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なぜ図書館が「認知症関連の本棚」を常設するの?「認知症かもしれない人」への対応がきっかけ【川崎市立宮前図書館】
更新日:2026-06-25

なぜ図書館が「認知症関連の本棚」を常設するの?「認知症かもしれない人」への対応がきっかけ【川崎市立宮前図書館】

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なぜ図書館が「認知症関連の本棚」を常設するの?「認知症かもしれない人」への対応がきっかけ【川崎市立宮前図書館】
そのもの忘れ、年齢のせい?それともMCI?

高齢化が急速に進む川崎市宮前区では、「図書館」が地域包括ケアの一翼を担い、地域の多様な課題に向き合ってきました。川崎市立宮前図書館の館長である舟田彰さんは、ご自身の介護経験を糧に、その活動を牽引してきた中心人物です。舟田さんの思いの根底にあるのは、“認知症かもしれない利用者”との対話から生まれた「特別視せず、できることから」という自然体の実践です。

その代表例が、約10年前に設置された「認知症の人にやさしい小さな本棚」。20冊の展示から始まった本取り組みは、現在までに190冊を超える常設コーナーへと発展し、外部連携やボランティア活動など、図書館の枠を超えて地域に支え合いの輪を広げています。認知症になっても思い出の場所を使い続けてもらうために、図書館には何ができるのか。舟田彰さんにそのあたたかな実践に込められた思いと、現場での気づきや今後の役割について伺いました。

図書館に設立された認知症の方にやさしい「小さな本棚」

 
 ▲認知症の人にやさしい小さな本棚(写真提供:宮前図書館)

認知症の人にやさしい小さな本棚の出発点|川崎市立宮前区図書館の取り組み


――「認知症の人にやさしい小さな本棚」の設置に至ったきっかけについて、教えてください。

舟田さん:
きっかけは、図書館の利用者とのやり取りの積み重ねでした。2014年に図書館に着任して以降、同じことを繰り返し尋ねる方や、夕方に「帰れなくなった」と来館される方、「夫がいませんか?」と家族が探しに来られるケースなどに立ち会い、職員がご自宅まで利用者をお送りしたこともありました。
予約本の到着連絡でご自宅に電話をかけた際、ご家族から開口一番「うちの夫が何かしましたか?」と尋ねられ、戸惑いを覚えると同時に、ご家族の状況を案じたこともあります。勤務中にこうした“認知症かもしれない方々”と向き合う中で、地域において図書館に何が求められているのかを考えるようになりました。

当初は、正直なところ「どう対応すればいいのか」と難儀に感じることもありましたが、“認知症かもしれない方”に図書館としてどう対応し、これまで通り利用していただくには何が必要かを検討しました。職員の意見としても、「いずれ自分も当事者になりうるし、他人事じゃないよね」と、今後の高齢者利用の増加も見据えて、継続的に取り組むべきという認識が共有されました。
そこで、「認知症を特別視するのではなく、図書館としてできることを考える」という方針のもと議論を重ね、まずは情報提供から始めることにしました。本棚の設置はその小さな取り組みの一つとして始動した形です。

宮前区の現状としても、今後急速に高齢化が進むと予測されており、結果的に必然性のある取り組みでした。川崎市の地域包括ケアシステムの概念図では、医療・福祉関係機関と共に、市民館や図書館といった社会教育施設も地域ケア圏の中に並列されています1。これは他自治体ではあまり見られず、図書館も地域資源の一つとして明確に位置づけられている中で、何ができるのかを考えたことが本取り組みの出発点となりました。

川崎市地域包括ケアシステムの概念を示した図

▲川崎市地域包括ケアシステムの概念図

――利用者とのやり取りの中で、特に印象に残っているエピソードや、対応で心がけていることがあれば教えてください。

舟田さん:
図書館カードを作りに来られた60歳くらいの方が、「実は老老介護をしていて……」と身の上を話してくださったことがありました。手続きの合間の雑談で、認知症と明言されていたわけではありませんが、そうした事情があるのではないかと感じ、「あちらに関連書籍がありますよ」「パンフレットも、よろしければお持ちください」とご案内した記憶があります。もう10年ほど前のことで詳細は覚えていませんが、印象に残っているエピソードです。

一方で、本棚の前で長時間立ち止まっている方をお見かけすることもありますが、困っている様子でなければ、こちらから積極的に声をかけることはしていません。何か目的があるのだと思いますし、認知症の当事者かどうかわからない場合もあるため、あえて踏み込まず、読みたい本をじっくり選んでいただくことを大切にしています。必要以上に関与せず、自然な距離で見守るような対応を心がけています。

