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「エビデンスのある認知症予防」を目指したJ-MINT研究|国立長寿医療研究センター・荒井秀典理事長が解説
更新日:2026-06-03

「エビデンスのある認知症予防」を目指したJ-MINT研究|国立長寿医療研究センター・荒井秀典理事長が解説

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J-MINT研究_荒井秀典
そのもの忘れ、年齢のせい?それともMCI?

今、認知症の常識が大きく変わりつつあります。
かつて認知症は「治療薬もなく、一度発症したら治らない病気」だと考えられてきました。しかし最近は研究が進み、早期介入によって予防できる可能性が示唆され、新しい治療薬も登場してきています。

これまで介入が難しいとされた「MCI(軽度認知障害)」の領域でも、日本最大級のJ-MINT研究「認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較試験(Japan-multimodal intervention trial for prevention of dementia;J-MINT)」1によって、生活習慣の改善が進行を抑制するというエビデンスが示されました。

認知症に対して「積極的に備えること」が可能になった今、「認知症のことを過度に恐れず、正しく理解することが予防のためにも大切だ」と国立長寿医療研究センター理事長の荒井秀典先生は警鐘を鳴らします。

そこで今回は、J-MINT研究代表者でもある荒井先生に、認知症に関する最新の研究結果や早期発見・早期受診の大切さ、認知症予防に効果的な対策などについてお話を伺ってきました。

MCIの早期発見・早期受診がカギ|認知症予防のエビデンス構築を目指す国立長寿医療研究センター

ーー「認知症だと診断されたくない」という恐怖心が、認知症やMCIの早期受診・診断を遠ざけているという声を聞きます。荒井先生は、早期発見の意義をどうお考えですか?

荒井秀典先生:認知症だと診断されてしまったらどうしようという不安は、ご本人もご家族も同じだと思います。
しかし問題なのは、今なお「認知症は進行性で治らない病気」だと考えておられる方が多いことです。

古い固定概念と過度の恐怖心が原因で、もの忘れ外来等の受診を控えている方が圧倒的に多いという実態があります。その一方で、自分は多少認知機能が低下しても大丈夫だと非常に楽観的に考えている方も少なくありません。

両者の根底には、認知症とMCIに関する正しい情報が十分に啓発されていないという日本全体の問題があります。だからこそ、私たち国立長寿医療研究センターとしても、早期診断に関するエビデンスを構築して、MCIの段階での診療の重要性をしっかり届けていくことが大事だと考えています。

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認知症は「いかに備えるか」を科学的に示すことが大事です。MCIの段階で受診を検討していただき、早期発見・早期介入をすることで、認知症になるまでの時間を先延ばしにできるということを、ぜひ知っていただきたいですね。

ーー現在は、より早い段階で自分の脳の状態や認知機能の状態を把握することができるのでしょうか。

荒井秀典先生:新しいバイオマーカーを血液中で測定できるようになったことがきっかけとなり、今では多くの研究者がバイオマーカーで発症リスクを予測できる時代になっています。

アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβの脳への沈着を確認することのできる「アミロイドPET検査」をはじめ、さまざまな血液バイオマーカーも開発されています。
そういった検査を通して早期診断ができれば、リスクの高い人に対して適切な予防的アプローチを提供し、発症を先送りできるかもしれません。

また、医学的な診断だけでなく、最近はアプリなどで簡単に認知機能をチェックすることもできます。チェックの結果、問題があれば地域の予防プログラムへ繋げるという流れも大切です。
しかし病院でMCIと診断されても、現状では適切な受け皿がなく、なかなか介入がなされないケースも見受けられます。私たち国立長寿医療研究センターの最終的なゴールは、そうした方々の受け皿となる予防プログラムの仕組みを、全国の病院や地域にしっかりと広げていくことだと考えています。

認知症の当事者だけでなく、ご家族や介護者の教育をどうするのかということについてもしっかりと啓発を行い、プログラムを作って普及させていかなければなりません。

ーー国立長寿医療研究センターは、日本で唯一の長寿医療に特化したナショナルセンターですが、高齢者医療においてどのような役割を担っている機関なのでしょうか。

荒井秀典先生:国立長寿医療研究センターのミッションは、高齢者の心と身体の自立を促進し、健康長寿社会の構築に貢献することです。「研究所」と「病院」が一体となって、認知症をはじめとする加齢に伴うさまざまな変化・老化がなぜ起こるのかというメカニズムの解明に取り組んでいます。

また厚生労働省の管轄下にあるということもあり、「社会実装」を非常に強く見据えています。政策提言と同様、社会実装はエビデンスに基づいて行われなければいけません。2024年10月には「認知症施策推進基本計画」が策定され、認知症予防は国の推進する基本施策として位置づけられました。

国立長寿医療研究センターは、認知症を研究すると同時に、その研究成果について全国に広く普及させる役割を担っています。そして今、認知症予防のエビデンスを構築するために最も注力して取り組んでいるのが「J-MINT研究」です。

日本最大級のMCIに対する「多因子介入」|J-MINT研究から学ぶ認知症予防

ーー「J-MINT研究」とは、どのようなプロジェクトなのでしょうか?

