「脳卒中」や「脳梗塞」という言葉を耳にしたことがあっても、その違いがよく分からないという方は多いのではないでしょうか。どちらも命に関わる病気であり、早期発見と適切な対応が重要です。
この記事では、脳卒中と脳梗塞の違いやそれぞれの特徴的な症状について、わかりやすく解説します。ご自身や大切な方の健康を守るために、ぜひ最後までご覧ください。
脳卒中と脳梗塞の違いは?
脳卒中は血管が詰まったり破れたりして脳の機能の一部が突然失われ、麻痺や感覚障害、意識障害などの症状が起こる病気の総称であり、脳血管障害ともいいます。
一方、脳梗塞は脳卒中のなかでも「血管が詰まる」ことによって血流が途絶えるタイプを指します。
脳卒中という「大きなカテゴリ」のなかに脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった具体的なサブタイプの疾患が含まれます1。
脳卒中の種類は大きく分けて3つある
それぞれの特徴を詳しく解説していきます。
脳梗塞
脳梗塞は、動脈硬化や血栓などが原因で脳の血管が詰まって血液が流れなくなり、脳組織に酸素や栄養が行き渡らなくなる疾患です。詰まった部分の脳細胞が壊死し、機能障害を引き起こします1。
脳卒中の約75%を占める最も一般的な型2で、主に以下の3タイプに分類されます。
アテローム血栓性脳梗塞
アテロームとは、動脈硬化によって起こる血管の変性のことです。溜まったものはプラークといいます。
プラークが増えてしまうと血管の内腔が細くなり、血流が低下します。最悪の場合には閉塞してしまいます。
また、プラークの一部が剥がれて、脳の血管まで流れていき、血管を閉塞してしまうこともあります。傷ついたプラークに血小板が集まってきて血栓を作り、脳梗塞になることもあります。
心原性脳塞栓症
心臓にできてしまった血栓が血流に乗って脳へ飛び、脳の血管に詰まることで発症します。主に心房細動などの不整脈が原因となります1。
ラクナ梗塞
脳の細い血管(細動脈)が詰まることで起こる小さな梗塞です。おもに細動脈硬化が原因となります2。ちなみに「ラクナ」とはラテン語で「小さな池」という意味です。
脳出血
脳出血は脳内の血管が破れて出血する疾患です。その出血が脳組織を損傷させ、血腫の周りの組織を圧迫します。高血圧や動脈硬化がおもな原因となることが多く、全体の約18%を占めています2, 3。
くも膜下出血
くも膜下出血は、脳を覆う膜(くも膜)の下で出血が起こる状態です。脳動脈瘤(脳の血管壁が弱くなり風船のように膨らんだ部分)が破裂するのが主な原因で、全体の約7%を占めています2。
脳卒中の症状|種類ごとの特徴
脳は部位に応じて、言葉や運動機能など多彩な機能を担っています。そのため、脳卒中では脳の障害される部位によってさまざまな症状があらわれます4。
種類 |
脳梗塞5, 6 |
脳出血5, 7 |
くも膜下出血5, 8 |
主な症状 |
・片側の手足の麻痺やしびれ・ろれつが回らない・視野が欠ける・めまい |
・片側の手足の麻痺やしびれ・吐き気・嘔吐・出血が多ければ意識障害・半身の麻痺 |
・今までに体験したことのないような激しい頭痛・意識障害・嘔吐 |
(文献5〜8を参考に表を作成)
脳卒中の原因は種類によって違うの?
脳卒中の原因は、種類によらず多くの部分で共通しています。最も影響が大きいのは高血圧です。血圧が高い状態が続くと、血管に負担がかかり、血管が詰まりやすくなったり破れやすくなったりします1。
また、糖尿病やコレステロールが高い状態も動脈硬化を進め、脳卒中を引き起こす可能性があります。
タバコを吸う習慣や過度の飲酒などの生活習慣、さらに加齢も血管状態を悪化させ脳卒中のリスクを高める重要な要因の1つです9。
【Q&A】脳梗塞と脳出血はどちらが重症ですか?
脳梗塞と脳出血の重症度は、障害を受けた脳の部位や範囲によって異なりますが、死亡率は脳梗塞のほうが高くなっています。
2022年の日本全体での脳血管疾患の死亡者数と10万人当たりの死亡率は以下の通りです。
疾患
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死亡者数
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死亡率
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脳梗塞
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59,363人(男性28,824人、女性30,539人)
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48.6人
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脳出血
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33,483人(男性18,473人、女性15,010人)
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27.4人
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(文献9を参考に表を作成)
脳梗塞や脳出血では、初期に適切な治療を開始し、適切なリハビリテーションを行うことで後遺症がなくなるケースもあります10。
【Q&A】脳梗塞と脳出血では、後遺症に違いはありますか?
脳梗塞と脳出血では、あらわれる後遺症に明確な違いはありません。脳卒中の種類よりも、脳が損傷を受けた部位や範囲などが後遺症に影響します。
脳卒中による後遺症には、以下の例が挙げられます11。
・意識障害
・認知障害:認知症、失語症、失認、失行、抑うつ
・脳神経障害:嚥下障害、眼球運動障害、構音障害
・運動障害:片麻痺、運動失調
・感覚障害:しびれ、痛み
・自律神経障害:便秘、失禁
脳の損傷部位によりこれらの症状が組み合わさって出現します。症状が重く、長期間の臥床を強いられると、関節拘縮や筋萎縮といった身体を使わないことによる運動障害が加わり、症状はさらに複雑になります。
なるべく重い後遺症を残さないためにも、できるだけ早く処置を開始し、適切なリハビリテーションを受けるのが大切です11。
【Q&A】脳卒中に前兆はありますか?
脳卒中は「ある日突然」発症するケースが多いですが、一時的な手足の麻痺、突然の視野障害、ろれつが回らない、一側性のしびれ、一過性脳虚血発作(TIA)などがあらわれることもあります。
アメリカ脳卒中協会では、脳卒中の特徴的な初期症状を自分で確認する際の方法を「FAST」という標語にして早期受診を啓発しています12。
発症後早期に治療を受ければ症状を軽くし、後遺症を最小限に食い止めることができる可能性があります。「様子がおかしいな」と感じたら、これらの症状がないかチェックしましょう。
まとめ
脳卒中と脳梗塞の違いを解説しました。脳卒中は脳血管疾患の総称であり、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分けられます。
脳卒中の症状は発症した部位や程度により違いはありますが、脳梗塞では片方の手足の麻痺やしびれ、呂律不良やめまいなどが起こり、脳出血でも脳梗塞と同様の症状が認められます。くも膜下出血は激しい頭痛がみられます。
もし気になる症状があった時には脳卒中の前兆である「FAST」を活用し、早期発見・早期治療へつなげましょう。