認知症の夫に関する相談事例

認知症の相談事例1「夫の認知症を周囲に伝えたほうがよいか」
相談者・介護対象者
- 相談者
妻Uさん/50歳台。夫と二人暮らし。自営業。
- 介護対象者
夫/50歳台。若年性認知症。
ポイント
社長をしていた夫が若年性認知症になった
友人に病名を告知したら疎縁になってしまった
認知症の症状が進み、地域の人に告知するべきか悩む
相談内容
私は建築業を営む家に嫁ぎました。夫のがんばりで会社が大きくなり、結婚した当時に比べると従業員が3倍になりました。そんな夫が、2年前からようすがおかしくなり、受診したところ若年性認知症と診断されました。息子や社員が上手にフォローしてくれるので、夫は今でも会社に行って一日過ごしています。
夫は商工会や地区の役員などたくさんの役割をもち、さまざまな会識にも出席しています。これまでは何とかこなしていましたが、先週あるイベントの役員として一日駆り出されたあと、一緒に参加した人から「失敗ばかりして、みんなに迷惑をかけていた。少しおかしいのではないか」と電話をもらいました。
私はとっさに「仕事が大変で疲れていたからだと思います」と言ってしまいました。その人は「それならいいけれど・・・」とまだ何か言いたそうだったので、「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」と私から電話を切ってしまいました。その人と夫は長い付き合いなので、夫の変化に気づき、夫を心配してくれたのだと思います。
以前、夫の認知症について夫の学生時代の友人に話したことがあるのですが、それまで時々誘われていたゴルフや釣りにいっさい誘われなくなりました。そのことがあって、夫のプライドを守り行動範囲をせばめないためには、病名は伝えないほうがよいと思ったのです。しかし、夫の症状が進んでくればそうはいかなくなるでしょう。周囲の人に伝えるべきか悩んでいます。
相談員の対応
Uさんは、「夫はまだ若いのにこんなことになってしまって・・・」と無念そうに言いました。今でも出勤して会社で一日過ごしていると聞き、「家族や社員の理解があって恵まれていますね。自分の居場所があり、これまでどおりの暮らしができることが、認知症の人にとってはいちばんうれしいことです」と家族の対応に拍手を送りました。
夫の病名を夫の友人に伝えたらそれ以来、全く誘いがなくなったという出来事は、Uさんにとってもショックでした。「寂しいですね。友人とのお付き合いは続けたかったでしょうに」と共感し、「認知症になったらなるべく早く周囲に知らせ、理解してもらい、適切に対応してもらうというのは理想論なのでしょうか。その友人は、認知症について理解がなかったようですね」と立腹すると、「私自身も夫がなるまでは認知症は年寄りの病気で、なったら最後と思っていました。でも今は違います」と、夫を支えてきた強さを感じました。
Uさんの夫が地域でさまざまな役割をはたしていると聞いて、「地域に根ざした暮らしのよさですね。ご主人が自分から行くのであれば、居心地がよいのでしょう」と言うと、「長いお付き合いで、支えてもらっています。イベントのあとに夫がおかしいと言ってくれた人にも、本当にお世話になっています」と振り返っていました。
認知症キャンペーンや報道を通じて認知症を知る人が増えてきましたが、若年性認知症への理解はまだまだで、なまけている、ふざけている、わざとしていると受け取られることが多いことをUさんに話すと、「夫の活動範囲をせばめたくないので黙っていたのですが、誤解されたら、かえって夫がかわいそうですね。信頼できる人に話してみようかな」とのこと。
「認知症でも少し支えてもらえばできることはたくさんあるということを、みんなに知ってもらいましょう。一歩先に認知症になった人の役割です」と応援しました。
認知症の相談事例2「認知症の夫のことを話せる『場』がほしい」
相談者・介護対象者
- 相談者
妻Yさん/60歳台。夫と二人暮らし。
- 介護対象者
夫/60歳台。認知症で要介護2。
ポイント
楽しみにしていた老後が介護中心の人生になってしまった
昼夜逆転した夫に付き合うのが大変である
認知症介護の話をできる「場」を求めている
相談内容
夫は定年退職して2~3年たったころから、性格が変わり落ち着きがなくなりました。家の中をうつろな目をして歩き回ったり、たばこを買いに行ったまま迷子になったり、尋常ではないと不安になりました。テレビで観た認知症の人に似ていたので、もの忘れ外来で診てもらったところ、「間違いなくアルツハイマー病です」と言われました。私たち夫婦には子どもがいません。定年後は一緒に旅行をしたり、温泉に行ったりしてのんびり過ごそうと話していたのに、あっという間に介護中心の人生になってしまいました。
