脳卒中という言葉を何となく知っていても、どのような症状があらわれるのか詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。脳卒中は命に関わる場合もあり、早い段階で気づくことが重要です。この記事では、脳卒中の症状や対応方法などを分かりやすく解説します。
脳卒中とは?
脳卒中は、脳の血管に異常が起きる病気の総称です。
脳卒中には、脳の血管が詰まる脳梗塞と脳の血管が破れる脳出血・くも膜下出血の3種類があります1。
脳卒中の危険因子としては高血圧、糖尿病、不整脈などの基礎疾患に加え、遺伝的要因も関わっています2。
脳卒中のおもな症状
脳卒中の多くは突然あらわれ、顔の半分が動かなくなったり、手足のしびれ、めまい、舌のもつれなどの症状がみられます1。
脳梗塞では、時間が経ってしまうと脳の血流を再開させても症状が改善しないこともあり、可能な限り早く治療するために初期段階で気づくことが大切です。
脳卒中であらわれる主な症状を理解しておきましょう。
1. 突然の片側の麻痺・しびれ
片側の麻痺は脳卒中で最も多い症状です。顔の右か左の半分、片方の手・足が突然動かなくなったり、しびれが生じたりします3。
両側の指先が徐々に、あるいは時々しびれるような場合は脳卒中の症状ではない可能性が高いでしょう。
2.言語障害
突然ろれつが回らなくなり言葉が出なくなる、相手の言葉を理解できないなどの症状があらわれます。言語障害は片麻痺に次いで多い症状です3。
3. 視覚異常
突然片目の視力がなくなる、視野の一部が見えなくなる、物が二重に見えるなどの視覚異常があらわれます3。
4. めまいやバランス感覚の喪失
脳卒中により突然のめまいやふらつき、まっすぐ歩けないなどのバランス感覚の喪失が起こります3。
5. 激しい頭痛
脳卒中の中でも特にくも膜下出血で多く見られるのが、今までに経験したことのないほどの激しい頭痛です。
重症の場合には意識障害を伴うこともあります。発症時に頭痛の強さがピークに達した後も持続的に痛みが続き、嘔吐が見られる場合もあります3。
「最近なんとなく頭が痛い」といったように頭痛の開始時刻を特定できない場合は、くも膜下出血の可能性は低いでしょう。
脳卒中の前兆・初期症状
脳卒中の症状はある日突然発症するケースが多いですが、一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる前兆があらわれることもあります。
TIAは脳梗塞の前ぶれ発作であり、一時的な脳の虚血に伴って短時間のみ麻痺やしびれなどの症状があらわれ、通常24時間以内に症状が消失します4。
TIAの具体的な症状は表の通りです。
運動障害 |
・片麻痺
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言語障害 |
・構音(こうおん)障害:ろれつが回らない
|
感覚障害 |
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視覚障害 |
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(文献4を参考に作成)
TIAがあらわれた後に脳梗塞を発症する可能性は、90日以内に15~20%(うち半数が2日以内)と高いため、表の症状がみられたら注意が必要です4。
緊急性の判断と対応方法
脳卒中は発症から治療開始までの時間が予後を大きく左右する疾患です。
激しい頭痛や突然の麻痺など、特徴的な症状があらわれた場合は、ためらわずに救急車を呼ぶことを検討しましょう5。
【FAST】症状をセルフチェック
FAST(ファスト)はアメリカ脳卒中協会が推奨する、脳卒中を早期に発見するための判断基準です。
Face(顔の麻痺)、Arm(腕の麻痺)、Speech(言葉の障害)、Time(発症時刻の記録と救急への連絡)の頭文字を取ってFASTとよんでいます6。
FASTによる確認方法は表の通りです。
F(Face) |
顔の麻痺 |
顔の片側が垂れ下がったり、麻痺をしたりしていませんか?うまく笑顔がつくれますか? |
A(Arm) |
腕の麻痺 |
片方の腕に力が入らなかったり、しびれたりしていませんか?両腕を水平に上げたままキープできますか? |
S(Speech) |
言葉の障害 |
話し方は自然ですか?短い文がいつも通りしゃべれますか? |
T(Time) |
発症時刻の記録と救急への連絡 |
上記の項目が1つでも該当する場合は脳卒中の可能性が高いため、発症時刻を記録してすぐに119番に連絡する。 |
(文献6を参考に作成)
救急車を待つ間にすべきこと
脳卒中と思われる方が近くにいた場合は、救急車が到着するまで次のように対応しましょう7。
- ・急激に意識障害を起こし倒れて身体を強く打つことが多いので、全身、特に頭を打っていないか調べ、心身ともに安静にします。
- ・ネクタイ、ベルトなどを緩め、楽に呼吸ができるようにします。
- ・水平に寝かせ、毛布などで保温をします。
- ・嘔吐があるときには、吐いたものが誤って気管に入らないように横向きに寝かせ、呼吸を妨げないようにします。
- ・意識障害があるときは、心肺蘇生や AED を用いた除細動など、心臓や呼吸が停止した傷病者に行う救命処置を行います。
- ・倒れた場所がトイレや浴室または戸外などの場合には、数人の手を借りて、近くで安静を保てる場所に静かに移します。その際、頭部と胴体を水平に保ち、特に頭が動かないように注意します。
麻痺があらわれていたり、ろれつが回らなかったりする様子を見ると慌ててしまいがちですが、落ち着いて冷静に対応するためにあらかじめ対応方法を把握しておくとよいでしょう。
後遺症として可能性がある疾患は?
