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「健康診断で認知症も検査すべき」MCI・ロゴペニック型進行性失語の当事者が訴える早期受診の重要性
更新日:2026-06-26

「健康診断で認知症も検査すべき」MCI・ロゴペニック型進行性失語の当事者が訴える早期受診の重要性

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ロゴぺニック型進行性失語当事者の楠本隆太朗さん
そのもの忘れ、年齢のせい?それともMCI?

「会社の健康診断に、認知症の検査も入れる必要がある」

そう訴えるのは、大手電気メーカーで国際的なビジネスキャリアを歩んできた楠本隆太朗さん(66歳)です。

イラクでのビッグプロジェクトや、アメリカでのMBA取得など世界をまたにかけて活躍してきた楠本さんは、2023年にMCI(軽度認知障害)と診断され、その後、2026年にアルツハイマー病によるロゴペニック型進行性失語と診断されました。

「会社の先輩や友人も、何人かが認知症になりました。しかし50代〜60代はまだ仕事ができるので、もの忘れ外来の受診を周囲が勧めても、プライドや恐怖心から年齢のせいにして受診を避けがちです。私の二の舞にならないように、家族の生活を守るためにも、MCIや認知症を早期発見できる仕組みが絶対に必要です」と楠本さんは言います。

ロゴペニック型進行性失語との診断を受け、記憶は鮮明なのに、頭の中にある単語が口から出てこない。そんなもどかしい症状と向き合いながら、MCIの当事者として生活している楠本さんに、早期受診の重要性や、ロゴペニック型進行性失語との体験談、もの忘れ外来の初診までの経緯などを聞いてきました。

MCI診断までの経緯  

もの忘れ外来の受診のきっかけは「仕事中の脳の違和感」

――楠本さんがご自身の「認知機能」に違和感を覚えたのはいつですか?

今から5年ほど前の2021年のことです。友人と新宿で食事をしていた時でした。

私が何か話題を切り出そうとして話し始めた時、口から言葉が出てこなかったんです。それどころか、自分が何を言おうとしていたのか、何と言っているのか、まったくわからなくなってしまった瞬間があったんです。

頭の中が真っ白になるような感覚でした。「あれ!? 自分が言いたかったのは何だったかな・・・」と。ただ、その時は「気のせいだろう」とそのままにしてしまいました。

しばらく経ち、また同じような症状が出ました。そこから「これは、なにか脳がおかしいのかもしれない・・・」という疑念を少しずつ持ち始めました。

――そこから最初の病院を受診するまでに、何か決定的な出来事があったのでしょうか?

はい。最後に勤めていた会社での出来事ですが、私は当時、イギリス系企業の日本法人で働いていました。
ある日、取引先である大手企業の役員の方と商談をしていて、重要なビジネスの場で、言葉が出なくなってしまいました。

頭の中には「良い方法を考えた」という言葉があってビジネスの提案がしたいのに、口から出てこない。
これはビジネスマンとして非常にまずい事態だと痛感し、もう仕事を続けられないなと暗い気持ちになりました。

仕事で決定的な支障が出たことで、今まで感じていた脳への違和感が確信に変わり、断腸の思いで仕事を辞める決断をしました。そして、その後すぐに「病院へ行こう」と思ったんです。

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――自分でおかしいと気づいて、自分から病院を受診しよう思ったのでしょうか?

はい。実はもう1つ、自分から病院を受診しようと決意した背景には、母親の存在がありました。母は80歳を過ぎて亡くなったんですが、70代に入った頃から認知症の症状がありました。

母の家に行くと、同じシャンプーがたくさん買ってあるんです。なぜこんなことをするのか、当時は理解できなかったし、母の家に行く度に何か異変が起きていると感じていました。

認知症だった母の晩年の姿と、今度は自分の身に起きた言葉の詰まりが重なったんです。「もしかしたら、私も母と同じ認知症になるのかもしれない」と。

だから、自分の脳の中で起こっている異変の原因を知りたいと思い、誰にも言わずに一人で、近くの病院へ行きました。

アルツハイマー病によるロゴペニック型進行性失語との疑い

――最初は1人で病院に行かれたんですね。

その通りです。不安はありましたが、「大丈夫だろう」と思いたい気持ちがあったり、何よりも家族に心配をかけたくなかったので、まずは自分だけで病院に行きました。

そして先生に言われたのは「アルツハイマー病によるロゴペニック型進行性失語と」の疑いがあるというものでした。「ロゴペニック型進行性失語と」とWebで検索してもあまり情報が出てこないので、珍しい病名のようです。

まず「失語」が始まって、それが普通のアルツハイマー型認知症へと移行していくという説明を受けました。

ロゴペニック型進行性失語とは
原因疾患はアルツハイマー病やレビー小体型認知症などの神経変性疾患です。言いたいことや物の名前が頭に浮かんでいても言葉として口から出てこない、他人が話した言葉や短い文をそのまま真似して発声することが困難になるといった症状がみられます1

 私は今、記憶障害よりも失語の症状が強く出ています。アルツハイマーの症状が本格的に出るには、まだもう少し先があるという段階です。

MMSE、改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)、ADASなどの神経心理検査をしても、結果はさほど悪くないんです。ただ、口頭で答えるテストだと単語が出てこないので、点数としては下がってしまう。でも、実際の認知機能よりはキープできていると言われています。

――「アルツハイマー病によるロゴペニック型進行性失語と」の疑いについて、ご家族にお話しされたのでしょうか?