荒井秀典先生:J-MINT研究は、フィンランドで行われたFINGER研究1をモデルにした、日本独自の多因子介入研究です2
FINGER研究は、生活習慣を改善することで、認知機能の改善が見込めるかを調査した、認知症予防※のための世界初の大規模な科学的試験です。
J-MINT研究は、対象を65歳から85歳のMCIの方に絞ったことが特徴です。生活習慣の改善のために、運動、栄養、認知訓練、生活習慣病管理の4つを同時に行いました。
最終的にMCIの方531名に参加していただき、特に運動では、当センターが開発した「コグニサイズ」という、頭を使いながら身体を動かすプログラムを取り入れ、グループでの運動を行いました。

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▲J-MINT研究 実施内容(写真提供:国立長寿医療研究センター)

栄養指導については、管理栄養士の介入を通して、特定の食品を禁止するのではなく、食品の多様性を上げることを中心に指導しました。
慢性疾患の管理については、かかりつけの先生にガイドラインをお送りして、それをもとに管理していただく形とし、基本的にはかかりつけの先生にお任せしました。慢性疾患の管理については、対照群も介入群も同じように行っています。
認知訓練については、「BrainHQ」というiPad型の脳トレプログラムを使って行いました。

このような形で1年半にわたって介入を行い、FINGER研究と同様に、いくつかの認知機能検査の平均値であるコンポジットスコアが改善するかどうかを検証したのがJ-MINT研究です。

ーー研究に際して苦労したことや、分かってきたことを教えてください。

荒井秀典先生:コロナ禍という厳しい時期での研究だったこともあり、研究対象者のリクルートが進まない、グループワークなどの多人数かつ対面で行うプログラムが思うように行うことができないなどの課題がありました。
最初の1年ほどは本当に辛かったですが、コロナ禍でも最大限の感染対策を行い、センターのスタッフの協力もあり、感染者を出すことなく1年半介入を継続することができました。

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▲コグニラダーに取り組む参加者(写真提供:国立長寿医療研究センター)

最初の半年から1年の影響がかなり大きく、主要評価項目(プライマリーエンドポイント)としての有意差は出ませんでした。
しかし、7割以上運動教室に参加していただいた方と対照群を比較したところ、有意な認知機能の改善効果が認められました。
サブ解析でありメインの解析ではないという弱みはありますが、70%以上、すなわち月に3回運動教室に通っていただけると、統計学的に有意な差として現れることが示唆されています2

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(文献2より作成)

さらに、アルツハイマー病のリスク遺伝子とされる「APOE ε4」を持っている方において、より大きな介入効果がみられました。これは、遺伝的なリスクがあっても、適切な生活習慣の介入によってアルツハイマー病の進行を抑制できるという、非常に希望のある成果だと言えます。
全体としては残念ながら有意差はつきませんでしたが、アドヒアランス(継続率)が良いグループや、APOE ε4が陽性のグループでは統計的に有意な認知機能の改善効果を見出すことができたことは、大きな成果だと考えています。
APOE ε4が陽性の遺伝的なリスクがあったとしても、生活習慣への介入によって脳の健康を守ることができる。これは、多くの方にとって希望となるエビデンスだといえます。

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▲ゴムバンドを用いた運動に取り組む参加者(写真提供:国立長寿医療研究センター)

フレイルと認知症の深い関係|脳の健康を守るために「筋肉」を維持するマッスルヘルス

ーー「筋肉」と「脳」には密接な関係がある、ということでしょうか。
荒井先生:加齢変化に伴って身体全体が虚弱になってくる状態のことをフレイルと言いますが、特に筋肉の衰えが認知機能の低下につながるということは多くの研究で示されています。

歩行速度が遅い人ほど認知症になりやすいというデータもあり3、筋肉から脳に良い影響を与える物質が出ていることも解明されつつあります。

脳を鍛えるためには、パズルなどの脳トレだけでなく、身体、特に筋肉を健康な状態に維持しておくことが不可欠です。筋肉や身体を鍛えることが脳の機能の維持向上に繋がるという科学的なエビデンスがあるからです。筋肉の健康、いわゆるマッスルヘルスを維持することが、そのまま認知症の予防に直結するのです。
そこで私たちは、新たに「PCDS」という概念を提唱しはじめました。

