認知症の在宅介護は難しい?メリット・デメリットと判断基準
まずは在宅介護のメリットとデメリットを整理し、どのような条件なら継続しやすいのかを見ていきましょう。
在宅介護を選ぶ3つのメリット
1. 住み慣れた環境を維持できる
認知症のご本人にとって、長年暮らしてきた自宅は「安心できる場所」です。環境が急に変わると混乱や不安が強まる「リロケーションダメージ」と呼ばれる現象があり、施設入居をきっかけに症状が進行するケースも報告されています。自宅での生活を続けることで、このリスクを避けられます。
2. 費用を抑えられる可能性がある
在宅介護の月額費用は平均5.3万円、施設介護は平均13.8万円です1。ただし、要介護度が高くなると在宅でも費用が増加するため、単純に「在宅=安い」とは言い切れません。
3. 家族との時間を大切にできる
ご本人が「最期まで自宅で過ごしたい」と望んでいる場合、その希望を実現できることには大きな意味があります。家族と同じ空間で生活することで、安心感を得られる場合もあります。
在宅介護のデメリットと家族が抱えるリスク
1. 介護離職の問題
介護のために仕事を辞めざるを得ないケースは少なくありません。一度離職すると再就職が難しくなり、介護者自身の老後資金に影響が出る恐れがあります。
2. 精神的ストレスと肉体疲労
夜間のひとり歩きや排泄介助が続くと、介護者は慢性的な睡眠不足に陥ります。認知症の症状による暴言・暴力に対応する精神的負担も深刻です。
3. 老老介護のリスク
高齢の配偶者が主な介護者となる「老老介護」では、介護者自身の健康状態が悪化しやすくなります。共倒れを防ぐためには、早い段階から介護サービスを活用することが重要です。
在宅介護を継続できる家庭と難しい家庭の違い
在宅介護を長く続けるには「キーパーソン」の存在が欠かせません。キーパーソンとは、ケアマネジャーや介護事業所、医療機関との連絡窓口となり、介護の方針を決定する中心人物のことです。このキーパーソンが一人で介護を抱え込まず、兄弟姉妹や親戚と役割分担できている場合、在宅介護は継続しやすくなります。
逆に、介護者が一人しかいない、介護者自身が持病を抱えている、24時間の見守りが必要、家族間で介護方針が対立しているといった状況では、在宅介護の継続が困難になりがちです。
認知症の在宅介護を支える「必須サービス」一覧と活用法
自宅に来てもらうサービス
自宅で受けられるサービスには、訪問介護・訪問看護をはじめ、定期巡回・随時対応型訪問介護看護・居宅療養管理指導などがあります。
訪問介護は、ホームヘルパーがご自宅に伺い、入浴や排泄介助といった身体ケアのほか、食事の準備や掃除などの日常生活をサポートするサービスです。こうした基本的なケアが行き届くことで、清潔で快適な状態が保たれ、精神的な安定にもつながります。
訪問看護は、看護師が自宅を訪問して健康観察や服薬確認などを行います。体調の変化を早期に把握できるため、BPSD(行動・心理症状)の緩和につながります。
より手厚い見守りが必要な場合は、一日に複数回の訪問が可能な定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスの活用を検討しましょう。お薬の管理に不安がある場合は、薬剤師による居宅療養管理指導を利用することで、安心した在宅生活を送ることができます。
施設に通うサービス
自宅から施設に通うサービスには、デイサービス(通所介護)とデイケア(通所リハビリテーション)があります。
デイサービスは日帰りで施設に通い、食事・入浴・レクリエーションなどを受けるサービスです。認知症のご本人にとっては生活リズムの維持や社会的交流の機会になり、介護者にとっては日中の休息(レスパイト)を確保できます。
デイケアは医師の指示のもと、理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションを受けられるサービスです。身体機能の低下を防ぎたい場合や、退院後のリハビリ継続が必要な場合に活用します。
認知症の症状がある方には「認知症対応型通所介護」という専門的なデイサービスもあります。定員が12名以下の少人数制で、認知症ケアの専門スタッフが対応するため、大人数の環境が苦手な方に向いています。
短期間泊まる・柔軟に使う
ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)は、短期間(連続30日まで)だけ施設に宿泊できるサービスです。介護者の休息や、冠婚葬祭・出張などで一時的に介護できない場合の「避難所」として活用できます。
ショートステイは人気が高く、希望日に予約が取れないことも珍しくありません。いつも利用している施設があっても、予備としてもう一つ別の施設を見つけておくと安心です。
小規模多機能型居宅介護は、「通い」「訪問」「泊まり」を一つの事業所で柔軟に組み合わせられるサービスです。同じスタッフが対応するため、例えば「訪問」で顔なじみになってから「通い」や「泊まり」へ移行するなど、環境の変化に敏感な認知症のご本人に向いています。月額定額制で、急な予定変更にも対応しやすい点も特徴です。
認知症の進行度別ケアプランの具体例
【ケース1】要介護1・同居家族あり・軽度認知症
・デイサービス:週3回
・ショートステイ:月3回
・福祉用具貸与(歩行器、歩行補助杖など)
ご本人の「できること」を維持することを重視したプランです。
【ケース2】要介護3・一人暮らし(独居)・中等度認知症
・訪問介護:1日1〜2回(排泄介助、調理、掃除、服薬確認、安否確認など)
・デイサービス:週2〜3回
・ショートステイ:月3回
・福祉用具貸与(介護用ベッド、マット、置き型手すりなど)
・配食サービス
・緊急通報サービス
サービスを組み合わせて「一人の時間」を減らしたプランです。
【ケース3】要介護4・同居家族あり・重度認知症
・訪問介護:1日1〜2回
・デイサービス:週5回
・ショートステイ:月3回(1泊2日〜2泊3日)
・福祉用具貸与(介護用ベッド一式、車いす、床ずれ防止用エアマットなど)
介護者の休息確保を優先にしたプランです。
認知症の在宅介護にかかる費用は月額いくら?目安と内訳
「在宅介護は施設より安い」と思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。
介護保険には、要介護度ごとに1ヵ月に利用できるサービスの上限額(区分支給限度基準額)2が決められています(例:要介護3で約27万円、要介護5で約36万円が上限)。
この範囲内であれば自己負担は1〜3割ですが、上限を超えた分は全額自己負担(10割負担)となります。
例えば、要介護3で自己負担が1割の方が、月に40万円分の介護サービスを利用したとします。要介護3の区分支給限度基準額は約27万円のため、この範囲内の利用分については1割負担となり、自己負担額は2.7万円です。
一方、限度額を超えた13万円分については、介護保険が使えず全額自己負担になります。
そのため、自己負担額は、2.7万円+13万円=約15.7万円となります。
この金額は、施設介護の平均費用とされる約13.8万円を上回ります。つまり、自己負担が1割であっても、利用するサービス量によっては、在宅介護のほうが施設介護より高額になるケースがあるのです。
費用を抑えるための制度(高額介護サービス費)
高額介護サービス費は、1ヵ月の介護サービス自己負担額が上限を超えた場合に超過分が払い戻される制度です。課税所得(年収)に応じて、負担の上限額が定められています2。
制度利用には、申請が必要なため、市区町村の介護保険担当窓口に確認してください。
認知症の親が一人暮らしを続けるためのリスク管理
認知症と診断されたからといって、すぐに一人暮らしができなくなるわけではありません。軽度の段階であれば、適切なサービスや周囲のサポートを活用することで、住み慣れた自宅での生活を継続することも可能でしょう。しかし、症状が進行し、24時間の見守りや身体介助が必要になると、物理的に一人暮らしを続けることは難しくなります。
認知症の親が一人暮らしを続ける際のリスク管理について把握しておきましょう。
一人暮らしで特に注意したい3つのリスク
火の不始末
コンロの消し忘れが火災につながる危険があります。IHクッキングヒーターへの交換、自動消火機能付きコンロの導入、配食サービスの活用などで対策しましょう。
ひとり歩き
認知症のご本人は、目的を持って外出したつもりでも、途中で道が分からなくなり戻れなくなることがあります。GPS機能付きの端末や緊急連絡先を記載したヘルプカードを持ってもらう、地域の見守りネットワークに登録するなどの対策を講じましょう。
