45年以上続く「認知症の人と家族の会」の存在意義|認知症介護の家族を救う「電話相談」と「つどい」とは?

認知症と診断された人やその家族のなかには、誰にも相談できず、孤立したまま悩みを抱えている方も少なくありません。そうした人々が集まり、悩みや経験を語り合う場として活動しているのが「公益社団法人認知症の人と家族の会」(以下「認知症の人と家族の会」)です。
「認知症の人と家族の会」は1980年の結成以来、同じ境遇の家族が悩みを共有する「つどい(集会)」、介護経験者らが対応する「電話相談」、最新の認知症情報を届ける「会報」の3本柱を通じて、全国の認知症の人やその家族を支えてきました。
45年以上にわたる活動を通じて、どのような声が寄せられ、どのような課題を解決してきたのでしょうか。「認知症の人と家族の会」の代表理事である和田誠さんにお話を伺いました。
「認知症の人と家族の会」の役割と歴史|1980年に京都で設立
- テヲトル

こんにちは。まずは「認知症の人と家族の会」についての紹介をお願いします。
- 和田誠さん

はい。「認知症の人と家族の会」は、1980年に京都で結成された全国的な組織で、各都道府県に支部があります。
- テヲトル

最近はどのような活動に注力されていますか?
- 和田誠さん

主な活動として3つの柱があります。
1つ目は、同じ境遇の家族が悩みを共有する「つどい(集会)」です。全国の都道府県で年間約3,500回開催しています。
2つ目は、約35の都道府県に窓口を設けて介護経験者らが対応する電話相談。
3つ目は、最新の医療や介護情報を誌面で届ける会報誌「ぽ〜れぽ〜れ」の発行です。
- テヲトル

「つどい(集会)」の開催回数の多さに驚きます。
- 和田誠さん

はい。1日あたり10カ所程度どこかで開催されている計算になります。1回につき10〜15人が参加しています。
- テヲトル

「つどい(集会)」を開催するに至った経緯を教えていただけますか?
- 和田誠さん

「認知症の人と家族の会」が発足した約45年前は、認知症に関する情報が世間にほとんどなく、介護に直面した家族が極めて孤立しやすい状況にありました。そうしたなかで「認知症の介護をしている家族同士で話し合ってみてはどうか?」という提案があり、家族同士で集まる機会が企画されました。

「認知症の人と家族の会」が開催している「つどい(集会)」の様子(写真提供:公益社団法人認知症の人と家族の会)
- 和田誠さん

その企画の1つが全国紙で紹介されると大きな反響を呼び、その集会には全国から約90名が参加しました。
- テヲトル

認知症に関する同じ悩みを語り合いたい、という需要が大きかったわけですね。
- 和田誠さん

はい。想像以上に、認知症の介護をしている家族同士が悩みや経験を語り合う場を必要としていることがわかりましたので、その後、「つどい(集会)」として定期的に開催されるようになり、「認知症の人と家族の会」は全国的な組織へと発展してきました。
- テヲトル

現在の「認知症の人と家族の会」の会員数は何名でしょうか?
- 和田誠さん

2026年現在、「認知症の人と家族の会」の会員数は約9,000名に上ります。現役の介護者や介護経験者が全体の半数以上を占め、次いで介護・医療従事者や会の支援者が約4割となっています。また、認知症本人の会員も100名ほど在籍しています。
- テヲトル

どのようなきっかけで「認知症の人と家族の会」に参加する人が多いですか?
- 和田誠さん

理由や動機はさまざまです。特に多いのは、高齢者のくらしを地域でサポートする総合相談窓口「地域包括支援センター」などから紹介されてつながるケースです。ケアマネジャーや医療機関からの紹介も多いです。
また、インターネットで「認知症の人と家族の会」の活動を知った方や、自治体の広報誌などで「つどい(集会)」や「電話相談」の案内を見て連絡をくださる方も多くいらっしゃいます。
認知症介護における家族の苦悩|気持ちを受け止める「電話相談」の意義深さ
- テヲトル

「電話相談」は具体的には、どのようなことをされていますか?
- 和田誠さん

文字通り、電話で認知症介護に関する悩みを受け付ける取り組みです。本部にコールセンターを設けているのに加えて、約35の都道府県で自治体から委託を受けて相談窓口を運営しています。
- テヲトル

お悩み相談には、どのような方が対応されるのですか?
- 和田誠さん

「認知症の人と家族の会」の電話相談研修を受けたスタッフが相談に対応しています。介護経験者、医療・介護従事者などが中心です。
- テヲトル

どんな悩みが「電話相談」に寄せられますか?
- 和田誠さん

電話をかけてくる方々の多くは、具体的な解決策を求めているというよりも、「まずは話を聞いてほしい」という気持ちが大きいように感じています。また、ご家庭によってさまざまな事情がありますので、必ずしも「電話相談」で明確な解決方法を提示できるとは限りません。
例えば、介護施設に入所するという選択肢があったとします。実際にそれが実現可能かどうかは、それぞれの家庭環境や経済状況などによって異なります。

