撃が続くと、細い血管から傷んでしまいます。細い血管は眼の網膜や腎臓、手足の先端に多く存在します。
このため糖尿病を放置すると、眼の網膜症や人工透析を必要とするような腎不全、手足の神経障害などの合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です2。
糖尿病の診断基準
糖尿病は、慢性的に血糖値が高い状態に加えて、症状や家族歴、体重の変化などを参考に、総合的に判断します。
診断基準には3つの項目があります3。
①「糖尿病型」を2回確認する
②「糖尿病型」を1回確認+慢性高血糖症状があることを確認
③ 過去に「糖尿病」と診断されたことがある
糖尿病型とは、血液検査の結果で糖尿病を疑ういくつかの項目の数値を満たした状態のことです。細かい数値については続けて説明します。また、慢性高血糖状態とは、口渇・多尿・体重減少などの糖尿病による典型的な症状もしくは糖尿病性網膜症のことを指します。
糖尿病を疑うものの診断基準を満たさない場合は、3~6カ月以内に血糖値やHbA1c値を再度検査して判断します。
①「糖尿病型」を2回確認する
糖尿病型の具体的な数値は下記のようになります。
検査項目 |
検査の内容 |
糖尿病型の基準値 |
|
血糖値 |
空腹時血糖値 |
10時間以上、水以外のものを摂取せずに血液中のブドウ糖濃度を測定する |
126mg/dL以上 |
ブドウ糖負荷試験(OGTT)の2時間値 |
10時間以上の絶食後に検査用のブドウ糖液を摂取し、30分ごとに2時間血糖測定をする |
検査終了時の血糖値が |
|
随時血糖値 |
食事の時間に関係なく、任意の時点で血液中のブドウ糖濃度を測定する |
200mg/dL以上 |
|
HbA1c |
1~2カ月間の平均的な血糖値を反映させたもので、任意の時点での血液検査で測定する |
6.5%以上 |
(文献3を参考に表を作成)
「糖尿病型」は、血糖値の各項目もしくはHbA1c値のうちいずれかが基準値を上回っている状態です。
糖尿病型を別の日に2回確認することで糖尿病と診断しますが、いずれかのうち1回は血糖値が基準値を超えている必要があります3。
②「糖尿病型」を1回確認+慢性高血糖症状があることを確認
次の場合、1回の血液検査でも糖尿病と診断されることがあります。
- ・血糖値とHbA1cが同一採血でそれぞれ糖尿病型を示すことが確認できるとき
・血糖値のみ糖尿病型で、糖尿病の典型的な症状もしくは確実な糖尿病性網膜症
※糖尿病の典型的な症状(口渇、多尿、体重減少)
③過去に「糖尿病」と診断されたことがある
過去に糖尿病と診断された経緯がある場合は、現在「糖尿病型」の基準をみたさなくても糖尿病として対処します。
自覚症状の確認
糖尿病の典型的な自覚症状は、口渇や多飲、多尿、体重減少です3。糖尿病の初期は自覚症状がないため、明確な糖尿病症状がある場合は、病状が進行している可能性もあります4。
糖尿病を診断する際の流れ
健康診断で要精密検査などの報告があった場合や、口渇など気になる症状がある場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
一度の受診で完結しない場合が多いため、通いやすいクリニックや診療所などをかかりつけ医に選ぶと良いでしょう。内科もしくは糖尿病内科などの案内がある医療機関だと検査をスムーズに受けやすくなります。
また、合併症などの検査が必要な場合は規模の大きい医療機関を紹介される可能性があります。
初診
医療機関での初診時は糖尿病の可能性を調べるため、詳しい問診と検査が行われます。
- まず問診で以下の項目を確認します。
・生活習慣(食事や運動習慣、飲酒、喫煙)
・家族歴(両親や兄弟姉妹の糖尿病の有無)
・自覚症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など)
・健康診断での指摘事項
・既往歴や服用中の薬について
身長・体重測定や血圧測定や血液検査・尿検査などを行います。
血液検査では空腹時血糖値やHbA1c、血中脂質、肝機能、腎機能などをチェックし、尿検査で糖や蛋白の有無を確認します。
これらを総合的にみて、医師が糖尿病の診断を行い、その程度を評価します。糖尿病の診断がつかなくても、糖尿病が疑われる場合は糖負荷試験などでの精査を行います。
糖尿病の状態を確認するための追加検査
糖尿病と診断した場合は、治療方針の参考のために追加で検査を行うことがあります。1型糖尿病の除外や糖尿病に多い悪性腫瘍(癌)の有無なども念頭に検査を行います。
また、インスリン自己分泌能力を測定して、内服薬選択の参考にします。
合併症の有無を確認するために眼底検査を行ったり、腎臓合併症や動脈硬化を検査する尿検査を行ったり、必要に応じて検査を行います。
専門医への紹介
- かかりつけ医が、専門医による継続した治療が必要であると判断した場合には、糖尿病専門医への紹介がされます5。専門医は病態などをより考慮し、治療を進めていきます。
・1型糖尿病が疑われる
・インスリン治療が必要
・血糖コントロールが難しい
・重症な合併症がある
・若年発症
・妊娠中もしくは妊娠を希望する
まとめ
糖尿病の診断は、単独の検査結果だけでなく、複数の検査データや症状を総合的に評価して行います。そして、診断基準を満たした場合は糖尿病の程度や合併症、生活スタイルなどの個々の状況に応じて適切と思われる治療方針が提案されます。自分自身に合ったものを主治医と相談しながら選択することをおすすめします。
糖尿病の診断を受けた場合でもその程度によっては食事療法や運動療法など生活習慣の改善次第では血糖値を正常化させることができます。まずは、糖尿病についての理解を深め、早期発見、早期治療に取り組みましょう。