少子高齢化社会の雇用のあり方を考える「シニア雇用研究所」。この特集記事では、シニア人材の活躍を後押しするためのヒントを、企業の取り組みや成功事例から探っていきます。
第2回は警備保障業を展開する株式会社GFM(以下、GFM)の取り組みを紹介します。同社は1986年、愛知県弥富市にて創業。2016年には東京に進出し、警備業務を中心にパーキング・メーター等管理業務、放置車両確認事務などを行っています。
同社の特徴は「年齢が高い社員ほど、勤続年数が長い傾向にある」こと。70歳定年制や80歳継続雇用制度をいち早く導入しながら、高齢社員がいきいきと働ける職場づくりに取り組んできました。
GFM代表取締役 上田麗子さん、執行役員 安倍裕さん、管理本部 係長 宗像昭子さんに、職場づくりの秘訣や健康問題に関する対応策、今後の展望など幅広くお話を伺いました。
お話を伺った方
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株式会社GFM
代表取締役
上田 麗子さん
1992年12月中部安全サービス保障(株)(現(株)GFM)入社、本社総務課にて経理 総務全般に従事。2016年3月代表取締役社長に就任、創業者である(実父)野村頼理が代表取締会長に就任し、代表取締役2名の経営体制となる。2021年7月社名を(株)GFMに変更、全社員が誠意と情熱を持ち、安全産業の一員としての役割を果たすことを理念とし、社員の多様性を重視し、全ての社員の幸福と生活環境の向上を目指して、社員の声によりそう経営を心掛けている。 -
執行役員
安倍 裕さん
2021年4月株式会社GFMに入社、各事業を束ねる「執行役員統括本部長」を経て、現在の「執行役員経営企画室長兼管理本部長」に従事。各種入札業務の企画管理のほか、全社事業の予実管理、労務・経理・人事管理に従事している。 -
管理本部 係長
宗像 昭子さん
2015年9月に中部安全サービス保障(株)に入社、事務職を経て4区事務所(パーキングメーター等管理)の副責任者を5年、2023年4月東京本社へ異動し総務・労務関係の業務を行っている。
株式会社GFM :https://g-fm.co.jp/
シニアが活躍しやすい“警備”という仕事。従業員の声に応えながら、制度を拡充
── はじめに、GFMの会社概要についてお聞かせください。
上田さん:1986年創業の警備会社です。愛知県のほか、東京にも拠点を構えています。愛知県警察や警視庁から「パーキング・メーター等管理業務」や「放置車両の確認事務業務」を受託しているほか、中部エリアでは、施設・交通誘導・雑踏などの「警備業務」、鈴鹿市河川防災センターの「施設管理業務」も行っています。従業員は400名。うち女性が35名で、平均年齢は62.4歳です(2025年3月現在)。
──一般企業に比べ、平均年齢が高めなのですね。2013年に70歳定年制を導入するなど、早期よりシニア雇用対策に取り組んでいらっしゃったこととも関係するのでしょうか。
上田さん:制度が先だったというよりも、もともとシニアが活躍しやすい事業だったこと、将来的に人手不足が見込まれたことなどから、必要に応じて制度を拡充してきたという感じですね。
警備は、体力的な負担が比較的少なく、長期的に働いていただきやすい業務です。こうした特性から、創業以来、警察OBなど定年退職された方に対しても積極的に採用活動を行ってきました。
そうなると、60歳以上の従業員が占める割合が必然的に大きくなり、定年も一般企業より高い年齢で定めるというのは当然の流れになります。そのあとに導入した80歳継続雇用制度も同様でしたね。
── みなさんが柔軟に働けるよう、フレキシブルな勤務形態にされているとも伺いました。
上田さん:ひと月の勤務日数を10日未満、10〜15日、16〜20日、20日以上の4パターンから選択できるようにしています。
高齢になると「昨日はこなせていたことが、今日はできない」というような、急激な後退を感じる場面も少なくありません。こうした変化に柔軟かつ迅速に対応するため、勤務形態を複数設けることにしたのですが、やはりこちらも、ごく自然ななりゆきでしたね。
従業員と向き合い続ける。“対話”がつくる変化への気づきと信頼関係

