さいたま市の認知症フレンドリーなまちづくり|チームオレンジで地域・企業をつなぐ仕組みとは?

「認知症になってから、人生がパワーアップした」
「認知症になってから、人との出会いが楽しくなった」
そう語る認知症の人たちが、埼玉県さいたま市にいます。さいたま市には、認知症の人が「主役」となり、地域住民や地元企業を巻き込みながら、生き生きと過ごせる「場所」が存在します。
「認知症になったら何もできなくなるのでは?」という旧来の不安を覆す「場所」づくりに成功しているさいたま市には、「認知症施策を単なる支援にとどめず、まちづくりとして捉える」という独自の視点があります。
その中核として2024年7月に開設されたのが「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」です。
驚くべきは、人口約135万人を抱える政令指定都市のまちづくりを、わずか6人のスタッフが推進していること。彼らはどのようにして地域や企業をつなぎ、この大きな輪を広げているのでしょうか? さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンターのコーディネーターの黒川愛さんと、久保田亜里子さんにお話を伺いました。
※この記事では、以下のように表記を使い分けています。
- さいたま市チームオレンジ:認知症と共生する社会の実現に向けた、さいたま市全体の取り組み
- チームおれんじ:認知症の当事者とその家族、サポーター等で構成される地域活動チーム
さいたま市が目指す認知症フレンドリーなまちづくりとは?「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」の設立経緯
テヲトル:さいたま市は、国の認知症施策をベースとしつつ、市の「まちづくり」として取り組んでいるのが印象的です。その考えに至った背景と、「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」が開設されるまでの経緯を教えてください。
黒川愛さん(以下、黒川さん):国が示している認知症施策を具体化するにあたり、さいたま市は「まずは認知症の当事者たちの声を直接聞いて、生の意見を出発点にすること」を大切にしています。単に介護サービス等の支援を充実させるだけでなく、地域社会全体が認知症を正しく理解し、当事者の方々が社会の一員として生活を楽しめる環境を作ること。これを「まちづくり」と捉え、認知症がある人もない人も、ともに暮らす共生社会を目指しています。
センター設立の出発点は、2022年度に着任した熱意ある市の担当者の行動でした。その方は熱意のある方で、着任するとすぐに認知症の当事者たちが実際に集まっている場に足を運びはじめました。
そして「若年性認知症サポートセンター」主催のカフェに参加した際、さまざまな背景を持った若年性認知症の参加者たちが明るく語り合い、フラットな関係でつながっている姿を見て感銘を受けました。
「認知症の人はただ単に支援される存在ではない。むしろ主体となって居心地の良い場所を作っている。こうした居場所を増やしたい!」と言う思いから、認知症と共生する社会の実現に向けた市全体の取り組みである「さいたま市チームオレンジ」の検討ワーキングが始まりました。
テヲトル:検討ワーキングは、どのように行われたのでしょうか。
黒川さん:息の長い取り組みになることを見据えて、「さいたま市チームオレンジ」の推進主体となるセンター機能の設置を目指しました。
有志の認知症地域支援推進員のほか、認知症の当事者やそのご家族、認知症サポーター、おれんじパートナー、さいたま市若年性認知症支援コーディネーター、埼玉県オレンジチューターなど、さまざまな関係者にワーキングチームに参画していただきました。
