脂質異常症は、血中の脂質濃度が基準値から外れた状態です1。
WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」(以下、WHOガイドライン)では、脂質異常症の管理は認知機能低下のリスクに関連しているため、以下のような条件付きでの推奨となっています2。
中年期の脂質異常症の管理は、認知機能低下や認知症発症のリスク低減につながることが示唆されており行ってもよい2。
この記事では、脂質異常症と認知機能の関連について詳しく解説します。
脂質異常症とは
脂質異常症には、血液中の①LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)値が高い、②トリグリセライド(中性脂肪)値が高い、③HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)値が低いという3種類のパターンがあります1。
脂質異常症になると、自覚症状がないまま静かに動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気になるリスクが高まります1,2。
脂質異常症の診断基準については、以下の記事にも解説がありますので、あわせてご覧ください。
脂質異常症と認知機能との関係
中年期の脂質異常症は認知症と関連することが報告されており3, 4、WHOガイドラインでは「中年期においてのみ、脂質異常症の管理を推奨できる」としています2。
認知機能低下や認知症のリスクを抑えるためには、特に悪玉コレステロールの増加に注意する必要があります。
脂質異常症が認知機能に影響すると考えられている理由
脂質異常症が認知機能に影響を及ぼすと考えられている理由に、アミロイドβの脳への蓄積を促すことと、動脈硬化を介して大小の血管障害だけでなく神経変性を起こす可能性があります5〜7。
アミロイドβとは、アルツハイマー型認知症の原因物質と考えられているたんぱく質です。
脳内にコレステロールが過剰に溜まると、アミロイドβが沈着しやすくなる一方で、善玉コレステロールには過剰なコレステロールを減らす働きがあり、善玉コレステロールが多いと脳内のアミロイドβの量は少なくなると考えられています5。
また、悪玉コレステロールを始めとする動脈硬化に関わる脂質の量をあらわすnon-HDLコレステロールの増加は、動脈硬化から頸動脈のアテローム性脳梗塞を引き起こし6、神経変性の原因となる可能性があります7。
適正体重の維持
肥満は脂質異常症のリスクとなるため8、適正体重の維持が重要です。目標となる体重の目安は年齢によって異なり、以下の通りです。
目標体重の目安は、総死亡が最も低いBMI(Body Mass Index、体格指数)から算出しています9。
【年齢ごと目標体重の目安】
(文献9をもとに作成)
脂質異常症を予防するには
脂質異常症の予防や管理のためには、食事や運動など生活習慣全体を見直し改善することが大切です。禁煙を検討し、お酒は適量を守りましょう。
脂質異常症を予防するための食事
脂質異常症の予防や管理のための具体的な食事としては、魚・大豆製品・野菜などをバランスよく取り入れた、伝統的な「日本食パターン」が推奨されています9,10。
- ・ 過食に注意する
・肉の脂身、動物脂(牛脂、ラード、バター)、加工肉、鶏卵の大量摂取を控える
・魚の摂取を増やし、低脂肪乳製品を摂取する
・未精製穀類、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品、ナッツ類を摂取する
・糖質含有量の少ない果物を適度に摂取する
・果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
・塩分は6g/日未満を目標にする
悪玉コレステロール値を上昇させる飽和脂肪酸を多く含む食材(肉の脂身)を控えましょう10。また、卵類、肉類、魚肉の内臓はコレステロールを多く含むため、大量に摂るのは避けましょう10。
菓子やマーガリンに含まれるトランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増加させ、善玉コレステロールを減少させるため摂取を控えましょう9。
果糖の摂取量を減らすと、中性脂肪値の低下が期待できます9。
これまでの日本型の食事では、塩分が多いことが指摘されていました。しかし、食塩の過剰摂取は血圧上昇をきたし動脈硬化を促進するため、6g/日未満を目標とするのが推奨されています9。
脂質異常症を予防するための運動
脂質異常症の改善には、有酸素運動が効果的です。「1日30分以上を週3日以上(できれば毎日)」、息が少し弾む程度のウォーキングや速歩、サイクリングなど、中強度の運動を継続することが推奨されます。
運動は善玉コレステロールを増やし、総コレステロール、中性脂肪を減らす効果が期待できます。まずは日常生活の中で、意識して体を動かす時間を確保することから始めましょう11。
脂質異常症を予防するための生活習慣
食事や運動の他に、生活全体を見直しましょう。特に喫煙は、動脈硬化を強力に促進し善玉コレステロールを減らすため、禁煙を検討しましょう。
また、アルコールの過剰摂取は中性脂肪を増やす原因になります。お酒は適量を守り、休肝日を設けるなどの工夫が大切です12。
まとめ|脂質異常症を適切に管理して、認知機能を維持しよう!
WHOガイドラインでは、中年期の成人における脂質異常症の管理が、認知機能低下と認知症のリスクを低減することにつながるため推奨されています。
脂質異常症はアルツハイマー型認知症の原因とも言われる脳へのアミロイドβの蓄積を促進したり、動脈硬化を引き起こしたりすることで認知症のリスクを高める可能性が指摘されています。
肥満は脂質異常症のリスクとなるため、適正体重の維持が重要です。脂質異常症の予防と管理のために、食事療法を中心に生活習慣全体を見直し、禁煙や節酒に努めましょう。