今のいちばんの悩みは夜ゆっくり眠れないことです。夫は夜中の2時ごろから起き出して、トイレに何回も行ったり、食べ物を探したり、家から出て行こうとしたりします。「まだ真夜中だから」と寝かせても、すぐに起きてしまいます。マンション暮らしなので音を出すのがはばかられ、しかたなく付き合っています。私は、昼間は起きて夜は眠るという「ふつうの生活」がしたいです。
それから、夫にも私にも友人はいますが、みんな夫婦そろって元気なので、認知症になってしまった夫のことは話したくありません。隣近所にもそうです。こういう話を思いきりできる駆け込み寺があればいいのにと思います。そこでゆっくり眠らせてもらえたらなおいいですね。
相談員の対応
電話を取ると、「病院でもらった認知症の冊子を見て、はじめてお電話しました」と明るいしっかりした声が聞こえてきました。「どうぞお話しください」とこちらからも明るく応えました。「夫がアルツハイマー病になってしまって、もう大変なんです」と、Yさんはストレートなもの言いです。夫とはそれなりにいろいろあったそうですが、定年を迎えるころは「いい夫婦」という感じになり、老後の生活を楽しみにしていたそうです。
子どもに恵まれなかったYさんは、「間違いなくおめでたです』と言われたらどんなによかったか。それが、『間違いなくアルツハイマー病です』ですよ。もうショックで・・・」 と、まるで漫才のセリフのように話します。思わず「本当ですね」と言ってしまうと、「そうでしょう」 と笑っていました。
いちばんの悩みは、昼夜逆転による睡眠不足とのことでした。「お医者さんに相談されましたか」と聞くと、「睡眠薬は飲ませたくありません」 ときっぱり言い、覚悟を決めて夫に付き合っているようすが伝わってきました。「お二人のようすが目に浮かぶようです」と言うと、「美男美女でしょ」とユーモアで返されました。
こんなに明るく話す人でも、夫のことを友人には話したくないと言います。一般に、認知症についてはオープンにすることが大切だと言われますが、実際には高いハードルがあるのだと相談を通じて感じます。そのような家族が多いことを伝えたうえでいつでも電話相談を利用してほしいこと、介護家族同士で話ができる「家族会」 があることを伝えました。「主人を置いては行けません」と言うので、「ご本人と一緒に行くつどいもあります。その時間だけ介護サービスを利用することもできます」と伝えました。Yさんからは「介護仲間がいれば心強いわね。考えてみます」と、前向きな返事が返ってきました。
認知症の相談事例3「夫の認知症を悪化させたくない」
相談者・介護対象者
- 相談者
妻Sさん/70歳台。夫と二人暮らし。一人娘が近くに住む。
- 介護対象者
夫/70歳台。軽度の認知症で要介護1。
ポイント
これまで支えてくれた夫が認知症になり、今度は自分が支えたい
一生懸命介護しているのに拒否されるようになった
このままでは認知症が進んでしまうのではと不安
相談内容
夫がアルツハイマー病と診断されました。まだ軽度ということなので、何とかこのまま進行させないようにしたいと思っています。私は娘を産んでから体調を崩すことが多くなり、夫にはずいぶん支えてもらいました。私が寝込んでいても文句一つ言わず、娘と私の面倒をみてくれました。
本当にやさしくてハンサムで、仕事もできる自慢の夫でした。その夫が病気になったのですから、今度は私が支えなければなりません。
「私がいるから大丈夫よ」と声をかけて、三度の食事は栄養を考えてつくり、"認知症に効く"サプリメントを飲ませ、散歩や買い物に一緒に行っています。風邪をひかないように部屋の温度と湿度を一定にし、着るものも身体にやさしい素材を選んでいます。そして、一日中夫を見守り、夫が混乱しないようにしています。それが妻の務めだと思い、ー生懸命介護してきました。
ところが、夫が私の言うことを聞かなくなってしまいました。この前、朝食のあといつものように「歯みがきをしてください」と言ったのですが、夫はいつまでたっても食卓から動こうとしません。「歯みがきは?」と言うと、「わかっている」と答え、それでも席を立とうとしませんでした。しかたなく私が歯ブラシを持ってきて夫に渡したのですが、夫は受け取りません。
能面のような表情でにらまれ、すごくショックでした。大切な夫を守りたい一心で介護しているのに、夫から拒否されてしまいました。このままでは夫の認知症は急激に進んでしまうのではと不安です。
相談員の対応
「今まで私を支えてくれた主人が認知症になったのですから、今度は私が介護をする番です」とSさんは夫の認知症を進行させまいと固く決心している口ぶりでした。
あいづちを打ちながらSさんの介護のようすを聞きました。まさに「至れり尽くせり」という言葉がぴったりだと感じ、「大切なご主人を一生懸命介護されているのですね」とねぎらいました。