「認知症の人と家族の会」で実施している「電話相談」の様子
- 和田誠さん

しかし「とにかく話を聞いてほしい」「気持ちを受け止めてほしい」というニーズがとても多いので、その役割を「電話相談」が担っています。
- テヲトル

認知症介護では「周囲に相談しにくい」という人もまだまだ多いので、電話のお悩み相談で救われる方も多いでしょうね。
- 和田誠さん

ええ。「電話相談」にはリピーターの方も少なくありません。「先日の相談のあと、こんなことをしてみました。その後はこのような状況になりました」と、相談後の様子を報告してくださる方もいます。
困りごとの相談だけでなく、介護のつらさを共有したり、気持ちを整理したりする場として「電話相談」を利用されている方も多いように感じています。
- テヲトル

「つどい(集会)」と「電話相談」では、対話される内容も異なりますか?
- 和田誠さん

「つどい(集会)」は、お悩み相談というよりも、どちらかといえば「情報交換」の側面が強いです。実際にその地域で認知症介護をしている家族同士だからこそ共有・共感できる内容、例えば「あそこの病院が良かった」「ショートステイはあそこの施設を利用している」といった具体的な情報を交換していることが多いです。
45年以上続く「認知症の人と家族の会」の真価|介護に悩む人の気持ちに寄り添う力
- テヲトル

「つどい(集会)」も「電話相談」もですが、認知症介護について「気持ち」も含めて理解している人たちが運営しているからこそ、安心して対話できるように感じます。
- 和田誠さん

そうですね。「認知症の人と家族の会」は、一般的な行政や専門職が主体となる場とは少し雰囲気が違うかもしれません。
例えば、地域包括支援センターなどが主催する会では、どうしても制度やサービスの話が中心になりがちです。もちろん、そうした情報を求めている参加者もいらっしゃいますので必要な場なのですが、必ずしも解決策を求めているわけではない人も少なからずいらっしゃいます。
- テヲトル

認知介護の悩みを聞いてほしいと考えている方には、「つどい(集会)」や「電話相談」を活用いただきたいですね。
- 和田誠さん

はい。「つどい(集会)」では、初めて参加した方が、涙ながらに苦しい思いを語り、他の参加者さんが優しい声をかける場面もみられます。
家族が主体となって続けてきた、いわば行政の制度や枠組みに縛られないインフォーマル(非公式)な場だからこそ、同じ立場の人の気持ちに寄り添えるのではないでしょうか。
45年以上続いてきた「認知症の人と家族の会」の価値は、まさに認知症介護で悩んでいる人の気持ちに寄り添える点にあるように思います。
- テヲトル

3つ目の柱である「会報」はどのような位置付けの活動ですか?
- 和田誠さん

「ぽ〜れぽ〜れ」という会報誌を毎月発行し、会員に郵送しているものです。
「つどい(集会)」に参加することが難しい方や、認知症について詳しく知りたい方に向けて、最新の医療情報や介護情報などを誌面でお届けしています。

認知症の人と家族の会の会報誌「ぽ〜れぽ〜れ」
会員一人ひとりの声が励み|「認知症の人と家族の会」代表理事・和田誠さん
- テヲトル

和田さんが「認知症の人と家族の会」の運営に携わるなかで、最も印象的だった出来事はありますか。
- 和田誠さん

特定の大きなエピソードというよりも、会員の方々の声そのものが、毎回印象に残っています。
例えば、初めて「つどい(集会)」に来られた際は、とても落ち込んだ表情をされていた方が、いろいろな人と対話するうちに表情がやわらぎ、最後は笑顔で帰っていき、次の会にもご参加いただいたり。
ほかにも、「これまで役所や地域包括支援センターなどに相談してきたけれど、誰も自分をわかってもらえていない気がしていた。でも『つどい(集会)』に来て初めてわかってもらえる人に出会えた」とおっしゃっていただいたり。
- テヲトル

会員からそういった声があると、運営する側のモチベーションも高まりますね。
- 和田誠さん

そうですね。「つどい(集会)」の参加者から、「施設への入所が決まった」「介護を続けて看取りまで経験した」というその後の進捗のご報告をいただくこともあります。
そうした一人ひとりの歩みを聞くたびに、「認知症の人と家族の会」が少しでも支えになっているのだと励みになりますし、私自身のやりがいにもつながっています。
- テヲトル

認知症介護に関わる人への温かさを感じるのですが、和田さんご自身はなぜ「認知症の人と家族の会」に関わるようになったのでしょうか?
- 和田誠さん

きっかけはボランティア活動でした。
- テヲトル

ボランティアから代表理事になった?
- 和田誠さん

はい。私はもともと東京で仕事をしていたのですが、福井県に住む父の介護が必要になり、地元に戻って介護をすることになりました。そのタイミングで友人の紹介で介護関連の仕事にも関わるようになり、認知症をめぐる社会課題の大きさに関心を持つようになりました。
2016年から「認知症サポーター養成講座」の講師を務めるなど、さまざまなボランティア活動に関わるようになって、その支援先の一つが「認知症の人と家族の会」でした。
そして「つどい(集会)」の運営などを手伝って、認知症の人や認知症介護に悩む方々の多くの声に接してきました。
「当事者団体」として声を上げていく|「認知症の人と家族の会」の原点
- テヲトル