検討ワーキングは2022年11月から計4回を重ね、2024年7月に「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」が開設されました。
テヲトル:検討開始からは1年半ほどでセンター設立に至っており、比較的早い展開だったのではないでしょうか?
黒川さん:そうですね。私自身、もともと地域包括支援センターに勤務していたので、当時は認知症地域支援推進員として検討ワーキングに関わっていました。
各地域で少しずつ積み上げてきた認知症に関するさまざまな取り組みが、さいたま市全体の施策として「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」という形で統括されたことはとても感慨深かったです。
個人的にも現在、コーディネーターとしてこの場で働いていることにも、深いご縁を感じています。
テヲトル:開設した「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」の運営体制と役割について教えてください。
黒川さん:「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」は、さいたま市から委託を受けた「社会福祉法人シナプス」が運営しています。現在コーディネーターは6人、事務職員は非常勤含め2人です。
社会福祉法人シナプスとは、埼玉精神神経センターを中核として精神科・脳神経内科領域の医療を提供するなど、認知症の診療や相談、地域支援などを行っている組織です。「さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター」のほかにも、さいたま市認知症疾患医療センターや、通所介護や訪問看護などの福祉事業も展開しています。私たちコーディネーターは、この社会福祉法人シナプスに所属して活動しています。
久保田さん:私たちの役割は、認知症の当事者と地域、企業、そして当事者同士を「つなぐ」ことです。さいたま市にはこれまでもさまざまな活動がありましたが、それらを整理し、横のつながりを築きながら継続的に支えていくことが大きな使命です。
さいたま市は人口約135万人、10区を抱える広域都市です。この規模のまちづくりを推進するには、地域住民や企業の皆さまの協力が不可欠であり、周囲との連携なしには成り立たないと感じています。
「さいたま市チームオレンジ」の全体構想においては、「チームおれんじの活動(地域活動)」と「認知症フレンドリー企業・団体の活動」の2つを明確に分け、それぞれを登録制度として二本柱で運用している点が大きな特徴です
さいたま市認知症希望大使|認知症の当事者が発信する希望の声が地域を動かす
テヲトル:認知症の当事者がご自身の言葉で発信する「さいたま市認知症希望大使」という取組があるそうですね。
黒川さん:はい。認知症希望大使の主な活動は、情報発信や人材育成の場での登壇です。認知症サポーター養成講座などに参加し、診断を受けたときの気持ちや、今活動している内容、地域の方に伝えたいことなどを、ご自身の言葉で語っていただいています。
大使の任命は、さいたま市が政令指定都市として初めてでした。現在は3人の方が活動されており、特にお1人の女性大使は「認知症になってからの出会いがとても楽しい。認知症になって人生がパワーアップした」とおっしゃるほどです。以前はインドア寄りの生活だったそうですが、いまは積極的に外に出て、自身の経験を伝えていきたいと意欲的に活動されています。
テヲトル:大使の皆さんの生の声は、地域の方々にどのような影響を与えていますか?
黒川さん:私たちが「新しい認知症観」などと説明するよりも、はるかに伝わりやすいと感じます。講座後のアンケートでも、「認知症になってもこんなに生き生きと暮らせるのだと希望が持てた」という感想が多く寄せられており、私たち自身も大使と一緒に活動する中で元気をもらっています。