夫が言うことを聞かなくなったと嘆くSさんに「ご主人はどんな方でしたか」と聞くと、『私が病弱だったため、何でもしてくれました。器用な人で私よりも家事が上手でした』とのこと。「認知症になってからはどうですか」と聞くと、できなくなったときにショックを受けるとかわいそうなので、頼んでいないということでした。
「今はあなたがご主人を守る立場なのですね」と確認しました。少し視点を変えて、Sさんが病気で夫に家事や子育てをしてもらっていたときの気持ちを聞いてみると、「それはもう、主人に申し訳なくて。娘の面倒もみたいのに、情けなかったです」と振り返っていました。
「ご主人は、今どうでしょうか」と問うと、Sさんは考えている様子でした。そこで、「認知症のご本人が、『認知症になってもできることはたくさんあるということを知ってほしい。自分で考えてやりたいので、その前に指図されるのは嫌だ。間違えそうになったときにそっと声をかけてほしい』と言っていました。人間としてのプライドだそうです」と伝えました。
「私は娘に『やりすぎだよ』と言われたことがあります。主人はそれを言えなかったのでしょう」と言うSさんに、「本気で向き合ってくれる奥さんがいて、ご主人は幸せです。これからはご主人の隣りに座って、必要なときに手助けできるように見守る介護を心がけてみるといいかもしれませんね」と助言しました。
認知症の相談事例4「子どもに頼れず寂しい」
相談者・介護対象者
- 相談者
妻Gさん/70歳台。夫と二人暮らし。息子夫婦が近くに住んでいる。
- 介護対象者
夫/70歳台。認知症で要介護2。
ポイント
認知症の夫と二人きりの生活
近所に住む息子家族とは関係がぎくしゃくしている
誰にも頼れず、寂しさと不安でいっぱい
相談内容
夫が認知症と診断されてから3年がたちます。激しい症状はないのですが、私がトイレに入っても「母さん、母さん」と探し回るような夫とずっと一緒にいるのは疲れます。
ホームヘルパーに来てもらったこともあるのですが、私以外の人を嫌がるので、今は何のサービスも使っていません。
近くに息子夫婦と大学生の孫が住んでいます。夫が元気なころはみんなで旅行や買い物、食事に行っていました。勘定はすべてこちらもちでした。年金暮らしになったとき「少しは出してね」とお願いしたら、「付き合ってやっているんだから」と言われ、それからは息子の機嫌が悪くならないように気をつけています。
夫が認知症になってから旅行に誘うと、「お父さんが疲れて大変だろう」と断られてしまいました。息子はたまに家に来てくれますが、孫は勉強で、嫁は仕事で忙しいから来られないとのことです。そうしなければ何もしてもらえないような気がして、何かしてもらうたびに息子にお礼のお金を渡しています。息子は当たり前のように受け取ります。
息子の家の電話はいつも留守電で、メッセージを入れても折り返しの連絡はきません。急用ができたときに息子の職場に電話をしたら、「仕事中は困る」と言われました。
夫とはだんだん話が通じなくなり、息子たちともこんな感じで、私は心寂しく不安でたまりません。近所の人や友人にはこんなことは話せません。老後は寂しいものですね。
相談員の対応
Gさんに、「こんな話、聴いてもらえますか」と聞かれました。「介護のことでしたら何でもお聴きしますよ」と応えました。
Gさんは認知症の夫について、「困った子ども」というニュアンスで話しはじめました。大変だけれど夫婦だからしかたがないと現状を受け入れているようすが伝わってきました。
「ご主人にとっては、あなたがいちばんなのでしょうね。でも、そこまで慕われると大変ですね」と率直な感想を言うと、「私のことも忘れる日が来るんでしょう。それまではと思ってね」という返事が返ってきました。
そして、『実は息子のことなんですが・・・」と切り出しました。ためらうようすが感じられたので、「息子さんがいらっしゃるのですね」と言葉をかけて待っていると、息子家族とのこれまでの関係を控えめなトーンで話してくれました。
どの家族も絶妙なバランスで成り立っています。Gさん夫妻が懸命に築いてきた息子との関係を、相談員が批判することはできません。
「息子さんたちは、あなたがまだ元気だからと甘えていらっしゃるのでしょうか」と聞いてみました。すると、「私は見栄っ張りだから弱音をはけないんです」とのこと。
「見栄やプライドがあるからがんばれるということはあると思います。でも、無理はしないでくださいね」と伝えました。
「息子に期待するからがっかりするんですよね。育て方を間違えたと後悔することもあるんです。親ばかですね・・・」と、Gさんはふっとなごんだように言いました。
「また、話したくなったらこちらにお電話ください」と伝えると「話を聴いてもらえるところができてよかったです。お世話にならないようにがんばります」 と言うので、「毎日がんばっていらっしゃるのだから、電話相談では甘えてくださいね」と伝えて電話を切りました。
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