認知症の本の選書と利用者に寄り添う環境づくり

――2015年8月、本棚の開設当初は企画展示として約20冊からのスタートだったと伺っています。同年12月には約80冊をそろえた常設展示へと発展していますが、その過程でどのような反響がありましたか。

舟田さん:
最初は「認知症を知る」という企画展示コーナーとして、パンフレットやチラシ、関連図書を並べた簡単なものでしたが、フリーペーパーが瞬く間になくなり、ニーズの高さを実感しました。展示物が不足したため一度引き上げ、健康福祉局の職員にチラシの追加を依頼したところ、関心を持っていただき、「ぜひこれからも進めてほしい」「地域包括ケアは福祉職だけでなく市の全職員で担うものだ」と背中を押されました。こうした経緯を経て、数ヶ月後には「認知症の人にやさしい小さな本棚」を常設コーナーとして設置するに至りました。

――現在、本棚には何冊ほど並んでいるのでしょうか。また、選書にあたって大切にしている視点や工夫について教えてください。

舟田さん:
当初はカラーボックスでの運用でしたが、現在は約190冊まで増え、ステンレス棚へと移行しています。やや過密ではありますが、認知症をセンシティブに受け止める方への配慮から、書棚の奥側の通路沿いに置き、目立ちすぎず手に取りやすい環境としています。過去には200冊を超えた時期もあり、その際には一部を本来の分類棚へ戻したり、古い資料を書庫に移したりなどの整理も行いました。通常は分類番号ごとに配架される図書を、このコーナーでは「認知症」というキーワードで横断的に集めている点も特徴です。現在は家族介護に関する本を中心に、家族ケアや専門職向けの書籍、認知症理解のための本、当事者や家族の体験記などで構成しています。

選書は主観的な判断による部分もありますが、「当事者が読める本であるか」という視点を大切にしています。ご家族から「どのような本が読めるのか」と相談を受けることも多く、「ドリルのようなものがよいのか」「書き込み式の本がよいのか」といった質問もよくありますが、特定の形式を勧めるのではなく、その方が読みたい本を自由に選べる環境を整えることが、図書館の役割だと考えています。

認知症をテーマにした本のコーナー

 
▲認知症に関する書籍(写真提供:宮前図書館)

図書館から認知症の関係機関へ広がる支援の輪

――「当事者やご家族が書いた本の展示」やイベント活動、出張図書館など、独自の工夫も展開されています。こうしたアイデアはどのような協力体制のもと実現していったのでしょうか。

舟田さん:
展示コーナーについては、関係機関と連携しながら取り組んできました。たとえば、認知症の当事者が書いた本を集めたブックフェアでは、ご本人が作成したPOPを掲示し、図書館内で紹介するコーナーを設けました。また、毎年9月のアルツハイマー月間にも、当事者の方が書いた本を中心に展示を行っています。若年性認知症サポートデスク(NPO法人マイWayが川崎市から受託)とも連携しながら、図書館を通じて当事者の声を届ける取り組みを続けてきました。

図書館でのイベント時には来館者が多いことを活かし、地域包括支援センターと連携したミニセミナーを実施しました。通りがかりの方に向けて、介護や福祉の相談先として地域包括支援センターの役割を紹介し、気軽に立ち寄ってもらう雰囲気づくりを意識しました。さらに、保健所の介護相談会や市のアルツハイマーデーのイベントでも、小さな本棚を設置してその場で借りて帰れるように工夫しています。

出張図書館としてデイケア施設で読み聞かせを行ったこともありますが、マンパワーの面から継続は難しいと判断しました。その代わりに、地域のシニア層を対象とした読み聞かせボランティア養成講座を実施し、現在では受講者が自主的にグループをつくり、子育て支援センターや保育園などで活動しています。図書館の枠を超えて地域の中で自走している点は、仕掛けとして一定の成果があったと感じています。

――これからの図書館に求められる役割やあり方について、どのようにお考えですか。

舟田さん:
図書館では本だけでなく、地域の最新情報を届けることも重要な役割です。よって、認知症に関するチラシや、宮前区内の地域包括支援センターの案内なども設置しています。土日も開館しており、目的がなく訪れる方も多い場所なので、保健所や地域包括支援センターには足を運ばない方にも、自然な形で情報を届けられる点は大きな強みだと感じています。また、当館にない資料でも、他館から取り寄せて提供するなど、川崎市内の図書館全体で蔵書を共有しながら運用しています。

一方で、建物の老朽化などにより、バリアフリーの面では十分とは言えない部分もあります。今後は物理的な環境だけでなく、「認知症バリアフリー」という視点も含めて、誰にとっても利用しやすい図書館のあり方を見直していく必要があると考えています。

壁の認知症関係の張り紙

▲認知症や地域情報に関するポスターやチラシを設置(写真提供:宮前図書館)

――図書館外での活動にも取り組まれているそうですが、これまでにどのような活動があったのですか?