服薬管理
薬の種類によっては、飲み忘れや飲み間違いが命に関わる危険があります。そのため、薬局に依頼して一包化(1回分ずつ小袋にまとめ、日付や服用タイミングを印字してもらうこと)を行い、訪問介護のヘルパーに服薬管理を依頼するなどの工夫が必要です。
安全を守るためのサービス活用法
見守りサービス・配食サービス
見守りサービスは、センサーで生活状況をモニタリングするタイプや、緊急通報ボタンを押すと駆けつけてくれるタイプなどがあります。配食サービスは、食事を届けると同時に安否確認も行えます。
成年後見制度の活用
一人暮らしを続ける上では「お金の管理」や「契約手続き」も大きな課題です。認知機能の低下が進行すると、詐欺被害に遭ったり、公共料金の支払いが滞ったりするリスクがあるためです。
そこで役立つのが成年後見制度です。これは、判断能力が低下した方に代わって財産管理や契約行為をサポートする制度です。不要な契約や悪質な訪問販売による被害を防ぐ手段としても有効で、在宅生活を安心して続けるための大きな助けとなります。
遠距離介護で地域包括支援センターと連携するコツ
離れて暮らすご家族が介護に関わる「遠距離介護」では、地域包括支援センターとの連携が不可欠です。親の住んでいる地域のセンターに連絡し、現状を伝えておくと、もしもの際にスムーズに対応してもらえます。
ケアマネジャーや介護サービス事業所とは連絡先を共有し「何かあったら連絡してほしい」と伝えておきましょう。
認知症介護の限界とは?在宅から施設へ切り替えるタイミング
以下のサインが現れたら、介護者自身が限界に近づいていると考えられます。
・ 夜間のケアで慢性的な睡眠不足に陥っている
・ 趣味や友人との交流をまったく楽しめなくなった
・ 常にイライラしている、涙が止まらない
・ ご本人に手を上げそうになる
・ 自分の体調不良を放置している
特に「親に手を上げそうになる」「眠れない日が続いている」という状態は赤信号ですので、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しましょう。
施設入居を検討すべき具体的な症状
1. 排泄介助が24時間必要になった場合
昼夜を問わず排泄介助が必要な状態は、在宅介護の限界を示すサインの一つです。夜間も頻繁におむつ交換が必要になると、家族は慢性的な睡眠不足に陥ります。
2. BPSD(行動・心理症状)が悪化した場合
自宅での安全確保が難しくなったら、施設入居を本格的に考えましょう。認知症の症状として暴力や暴言が頻繁に見られるようになったり、ひとり歩きが増えて夜間に外出してしまったりすることがあります。こうした状況が増え、家族だけでの対応が難しくなった場合は、専門スタッフが常駐し、見守り体制の整った施設のほうが安心です。
3. 介護者が体調を崩した場合
介護を担う家族自身が心身の健康を損なった場合も、施設入居を検討すべきタイミングです。共倒れを防ぐためにも、早めの決断が必要な場合があります。
認知症の場合はどのような介護施設を検討すべきか
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は認知症の高齢者が少人数(5〜9人程度)で共同生活を送る施設です。認知症ケアに特化したスタッフが対応するため、症状への理解が深いのが特徴です。
特別養護老人ホーム(特養)は原則として要介護3以上の方が入居できる公的施設です。入浴、食事といった日常生活上の支援や機能訓練、健康管理などを提供し、看取りまで対応します。人気が高い施設のため、将来的な入居の可能性がある場合は、早めに申し込みだけでもしておきましょう。
まとめ|認知症の在宅介護は「チーム戦」。プロを頼れば道は開ける
認知症の在宅介護を長く続けるために大切なのは、一人で抱え込まないことです。
訪問介護やデイサービス、ショートステイなど、介護保険で使えるサービスはたくさんあります。うまく組み合わせれば、ご本人の暮らしを支えながら、介護する家族も休息の時間を確保できます。
介護を担う家族は、限界まで我慢する必要はありません。「つらい」と感じたときは、まずケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみましょう。一人で抱え込まず、プロを頼ることが、在宅介護を続ける力になります。