── そのほか、特に高齢の従業員に対してどんな施策を行ってきましたか。
上田さん:年齢や雇用形態問わず、全員を対象とした人事制度を導入しています。「自分の仕事に対してしっかり見て、評価してほしい」という思いは何歳になっても変わりません。その思いに応えたいと制度を拡充させました。毎年改善しながら運用しています。
一方で、仕事に慣れてくると、自身の体力以上にがんばりすぎてしまう従業員もいます。評価制度は敷きつつも、決して無理をしないよう、適宜声がけをしています。
── 社長自ら、従業員の方々に声をかけられていらっしゃるんですね。
上田さん:「できるだけ従業員のそばにいる」ことはつねに意識していますね。これは先代である父から受け継いだ“社長としてのスタンス”でもあります。
安倍さん:私がGFMに入社したのは約3年前ですが、はじめは社長と従業員の距離の近さに驚きました。前職では社長は“雲の上の人”でしたから。
社長が日常的に従業員とコミュニケーションを取りながら、本音もしっかり引き出してくれるので、人事担当役員としてこんなにありがたいことはないです。
上田さん:確かに、従業員の話には積極的に耳を傾けるようにしていますし、面談も頻繁に行っています。
先ほどもお話ししたとおり、特に高齢者は、急激な体力の衰えや通院、家庭の事情など、身の回りに変化が起きやすい世代です。個々の悩みを迅速にキャッチアップするためにも"相談しやすい距離感”をキープしています。
── 実際に「こんな相談をされて、こう改善した」というような事例はありますか。
上田さん:例えば「屋外の仕事が体力的にきつくなった」という相談があれば、屋内施設の警備業務に担当変えをしたり、「介護があって日中の勤務が厳しくなった」ということであれば夜勤のシフトを組んだり。
さらに、夜勤だと基本12時間勤務と長時間労働で、体力的な負担が大きいため、3交代制にして1人8時間勤務にするなどの工夫もしています。
できるだけ従業員の状況にあわせて、無理なく働ける場所を提供し、長く勤めてもらいたいと思っています。
誕生日にはプレゼントも。笑顔あふれる職場でチームワークを育む
── さまざまなお話から、従業員を大切にしている企業姿勢が伝わってきます。オフィスの雰囲気はいかがですか。
上田さん:おかげさまで、いつも笑い声が絶えません。朝礼時も終始和やかなムードです。基本的に2人体制で行う業務が多いため、従業員同士の日ごろのコミュニケーションが事故防止にもつながります。チームワークがよいと現場の仕事もスムーズに運ぶんですよね。
安倍さん:従業員の誕生日にプチプレゼントを渡したり、クリスマスにちょっとしたレクリエーションを行っているのも社風づくりに一役買っていますよね。

宗像さん:今年の誕生日は、小さなお米のパックを贈っています。価格が急騰しているご時世もあって大変好評です。プレゼント担当としてやりがいを感じます(笑)。
コロナ禍前は、従業員の間でバーベキュー大会を企画したり、年末に飲みに出かける様子を目にしましたが、今はパッタリ見かけなくなりました。交流の機会を増やすべく、積極的に社内イベントを企画するようにしています。
上田さん:高齢社員のバックグラウンドは、会社役員、自営業、警備一筋などさまざまで、特にはじめのうちは互いを理解し合うのがむずかしい。だからこそ、会社の一体感につながる取り組みにはより一層力が入ります。
“働くことが生きがい”であってほしいから。誰もが輝ける職場を目指す

── 最後に、組織運営に対する展望についてお聞かせください。
安倍さん:当社の取引先は、警視庁をはじめとする行政機関です。自治体が力を入れている少子高齢化対策や子育て支援を、いち企業として積極的に展開することも私たちの役割だと捉えています。産休育休制度は以前から取り入れていましたが、2年前からは介護休暇も導入しました。
また最近では、高齢社員の脳の健康をケアするため、従業員向けにテオリア・テクノロジーズと脳の健康に着目した新たな取り組みを始めました。
当社は年齢が高い従業員ほど、継続勤務年数が長い傾向にあります。今後も末永く働いてもらえるよう、一人ひとりに対して、できる限りサポートをしていきたいと考えています。
上田さん:1日の大半の時間を過ごすのが職場だからこそ、従業員には“働くことが生きがい”であってほしい。高齢者に限らず、全社員にそう思ってもらいたいと思っています。
「この年齢になっても働けるって素晴らしいこと。自分の居場所がある。仕事を続けているから、健康を維持できて、1日2万歩も歩ける。お金も稼げて、社会ともつながりが持てて……こんなにありがたいことはないよ」
70代のある従業員が、いつも私にこう話してくれます。こうした言葉が自分にとって何よりのご褒美であり、支えです。
交通行政がメインの当社は、社会貢献しているという実感が持ちやすい仕事です。この環境に甘んじることなく、従業員の声に耳を傾けながら、さらに働きやすく、働きがいのある職場を目指していきたいです。
(取材・文 福嶋聡美)