舟田さん:
若年性認知症サポートデスクと連携し、若年性認知症の方をお招きして月一回開催している集まりでは、「これから会議」と題して、当事者たちが未来について自由に語り合っています。また、昔の号外ばかりを集めた冊子を眺めながら、「当時はどうだったか」を参加者同士で語り合う「あのころ会議」も、特別編として年に1~2回程度のペースで継続的に開催しています。

さらに、当事者の方をお招きした講演会も実施しています。オンライン配信でご自身の体験についてお話しいただいたり、作品の展示会も行いました。

地域連携の観点では、地域包括支援センターのセンター長にお越しいただき、介護離職についてお話しいただくセミナーも開催しました。ほかにも、介護と育児を同時期に担う「ダブルケア」をテーマにしたセミナーを行うなど、その時々で地域の実情に合わせたテーマを取り上げています。

――NPO法人などさまざまな方と協力されているとのことですが、そうした関係づくりはどのように培われているのでしょうか。

舟田さん:
本棚の取り組みを立ち上げる際、市の地域ケアに関わる方からご紹介いただいたのがきっかけで、「認知症フレンドリージャパン・イニシアティブ(DFJI)」の関係者など、認知症の社会参加に関わる方々とつながる機会がありました。そこから作業療法士など医療福祉関係の方との接点ができ、少しずつネットワークが広がっていきました。また、NPO法人認知症フレンドシップクラブともつながり、情報交換や資料提供を受けるなど、協力関係が生まれています。

連絡はメールや電話も活用しますが、実際に顔を合わせて話すことも大切にしており、忙しい中でも時間をつくって、「何か一緒にできることをやろう」と対面でのやり取りを重ねています。やはりベースにあるのは、人と人とのつながりだと感じています。

認知症の専門職をつなぐ|図書館職員研修と地域ネットワークの構築

――職員の育成や、館内外の連携はどのように進めてきたのでしょうか。

舟田さん:
認知症への理解を深めるため、2016年1月に認知症サポーター養成研修を実施したところ、区役所職員なども含めて約30名が参加しました。その後はブラッシュアップとして、ロールプレイ形式の実践的な研修も行いました。図書館で実際にあった対応事例を職員から集め、地域包括支援センターの社会福祉士と連携しながら、具体的な対応をシミュレーションする内容で、現場に即した学びにつながりました。

図書館職員は司書や事務職が中心であり、社会福祉の専門職ではないため、地域包括支援センターなどと連携し、適切な支援につなげていくことが大切です。図書館だけで抱え込むのではなく、地域の専門職と役割分担しながら支えていくことが、今後ますます求められていくと感じています。

――これまで舟田さんが率いてきた取り組みを、職員にどのように引き継いでいるのですか。

舟田さん:
まずは展示などの企画について、「好きなテーマでいいのでやってみてほしい」と伝え、少なくとも年に1回は担当してもらうようにしています。また、現在は係長の福田が意欲的に取り組んでくれているので、少しずつ引き継ぎも進めているところです。

若手は介護のことをイメージしにくいのではと思われがちですが、発想力のある職員も多く、切り口次第で良い見せ方をしてくれます。入職3年目の職員が利用者のニーズを捉えた新しいアイデアを出すこともあり、それぞれの個性から多様な取り組みが生まれています。ただ、そうした職員が図書館に長くいてくれるかどうかは異動次第でもあるので、難しいところです。

――地域包括支援センターとの連携について、図書館だからこそできる支援や、その具体的な関わり方を教えてください。

舟田さん:
何か事案があった際には必要に応じて地域包括支援センターへ相談することを基本としており、「このような場合はどう対応すべきか」と日頃から助言を求めています。対応に困るケースでは電話で連絡し、来館していただくこともあります。帰り道が分からなくなった方への対応では、電話越しに指示を受けながら私が対応する場面もありました。