診断内容を妻に伝えると、ありがたいことに妻は私が一人で病院に行っていることに気付いていました。

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脳が萎縮しても認知予備能が高いから認知機能が低下しない?

――その後の経過はいかがでしょうか?

今から3年前の2023年に、初めて妻と一緒に病院に行きました。MRIを撮っても脳梗塞や出血はなく、脳の萎縮も年齢相応でした。そのとき、MMSEは30点満点中27点でした。

ただ、アミロイドβ(アミロイドベータ)というタンパク質が溜まっているかどうかを調べる検査をしたところ、5月にアミロイドPET検査が「陽性」という結果が出て、その時は2人で落ち込みました。

ただ、先生は「脳が萎縮しても、必ずしも認知症が発症するとは限らない」とおっしゃってくれました。その時に同席してくださった心理士の先生は「楠本さんは外国で生活されたり、英語をお話したり、もともと認知機能が高くて認知予備能があるから、いろいろな困り事を脳がカバーしているんじゃないか」と言ってくださいました。それを聞いて、少し救われた気持ちにもなりました。

脳が萎縮しているにもかかわらず、認知機能の低下がみられないことを「認知予備能」というらしいですね。今でも認知機能はキープできていると自分では思っています。

アメリカでMBA取得。英語でも起こるロゴペニック型進行性失語との症状

――英語をお話しできて、認知機能も高いということですが、楠本さんのご経歴について教えていただけますか?

仕事では英語をずっと使っていました。高校生の時に1年間、留学の経験もあります。

私は長い間、大手電気メーカーで働いていました。いきなり海外グループに配属されまして、私はなんとなく、アメリカに行くんだろうなと思っていたら「イラクに行け」と言われて、イラクで大きなプロジェクトに携わりました。これがまた予算が大きいプロジェクトで、非常に面白かったんです。

中近東やヨーロッパを飛び回って、プロジェクトを成功させてきました。困ったこともありましたが、結果的には非常に良かったです。

ところが、イラン・イラク戦争が激しくなってくると「危ないから帰ってこい」という話になり、やりがいのある仕事をしていたんだけれども、日本に帰国することになりました。これからどうしたらいいかと会社に聞いたら、「アメリカで勉強してこい」と言われて、今度はペンシルベニア大学のウォートン・スクールへ2年間留学しました。実は、ドナルド・トランプ氏が先輩にあたるんですが、そこですごい勉強をして、MBA(経営学修士)を取得しました。

その後、日本に帰ってきて、本社の経営企画部などを経て、もっと他の会社でもやってみたいと思って、外資系のIT企業などに転職して、さまざまなビジネスをしてきました。

――MCIと診断された現在も、英語を使う機会はありますか?

昔からのアメリカ人の友人がいて、毎週電話をしています。「話をしようよ」と誘ってくれるので、英語で会話しています。

ただ、日本語と同じで、英語でも同じ症状が起きるんです。なかなか単語が出てこない。「あれ、何だったっけ?」となってしまう。言語は違えど、やっぱり同じ症状が起きますね。

MCI当事者の生活と困りごと|ランニングの習慣と言い間違いの変化

――楠本さんは認知機能を維持するために何かしていますか?

はい。長年ランニングをしています。30年くらい前から出張のときは必ずランニングシューズを持って行って、現地で走っていました。
今でも毎日、7キロくらいは歩いたり、走ったりしています。先生からも運動は勧められましたし、今のところ、認知機能が落ちていないと感じるのは、運動のおかげもあるかもしれません。

今後はさらにリハビリテーションでも認知機能を維持する努力をしていきたいと考えています。

最近通い始めたクリニックのデイケアでは、言語聴覚士の先生と一緒に言葉が出てくるようなトレーニングを始めようとしています。

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 ――MCIと診断された後、日常生活で困っていることなどはありますか?

以前より文字が書きにくくなりました。それと同時に、メモを取ることが難しくなりました。

あとは私の場合、ロゴペニック型進行性失語ですので、やっぱり言葉の問題が多いです。何か言おうとした時に、頭にはイメージが出てきているんです。だけど言葉として出てこない。そうこうしているうちに、話が終わってしまう。

例えば、「ペットボトル」という目の前のモノはわかっているのに、名前が出てこなくて「あれ、あれ」となってしまうのが嫌ですね。

自分では気づかないことも多いのですが、妻に言わせると、ここ1〜2年で数字や時間の言い間違いが増えているそうです。

「14時」を「4時」と言ってしまったり、「10万円」を「100万円」と言い間違えたり。頭の中で浮かんでいる言葉と、口から出る言葉が違っているんでしょうね。

ただ、カレンダーには「14時」ではなく「午後2時」と書くなど、工夫次第でなんとかなる範囲ではあるなと思っています。
友人と飲み食いしている時にこういう話をしていたら「俺もそうだよ」なんて言われて、励みになりました。

MCI当事者として発信したい「早期受診」の重要性

――MCIと診断された時、どのような不安がありましたか?