ーー「PCDS」とはどのような考えなのでしょうか。
荒井先生:握力や歩行速度といった身体機能の低下と、認知機能の低下が合併した状態をPCDS(Physio-Cognitive Decline Syndrome)と定義しています。この状態にある方は、フレイルやMCIが単独である場合よりも、明らかに認知症や要介護のリスクが高いハイリスクグループです4
 
こうしたPCDSの方々を客観的な指標で捉え、適切な介入を提供していくことが重要です。認知症の備えは高齢期になってから始めるのではなく、40代や50代の中年期から「マッスルヘルス」を意識していただきたい。マッスルヘルスを意識した生活は、将来の認知症予防につながっていきます。

J-MINT研究から明らかになった認知症予防に効果的な対策

ーー私たちが今日から実践できる、認知機能の低下を緩やかにする具体的な対策はありますか?
荒井先生:先述のJ-MINT研究でも示唆された通り、認知症の予防には運動習慣、栄養管理(食事)、社会参加の視点が非常に重要です。

運動習慣

手軽にできる散歩をしていただくのも良いですが、一人で散歩をするよりは仲間とグループでおしゃべりをしながらの方が頭を使いながら身体を動かすことができるため、できればグループで一緒に運動する活動に参加していただきたいです。

また、単なる有酸素運動に加えて、筋トレ的な要素も大事ですので、筋トレを含む運動であればさらに良いと思います。ゴルフなどの頭を使いながら、仲間と一緒に楽しむ運動もおすすめです。

栄養管理(食事)

「何を制限するか」よりも「食品の多様性」を大切にしてください。例えば、朝ごはんがパンと牛乳とコーヒーであれば、パンにチーズなどを乗せていただくなど、栄養バランスや食品の多様性を意識していただくことが大切です。

誰かと一緒に会話を楽しみながら食べる「共食」の機会を増やすことが、脳への刺激にもなります。

脳トレ、社会参加

脳トレについては、最近はスマホがあればアプリを利用してできます。

私たちも「オンライン通いの場」というアプリを出しており、その中に脳トレも実装しています。アプリを使ったり、仕事をして社会貢献をしたりすることで、脳の健康が維持される活動を日々継続していただければと思っています。

認知症と共生|家族とテクノロジーが支える未来

ーー認知症と向き合うご家族の負担は大きくなりがちです。先生からご家族へのアドバイスはありますか?

荒井秀典先生:認知症の当事者は、病気で脳の海馬の機能が一部低下していても、そのほかの日常生活に関しては、残存能力をお持ちです。ご家族が病気を正しく理解し、ご本人が安定した気分で過ごせるように適切に対応すれば、住み慣れた地域で普通に近い生活を送ることは十分に可能です。
ご家族だけで抱え込まず、家族教室などの専門機関や地域のサポートを積極的に活用するようにしていただきたいです。ご家族の関わり方ひとつで、ご本人の生活の質は大きく変わります。認知症のことを正しく知り、共に歩む姿勢を持つことが大切です。

私は、テクノロジーの活用についても期待しています。将来的には、AIやデジタル技術がケアの大きなパートナーになるかもしれません。
ご家族がどれだけ愛情を持って接していても、人間はどうしても同じことを何度も聞かれると感情的に疲れてしまいます。しかし、ロボットであれば何度でも穏やかに答えてくれますよね。AIやロボットの力を借りて生活を支える仕組みが整えば、当事者やご家族の精神的な負担は軽減されると期待しています。

ーー最後に、この記事を読んでいる読者へメッセージをお願いします。

荒井秀典先生:認知症は、誰もが「なりたくない病気」と考えているかもしれませんが、加齢とともに脳の機能が衰えていくのは、ある意味では自然なことでもあります。それを過度に恐れるのではなく、まずは加齢による変化をある程度受け入れながら、どのように備えるかを考えていただきたいです。

脳の機能が低下しても、それを補う方法はこれからどんどん増えてくるのではないかと思います。ご家族や地域のサポートに加え、テクノロジーの力も大きな助けになるでしょう。なるべく早期に見つけて適切な対策を取れば、認知機能の低下の進行を緩やかにしたりすることも期待できます。住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるために、正しく備え、前向きに一歩を踏み出していきましょう。

※本記事での「予防」とは、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味です。

参考文献

1, FBHI:The FINGER study
https://fbhi.se/the-finger-study/](最終閲覧:2026年2月26日)
2, Sakurai T, et al:Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementia: A randomized controlled trial. Alzheimer's & Dementia. 2024;20:3918-30.
3, Walking Pace and the Risk of Cognitive Decline and Dementia in Elderly Populations: A Meta-analysis of Prospective Cohort Studies.
https://doi.org/10.1093/gerona/glw121](最終閲覧日:2026年2月26日)
4, Chung CP, et al:Physio-Cognitive Decline Syndrome as the Phenotype and Treatment Target of Unhealthy Aging. J Nutr Health Aging.2021;25(10):1179-1189.

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