さいたま市認知症希望大使が認知症カフェに参加する様子(写真提供:さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター)
地域住民が主役になる「さいたま市チームオレンジ」の活動と始め方
テヲトル:「さいたま市チームオレンジ」の二本柱の一つ、「チームおれんじ(地域活動)」について教えてください。
久保田さん:さいたま市チームオレンジの特徴は、「チームおれんじの活動」と「認知症フレンドリー企業・団体の活動」という2つに活動を明確に分け、それぞれを登録制度として運用している点です。さいたま市では、国の制度をそのまま導入するのではなく、「認知症の方と共に生きるまちづくり」という視点から制度設計を見直しました。その結果、二本柱の登録制度を設ける形になりましたが、このように運用している自治体は比較的珍しいと聞いています。

チームオレンジ啓発グッズ
チームおれんじは、「認知症当事者の声を出発点に」当事者と一緒にやってみたいことを活動にしていく地域の取り組みです。当事者を中心に、ご家族、サポーター、地域住民がともに参加し、支える・支えられるという垣根を取り払って、それぞれが主体的に関われる場であることが特徴です。2026年1月31日時点での登録数は33件で、月に約1件のペースで増えています。
テヲトル:参加団体は具体的にどのような活動をしているのでしょうか?
黒川さん:活動は地域の特性やメンバーの個性を生かし、本当に多彩です。例えば以下の3チームをご紹介します。
- よつばのひろば(南区):
さいたま市で最初に立ち上がったチームです。子育てサロンのメンバーや劇団関係者など多世代が集まり、当事者の戦争体験を聞いてお芝居にするなど、それぞれの経験を生かした活動を行っています。 - あん(北区):
「安心して行ける場所」がテーマです。手作りのすごろくや折り紙などを当事者のペースに合わせてゆったり楽しみます。メンバー全員があんこ好きという和やかな雰囲気のチームです。 - 目白のわ(岩槻区):
目白大学さいたま岩槻キャンパスの一角で活動し、学生や教員も参加する多世代交流の場です。広い岩槻区の特性に合わせ、地域の介護サービス事業所の車で送迎支援も行っています。
テヲトル:「チームおれんじ」を始めたい、参加したいと思った場合、どのような一歩を踏み出せばよいですか?
まずは「認知症への理解」として「認知症サポーター養成講座」の受講をお願いしています。次に、実際の活動を知るために「オレンジカフェ(認知症カフェ)」の見学をお勧めしています。市内には私たちが把握しているだけで85か所のカフェがあり、ファストフード店で開催されている身近なものもあります。
実際にチームを立ち上げる際は、地域の福祉拠点である地域包括支援センターが窓口となり、そこから当センターへつないでいただく流れになります。無理に型にはめるのではなく、それぞれの地域や思いに合う活動を一緒に探していく支援を行っています。
地域と企業をつなぐ「認知症フレンドリー企業・団体」の広がり
テヲトル:もう一つの柱である「フレンドリー企業・団体」について教えてください。
久保田さん:認知症への理解および支援、認知症の当事者が利用しやすいサービス・製品開発、環境整備などを実践する企業・団体等を対象に登録を行っています。市内で事業活動をしていれば、店舗や支社・支部単位でも登録可能です。登録団体数は、2026年1月31日時点で727件に上り、増加傾向にあると感じています。
登録要件は「人材育成」「地域連携」「社内制度」「サービス・環境整備」の4つがあり、いずれか一つに該当すれば登録可能です。「これから協力したい」という意思を大切にしています。
テヲトル:どんな企業・団体が参加しているのでしょうか。
久保田さん:鉄道、製薬、通信、小売、金融、学校など多種多様です。
企業側の最大のメリットは、地域の方々と直接交流し、新たな地域連携の可能性を見い出せる点です。 先日開催した「認知症フレンドリーフェスタ」では、多くの企業に体験・展示ブースを出展していただきました。

認知症フレンドリーフェスタの様子
黒川さん:フェスタでは、企業側から「地域の方の生の声を聞けたことが一番の収穫だった」「当事者と対話し、認知症は社会全体で取り組む課題だと実感した」という声が多く聞かれました。企業同士の横のつながりや、企業と大学の新たな連携が生まれたことも大きな成果です。
認知症になっても自分らしく暮らせる社会へ
テヲトル:最後に、この取り組みを通じて最終的に目指す地域社会の姿を教えてください。
久保田さん:私たちは、この取り組みを「まちづくり」として進めています。
人口135万人のさいたま市において、私たちセンターの6人だけでできることには限りがあります。だからこそ、地域の皆さんやフレンドリー企業・団体の方々と一緒に取り組むことが欠かせません。
大きなことを始める必要はありません。「認知症について知る」「地域の活動を見てみる」といった小さな関わりからで十分です。地域の中でできることが少しずつ広がり、当事者もそうでない人も自然に関わり合えるまちになっていくことを願っています。「誰にとっても本当に住みやすいさいたま市」を皆さんとともに目指していけたら嬉しいです。
この記事の補足情報
参考文献
- 1.
Alzheimer’s Society:Dementia-friendly resources.
[https://www.alzheimers.org.uk/get-involved/dementia-friends/dementia-friendly-resources](最終閲覧:2026年8月4日)
著者情報
- PROFILE/ プロフィール

さいたま市認知症フレンドリーまちづくりセンター
黒川愛 久保田亜里子 ▪️黒川愛さん(左) 地域包括支援センターの主任介護支援専門員として、高齢者やそのご家族の相談支援に携わってきた。試行錯誤しながら認知症カフェや介護者サロンを開催するなか、当事者同士が思いを共有できる場づくりの大切さを知る。「私が認知症になっても変わらずよろしくね」と言えるまちにしていきたい。 ▪️久保田亜里子さん(右) 医療機関で医療相談員として、認知症の方とそのご家族の相談支援に携わってきた。認知症疾患医療センターでは専門相談員や初期集中支援チームのチーム員としての活動も経験。常に本人の声を聴くことを大切にしながら支援するよう心掛けている。目指すのは、「誰にとっても本当に住みやすいさいたま市」。これからも地域の声を大切にしながら活動していきたい。
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