【執筆者】朝水 裕一
訪問看護や訪問看護、訪問リハビリテーション(訪問リハビリ)などのサービス利を検討する際、介護保険と医療保険、どちらの保険が優先して適用されるのか、併用は可能なのかといった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
介護保険と医療保険は、どちらも私たちの生活を支える大切な制度ですが内容は異なり、適切にサービスを利用するためには、それぞれの違いを理解しておくことが重要です。
この記事では、介護保険と医療保険の違いから、優先順位、併用の可否まで解説します。ぜひ最後までお読みください。
介護保険と医療保険はどちらが優先される?
介護サービスを受ける場合、原則として優先されるのは介護保険です。ただし、医療的な必要性が高い場合など、状況によっては医療保険が適用されることもあります1。
ここでは、訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション(訪問リハビリ)の3つのケースで、どちらの保険が優先されるかを解説します。
※介護保険と医療保険には、国や自治体が運営する「公的保険」と、民間の保険会社が提供する「民間保険」がありますが、この記事では皆様に関わりの深い「公的保険」について説明します。
訪問介護は介護保険が優先
訪問介護は、ホームヘルパーが利用者の自宅を訪れ、食事・排泄・入浴介助などの身体介護や、掃除・洗濯などの生活援助を行うサービスです。
訪問介護は、介護保険が適用されます。これは、介護保険が、要介護・要支援状態となった高齢者の自立を支援し、尊厳を保持することを目的としているためです。
訪問看護は年齢や条件で変わる
訪問看護とは、看護師などが利用者の自宅を訪問し、療養上のサポートをするサービスです。訪問看護は、年齢や状態によって、介護保険と医療保険のどちらが適用されるかが異なります2。
・介護保険が適用・・・65歳以上で要介護・要支援認定を受けている方
・医療保険が適用・・・40歳以上65歳未満で、特定の疾病により訪問看護が必要な方、65歳以上でも医師が「医療保険による訪問看護が必要」と判断した方
訪問リハビリテーションは介護保険が原則適用されるが例外あり
訪問リハビリテーション(訪問リハビリ)は、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの専門職が利用者の自宅を訪問し、機能回復や日常生活の自立を支援するサービスです。
原則は介護保険が適用されますが、65歳未満や65歳以上で要介護認定を受けていない方は医療保険を利用します3。
介護保険と医療保険とは?概要を解説
介護保険と医療保険の概要は以下の通りです。
介護保険とは:要介護・要支援認定者に介護サービス費を給付する制度
介護保険では、40歳以上の方が被保険者となり、65歳以上を「第1号被保険者」、40歳から65歳未満の医療保険加入者を「第2号被保険者」といいます。
介護保険が適用されるためには要介護認定を受ける必要があります。介護や支援が必要と認定された場合、費用の原則1割(一定以上の所得者は2~3割)を自己負担することで、訪問介護や通所介護(デイサービス)、施設サービスなどの介護サービスを利用可能です。
また、40歳から65歳未満の「第2号被保険者」であっても、がんや初老期における認知症(若年性認知症)などの特定疾病になった場合には、介護保険を利用できます。
医療保険とは:病気やケガの医療費を給付する制度
日本では「国民皆保険制度」が導入されており、すべての国民は医療保険に加入する義務があります。日本の公的医療保険は、主に「被用者保険(健康保険)」「国民健康保険」「後期高齢者医療制度」の3種類に分けられます。
また、1カ月に支払う医療費が自己負担限度額を超えた分の支払いについては、「高額療養費制度」により払い戻しを受けられます。
介護保険と医療保険の3つの違い
ここでは、公的介護保険と公的医療保険の違いを説明します。
被保険者の違い
介護保険と医療保険では、被保険者(保険の対象となる人)が異なります。
介護保険の被保険者は、65歳以上の「第1号被保険者」と、40歳以上65歳未満の「第2号被保険者」に分けられます。第1号被保険者は、要介護・要支援の認定を受けた場合に介護サービスの利用が可能です。第2号被保険者は、特定の疾病が原因で要介護・要支援の認定を受けた場合に限り、サービスを利用できます。
一方、医療保険は、年齢に関わらずすべての国民が加入できます。生まれたばかりの赤ちゃんから高齢者まで対象です。
自己負担割合の違い
介護保険と医療保険では、サービス利用時の自己負担割合が異なります。医療保険は年齢によって負担割合が変わりますが、介護保険は所得によって変わる点が大きな違いです。
医療保険を利用した場合、原則3割の自己負担です。ただし、年齢などの条件によって負担割合は軽減されます。例えば、未就学児は2割負担、70歳から74歳の方は原則2割(現役並みの所得がある場合は3割)、75歳以上の方は原則1割(現役並みの所得がある場合は3割)の自己負担です4。
一方、介護保険を利用した場合の自己負担は、原則1割です。所得が一定以上ある場合は、この割合が2割または3割になります5。1万円の介護サービスを利用した場合、原則自己負担は1,000円ですが、所得によっては2,000円または3,000円になるということです。
利用限度額の違い
介護保険と医療保険では、利用できるサービス量の上限に違いがあります。医療保険は必要に応じてサービスを利用できますが、介護保険には上限が設けられています。
医療保険の場合、治療に必要な医療サービスを必要なだけ受けることが可能です。利用限度額は原則ありません。なお、高額療養費制度で、自己負担額が一定額を超えた場合は払い戻しを受けられます。
一方、介護保険には要介護度ごとに「支給限度基準額」が定められています。これは、1カ月に利用できる介護サービスの金額の上限です。例えば、要介護1は約16万円、要介護5は約36万円です。支給限度基準額の範囲内であれば、自己負担は原則1割(所得に応じて2割または3割)です。
介護保険と医療保険の併用はできる?
介護保険と医療保険は、「同じサービス」に対して同時に利用することは原則としてできません。「異なるサービス」をそれぞれ別の保険で受ける場合には、併用が可能です。
介護保険は「要介護・要支援状態の方の自立支援や尊厳の保持を目的とした、日常生活に必要なサービスを提供する制度」であり、医療保険は「病気やケガをしたときにかかる医療費を補助する制度」です。そのため、同じサービスについて、両方の保険から同時に給付を受けることはできない仕組みになっています。
ただし、異なるサービスであれば、それぞれの保険を利用して受けられる場合があります。例えば、主治医の指示のもと、医療保険を使って訪問看護を受けながら、介護保険で訪問介護を利用するといった併用が可能です。末期がんなどで主治医が必要と判断した場合には、介護保険でデイサービスや訪問ヘルパーを利用しながら、医療保険で訪問看護を受けることは可能です。
どちらの保険が適用されるかは、サービスの目的や内容によって異なりますので、医療機関や担当のケアマネジャーに相談することをおすすめします。
介護保険と医療保険を理解し必要なサービスを適切に利用できるよう備えましょう
この記事では、介護保険と医療保険の違いや優先順位、併用について解説しました。
まず、介護保険と医療保険の違いを理解しましょう。介護保険は要介護・要支援認定者が対象、医療保険は全国民が対象です。原則、介護サービスは介護保険優先ですが、訪問看護や訪問リハビリテーションは例外もあります。
保険を併用できるかどうかは状況によって異なります。不明点は、かかりつけ医やケアマネジャーなどに相談しましょう。両制度を正しく理解し、必要なサービスを適切に利用できるよう備えましょう。
【執筆者】朝水 裕一
保有資格:介護福祉士、ケアマネジャー、認知症ケア専門士、第1種衛生管理者