「子どもに頼れず、寂しい」認知症の相談事例
妻Gさん/70歳台
夫と二人暮らし。息子夫婦が近くに住んでいる
夫/70歳台
認知症で要介護2
相談内容
夫が認知症と診断されてから3年がたちます。
激しい症状はないのですが、私がトイレに入っても「母さん、母さん」と探し回るような夫とずっと一緒にいるのは疲れます。ホームヘルパーに来てもらったこともあるのですが、私以外の人を嫌がるので、今は何のサービスも使っていません。近くに息子夫婦と大学生の孫が住んでいます。夫が元気なころはみんなで旅行や買い物、食事に行っていました。勘定はすべてこちらもちでした。年金暮らしになったとき「少しは出してね」とお願いしたら、「付き合ってやっているんだから」と言われ、それからは息子の機嫌が悪くならないように気をつけています。 夫が認知症になってから旅行に誘うと、「お父さんが疲れて大変だろう」と断られてしまいました。息子はたまに家に来てくれますが、孫は勉強で、嫁は仕事で忙しいから来られないとのことです。そうしなければ何もしてもらえないような気がして、何かしてもらうたびに息子にお礼のお金を渡しています。息子は当たり前のように受け取ります。
息子の家の電話はいつも留守電で、メッセージを入れても折り返しの連絡はきません。急用ができたときに息子の職場に電話をしたら、「仕事中は困る」と言われました。
夫とはだんだん話が通じなくなり、息子たちともこんな感じで、私は心寂しく不安でたまりません。近所の人や友人にはこんなことは話せません。老後は寂しいものですね。
- 認知症の夫と二人きりの生活
- 近所に住む息子家族とは関係がぎくしゃくしている
- 誰にも頼れず、寂しさと不安でいっぱい
相談員の対応
Gさんに、「こんな話、聴いてもらえますか」と聞かれました。「介護のことでしたら何でもお聴きしますよ」と応えました。Gさんは認知症の夫について、「困った子ども」というニュアンスで話しはじめました。大変だけれど夫婦だからしかたがないと現状を受け入れているようすが伝わってきました。
「ご主人にとっては、あなたがいちばんなのでしょうね。でも、そこまで慕われると大変ですね」と率直な感想を言うと、「私のことも忘れる日が来るんでしょう。それまではと思ってね」という返事が返ってきました。
そして、『実は息子のことなんですが・・・」と切り出しました。ためらうようすが感じられたので、「息子さんがいらっしゃるのですね」と言葉をかけて待っていると、息子家族とのこれまでの関係を控えめなトーンで話してくれました。どの家族も絶妙なバランスで成り立っています。Gさん夫妻が懸命に築いてきた息子との関係を、相談員が批判することはできません。
「息子さんたちは、あなたがまだ元気だからと甘えていらっしゃるのでしょうか」と聞いてみました。すると、「私は見栄っ張りだから弱音をはけないんです」とのこと。
「見栄やプライドがあるからがんばれるということはあると思います。でも、無理はしないでくださいね」と伝えました。「息子に期待するからがっかりするんですよね。育て方を間違えたと後悔することもあるんです。親ばかですね・・・」と、Gさんはふっとなごんだように言いました。
「また、話したくなったらこちらにお電話ください」と伝えると「話を聴いてもらえるところができてよかったです。お世話にならないようにがんばります」 と言うので、「毎日がんばっていらっしゃるのだから、電話相談では甘えてくださいね」と伝えて電話を切りました。