「認知症の人と家族の会」の運営で課題はありますか?
- 和田誠さん

「認知症の人と家族の会」の内部の課題として大きいのは、運営メンバーの高齢化です。長年活動を支えてくださっている方が多い一方で、世代交代がなかなか進んでいない状況です。
もともと認知症介護を経験した家族が「自分が支えられたから、今度は誰かを支えたい」という思いで運営に関わる人が増えてきた歴史があります。
ただ、介護を担う家族の姿も時代とともに変わってきており、そうした時代の流れの中で、次の担い手の確保が難しくなってきているという危機感が強いです。
- テヲトル

内部の課題とのことですが、外部的な課題も何かありますか?
- 和田誠さん

社会全体の状況として、家族構成の変化も大きな課題だと感じています。独居の高齢者や、いわゆる「おひとりさま」の介護、さらに高齢者同士が介護を担う「老老介護」も増えています。
年金が少なく、生活に余裕のない方が介護を担っているケースも多く、本来は社会の支援がもっと必要な方々に、十分に手が届いていない現状を感じることも少なくありません。
政策面でも危機感を持っています。認知症の人は今後も増え続け、2050年頃までは増加すると言われています。それにもかかわらず、介護保険の自己負担を増やすなど、制度縮小の議論も進んでいます。介護が必要な人が増えていく時代に、支援が弱くなっていくのではないかという点は大きな懸念です。
- テヲトル

そうした社会的な課題を踏まえて、「認知症の人と家族の会」としては、今後どのような役割を果たしていきたいとお考えですか?
- 和田誠さん

そうですね。「認知症の人と家族の会」は1980年に結成された当事者団体であるという原点をこれからも大切にしながら、認知症をめぐるさまざまな課題に対して声を上げていきたいと考えています。
例えば、認知症の本人の行方不明問題や、認知症の介護に追い詰められて起こる事件など、まだ十分に解決されていない課題は数多くあります。こうした問題については、当事者団体として現場の声を社会や行政に届けていくことが必要です。

世界アルツハイマー月間の様子
- テヲトル

長年積み重ねてきた「つどい(集会)」や「電話相談」の取り組みは、社会にとって大切な資源になりそうですね。
- 和田誠さん

はい。企業・行政・研究機関などとも連携しながら、社会の仕組みの中でより活かしていくことも模索していきたいです。
実は「認知症の人と家族の会」は世界120カ国以上の団体が加盟する「国際アルツハイマー病協会(ADI)」の日本の加盟団体でもあります。
毎年9月の世界アルツハイマー月間に合わせた啓発活動など、日本の認知症施策や地域での取り組みは国際的にも注目されているため、海外に情報発信していくことも今後の役割の1つだと考えています。
認知症介護は一人で抱え込まず「誰かとつながってください」
- テヲトル

では最後に、現在進行形で認知症介護に悩み、孤立感を感じている人たちへメッセージをお願いします。
- 和田誠さん

まずは、一人で抱え込まず、誰かとつながっていただきたいと思います。「認知症の人と家族の会」だけでなく、地域包括支援センターや医療・介護の専門職など、地域には無料で相談できる場や人がいます。そこで完璧な答えが見つかるとは限りませんが、信頼できる人たちと一緒に考えながら、歩んでいくことがとても大切です。
また、認知症はある日突然すべてが変わるものではありません。診断を受けたからといって、その人が急に別人になるわけではなく、状態にはグラデーションがあります。だからこそ、家族が急にできることを取り上げてしまったり、「もう何もできない」と決めつけてしまったりする必要はありません。
本人があきらめないことはもちろん、家族も「できること」を奪わないことが大切です。認知症になったら人生が終わるわけではありません。認知症を発症しても、周囲の人とつながりながら、その人らしい暮らしを続けていくことができる。そうしたことをぜひ知っていただけたらと思います。
- テヲトル

ありがとうござました。今後も「認知症の人と家族の会」の役割はますます重要になります。引き続き応援しております。
- 和田誠さん

ありがとうございます。手を取りあって共に認知症にまつわる社会課題を解決していきましょう。
この記事の補足情報
著者情報
- PROFILE/ プロフィール

和田誠
公益社団法人認知症の人と家族の会代表理事(共同代表) 福井県出身。行政書士、介護福祉士、認知症ケア専門士。介護現場での経験を経て、ボランティアスタッフとして「公益社団法人認知症の人と家族の会」に参加。2025年に認知症の人と家族の会代表理事(共同代表)に就任。
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