アルツハイマー病は症状があらわれる前から静かに進行します。早期に気づき、適切な対応を始めることで、症状の進行をゆるやかにできることがあります。この記事では、予防や早期発見のポイントをわかりやすく解説します。
※「予防」とは、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味です。
アルツハイマー病による認知症の早期対応の重要性
アルツハイマー病の原因にかかわるアミロイドタンパク質が脳内にたまっていても、まだ認知症と診断される程の症状はみられない前段階の状態はMCI(軽度認知障害)と呼ばれます。
MCIとは、どのような状態なのでしょう。よく知られているメタボリックシンドローム(メタボ)と比べてみるとイメージしやすいかもしれません。
生活習慣病と重なる見えないリスク
健康診断で「メタボです」といわれることがありますが、メタボの延長にある高血圧や脂質異常症、糖尿病と診断される方もいます。
しかし、そのような指摘を受けた方のほとんどは「無症状」で、病気という自覚がありません。ではなぜ、そうした診断をつける必要があるのでしょう。
その答えはただ1つ。メタボや高血圧などの段階で何も手を打たずに放っておくと、失明、心筋梗塞、脳梗塞、腎不全など、今の医学ではもとには戻せない状態に進んでしまう可能性があるからです(図)。あとに待ち受ける深刻な病気や障害を予防するためには、メタボや高血圧といった診断をつけて、治療を開始する必要があります。認知症にも同じことがいえます。
認知症前段階での介入と予防の可能性
生活習慣病と同様に、アルツハイマー病による認知症も最終段階に進んでしまうと、あと戻りができません。このため、その前の段階、つまり認知症の症状がまだごく軽い段階や、症状のない段階で食い止められるかどうかがカギとなるのです。
今、世界中で認知症の発症を遅らせるための薬や運動、ゲームなどについて研究されています。
認知症になるのを遅らせる手立てが見つかれば、健康診断などで自分の認知機能を検査したいという人も増えるでしょう。認知症のイメージも、高血圧や糖尿病に近いものになるのかもしれません。
なお、MCIから軽度認知症への進行を遅らせるために、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの管理、適度な運動が推奨されています1。
症状と進行をゆるやかにするには
医学的なアプローチに加え、日々の工夫や環境の見直しが、アルツハイマー病による認知症の進行や症状の悪化を抑えるのに役立ちます。
薬物治療と非薬物治療
薬物治療によって認知機能低下を抑制し、認知症の進行を遅らせることが期待できます。効果には個人差があり、副作用のリスクもあるため医師と相談しながら続けることが大切です2。また、音楽療法や回想法などの薬物治療以外のアプローチも、認知機能の維持に効果的とされています3。
認知機能の維持に役立つ生活の工夫
本人や家族による生活の工夫が、認知機能の維持に役立つことがあります。ここでは、無理なく取り入れられる3つの工夫を紹介します。
運動
運動は脳の神経細胞の形成・保護を促し、脳機能の変化を通じて認知機能を改善すると考えられています。有酸素運動を半年以上継続することで、認知症の発症リスク低下、進行抑制が期待できます4。
認知症と難聴の関係
難聴による脳への刺激減少や交流の減少は、認知機能の低下につながる可能性があります。また難聴によって言葉の聞き取りに神経活動を費やしてしまうことも認知機能を低下させる要因の1つです。
補聴器を使うことで認知機能の低下をゆるやかにすることが期待されます5。
身だしなみを整える
症状が進み、着替えや洗顔などに無関心な状態が続くと、認知症のさらなる進行につながるおそれがあります。身だしなみは毎日整え、時にはお化粧することも良い影響をもたらすとされています6。
もしかして認知症かも?と思ったら
認知症は早めの対応が重要です。もしかして認知症かも? と思ったらまずはチェックしてみましょう。
ご本人受診拒否の対応
認知症の疑いがあっても、ご本人が受診を強く拒むことはめずらしくありません。ご本人に症状の自覚がなかったり、家族の言葉を誤解して不信感を抱いたりするためです。
無理に病院へ連れて行こうとせず、痛風や腰痛、高血圧などご本人が自覚のある症状をきっかけにすると聞き入れてもらえることがあります。
どうしても通院が難しい場合は、訪問診療や訪問看護という選択肢もあります7。まずは地域の相談窓口やかかりつけ医に相談してみましょう。
まとめ|岩田先生からのアドバイス
認知症を予防できると保証された方法はまだありません。ただ、運動にしろ、食事にしろ、生活習慣にしろ、認知症の予防や進行抑制に効果があるというデータが報告されている7のは、基本的に健康に良いものばかりです。
過去には、喫煙が認知症リスクを減らすといわれましたが、今では完全に否定されています。ですから、自分に合った予防法を組み合わせて実行することは、健康管理に役立つという意味でも理にかなっていると思います。