仕事ができなくなって収入が途絶えたので本当に不安でした。今は大学生の息子がいるのですが、息子が高校2年生の時にMCIと診断されたので、多感な時期に父親のMCI診断を受け入れるのは大変だったと想像します。

元気だった父親が突然仕事をできなくなり、不安を感じさせてしまって申し訳ないと思いますが、今は息子も受け入れてくれて、妻が付き添えない時は病院に一緒に行ってくれたりします。

――MCIと診断された後、相談先はありましたか?

よく区役所や地域包括支援センターに相談していました。地域包括支援センターの相談員さんが「自立支援医療制度」で医療費が安くなることや、「精神障害者保健福祉手帳」を取得するメリット、さらに「障害年金」の申請についても丁寧に教えてくれたのは助かりました。

私たち夫婦だけでは知らなかった情報ばかりで、相談員さんの熱心なサポートには、本当に救われましたね。

それから私の場合、生活の基盤を整えながら、同じ60代の不安や課題を共に話し合える居場所というかコミュニティを探していました。 区役所や地域包括支援センターに紹介された場所には行っていましたが、ひと口に「認知症」と言っても、置かれている状況や環境によって必要な情報や共有したい話題はさまざまです。

例えば、若年性認知症の場合、子どもが10代というご家庭も多いので、話題や不安の内容も私とは違うと思います。

ずっと自分に合うコミュニティを探し続けていましたが、ある日、SNSを通じて、「一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ (JDWG)」※1で認知症の本人として発信を続けられてる藤田和子さんと山中しのぶさんの出版記念イベントの存在を知り、「みんなの談義所しながわ」※2に辿り着きました。2025年10月のことです。

みんなの談義所しながわは、いろんな人がいて面白いです。色々な種類の認知症の当事者がいて、新聞記者がいたり、本を作っている人がいたり、ケアマネジャーがいたり。こういう普通の社会の中で、仲間と話せる場があるのはすごくいいなと思いました。

今後は私自身も「日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)」に積極的に参加していきたいと考えています。

※1 一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ (JDWG):認知症とともに生きる人が、希望と尊厳をもって暮らし続けることができ、社会の一員としてさまざまな社会領域に参画・活動することを通じて、よりよい社会をつくりだしていくことを目的にした団体。

※2 みんなの談義所しながわ:認知症の本人をはじめ、家族、行政職員、専門職(医療・看護・介護従事者)、薬局関係者、地域包括、居宅介護事業所、出版社、記者、地域の方などが自由に意見を交わす場として月に1回開催されている。

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▲みんなの談義所しながわのイベントで楽しむ楠本さん

――なぜ、「日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)」に参加したいという強い動機があるのでしょうか?

それは私自身の周囲の環境の影響が大きいです。私の会社の先輩や友人なども、何人かが認知症になりました。現役時代は仕事がバリバリできる先輩ばかりだったので、非常にもったいないなと強く思いました。

私は運よく早めに病院へ行ったのでMCIの状態で踏みとどまっていますが、多くの場合は周りが勧めても「年のせいだ」と理由をつけて、「はい、わかりました。すぐに病院に行きます」とはなりません。

50代、60代はまだまだ仕事ができるはずです。ただ、診断が遅れると、私のように仕事ができなくなることもある。だったら、みんな早めに受診しようよと思うわけです。

特に企業勤めの方は、毎年健康診断を受けるので、そのなかに、なんとかして認知症の検査を入れるべきだと考えています。今はなかなか難しいかもしれませんが、将来には仕組み化されるべきだと考えています。

本人のため、そして家族の生活を守るために、「MCIを早期発見できる社会的な仕組みが絶対に必要だ」ということを、自分自身がMCI当事者になったからこそ伝えていきたいんです。

――楠本さんご自身のこれからの目標はありますか?

「妻と子どもと一緒にいたい」というのが私の一番の願いです。そのためにも、認知機能を維持するために自分がやれることはやっておきたいんです。

それから、先ほどのMCIを早期発見できる仕組みにも共通しますが、「新しい認知症観」に基づいて、たとえ認知症やMCIになったとしても、社会的な役割を持ち続けられる環境を創ることに興味があります。

もし、認知症に関する国際的な会議や集まりがあれば、ぜひ出席してみたいと思っています。英語でのコミュニケーションなら、まだなんとかなりますから。

そうやって、家族との日常を大切にしながら、社会とも繋がり続けて、後世において認知症で悩む方を一人でも減らしたいというのが、私のこれからの目標です。

参考文献

1, 小川七世, 他:Logopenic progressive aphasia(LPA)とは
どのような症候群か?(2020年版). 神経心理学. 2021;37:152-63.
[https://www.jstage.jst.go.jp/article/neuropsychology/37/3/37_17119/_pdf/-char/ja](最終閲覧日:2026年6月26日)

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