代表的な症状として麻痺やしびれ、感覚障害、失語などが挙げられ、疾患としては脳血管性認知症、てんかん、うつ病などがあります。それぞれの疾患について表で詳しく解説します2。
疾患 |
特徴 |
脳血管性認知症 |
・脳卒中が原因で認知症を発症するもので、認知症の約20~30%を占める ・脳卒中により脳組織がいったん障害されてしまうと回復が難しく、根本的な治療はない ・アルツハイマー型認知症が合併する症例もあり、混合型認知症と呼ばれる |
脳卒中後てんかん |
・脳卒中経験者の約10%が発症する ・高齢者発症のてんかんの約半数が脳卒中後てんかんであると言われている ・症状はさまざまあり、けいれんをする方もいれば、もの忘れのような認知症に似た症状があらわれる方もいる |
脳卒中後うつ病 |
・脳卒中後に意欲や活動性の低下があらわれる ・脳卒中患者様の約30%程度にみられる |
サルコペニア(加齢とともに筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する状態) |
・高齢者の脳卒中発症者の約30~40%がサルコペニアを有している ・脳卒中発症をきっかけに、さらにサルコペニアが進む可能性がある ・身体を動かす力や食べる力が低下し、歩行障害・転倒や誤嚥性肺炎などのリスクとなるため、対策が必要になる |
摂食嚥下障害(食べ物をうまく食べられない、飲み込めない) |
・脳卒中発症後約30~60%が摂食嚥下障害を合併するものの、早いうちから回復する場合が多い ・脳卒中発症から半年経過しても摂食嚥下障害が後遺する割合は約10%である ・摂食嚥下障害が原因となり、唾液や食べ物を飲み込むときに誤って気管に入り、誤嚥性肺炎をきたすことがある |
(文献2を参考に作成)
脳卒中を発症した後は、これらの後遺症と向き合い適切なケアを行うことで、生活の質を維持していきます。
脳卒中を予防する方法
脳卒中は生活習慣病と深い関係があります。
特に高血圧は脳卒中の最大の危険因子であり、適切な管理が重要です。
生活習慣の改善と定期的な健康診断により発症リスクを下げましょう。
生活習慣を見直す
高血圧は脳卒中の最大の危険因子です8。塩分を控え野菜や果物を多く摂り、バランスの取れた食生活を心がけましょう。
また、喫煙は動脈硬化を進行させて脳卒中のリスクを大幅に高めるため、禁煙が強く推奨されます。
さらに、大量の飲酒習慣は脳卒中の発症率を68%増加させ、脳出血やくも膜下出血のリスクを急増させるため、適量を守ることが必要です。
適度な運動や体重管理も脂質異常症や糖尿病の予防につながり、脳卒中のリスクを下げます。日々の小さな積み重ねで生活習慣が変わってきます。ご自身でできそうなことから少しずつはじめてみましょう9。
定期検査を受ける
脳卒中を予防するためには、定期的な健康診断を受け、危険因子を把握し管理することが重要です。
健康診断では脳の血管や頚動脈の血管は評価しないため、中高年以上あるいは生活習慣病、家族歴のある方は脳ドックも検討しましょう。
実際に危険因子をどの程度コントロールすると発症率を下げられるのか紹介します。
血圧 |
140/90mmHg以上で脳卒中のリスクが高まるが、降圧療法によって発症率を30~40%減少させることができる9 |
総コレステロール値 |
総コレステロールが1mmol/L(38.7mg/dL)増加すると、脳梗塞の発症率を25%上昇させるが、薬物治療を行えば発症率を23%低下させる効果が期待できる9 |
(文献9を参考に作成)
ご自身の状態を把握し、生活習慣の見直し・適切な治療を行えば、脳卒中の発症リスクを効果的に抑えられるでしょう。
まとめ
脳卒中の主な症状は、突然の片側の麻痺やしびれ、言語障害、視覚異常などです。多くは突然起こりますが、脳梗塞の前ぶれ発作として麻痺やしびれなどの症状があらわれてから約24時間以内に消失する一過性脳虚血発作(TIA)があらわれる場合もあります。
簡単に症状を判断する基準としてFace(顔の麻痺)、Arm(腕の麻痺)、Speech(言葉の障害)、Time(発症時刻の記録と救急への連絡)の頭文字を取った「FAST」という標語があります。もしものときのために覚えておくとよいでしょう。
脳卒中の後遺症には麻痺や感覚障害、認知症、てんかん、嚥下障害などがあります。発症後の適切な対処やリハビリテーションによって緩和する可能性もありますが、後遺症が残ってしまうケースもあります。血圧管理、禁煙、適度な運動など生活習慣を見直し、脳卒中の発症リスクを低下させましょう。