喫煙は、がんや虚血性心疾患、脳卒中などさまざまな疾患と関係しており、健康に悪影響を及ぼす原因となります1。
WHOガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』では、喫煙が認知機能の低下に関与することが述べられており、禁煙が推奨されています2。
禁煙は認知機能低下と認知症のリスクを低減する可能性があるため、喫煙者に対して禁煙を「強く勧める」。
この記事では、喫煙と認知症の関連について詳しく解説します。何か認知症の対策をしたいと考えている場合、禁煙はまず取り組むべき課題と言えるでしょう。
タバコと認知症の関係
タバコと認知症の関係についてはこれまでさまざまな仮説が提唱されてきましたが、近年の研究において、喫煙は認知症の修正可能なリスク因子として報告されています3。
喫煙により認知症のリスクはどれくらい高まるのか、禁煙するとそのリスクはどうなるのでしょうか。
喫煙者は非喫煙者に比べ、
認知症のリスクが約1.3倍高くなる可能性があります
認知症の原因の1つであるアルツハイマー病の研究では、喫煙歴のある人は、ない人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが約1.4倍高いと示されています4。
また、別の研究では、現在喫煙している人は、喫煙していない人に比べて認知症のリスクが1.3倍高いと示されています5。
なぜ喫煙が認知症のリスク因子になるのか
喫煙が認知症のリスク因子になる理由については、いくつかの説が唱えられています。
1. 酸化ストレスの増大
酸化ストレスとは、酸化反応によって引き起こされる有害な作用のことです。タバコの有害物質は酸化ストレスを増大させ、脳神経細胞にダメージを与えるとともに、動脈硬化を促進します6。その結果、認知症への進展を促進すると考えられています6。
2. 脳への血流の悪化
タバコの煙の主成分であるニコチンは、一時的に脳血管を拡張させて脳血流を増やしますが、慢性的にニコチンを吸収していると、逆に脳への血流が低下します7 。
また、ニコチンはアミロイドβの前駆体タンパク質を増加させ、アミロイドβの沈着を促し、結果として認知機能低下の1つの因子になると考えられています7。
3. 認知症リスクを高める疾患の発症
喫煙は、認知症のリスク因子である糖尿病や高血圧、慢性閉塞性肺疾患などに罹患するリスクを高めます6, 8。また喫煙者は非喫煙者よりも歯周病にかかりやすく、歯周病も認知症のリスク要因と言われています8, 9。
このように、喫煙の習慣が他の疾患を介して認知症の発症リスクを高める場合もあります6, 8。
認知症の対策のためにも禁煙を検討しましょう
禁煙後は血圧や脈拍、呼吸器の症状などが改善し、虚血性心疾患や脳梗塞のリスクも低下するとされています10。
健康のため、ぜひ禁煙に取り組んでみましょう。自力での禁煙が難しい場合は禁煙外来を利用する方法もあります。
禁煙外来や禁煙クリニックの利用
近年は、禁煙外来や禁煙クリニックでの禁煙治療の保険診療が可能になっています。健康保険を使って治療を受ける場合、以下の4つの条件を満たす必要があります11。
- ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)※で、ニコチン依存症と診断された方(5点以上)
- 35歳以上の場合、ブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上の方
- 直ちに禁煙することを希望されている方
- 『禁煙治療のための標準手順書』11に則った禁煙治療について説明を受け、同意された方
日本禁煙学会では禁煙専門指導者がいる病院を紹介していますので、参考にしてみてください。
http://www.kinen-map.jp/hoken/nintei.php(最終閲覧日:2025年5月13日)
禁煙治療は12週間にわたり合計5回行われます。かかりつけ患者の場合は、初診から最終回の診療までの全ての外来を、オンライン診療で行ってよいことになっています12。
まとめ|認知機能を維持させるポイント「禁煙」:喫煙と認知症の関連について解説します
WHOガイドラインでは、禁煙は認知機能低下と認知症のリスクを低減する可能性があり、推奨されています。
喫煙者は非喫煙者に比べて認知症の発症リスクが高いことが報告されており、喫煙の習慣が他の疾患を介して認知症の発症をもたらす場合もあります。
本人の意思だけで禁煙を続けるのが難しいケースもありますので、禁煙を実施する際には禁煙外来を利用することも検討してみましょう。