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認知症の人が物事を忘れる順番
更新日:2022/12/19

認知症の人が物事を忘れる順番

認知症の人が物事を忘れる順番

認知症におけるもの忘れ(記憶障害)は、脳の神経細胞が壊れるために起こります。認知症を引き起こす病気にはさまざまなものがありますが、ここでは代表的な原因疾患であるアルツハイマー病を例に、どのような記憶がどのような順番で忘れられていくかについてまとめます。

なぜ忘れてしまうのか

記憶障害(もの忘れ)が主症状の一つであるアルツハイマー型認知症では、脳の神経細胞が次第に衰え減少していきます。最初に記憶の中枢を担う海馬が障害されるので、新しい情報を覚えることができなくなります。病気が進行するにしたがって、発症する前に貯蔵されていた記憶も次第に忘れていきます。

記憶の分類1,2

記憶は記憶されている内容により分類されます。また、脳に保持される時間によっても分けられます。

記憶内容での分類

言葉であらわすことができる記憶を陳述記憶といいます。一方、言葉にできない記憶を非陳述記憶といいます。陳述記憶には、エピソード記憶や意味記憶、非陳述記憶には手続き記憶などがあります。

記憶の内容での分類

言葉であらわすことができる→陳述記憶→エピソード記憶→意味記憶
言葉であらわすことができない→非陳述記憶→手続き記憶ほか

①エピソード記憶

日時や場所を含む個人的体験の記憶です(「10分ほど前に、家の前の道路を救急車が走っていった」「一昨年の結婚記念日に、箱根の旅館に泊まった」など)。

②意味記憶

物事の意味に関する記憶です。「リンゴ」であれば、その大きさや色、形、味、果物の一種であるといった知識の情報です。

③手続き記憶

自転車の乗り方や泳ぎ方など、くりかえし体で覚えた技術の記憶です。

時間での分類

何らかの情報を記憶した時点から思い出すまでの長さで、即時記憶、近時記憶、遠隔記憶の3つに分けられます。

即時(短期)記憶

刺激を数秒程度保持してすぐに再生できる記憶です。相手の言った言葉をそのまま繰り返すことができる「オウム返し」は、即時記憶にあてはまります。

近時記憶

「朝食は何を食べたか」「昨日はどんな天気だったか」といった、記憶して数分から数日程度貯蔵して再生できる記憶です。

遠隔記憶

「卒業した中学校の名前」など、数日から年単位の時間が経過した記憶です。

忘れる順番

時間で分類した記憶のなかでは、近時記憶から障害されていくのがアルツハイマー型認知症の特徴です。先に述べたように新しい記憶を取り込むのに重要な役割を担う海馬が病気の初期に障害されるからです。病気が進行するにしたがって即時記憶や遠隔記憶の障害が起こります。遠隔記憶ではより新しいほうから古いほうの記憶へと障害されていきます。記憶内容からみると、まずエピソード記憶の障害があらわれます。病気の進行に伴い、意味記憶や手続き記憶も障害されますが、ある程度病気が進行するまで比較的保たれます。

<時間による分類の場合>

  • 近時記憶の障害⇒遠隔記憶・即時記憶の障害

<内容による分類の場合>

  • エピソード記憶の障害⇒意味記憶・手続き記憶の障害

認知症を早期発見するには

認知症、特にアルツハイマー型認知症を早期に発見するには、先に述べた記憶の内容(エピソード記憶かどうか)や記憶の時間による分類(近時記憶障害なのか)に注目することが大事です。また、以下のような症状が見られる場合も、注意が必要です。

普段の生活で見られる初期症状

  • もの忘れがひどくなった
  • 判断・理解力が衰えた
  • 場所・時聞がわからなくなった
  • 人柄が変わった
  • 不安感が強くなった
  • 意欲がなくなった

家族の言動で気になることがある場合や、自分で「最近、もの忘れが多い」と気になる場合には、以下のページのチェックリストを使って確認してみましょう。

認知症の症状が確認できたらどうすればよいか

自分や家族に認知症の症状がみられた場合の不安は大きいと思います。しかし、状態を正しく把握し治療の道筋をたてることは不安の軽減につながります。

まずは病院で診断してもらいましょう

認知症の原因疾患によっては、記憶障害が治る可能性があるものもありますので、早期発見、早期治療が何より大切になってきます。以下のページから認知症の治療について相談できる医療機関を検索できます。

家族としての心がまえ・かかわり方のポイント

認知症の初期では、本人も「自分が健康な時とは違う状態にある」ということを口には出さなくても気づいています。大きな不安を抱えつつも異常を認めたくない気持ちもあり、周囲の指摘や叱責に過剰に反応してしまう場合があります。
おかしい?と思っても、嫌な顔をしたり叱ったりせず、穏やかな対応をするよう、こころがけてください。

生活上の支障を軽減するための具体例

さまざまな工夫をすることで、生活上の支障を軽減することができます。

  • メモを活用すると、もの忘れはかなりカバーできます。
  • 認知症の初期から規則正しい生活パターンをつくっておけば、もの忘れがあっても混乱することが減り生活上の支障が起こりにくくなります。起きる時間や朝食の時間などを決めておき、ある程度時間割に沿った生活を送るようにします。
  • 物は置き場所も決め、「〇〇はテレビの横」というように場所を書いた紙を目立つところに貼るのも効果的です。
  • 財布や鍵など失くすと困るものに予め受信機をつけておき、リモコンでアラーム音を鳴らすようなグッズも販売されています。
  • 何度も同じことを言うのは、前に尋ねて答えてもらった内容を忘れているということです。穏やかに誠意をもって聞いたうえで、前回と同じ返事をしてもよいと思います。お茶に誘ったり髪の毛をとかしたりするなどして、別のことに気持ちを向けてもらうのも効果的です。
  • 鍋に火をかけたことを忘れる場合があります。IHなどの火を使わない器具やセンサーで自動消火する器具への変更をおすすめします。

まとめ

認知症の代表的な原因疾患であるアルツハイマー病では、記憶を司る海馬が障害されるために記憶障害が起こります。
記憶を時間で分類した場合、アルツハイマー病では初めに近時記憶が障害され、進行するにしたがって即時記憶や遠隔記憶の障害が起こります。
また、内容で分類した場合では、最初にエピソード記憶の障害があらわれます。
近時記憶やエピソード記憶に注目することが、認知症の早期発見つながります。気になる症状があれば、専門の医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。

(参考文献)
1,日本認知症学会 編:認知症テキストブック,中外医学社,P.64-65,2008
2,日本神経学会 編:認知症疾患診療ガイドライン,医学書院,P.19-21,2017