そのため、窓口に立つ職員にはなるべく柔軟に対応するよう伝えています。まずは“認知症の可能性がある方”として捉え、相手の言動や行動を否定せず受け止めながら、対応が難しいと感じる場合には経験のある職員が引き取り、必要に応じて地域包括支援センターや区役所などの公的機関へと連絡します。区役所も多忙で即時対応が難しいこともありますが、「何かあればまず報告する」という関係性を築いてきました。認知症の可能性がある方の来館は一定数あるため、日頃から関係機関との連携を保つ重要性を感じています。

以前、図書館所有ではない本を2~3日に一度の頻度で返却しに来られる方への対応に悩んだことがありました。その際には地域包括支援センター職員に来館いただき、ご本人を交えた三者で話をする機会を設けました。ヒアリングと傾聴を重ねる中で、担当者から「まずは図書館の本として受け取ってあげてください」と助言を受けました。その場ではお預かりしてご本人に安心してもらい、後日ご家族に事情をお話ししてそっとお返しする、といった対応をとらせていただきました。

認知症の介護経験を糧に図書館をバリアフリーな場所へと育む

――舟田さんが2014年に宮前図書館へ赴任されて以降、「認知症の人にやさしい小さな本棚」をはじめとするさまざまな取り組みを実現されてきました。その原動力はどこにあったのでしょうか。

舟田さん:
私自身は介護の専門資格を持っているわけではありませんが、個人的な経験は大きいと思います。現在94歳の母を自宅で介護しており、以前も父が60歳で倒れて半身不随となってから、十数年の自宅介護をして、最終的には施設での看取りを経験しました。そうした背景があるためか、話題が自然とそちらに向かうことも多いのかもしれません。

少子高齢化が進む中、図書館でも高齢の利用者が増えています。こうした現実的な課題に向き合う中で取り組みを進めてきましたが、これまで福祉を専門に学んできたわけではないので、今後はさらに学びを深めていきたいと考えています。

――今後の展開や、これからの図書館に求められる役割について、どのようにお考えですか。

舟田さん:
今後は、図書館という「場」の活用がさらに広がっていくと感じています。一方で、継続性の確保も大きな課題です。私自身はこの3月で退職となるため、これまでの取り組みが個人に依存して途切れてしまわないよう、連携や仕組みとして続いていく形を整えることが重要です。また、元気なシニア層に対しても、サービスの受け手としてだけでなく、地域の担い手として関わっていただく機会を広げていくことが、今後の方向性の一つだと思います。

図書館の利用という点では、「ルールに従っていただく」だけでなく、誰もが使いやすい環境を整えることが大切です。環境や職員の対応が変わらなければ、認知症の当事者にとって利用しづらい場所になってしまう可能性もあります。ご本人やご家族が安心して利用できるよう配慮しながら、福祉分野の関係機関と連携し、情報提供にとどまらず見守りや寄り添いも含めた関わりを行っていくことが求められます。その人の尊厳を大切にしながら、必要に応じて専門職へつないでいくことが、今後も欠かせないと考えています。

図書館は、認知症になる前から通っていた方にとって、思い出や習慣が積み重なった大切な場所でもあります。実際に、当事者の方が来館して本を借りていく中で、ご家族から「利用を控えさせてほしい」と相談を受けたことがありました。その後、ケアマネジャーが間に入り調整が行われたのですが、あるとき娘さんが本を返しに来られ、「こんなに傷んでしまって申し訳ありません」と涙ながらに話されたことが印象に残っています。当事者のお父様はもともと本が好きで図書館に通っていた方で、翌日から施設に入られるという状況の中での出来事でした。

そのとき私は、「どうぞ図書館を使ってください」とお伝えしました。もちろん公共の蔵書ですのでルールは大切ですが、修繕可能な範囲であれば当館で対応しますし、ご家族とも連携を図れます。それ以上に、その方にとって居心地のよい場所であり続けることのほうが大切だと感じたからです。

病院にかかる前に本で調べたり、当事者の方が書いた本に触れたりすることで、「自分らしく生きていける」と感じられることもあります。実際に、そうした本を求める声も多く寄せられてきました。認知症かもしれない症状に不安を覚える方も多いと思いますが、少しでも支えになる場所として図書館を活用していただけたら嬉しいです。これまで利用されてきた方も、これからの方も、「図書館は意外と使える場所だな」と感じていただけるような存在でありたいと思っています。

参考文献

1, 川崎市地域包括ケアシステム連絡協議会:川崎市における地域包括ケアシステム構築の取組. 2019.
https://www.kawasaki-chikea.jp/wp-content/uploads/2019/04/190215-01.pdf](最終閲覧日:2026年6月25日)

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