介護美容と認知症の関係。高齢者向け「ネイルペン」を開発した起業家・堀口カストゥリさん

介護美容でリハビリを「ワクワク」に変える。ペン型ネイルが引き出す高齢者の成功体験

堀口カストゥリさんの開発したマニキュア「ネイルペン アキュレ」が、介護用品カタログに掲載されています。介護現場や高齢者でも安心・安全に使えることが認められたマニキュアということなんですね。
はい、介護の現場で使っていただくことを前提に開発した製品ですので、安全・安心な成分や使いやすさは最も重視したところです。

子ども向けコスメにも爪に優しいマニキュア製品はありますが、それとは異なるのでしょうか?
もちろんお子様がお使いいただいても問題はないですが、お子様と高齢者では爪の状態が異なります。本製品は成長期のデリケートな爪というよりは、加齢や病気などの原因で弱ってしまった爪でも安心してお使いいただける設計となっています。

高齢者向けとして、たとえばどのような特徴があるのでしょうか。
高齢者特有の乾燥した凹凸のある爪でも塗りやすく、発色が美しく、また色素沈着等も起こさない成分にこだわりました。そのほか従来のマニキュアとは異なる以下のような特徴があります。
【ネイルペン アキュレの特徴】
- 無臭・低刺激:水が主成分でツンとくるニオイがありません。施設でも他の利用者様に気兼ねなく使用できます。
- 除光液が不要:速乾性で乾くとシールのように剥がせるほか、お湯で簡単にネイルオフもできます。
- ペン型の形状:マニキュアに慣れていない方、手が震えやすい方などでも、サインペン感覚で直感的に扱うことができます。
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ネイルペン アキュレ

ペン型の形状は、当事者が自分で使うことを想定したものなのですね。

家族や介護スタッフに「塗ってもらう」のもいいのですが、指先への集中はリハビリにもつながりますので、ぜひご自身でトライしてみていただきたいですね。
特に利き手とは逆の手でマニキュアを塗るのはなかなか大変ですし、脳のトレーニングにも最適だと言われます。

たしかに塗り絵などもよくリハビリで活用されますが、利き手と逆の手を使うのはマニキュアならではですね。

はい。また塗り絵もお好きな方はいいのですが、「子どもの遊びみたいで……」といまいち楽しんで取り組めないという方もいるようです。その点、特に女性はお化粧に興味がないという方は少ないですし、実際、弊社が施設向けに提供しているネイルレクリエーションでもみなさん夢中になって楽しんでくださっています。

頑張って、キレイに仕上がったらうれしいですしね。

そうなんです。扱いやすい形状には、多くの方に「キレイに塗れた!」という成功体験を引き出したいという思いも込めています。

もともと堀口さんはネイル製造メーカーで商品開発に携わっていたそうですが、高齢者向け製品を開発するにあたって大変だったことはありましたか?

一番大変だったのは、パートナーとなる工場を探すことでしたね。当時は<介護美容>という用語もほとんど知られていなかったですし、「介護現場にマニキュアなんて需要あるの?」と断られてばかりでした。そうした中で「自分も介護経験があるんです」と応援してくれた工場の経営者さんと出会えたのは、本当に幸運だったと思います。

ネイルペンの開発そのものの大変さはいかがでしたか?

そちらは楽しい思い出ばかりでした。介護施設にお邪魔させていただき、利用者さまやスタッフの皆さんに「どんな製品だったら現場で使いたいですか?」など、ヒアリングさせていただいてとても勉強になりましたし、何より祖母にモデルになってもらって試作を重ねた日々はかけがえのないものでした。

ネイルレクリエーションの様子

ネイルペンの開発にはおばあさまの協力がなくてはならないものだったのですね。
そうですね。高齢の日本人女性にフィットするネイルペンの開発を目指していましたので。カラー展開にもこだわりました。なかでも思い入れが深いのは「藤色」です。それは、かつておしゃれだった祖母が一番愛した色です。「おばあちゃんが一番好きな色を、もう一度指先に届けたい」という一心で、ブランドのラインナップに藤色を加えました。試作品を塗ったとき、言葉を失っていた祖母がふっと表情を和らげた瞬間は、今も忘れられません。
鏡を見ない唯一のコスメ。マニキュアが認知症当事者の「自分らしさ」を視覚から呼び覚ます

そもそも堀口さんがネイルペンを開発したきっかけは、おばあさまが認知症と診断されたことだったとか。
はい、コロナ禍のことでした。それ以前の祖母は一人暮らしをしていましたが、オペラのグループに参加したり、時には少し遠くのスーパー銭湯まで足を伸ばしたりと、とてもアクティブな女性だったんです。ところがコロナになってからは、外出したり、人と交流するのが怖くなってしまったみたいで──。

あの頃は家族でも高齢者宅を訪ねるのが憚られる風潮がありましたね。
その前までは私も3ヶ月に1回ペースで祖母のところに遊びに行っていたのですが、なかなか会えなくなってしまい、寂しいなと思っていました。

おばあさまと仲が良かったのですね。
高校時代、通っていた学校の関係で祖母と二人暮らしをしてたことがあったんです。祖母の作るご飯もおいしくて大好きでしたね。祖母は「私はピザが好き」と言って、私が遊びに行くたびにデリバリーするのを楽しみにしていましたけど(笑)。

味覚も含めてモダンなおばあさまだったんですね。
いくつになってもオシャレでイキイキとした自慢のおばあちゃんでした。それだけにコロナが落ち着いて久しぶりに会った祖母が、すっかり変わってしまっていたのはショックが大きかったです。

どんなふうに変わってしまっていたんですか?
認知症の症状が進行していたんです。話しかけても何の反応もなく、無表情で、私の名前すらわからなくなっていて──。最初の頃は「おばあちゃんが別人になっちゃった」と戸惑ってばかりいました。だけどある時、「おばあちゃんは何も変わっていない」ということに気付いたんです。

何がきっかけだったのですか?
お化粧をしている私を祖母がジッと見つめていたんです。その時、そういえばおばあちゃん、いつもキレイにお化粧していたな。認知症になってオシャレから遠ざかってしまったけれど、やっぱり「キレイでいたい」という気持ちがあるんだな、と直感的に思ったんです。
堀口さんのおばあさま

昔から好きだったモノやコトは変わらないと言います。
少しでもその気持ちを叶えてあげたくて「この色、好きだったよね?」とマニキュアを塗ってあげたんです。すると、それまでまったく表情のなかった祖母が、ジッと爪を見つめた後にニコッと笑って「ありがとう」と言ってくれたんですよ。

それまで見たことのない反応だったのですか?
その頃にはコミュニケーションもほとんど取れなくなっていたので、本当にびっくりしました。これは何かのきっかけになるかもしれないと思い、それから会いに行くたびにマニキュアを塗るようになったんです。すると祖母の発話も増えていき、ついに私の名前を呼んでくれた時は本当にうれしかったですね。

堀口さんの他にも、おばあさまの変化に気付いた方はいましたか?
施設のスタッフさんからも「奇跡的なほど表情が明るくなった」と驚かれました。「何かされたんですか?」と聞かれても、思い当たるのはマニキュアくらい。ただもともと華やかなお洋服が好きだったり、お庭でバラを育てるのが趣味だったりと、色彩への意識が高い人ではあったと思うんです。

美しく彩られた爪が、おばあさまの心も脳も活性させたのですね。
当時は認知症に関する知識も全くなかったですし、祖母に喜んでもらいたい一心でした。祖母と安全にお出かけできるように、介護職員初任者研修を取得したのもその頃のことです。そうした勉強を通して、<介護美容>の存在も知りました。
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