書店員がオススメする『認知症の本』は、書店チェーン・文教堂の太田鉄也さんがおすすめする認知症関連の書籍を紹介する書評コーナーです。
太田さんご自身も認知症の親を介護した経験を持ち、文教堂・溝ノ口本店では定期的に「認知症サポーター養成講座」を開催し、講師を務めています。
認知症の啓発活動に尽力している太田さんの書評をきっかけに新しい認知症観を学んでみませんか?
初めての認知症介護、完璧にこなそうと頑張りすぎていませんか?
今回ご紹介するのは、『さようならがくるまえに 認知症ケアの現場から』(川畑智著、光文社、2023年刊)という書籍です。
この本は、いつかは誰もが経験するお別れのときに、笑ってさようならが言えるように、現場で出会った人々の姿をエッセイ形式で丁寧に描いています。
ケアに向き合っている方にとっては、胸の奥がじんわり熱くなったり、日頃の行動を見つめ直したくなったりする1冊です。
著者の川畑智さんは、認知症予防や認知症ケアの実践とともに、介護予防の普及啓発活動に尽力されている方です。川畑さんの原点には自分を愛してくれた曾祖母との思い出があるそうです。心や身体が弱ってしまっても高齢者に笑顔を取り戻してほしいという願いが著者の活動を支えています。だからこそ、机上の空論ではない「現場の温度」が宿っています。
初めての介護でも完璧にこなしたい。できればそうしたいと誰もが願うと思います。ですが、この本には介護を上手にやらなくていい。好ましいケアからスタートしよう。そのために認知症について学んでみようと背中を押してくれます。
たとえ専門職の方であっても、認知症介護の現場で日々対応に悩み、模索しながら解決の糸口を探り当てていると思います。ましてや、専門職でない在宅で介護をされている家族は、一生懸命頑張るものの、時に追い詰められてしまうこともあるのではないでしょうか。
この「溝」を埋めるため、今後に生かせる数多くの具体的なエピソードが書かれており、失敗を少なくするヒントが得られます。
認知症の方の思いを理解することが重要
認知症について考える時、我々は「症状」に目を向けがちです。しかし、大事なことは、ご本人の人生に触れること、関係性を構築すること、思いを理解しようとすることではないでしょうか。
自分と相手の視線の方向、見えている景色、感じている世界のニュアンスの違いを考えることが接し方の基本であるように思います。百人いれば百通り。認知症のケアの答えはそれぞれの「現場」にしかないのです。
本書には「寄り添う」という言葉が何回も出てきます。
「寄り添う」とは、優しく静かに共にあるということを想像すると思います。その方がどんな人生を過ごし、何を大切にし、どんな恐れや誇りを抱えているかを解像度高く理解すること。その方が見ている世界にピントを合わせることなのです。
「レスパイトケア」とは?
「レスパイトケア」という言葉をみなさんは聞いたことはありますか?
これは、介護を担っている家族が一時的に介護から解放され、休息・リフレッシュできるように、ショートステイなどを利用することだそうです。
多くの家族がケアに関して色々なことに思い悩み、疲れていきます。だからこそ、適度な距離感を保つことが家族にとっても、ひいてはご本人にとってもストレスを少なくして過ごせる秘訣なのだということをこの本から学びました。
愛情があるほど頑張ってしまうから目に見えない負担が積もってしまいます。一人で悩まず誰かに頼っていいのです。
まずは、お住まいの地域の「地域包括支援センター」や担当のケアマネジャーに相談してみることから始めてみませんか? 例えば施設に入所してもらうのだって、介護から逃げることにはなりません。お互いが笑顔で過ごすための、前向きな選択肢の1つなのです。
そんな風に言い切ってくれる本書は、「読むレスパイトケア」と言えるかもしれません。
「さようならがくるまえに 認知症ケアの現場から」をおすすめしたい方
- ・認知症の介護の実践的対策のヒントを得たい方
・認知症のご本人の思いを理解したい方
・認知症サポーター養成講座を受講し、より学びたいと思う方
明日からのケアをより優しくするためのヒントを得られる1冊です。どうか、あなたのお手元にも届きますように。
書籍の詳細情報
タイトル:『さようならがくるまえに 認知症ケアの現場から』
著者:川畑智(かわばた・さとし)
判型:四六変判
頁数:224頁
価格:1,500円+税
発売日:2023年2月22日
ISBN:978-4334953645
発行:光文社



