うつ病の治療は1年以上の長期間に渡ることもあり、働きながら治療を行うことも考えられます。ただし、仕事の継続が良いか、休職が必要かは、症状の程度・背景・職場環境によって大きく異なります。
一般に、うつ病では「休養が必要」とされるイメージがありますが、軽症の場合は長期の休養が必ずしも直接の治療効果につながるわけではありません。むしろ、生活リズムが崩れて症状が長引くケースもみられます。一方、中等症〜重症の場合は適切な休職が回復につながることもあります。
医師が診察し、状態や病期、背景をよく把握したうえで、当事者と医師で十分に話し合い、仕事に関する方針を決めましょう¹。
休職や退職の選択は慎重に
仕事の継続が病状の悪化につながると予想される場合、一時的にその環境から離れて休養することは選択肢となり得ますが、ご自身の判断だけで申請をすると後悔するケースがあるかもしれません。
休職・退職は、
- ・ 経済状況
・ 家族の状況
・ 今後のキャリア
・ 病状の見通し
を総合的に判断する必要があるため、まずは医師に相談しましょう。
休職や退職を希望する際の手続きは勤務先によって異なりますが、診断書が求められることがありますので、人事担当者に確認してみましょう。
診断書については、以下の記事で説明していますので、あわせてご覧ください。
うつ病で休職する場合の生活費は?
休職中の給与の取り扱いは企業によってさまざまです。労働災害や傷病が認定されたり、要件を満たしたりすると、加入している保険から給付金を受け取れる場合もあります。
労働災害と認められた場合|療養費や休業補償などが支払われる
労働災害とは、仕事が原因で起きた病気やケガのことです。労働災害と認められるには、労働基準監督署長に請求書を提出し、調査を受ける必要があります。労働災害と認められれば、療養補償給付と休業補償給付を受けられます2。
ただし、休業4日未満の労働災害は、事業者が労働者に対して休業補償を行います2。
休業1~3日目においては、労働基準法で定める平均賃金の60%が事業者から支払われます2。休業4日目以降は労災保険として、休業1日につき労働基準法で定める平均賃金の80%が補償されます3。
労働災害申請が受理されてから給付決定となるまでの期間は、概ね1カ月以上です。うつ病などの精神疾患は、認定までにそれ以上かかる可能性もあります4。うつ病などの精神疾患が労災として認定されるケースもありますが、調査に時間がかかり、認定のハードルが比較的高いことは理解しておきましょう。
労働災害以外で休職する場合|傷病手当金が受けられる
休職中の給与の取り扱いは企業によって異なり、期間を定めて100%受け取れるところもあれば、働かないともらえないところもあります。勤務先の人事担当者に確認してみましょう。
傷病手当金とは、病気などのために勤務を休み、十分な給与が受けられない場合に支給されるお金です。休業4日目以降、休んだ日に対して支給されます5。
支給額は、以下の式から計算できます。
1日当たりの金額:
〈支給開始日の以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額〉÷30日×(2/3)
支給開始日とは、最初に傷病手当金が支給された日を指します。支給期間は、支給開始日から通算1年6カ月までです5。
ただし給与がある場合、傷病手当金は支給されません。給与があっても傷病手当金より少ない場合、その差額が支給されます5。
退職1カ月後から失業手当の受給が可能
雇用保険料を納めている場合、一定の受給要件を満たせば、失業手当を受給できます。しかし、病気で退職する場合は自己都合になり、受給手続日より7日経過した日の翌日から1か月間の給付制限を受けます。失業手当の受給には「就職しようとする意思があること」の条件があります5。
雇用保険料を納めているかどうかは給与明細を見ればわかりますが、パートタイマーや派遣労働者の方などは、被保険者ではない可能性があります。
うつ病を治療しながら働く場合に注意すること
うつ病の治療をしながら働く時には、自己判断で治療をやめない、職場の人に相談し環境を整える、生活習慣を整えるといった自分の努力も必要です。
自己判断で治療をやめない
うつ病は、症状がよくなったと感じても、治療を中断すると症状が悪化しやすい疾患です。自己判断で薬をやめたり通院をやめたりすると、再びつらい症状があらわれるリスクが高まります。
再発を防ぐためにも、医師の指示通りに治療を続けましょう7。薬の副作用などでつらい場合も、医師に相談してください¹。
職場の人に相談し環境を整える
業務量が多いなど仕事に問題がある場合には、相談して対応してもらうようにしましょう。ハラスメントがある場合も同様です。
環境調整には、以下のようなものがあります7。
- ・ 配置換え
・ 残業時間の短縮
・ 業務量や仕事内容の見直し
・ 人間関係の改善
必要に応じて、診断書を提出します。
生活習慣を整える
うつ病治療では生活習慣、特に、睡眠・覚醒リズムの改善は重要です。また飲酒による睡眠は質の悪い睡眠となるため、控えるようにしましょう¹。
うつ病発症後の働き方
うつ病になったら今まで通り働くほか、障害者雇用で働く、柔軟な働き方のできる職場を選ぶなどの働き方があります。自分の特徴などを知って、継続できる仕事を選びましょう。
どの働き方が適しているかは、病状・性格・家族の状況によって大きく異なります。働き方の選択は治療の一部と考えることが大切です。
障害者雇用で働く
精神障害者保健福祉手帳を取得している場合は障害者雇用の対象なります。すべての事業主は労働者の2.5%(2025年4月時点の法定雇用率)に相当する障害者を雇用することが義務付けられています8。
障害者雇用の枠は少なく、給与も比較的低い傾向にあります。そのため今まで通りとはいきませんが、障害の特性に応じた対応をしてもらえます。
柔軟な働き方ができる職場を選ぶ
ストレスの少ない職場で働けるように、ご自身にあった職場を選びましょう。
柔軟な働き方ができる環境としては、以下のようなものが考えられます。
- ・ 在宅ワークができる
・ 勤務時間に融通が利く
・ スケジュールをある程度自分で調整できる
労働時間や場所を選べると、ストレスも溜まりにくくなることが期待できます。
ノルマのない職場を選ぶ
ノルマの有無は職場によってさまざまですが、マニュアルに沿ってできる、過度なノルマのない仕事を選ぶようにすると、ストレスも少なくて済むかもしれません。
まとめ
うつ病になっても治療を受けながら働ける場合がありますが、状況によっては休職や退職の申請を検討しなければならない場合もあります。就労については、医師とよく相談しましょう。
治療に専念した場合の給与は企業によりさまざまですが、要件を満たせば、保険から給付金を受け取れる場合があります。症状がよくなったと感じても、うつ病の治療を自己判断で中止することは避けましょう。
うつ病治療は、回復と再発予防を含めた「長期的な視点」が必要です。治療中の働き方や生活費の不安は、病状を悪化させる要因になるため、医師・家族・職場で情報を共有しながら、無理のない方法を考えていきましょう。






